自分の記憶が薄れない内に
書き残しておきたい為
かなり死について生々しい
描写があります。
ご注意ください。
結局、明け方まで末っ子をあやしながら
起きていた私。
何とか寝なくては、と布団に入り
目が覚めたのは8時過ぎでした。
いつもなら早起きの娘達はいないので
随分静かな朝だなぁと思っていた記憶があります。
ここから先は、すこし記憶が曖昧です。
4女も寝ていたので先に主人の様子をと
主人の寝る部屋に声を掛けながら行くも
返事がない。
そこには、体を前ならえの状態で硬直させ
微かに震えた、
明らかに様子のおかしい主人がいました。
「え?」
すぐに駆け寄り、声をかけながら揺さぶるも
目の焦点が合わない……
これはヤバい。
本能的にそうおもった私は義母に電話。
マンションの同じ階に住む義母は
1分もしない内に、家に来て
主人を一目見るや、激しく
背中を叩き声を掛けます。
まるでドラマの中で意識の無い人に
するみたいに。
何度か叩かれた主人は
「うっさいわ、わかってるねん!」
と怒号混じりに返事。
あ、いつもの主人だと安堵するも
一瞬のこと。
またさっきの主人に戻ってしまいました。
同時に連絡していた救急車が5分程で
到着。
経緯は聞かれましたが
今度は迷わず、搬送される事に。
私は同乗する為、
着替えを済ませ、末っ子を背負い
用意をします。
ただ、この時何故か
頭の中でエマージェンシーベルは
鳴らなかったのです。
長くなるかもな。
と娘のオムツや授乳の用意を持っていく
のんびり具合。
こんな状態でも、入院かな。
位の気持ちだった自分。
本当に馬鹿みたいだな。
4女は急遽、義母経由で義父に預け
同じくエマージェンシーベルの
鳴らなかった義母に
「持病の薬を取りに行く予定があるから
何かあれば連絡ちょうだい」と
言われ、そのまま家を後にしました。
救急車の中で
救急隊員「インフルエンザの疑いと
言う事でしたが、もし確定であれば
診察だけして帰る事になりますが、
それでも良いですか?」
今度はちゃんと選択肢をくれた、
と思い
私「はい。構いません。」
救急隊員「まあこの容態では、
それは無いとは思いますが……」
仰向けで寝ているのに未だに手を上げたまま、
何度、救急隊員の方に下ろされても
反射の様に上がる手を見ながら
そう言われました。
その後、
まずは初日に夜間救急に行った病院に電話。
生憎、受け入れられないとの返事。
2箇所目に電話。
幸い、すぐに受け入れて頂け15分程で到着。
車内で後部ドアの1番近く
(主人の顔から1番遠く)に座る私は
鳴り響くサイレンを聞きながら
未だ混乱したまま、呆然と主人の方を
向いておりました。
ただ、自分本位に
怖くて怖くて
声すらも掛けてあげられなかった事を
本当に後悔しています。
おそらく、9時半頃には着いたでしょうか。
救急救命室に入ってすぐ
主人から離れ
専用の待合室を案内されました。
ストン、とそこに座り
ただただ手を合わせていました。
……。
どれくらい経ったでしょうか、
1人の先生が私を呼びました。
先生「深野さん。(私の苗字、仮名です。)
落ち着いて聞いてくださいね。
さっき、ご主人の心臓が止まりました。
今、薬を使ってできる限りの処置をしたり
心臓マッサージをしています。
どなたか、ご親族の方に
連絡を取って来て貰ってください。」
(多分こんな感じだったと思います。)
私は多分、返事をして外へ行き
義母に連絡をしました。
恐らく病院内の為、留守電。
何度も何度もかけ直しました。
が出ず。
戻って手を合わせていると、
先生から再度、同じような事を言われ
また外へ。
義母に何度も連絡をし
ようやく繋がった為
経緯を説明。
私より義母の混乱が凄く
何か私に告げた後、取り敢えずタクシーで
向かうとの事。
続いて自分の親にも連絡。
(両親も自宅から5分程度の
距離に住んでます。)
おそらく両親が先に
その後すぐに
義母が到着したので、
義母と私
続いて私の両親が救急救命室へ。
そこには
馬乗りになった男性に
ベッドが軋むほどの音を立てながら
心臓マッサージを受ける主人の姿。
義母は泣き叫びながら
主人に近寄り、顔を近づけ
何度も声を掛けますが
私は目の前で起きている光景が
どうしても理解出来ず
その後ろで小さく名を呼びながら
「嘘でしょ」を繰り返しながら
まだ暖かい大きな手を
そっと握る事しか出来ませんでした。
ただ、開かれたままの主人の眼が
一切瞬きもせず、
またビー玉の様に透き通っていた
茶色いその眼の白目の部分が
濁ってしまっているのを見て
もうこの体に魂は無いんだ
と漠然と感じてしまいました。
と同時に先程の先生から
1時間以上心臓マッサージをしているが
効果が無いこと、
残念ながら望みがほぼ無い、
様な事を告げられました。
義母は更に泣き叫びますが、
私は信じられない位、冷静に
義母を止め
そして心臓マッサージを続けてくれた
男性はゆっくりと手を離し汗を拭いました。
そして先生から死亡宣告。
義母では無く
彼女を支えながら歩く私に向かって
先生は
「大丈夫?」と声を掛けて下さいましたが
その意味が分からず
「はい」と答えてその場を後にしました。