翔くんから、連絡が入った。
迎えを寄越すから、待ち合わせしてデートしよう、って。


デート?
ただ、ちょっと出かけるだけでしょ?とは・・思ったけど。
どこかに連れて行ってもらえるのは、嬉しい。

なんか、久しぶりにワクワクすることが降ってきたみたいで。
鼻歌歌いながら、準備を始めた。
らんのオムツと〜ミルクと〜念のための着替えと〜
寒くなった時のブランケット。

あと・・僕の着替え・・いるかな?
なんて・・考えて・・一人で恥ずかしくなった。

お泊りは・・ないよね?
でも・・・らんのための荷物の底にこっそりと下着だけ、忍ばせた。


インターホンがなった。
あ・・迎えが来てくれたかな?
わざわざ、タクシーも頼んでくれるなんて・・
ほんとに・・なんか・・デートみたい!


はーい!、ってインターホンに出たら・・・なんか・・・
タクシーの運転手さんじゃなさそう・・・?


「こんにちは。大野智さんのお宅で間違えないですか?
櫻井翔先輩から頼まれました!大学の後輩の櫻井翔と申します。
大野さんを車で送るように仰せつかりました」

えーとー翔くんから頼まれた・・なんだって?
まあ・・翔くんの名前を出したくらいだから・・・身元は確かだろう。

僕はまとめた荷物を持って、玄関を出た。


マンションの玄関の外で待っていてくれたのは・・
翔くんにちょっと・・感じが似てる?
なんか、ちょっとだけ若そうな・・でも、落ち着いた感じの・・
人だった。

微笑んだ顔が優しくて。
キラっと光った瞳がちょっと赤みがかってる。


どうぞ、って後部座席のドアを開けて、手で招き入れるように軽くお辞儀をする。
なんか・・映画で見た貴族みたい。

わざわざチャイルドシートまで準備してくれたみたい。
らんを座らせた。
隣に僕も座る。

「あの・・櫻井さん?で・・いいですか?
よろしくお願いします」

「はい。僕も櫻井翔なんです。
同姓同名で・・大学時代には、周りのやつにからかわれました。
先輩・・人遣い荒いですよね〜」

「あ・・うちの櫻井翔が・・すいません」

穏やかな人柄が感じられるような、優しい運転だった。
でも・・慣れない車と慣れない人がいたからなのか・・
らんはグズグズ言ってて。

「すいません・・あんまり・・車慣れてなくて」

泣き止ませようと、あやしても、だんだん、口がへの字になってく。

「らん〜どうしちゃった?」

持ってきてるおもちゃを目の前でふりふりさせて。
お気に入りのカピバラのぬいぐるみを抱っこさせようとするけど・・
ぽい!って投げ捨てる。

泣き声が、耳障りだろう・・ってくらいに泣きだして・・・
もう・・迷惑だろうから、降りて、タクシー拾うか?
って・・思った頃。


「はい。着きました。デート、楽しんでくださいね」

「ありがとうございました。
どうもすいませんでした。ご迷惑かけて」

車から降りようとらんをチャイルドシートから下ろした。
らんと荷物と・・・って格闘していたら・・
櫻井さんがドアを開けてくれていた。

最後まで・・・なにからなにまで・・ありがとうございます。

「抱っこしてましょうか?荷物もあるから大変でしょう?」

お言葉に甘えて、らんを渡した。
翔くんに雰囲気が似てるから?
不思議な顔をして、抱っこされたけど・・

次の瞬間・・・いきなりマックスで泣きだした。
うわっっ!ごめんなさい!

それなのに、奥に押しこむようにした荷物がなかなか取れなくて。
慌てれば慌てるほど、バッグの取っ手がどこかに引っかかったりして・・
引っ張り出せない。

「ごめんなさい!
ちょっと・・待って!らん!
ママ、ここにいるからね。大丈夫だから!」

声をかけつつ、荷物と格闘してたのが・・すごい長い時間に感じる。
申し訳ない!ごめんなさい!
泣きながら暴れてる らんの姿が横目に見える。

バッグをなんとか引き出して。
車から降りた。

「らん・・・お待たせ。おいで」

声をかけたら、振り向いて、僕の方へ手を伸ばした。
櫻井さんが体重を支えきれなくて、らんの体が傾くのをそのまま抱きとめて。
抱っこする。
らんは僕の胸に顔をすりすりと擦りつけた。

「ん〜ママの服、汚れちゃったよ・・
あ・・櫻井さん・・どうも、ありがとうございました。
らんが、ご迷惑かけて・・すいませんでした」

「らんちゃん・・ママのことが大好きなんですね。
また・・会えるといいな」

櫻井さんは らんのほっぺをツン、って突っついた。

「可愛いですねぇ・・」

らんを覗きこむ櫻井さんの顔はちょっと切なさそうに見えた。