第三章 その17〔 もののけ 〕

〔 上海の小雪さん 〕当時の政治・経済や時代背景と上海事情を組み入れた 回顧録を 初めて読まれる方 忘れた方は 第一章・第二章シリーズから お読み下さい。

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〔 もののけ姫 - 久石譲コンサートより 〕


 もののけこだま
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今ある現実を真剣に受け止め 自分にとって最上の道を探し出し 現状を生きる為の選択肢は? そして そこにある必要なものは真実愛 犠牲的愛 それとも諦め?? もののけ???

第三章 その16 〔 クリスマス プレゼント 〕 からの続き・・・

この後の話しを続行すべきか 小雪さんや読者は どんな反応を示すのか気になり躊躇し 途中で小説
に変換し終えることも考えたが これは回顧録なので  そういう訳にも行くまい。 当時の時代背景
と複雑な人間ドラマを垣間見るような絡みの展開で 霧子の話は もう少し小雪さんに話し続けること
になる。
                     ◇ ◇ ◇

小雪さんは 初めて話を聞くかのように 真剣な眼差しを向けてくる。
霧子の話の結末に 自分で自分の思いに戸惑いながら どんな言葉で綴ったらよいのか 次に口を開く
まで 少し時間がかかる。



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小夜子は 3年前の過去から語り始める。 
霧子は3年前 事業家A氏と突然 結婚し 平凡でごく普通の生活を送っていた。 A氏の事業は好景気
に支えられ多忙で国内外を飛び回る毎日を続けていたが そのうち不審な行動を取るようになり多忙
を理由に家に帰らないことも多くなった。


家に閉じこもりきりの霧子は 悶々とする日々を送っていた。 それから小夜子が上京してからは
少し落ち着いたが それでも深刻な状況には変わりはなかった。 更にA氏の過去と現在の色々な
女性関係のことが明らかになり それでも我慢を重ねているうち ノイローゼから鬱病になる。


人と接する時には 普段と全く変わらない様子に見えるが 時々情緒不安定になり 気力が抜け 意欲
に欠け 人間の抜け殻のように思える時もあり まるで人の手の入らぬ森の中に潜む人間の姿をした 
もののけ のように見える時もある。


小夜子から信じ難い話しを聞き とても辛く 霧子に会いたい気持ちと 会ってしまうと全てが壊れて
しまうのではないかと云う葛藤で 何の返事も出来ないまま その日は小夜子と別れる。



                     ◇ ◇ ◇



それから3週間経ったある日 小夜子と丸の内パレスホテルで会う。 更に詳しい話しを聞いている
うち 小夜子が昔の霧子を若くしたような錯覚に陥り ハッとする。

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霧子に会いたい誘惑に駆られる。でも『 もっと頑張れば きっと大丈夫だよ! 』 と言うのは簡単だが 直接会うと何か予期せぬ違う方向へ展開するか それとも あれだけ愛し合った時の流れを止めるように 若い二人だけの甘い愛の世界へ旅立つ自然の成り行きが想像される。 

←パレスホテル〔2009年1月31日営業終了。2012年再開〕

人を愛するのは そこに人がいるから ?  人を憎み恨むのは そこに愛があるから ?  残酷なのは 犠牲を伴う愛なのか それとも真実の愛なのか ?


諦めは悟りであるとも云うが 愛することを諦めるのか それは中途半端で奇妙な愛の夢や形よりも 
大人の男女関係には正しい選択なのか? 出来れば 本当に心から愛し合い笑っていたいと思うが 
その状況には とてもなりそうにはない。 


初めて小夜子と会い霧子の話しを聞いてから 何度か霧子の夢を見るようになる。 健康で若い青年が
見る夢は 箱根旅行の甘い思い出が鮮明に蘇り 美しく白い肢体を抱き 激しく愛し求め合う官能的な
夢。 そして時折見る不思議な夢は 霧子と小夜子が時々入れ替わっている事であった。 


小夜子に 霧子の夢を見る話をすると:
『 その夢の中に 私も出てくるのかしら? 』 
『 そうなんですよ! 』 と言いながら 自分でも顔が火照って赤くなるのを感じた。
『 Dotpedさん 駄目ですよ 姉と一緒にしては・・・』 と見透かしたかのように云うと ウフフと微笑む。


確かに小夜子は 私がまだ会っていない時の もっと若い頃の霧子に似ている。 でも何かが違うのは 
その反応の鋭さ そして人の心理を読み取る頭の良さが 返って彼女を近づけ難い雰囲気のバリアを
感じてしまう。 やっぱり霧子の優しさがいい。もっと心を磨く事を考えねば・・・


決して否定的な言葉で刺激しないよう優しく見守る事が 鬱病患者の霧子にとって大切な事がわかり
小夜子はA氏に 強く協力を求めていく事にする。
 

〔 云水禅心 ー 白雲為蓋 流泉作琴 〕


流泉作琴 ( りゅうせんを きんと なす )何れの処にか心を求めん 白雲を蓋と為し 流泉を琴となす。。。

【 碧巌録 】 三七則 〔 盤山三界無法 〕 の頌より
〔 三界無法 何處求心 白雲為蓋 流泉作琴 一曲兩曲人不會 雨過夜塘秋水深 〕
( 三界無法 何処にか心を求めん。 白雲浮かぶ青空の下で 流れる谷川の音を音楽にして自然に溶け込みましょう。 自分も自然の一部であることを体感すれば すがすがしい気持で前進できるでしょう。 )

パレスホテルで会ってから更に数ヶ月経った頃 小夜子から電話があり 霧子のお腹に子供が出来た
事を伝えてきた。 やがて霧子は普通の生活に戻ることが出来たが その前後にも色々と些細な出来事
や私と小夜子の間にも 自分の青春時代の人生にとっては興味深い経緯もあったが それには数回に
渡るブログ記事になりそうなので その話は胸に留めて置く事にした。 


ただ その後の霧子の人生が平穏な日々が暫く続くと思えば不憫な日常生活が訪れるという波乱状態
であった事だけは追記して於かねばなるまい。 それはバブル経済の台頭と崩壊が A氏の事業を直撃し 私が夢にも思わなかった 彼と私が間接的に遭遇する事という運命的な出来事があった事。


バブル経済に上手く便乗し拡大してきたA氏の事業は それまでの彼の事業人生を成功させた事には
違いない。 自社ビルの裏の土地を買い取り 古い社屋を建て直し 自社には1~3階を使用 そして
4階~9階までのフロアーにはテナントを入居させる予定で 銀行からの多額な借入金で大きなビル
を建設。


それから まもなくバブル経済が崩壊しかかると 賃貸予定のテナントフロアーは なかなか埋まらず 
数階埋まったフロアーの予定賃貸料は大幅に下落し 数年後には9階建てのビルは銀行の担保として
差し押さえられてしまう。 バブル経済崩壊の始まり。 


それでも他に幾つかの土地を所有していたので破産は免れ 事業続行は可能で何とか事業を縮小する
方向で営業は続けていける状態で 現在も その会社は 何とか存在しているらしいが 全ての土地と
物件は 銀行と商社に担保として差し出している様子。


これらの情報は 関連する他の営業部・調査部から得たもので 当初は本当に世界は狭いものだと 
とても驚く。 小夜子が精神科医になってから2,3度会い 霧子の近況を聞き平凡な生活に戻った
ことが分かる。 それからは小夜子とも一度も会うことがなく 霧子は夢でしか会わない無事な人と
なった。




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ここまで一気に霧子の最終章を話すと それまで真剣に聞いていた小雪さんの眼から 寂しげな大粒の
涙が零れ落ちる。 小雪さんは『 ごめんなさい 涙は流さないと約束しておきながら・・・』と言い今度
は照れ笑いをする。

『 このような展開になるとは 想像できなかったでしょうから 別に気にしてませんよ。 』
『 Dotpedさんと霧子さんの事と 私の思い出が どうしても重なってしまうの ! 』
『 小雪さんの思い出? 私も小雪さんの愁いある瞳を見て いつも思っていたのですが・・・ 』
『 今度 お会いする時に話すわね。 』
『 今度は小雪さんの話しを 是非聞きたいですね。 喜びも苦しみも涙も あるがままに。 』
『 ワタシの話は そんな大げさなものでなくってよ。 』


次回の第四章へ続く・・・


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