スタジオでの大野さんは・・怖かった。
怖いほど真剣。
あまり俺たちにも見せない姿だった。
基礎練習するところなんて・・・
20年近く一緒にやってきてもほとんど見たことがない。
一つ一つの動きを大切に丁寧にさらっている大野さん。
それだけできてるのに、まだ、なんか納得いかないのか?
そう思うほどの動きをひたすら繰り返す。
俺は、知らず知らずにうちに、大野さんに引っ張られていた。
それとなく動きを真似るように、同じ動きをさらう。

ようやく納得いったのか?ふーっと息を吐いた。
クルっと振り向いて、向かう先はらんちゃんのところ。


スタジオの隅に敷いたマットの上でらんちゃんはシッターさんと遊んでいた。
ずっと俺らのことを見てるわけじゃなさそうだけど・・
でも、時々はその視線を感じていた。

大野さんも時々はらんちゃんに視線を送る。
でも、それはらんちゃんが遊びに夢中になっている時だけ。
相手出来る時には、しっかり視線が合うように。
できない時には、視線が合わないように、チラっと横目で。

スタジオにらんちゃんがいることで・・・
なんとなくレッスンがなあなあになるんじゃないか?
なんてことは全くの杞憂だった。

やるときはやる。
そんな大野さんが今でも変わってなかったことに安心したし。
らんちゃんもその真剣さを邪魔しないおりこうさんってことに感心したし。
目の前にママがいるのに、ぐずらせなかったシッターさんにも感服したし。

何もかもが、うまくいく、って思わせてくれる合宿になりそう。


「らん、おまたせ。
ちょっとお休みする時間にするから・・
ママと一緒にごはん食べようか?」


どうやら、らんちゃんの食事の時間だったらしい。
大野さんはらんちゃんを抱っこして、リビングに向かった。




昼食の後は、ボイストレーニング。
途中、らんちゃんが昼寝の時間でスタジオから連れて行かれたけど・・・
大野さんは、チラっと目をやって、シッターさんに頭を下げただけ。

次の瞬間には、また、真剣な顔に。


正直・・意外だった。
ここまできっぱり、オンとオフのスイッチを切り替えられるなんて。