米原万里の「愛の法則」 (集英社新書 406F)/集英社
¥713
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2006年に亡くなった米原万里さんが、生前に講演したものをまとめた書。

 

全部で四つの講演が収められています。


 

1、「愛の法則」 2005年 石川県立金沢二水高校にて

 

2、「国際化とグローバリゼーションのあいだ」 2004年 愛媛県立三島高校にて

 

3、「理解と誤解のあいだ-通訳の限界と可能性」 1998年 愛知県にて

 

4、「通訳と翻訳の違い」 2002年 神奈川県にて



 

まずは表題にもなっている「愛の法則」

 

男と女の性の話は万里さんのお得意分野のようですが、、、


 

これ、ホントに高校生に向けて語ったの!??


 

「あらゆる男は三種類に分けられる。

 

A:ぜひ寝てみたい男  

B:まあ、寝てもいいかなってタイプ

C:絶対寝たくない男。金をもらっても嫌なタイプ」

 

 

とか・・・・・

 

「今はわざわざ避妊してまでセックスする」

 

 

とか・・・・・・・・

 

「男の存在価値そのものが性生活にある。だから、勃起能力とか性の能力を上げることに血道をあげる。」


 

とか・・・・・・・・・・・・

 

けっこう過激なこと喋ってます・・・・・・・・・・・・・・



 

もちろん万里さんの講演ですから、単なる下ネタで終わるはずはなく、


 

過激な単語をさらりと口にしながらも、

 

古今東西の文学作品を引いてきたり、

 

ちょっとマイナーな生物学者の学説を持ち出したり、


 

ユーモアも交えながら、高尚な香りも漂わせて、うまくバランスを取りながら

 

非常に興味をそそられる内容になっています。
 

 

個人的に最も興味深かったのは、

 

「環境の激変期や有事に跳ね上がる男児出生率」

 

天変地異とか、疫病の流行とか、戦争とか、そういう時は女より男が多く死ぬ。

 

そしてその後は男児出生率が跳ね上がる、というのです。(=◇=;)(=◇=;)



 

 

不思議ですね~



 

これについては、多くの科学者たちが原因を研究しているそうですが、

 

ほとんど神の領域では?という気もします。



 


 

2番目の「国際化とグローバリゼーションのあいだ」

 

 

ここで興味をひかれたのは、


 

日本語はとてもオープンな言語。対比例として中国語を非オープンな言語と仰っていたことです。

 

 

どういうことかというと、

 

日本語はカタカナがという便利な文字があるから、外来語を音としてそのまま取り込みやすい構造になっている。(万里さんは、これを半人前の語と言ってます。)



 

対する中国語は、文字はすべて漢字だから、外来語の意味をとらえて訳さなくてはいけないため、

(音を適当な漢字に当てはめたものも多くありますが。)

必然的に外来語を取り込みにくい構造になっている。


 

ということです。


 

例として、ラブホテル(日本語)  情人旅館(中国語)が紹介されていました。

 

情人というのは、日本語の愛人?というような意味です。


 

意味をとらえた実に上手い訳になってます。


 

 

私はかつて中国に住んでいて、中国語も習っていましたが、

 

中国語の翻訳の妙に、思わず膝をうったことが何度もあったことを思い出しました。



 

例えば、


 

パソコンは電脳(これは既にメジャーな中国語として日本人にもお馴染みですね)


 

クリスマスは圣誕節(シェンダンジエ)

「茎」は「聖なるもの」という意味があり、つまり聖なるものが生まれた記念日


 

タクシーは出租汽車

「出租」は、レンタルという意味です。


 

ヨーグルトは酸牛奶

「酸」すっぱい、 「牛奶」は牛乳、つまりすっぱい牛乳



 

他にもたくさんありました。



 

そして、ちょっと違いますが、スターバックス

 

日本語は、もちろんカタカナを使ってそのままそっくり取り入れますが、



 

中国語では星巴克

 

後ろの二文字「巴克」はバークーと読むので、おそらくバックスを漢字で音声表記したのでしょうが、

 

スター(star)は、意味をとって「星」という漢字を当てています。


 

中国語で表現できるものは少しでも中国語で!という感じなのでしょうか?


 

こういう表現は、私個人の感覚としては、非常に中国的で洗練されていないというか、、

 

ダサいというか、、そこまであがかなくても、、、という気もするのですが。



 

でも、本書で万里さんが仰っていることを考えてみると、

 

自国の言葉を大切にする、という日本人が軽視しがちな価値観が込められているような気がして、

 

逆に尊敬すべきところなのかもしれません。



 

最後に二つだけ!



 

まずは、万里さんが愛してやまなかった下ネタ的小咄を。


 

万里さんは、「必笑小咄のテクニック」という本も出されているくらい、

 

ユーモアに富んだ小咄をとても愛しておられたのですが、

 

本書にもニューヨークの黒人浮浪者の小咄が紹介されています。





 

黒人浮浪者の前に突然神様が現れて、願いを三つ叶えてやると言われた。

 

彼は、

 

「白くなりたい」

 

「女たちの話題の的になりたい」

 

「いつも女の股ぐらにいたい」

 

と言った。


 

すると、突然彼の姿が消え去り、路上にはタンポンが一つ転がっていた。




 

次はちょとした言葉遊び。


 

第一章「愛の法則」で出てきました。



 

「フル」ジュワジー

 

「フラレ」タリアート



 

モテる人、モテない人という意味です。

 


「フル」ジュワジーは、フランス革命 通称ブルジュア革命にからめたもの。

 

「フラレ」タリアートは、ロシア革命 通称プロレタリア革命にからめたもの。



 

やはり万里さんの著書「ガセネッタ&シモネッタ」を思い起こさせる、

 

誰にもマネのできない、レベルの高いユーモア表現です。