「今日は、視察に行く。供はいらない。一人で行く!」
宮殿を出たサトシを慌てて追いかけてくるのが数人。
それに構わず、馬に飛び乗った。
かなり先に見えてくる、ピラミッドの土台。
サトシがファラオとなってから、すぐに造り始めた。
自分の墓を造るなんて・・因果なことだ。
出来上がるまで、生きていられる保障もないのに。
サトシはフン、と鼻で笑った。
もっと、民の役に立つようなものを作らせればよいものを。
神官たちは、そんなこと考えもしない。
かといって、工事をやめさせれば、民が飢える。
サトシはひとりごちる。
馬で駆けると、供のものも付いては来られない。
宮殿の中の窮屈な生活でのイライラもやもやを吹き飛ばすように駆けた。
馬もサトシも汗をかくほどに駆けた頃。
工事現場に着く。
そこにいる奴隷に馬の面倒を言いつけると、サトシは奥へと進んだ。
歩いて行くと、この場所に相応しくない子どもの声が聴こえる。
「とうしゃ・・とうしゃーーーん」
涙声で父親を探しているのか?
近づくと、怪我をした男に縋りつく少年。
「何を泣いている?」
サトシが声をかけると、涙で顔を濡らしたその少年がサトシを睨んだ。
「とうしゃ・・・んがぁ・・・・」
男が呼吸するたび、口からは血の色の泡。
胸に出来た大きな傷がその原因だろう。
ここでは事故が多いと聞いている。
男も事故に巻き込まれてしまったんだろう。
誰からの目にも、その男がもう助からないと写っているだろうに・・
少年だけは、呼ぶことで父親が助けられると思っているようだった。
少年が、男の胸にその小さな手を置いて、揺さぶろうとした時。
その男は最後に呻き声を一声上げて。
息を止めた。
「来い」
サトシは少年の手首を掴んで、男から引き離した。
「ヤダ!とうしゃん・・とうしゃんが!」
「こいつはオレがもらう。その男はちゃんと葬ってやれ」
現場監督に言いつけた。
少年は暴れまくって抵抗するが、サトシはそれに構わず手首を掴んだまま、引きずるようにして連れて行く。
待っていた奴隷が馬をひく。
サトシは少年の体を放り投げるように馬に載せて、自分も飛び乗った。
「父親と同じように死にたいのなら、逃げるがいい」
馬を駆けさせた。
少年は、馬は初めてなのだろう。
ひっ、っと、引きつった声を上げたっきり、馬にしがみついて、何も言わなくなった。
途中、二人分の重みに馬が疲れたと見たサトシは、速さを緩める。
「さっきまでの勢いはどうした?怖いのか?怖いなら、オレに掴まれ」
少年の手が馬のたてがみから離れ、おずおずとサトシの体に回ってくる。
サトシは少年の体を腕を回して抱えた。
遠慮がちに掴まっていた少年の手に力が入り、サトシの体に少年の体温が感じられるほどになった。
宮殿に着くと、サトシは少年を女官に預けた。
「この者を見られるようにしてくれ。オレの側使いにする」
「とうしゃんは?」
宮殿内ではめったに見られない年頃の少年に、女官たちは、賑やかな声をあげながら、抱き抱えて湯浴みに連れて行こうとした。
心地よい汗をかいた。
しかし砂漠に出ると、どうしても全身が埃っぽくなってしまう。
それを湯で流そうと、サトシも湯浴みに向かう。
何をされるのか、わからないままに連れて行かれるのが不安なのか?
少年は女官の腕の中で大暴れしている。
サトシの方を何回も振り返りつつ、「イヤ!」と繰り返し叫んでいた。
サトシが同じ方向に向かうのを見ると、安心したように大人しくなった。
少年の日に焼けた肌は砂埃で白くなっていた。
髪もゴワゴワで、指も通らない。
女官たちが楽しそうに少年を清めていくのを横目で見て、サトシも女官に体を預けた。
宮殿を出たサトシを慌てて追いかけてくるのが数人。
それに構わず、馬に飛び乗った。
かなり先に見えてくる、ピラミッドの土台。
サトシがファラオとなってから、すぐに造り始めた。
自分の墓を造るなんて・・因果なことだ。
出来上がるまで、生きていられる保障もないのに。
サトシはフン、と鼻で笑った。
もっと、民の役に立つようなものを作らせればよいものを。
神官たちは、そんなこと考えもしない。
かといって、工事をやめさせれば、民が飢える。
サトシはひとりごちる。
馬で駆けると、供のものも付いては来られない。
宮殿の中の窮屈な生活でのイライラもやもやを吹き飛ばすように駆けた。
馬もサトシも汗をかくほどに駆けた頃。
工事現場に着く。
そこにいる奴隷に馬の面倒を言いつけると、サトシは奥へと進んだ。
歩いて行くと、この場所に相応しくない子どもの声が聴こえる。
「とうしゃ・・とうしゃーーーん」
涙声で父親を探しているのか?
近づくと、怪我をした男に縋りつく少年。
「何を泣いている?」
サトシが声をかけると、涙で顔を濡らしたその少年がサトシを睨んだ。
「とうしゃ・・・んがぁ・・・・」
男が呼吸するたび、口からは血の色の泡。
胸に出来た大きな傷がその原因だろう。
ここでは事故が多いと聞いている。
男も事故に巻き込まれてしまったんだろう。
誰からの目にも、その男がもう助からないと写っているだろうに・・
少年だけは、呼ぶことで父親が助けられると思っているようだった。
少年が、男の胸にその小さな手を置いて、揺さぶろうとした時。
その男は最後に呻き声を一声上げて。
息を止めた。
「来い」
サトシは少年の手首を掴んで、男から引き離した。
「ヤダ!とうしゃん・・とうしゃんが!」
「こいつはオレがもらう。その男はちゃんと葬ってやれ」
現場監督に言いつけた。
少年は暴れまくって抵抗するが、サトシはそれに構わず手首を掴んだまま、引きずるようにして連れて行く。
待っていた奴隷が馬をひく。
サトシは少年の体を放り投げるように馬に載せて、自分も飛び乗った。
「父親と同じように死にたいのなら、逃げるがいい」
馬を駆けさせた。
少年は、馬は初めてなのだろう。
ひっ、っと、引きつった声を上げたっきり、馬にしがみついて、何も言わなくなった。
途中、二人分の重みに馬が疲れたと見たサトシは、速さを緩める。
「さっきまでの勢いはどうした?怖いのか?怖いなら、オレに掴まれ」
少年の手が馬のたてがみから離れ、おずおずとサトシの体に回ってくる。
サトシは少年の体を腕を回して抱えた。
遠慮がちに掴まっていた少年の手に力が入り、サトシの体に少年の体温が感じられるほどになった。
宮殿に着くと、サトシは少年を女官に預けた。
「この者を見られるようにしてくれ。オレの側使いにする」
「とうしゃんは?」
宮殿内ではめったに見られない年頃の少年に、女官たちは、賑やかな声をあげながら、抱き抱えて湯浴みに連れて行こうとした。
心地よい汗をかいた。
しかし砂漠に出ると、どうしても全身が埃っぽくなってしまう。
それを湯で流そうと、サトシも湯浴みに向かう。
何をされるのか、わからないままに連れて行かれるのが不安なのか?
少年は女官の腕の中で大暴れしている。
サトシの方を何回も振り返りつつ、「イヤ!」と繰り返し叫んでいた。
サトシが同じ方向に向かうのを見ると、安心したように大人しくなった。
少年の日に焼けた肌は砂埃で白くなっていた。
髪もゴワゴワで、指も通らない。
女官たちが楽しそうに少年を清めていくのを横目で見て、サトシも女官に体を預けた。