この時期になると、毎年なにかしらの戦争に関する本を読んでいますが、
今年は、本屋さんの新刊コーナーで見て気になってた、
浅田次郎さんの「終わらざる夏」を読みました。
玉音放送の3日後に千島列島の先端の島で実際に起きた日ソ両軍の
戦争を軸に、戦争に巻き込まれて翻弄された人々の群像劇。
45歳となり、もう召集はないと考えていた、翻訳編集者の片岡、
高い志を持つ医学生の菊池、金鵄勲章に輝く歴戦の英雄・富永。
終戦間際に、千島列島の最先端の占守島に向かうことになったこの3人を軸に、
彼らの家族や、動員計画を立てる参謀、赤紙を配る役場職員、疎開中の子供や教師、
そしてソ連兵の物語を描く・・・。
浅田次郎さんは、この話を今のタイミングで書くことに意義があると語っています。
戦争経験者が年々減ってきている昨今。折りしも、今年は戦後65年となります。
「戦争を経験した方々が生きているうちに書かなければ意味がないと思いました。
歴史になってから書くのは無責任すぎる。今しかないというタイミングでした。」と、
浅田さんは言います。
ソ連が、不可侵条約を破って満洲を攻撃したのは知っていましたが、さいはての島での
この戦いはまったく知りませんでした。
お話の軸になる登場人物は、翻訳編集者の片岡、医学生の菊池、勲章をもらって退役していた
富永の3人。
片岡は、アメリカに強い憧れを持っていて、戦争が終わったら、ヘンリー・ミラーの「セクサス」を
翻訳して家族とともに渡米するのが夢の45歳。妻と息子とともに当時最先端の設備を備えていた、
”同潤会江戸川アパートメント”に住んでいます。親米派なだけに、アメリカとの戦争を
心から残念に思っています。
菊池は、岩手医専卒で、その後東大医学部に入学した医学生。
若い医師が次々と召集される中、優秀な人材を守ろうとする医専の肝煎りで東大医学部に
入学するも、召集されてしまいます。
そして、富永は、満州事変のときに手柄を立てた伝説的な英雄として、勲章ももらったことのある
元軍人。ケガで退役して、年老いた母と二人でつましく暮らしていました。
酒好きの暴れ者だけど、母を思いやる優しい一面もあります。4度目の召集で片岡・菊池とともに、
占守島に向かいます。
この3人の人となりや背景がとても丁寧に描かれているのはもちろん、召集通知を配る役場職員や、
疎開している子供たちや教師などなど、3人を囲む人々についても丁寧に詳しく描かれているので、
登場人物が多くても混乱することはなく、どの人にも感情移入しちゃうくらいの圧倒的な筆力。
涙なくしては読めません。どの人のこともとても心に深く残りました。
そして、不可侵条約を破って戦争をしかけてきたソ連。知らずにいれば、「卑怯だなー」で終わってしまいますが、この本では、そのソ連の兵隊数名についても描かれています。
よくよく考えたら当たり前なんだけど、ソ連の兵隊さんも、戦争が終わって喜んでいたんだな・・・と。
平和で自由な世界を願うのは、どこの国の人も同じなんだな・・・と。
戦争関連の本・・・というと、悲惨なシーンが描かれてたりして、
そういうのを本当は知っておくべきなんだけど、どうしても避けてしまいがちになってしまいますが、
この本は、そういう悲惨なシーンは出てきません。
一人一人の登場人物を丁寧に描くことで、戦争のおろかさや、悲惨さが浮き彫りになる・・・。
時代は違えど、登場人物の誰もが、自分と同じ一般市民で、愛する人もいれば、
夢や希望もある。それが戦争によって絶たれていくことが描かれることにより、強く
心を揺さぶられてしまうんです。
65年・・・「戦争」ってものすごく昔のことのような感覚がありますが、
まだ65年しか経っていないんですよね。平和で自由で豊かな世の中しか知らない私達の世代が、
戦争のことを風化させることなく、語りついでいかねば・・・と思いました。
