さくさく読書日記-月島慕情

先日、何気なくテレビを見ていたら、浅田次郎さん原作の

「シューシャインボーイ」というドラマをやっていました。

最初こそ見逃してしまったのですが、途中から見たにもかかわらず、

最後まで見入ってしまい、かなりじーんとしました。

原作は「月島慕情」という短編集に収録されているということで、

早速購入しました。


明治時代から昭和までのさまざまなお話7作が収録されていますが、

どのお話も珠玉の短編といった感じ。読み終わったあともしばし「じーん」が続きました。

その中でも特に心に残ったお話が「雪鰻」でした。

作者の浅田さんは、元自衛隊員だそうで、そのときの経験を踏まえた作品だそうです。


昭和40年代の北海道の自衛隊駐屯地。

ある夜、当直勤務についていた「私」のところに、酒に酔った三田村陸将が現れる。

手土産には宴会の席で出たという鰻重。

三田村陸将は、鰻が大好物であるのに、ある理由から絶対口にしないという。

その理由は、太平洋戦争にさかのぼる・・・。

ジャングルの中で、マラリアと戦いながら、食べれるものは食べつくし、

自分の体に沸いた蛆までも、果ては、人肉までも食べてしまうような極限状態の中、

戦況視察のため、宮様が日本軍下の島に来られることになった。

各部隊の代表が戦況報告に参列することになり、三田村陸将(当時は副参謀)も

出席することになる。

自分が戦う島とはそんなに遠くない場所なのに、集合した島はまるで楽園のような様。

そして、テーブルの上には、上野の宮内庁御用達の老舗の鰻屋の鰻重と、

エビスビールが並ぶ・・・。

他の部隊の代表たちは、ピカピカの軍服に身を包み、意気揚々と戦況を報告していく。

・・・が最前線そのままの身なりの自分の番になったとき、どう報告をすべきか・・・。

その戦況は、自分のボロボロの服装とやせ細った体がすべてを物語っている。

立ち上がって悩み、無言になるが、不意に腰を下ろし、おあずけのままになっていた、

鰻重に食らいつく。唖然とする周囲の人々。

泣きながら、米一粒まで食べ尽くす・・・何にも勝る戦況報告。

三田村陸将は、その鰻重について「あれはうまかった。どのくらいうまかったかというと、

ひとことで言うなら日本そのものだった。わが国の二千年の文化は、

鰻の蒲焼に凝縮されているといってもいい。」と語る。

最高の鰻を食べてしまったから、もう二度と鰻は食べまい・・・と。


戦時中の話は、なぜか琴線に触れてしまいます。

このお話も、すごく刺さりました。

そして、無性に鰻の蒲焼が食べたくなってしまった私・・・。

これから、鰻を食べるたびに、このお話を思い出してしまいそうです。