「〇〇年、東北日本の太平洋岸に津浪が襲来して、沿岸の小都市村落を片端から薙ぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。」

もし試験に〇〇年は何年かという穴埋め問題が出たら、皆さんは何と答えるだろうか。

この文章は、物理学者寺田寅彦の随筆『津浪と人間』の最初の一文であり、昭和8年(1933年)が正解だ。

その文の後に、「明治29年(1896年)6月15日の同地方に起こったいわゆる「三陸大津浪」とほぼ同様の自然現象が、約満37年後の今日再び繰り返されたのである。同じような現象は、歴史に残っているだけでも、過去において何遍となく繰り返されている。」と続く。

彼は、どうして人間が大きな災害の後に、『これより下に家を建てるべからず』と書いた石碑を建てるなど災害の教訓を忘れないようにするのに、時間と共にそれを忘れてしまい、また大きな被害を被ってしまうのか、さらには、充分な科学的対策を施したという過信が災害に対する警戒心を弱め、かえって大きな被害を被ってしまうなど、昨今評論家が盛んに言っているようなことを80年前に警告していたのだ。

天災は忘れた頃にやってくる』という言葉は、物理学者寺田寅彦の言葉であることは知っていたが、これまで物理学者であると同時に名随筆家として知られた彼の文章はほとんど読んだことがなかった。

先般の東日本大地震を契機として、天災をテーマとした旧著が書店に並ぶ中で、先日『天災と国防』(寺田寅彦著)という文庫本を書店で見つけて購入し、一気に読んだが、本当にこの本は何時書かれたのだろうと錯覚するほど、内容は古びていない。

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彼は、大きな天災を経験した人がいくら警戒を呼びかけても、30年も経過すると人も入れ替わり、大災害の記憶は衰退していってしまうと書いている。

今回の東日本大震災による津浪が従来のものと異なる点は、その記録映像が豊富に残っている点であろう。

寺田寅彦は、「災害を防ぐ唯一の方法は人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はないであろう」と書いているが、この度の豊富な記録映像が大災害の記憶を忘れないことに役立ち、将来の同様の自然災害発生時に被害が出来るだけ少なくなることに活用されることを期待するのみです。