対岸の彼女/角田 光代

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言わずと知れた平成16年の直木賞受賞作。当時は図書館で何人待ち?というかんじでしたが、ほとぼりがすっかり冷めた今、書架の一般コーナーの方にぽつんと置かれておりました。以前、夏川結衣と財前直見主演でドラマ化されたのを見ていたので、ストーリー自体は知ってました。当時、勝ち犬・負け犬などという言葉が流行していたこともあって、主人公の小夜子(30代・既婚・子あり)と葵(30代・独身・子なし・起業家)をそれにあてはめたような紹介がされていたのですが、実際作品に触れてみると意外にもそういう括りで語れるような内容ではなかったですね。第一、葵は女性起業家といっても、決して成功しているやり手キャリアウーマンではないし、住んでるところもボロ家だし。一方の小夜子は人付き合いが苦手で、なかなかママ友達ができない自分にイライラするような、やや暗い性格。条件だけなら勝ち犬だけど、中身を見ると決して幸せな勝ち犬ではないですね。

トッコも決して人付き合いが得意とは言えないので、(どちらかと言うと苦手です。)小夜子の気持ちはとってもよくわかります。「自分は他人に受け入れられないんじゃないだろうか・・・・」と不安にかられるんですね。そう思ってしまうと、当然相手に心を開けない。開けなければ友達はできない。できないとさらに不安になる。悪循環ですね。結局のところ、自分に自信が持てないんです。いっそのこと、一人でいいわ~と腹をくくってしまえばいいのでしょうが、それほどの覚悟も持てない。ただ、こんな状況で小夜子のえらいところは、それを打開しようと環境を変えたことですね。パートを始めて、子供を保育園に入園させて。パートの仕事は、お掃除業務という、ちとやり甲斐に欠けるのではと思ってしまうようなものですが、小夜子は無心にこなしていきます。そして、研修が終わってお掃除部隊の中核を任されると、休日にも自ら宣伝チラシをポスティングして仕事をとろうと努力します。この辺りをきっかけに小夜子は一皮むけたと思いますね(^ε^)♪

一方の葵ですが、30代の葵の明るくて人懐こいキャラは、読んでいてとても痛々しかったです。というのも、この作品は高校生の時の葵と現在の葵のエピソードが交互に描かれているのですが、高校生の時の葵の話がとっても悲しいんです。何が悲しいって、まず、中学までいじめられっこだった葵が、新しい高校でも「いつかまたいじめの標的にされるのでは。」とびくびくしながら過ごしていること。そして、人懐こくて明るいナナコと大親友になったのに、心中未遂の挙句別れ別れになってしまったこと。明るいナナコの育った家庭が決して幸福でなかったことも悲しいです。今の葵はいじめられっこを克服して、憧れだったナナコと同じ、明るいキャラの女社長になったけど、それが真の明るいさには思えないんです。心の底にいまだ潜んでいる卑屈な気持ちや不幸せ感。これらに無理やり蓋をしてあえて明るく振舞ったところで、それは痛々しいものになってしまう。ただ、葵のすごいところは、強いところ。事務所の社員が皆やめて葵一人になったって、頑張って仕事続けてる。これはきっと、ナナコと過ごした時の体験から得た強さでしょう。だからこそ最後に小夜子と分かり合えたことは救いでした。二人の友情がどんなふうに発展するのか、とっても希望の持てるラストですね♪

「人との関わり」って人生における永遠のテーマですね。トッコは以前、学校~職場とわずらわしい人間関係の中で過ごしてきて、専業主婦になればそういうわずらわしさから解放されるだろう、って勝手に想像してました。けど、実際自分が結婚して子育てする立場になって、ぜんぜん解放されないんだと気付きました。むしろ、学校みたいな決められた枠の中だけのお付き合いではなく、自由度が高くなって選択肢が広がったので、かえって難しくなったと感じています。なかなか真の友情を育むまでいかないですね。最近になって思うことは、他人に受け入れられるか否かは結局自分自身の人間力次第だということ。話をしていて楽しいとか、話題性に富んでいるとか、話すと元気をもらえるだとか、魅力的な部分が一つでもあればそれは大きな武器になります。トッコは時々、自分の長所を列挙して書き出し、「私ったらこんなに良いところがあるじゃない!」と自画自賛します。鏡に向かって表情を作り、女優の真似事をしたりします。こういうちょっとした「おまじない」みたいなことが意外と効果あったりして、自分の力を信じるように、少しずつ勇気をつけています。

ちょっと話がそれてしまいましたが、小夜子と葵、これからの二人の友情の行方がとっても気になる。続編があるといいのにな、と思ってしまうお話でした。