講義の中で、自殺志願者が放つ微細なシグナルをキャッチし、自殺を引き留める人をゲートキーパーといった。たしかに、こうした人たちのはたらきかけで自殺者が少しでも減るのはとても喜ばしい。しかし、そうした引き留めが原因で善良な人間の命が奪われてしまうということも往々にして起こっている。

 

 たとえば、池田小学校事件で8名もの未来ある児童の命を奪った宅間守は、法廷で犯行動機を聞かれた際こう述べている。

「人をたくさん殺せば死刑を受けられるので、死ねると思った。自分にふがいない思いをさせ続けてきた社会への復讐も込めて、どうせ死ぬのならまわりの人間も道連れにしようと考えた。小学校の児童をターゲットに選んだのは、足が遅くて捕まえやすく、簡単にたくさん殺せると考えたからだ。」と。つまり彼は自殺の手段として死刑を、そして児童の大虐殺を選んだのである。

 

 はたしてこのような自殺志願者を前に、僕らは「思い直せ」と呼びかけることができるだろうか。

 

 もちろん、宅間のような人間が世の中に多くはびこっているとは思わない。しかし、このような人間がいるということも、悲しいかな、また事実なのである。したがって、僕らが自殺を引き留める際注意しなければならないのは、その人の内実を冷静に見極め、本当の意味での「適切な」アドバイスを送ることだ。場合によっては、あえて引き留めずそっとしておいてあげることも必要なのである。