〔 上海の小雪さん 〕当時の政治・経済や時代背景と上海事情を組み入れた 回顧録を 初めて読まれる方 忘れた方は 第一章・第二章シリーズから お読み下さい。

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第三章 その12〔 ワインの涙 〕

〔 La Cumparsita 〕↓
〔 見附で見っけ〕
〔 赤坂見附 〕 江戸城には 外濠沿いに四谷見附・市谷見附など36の見附があり 赤坂見附は そのうちの1つ。  見附は 江戸城外郭や街道の要所・分岐点に設けられた見張り所(城門)でした。

第三章 その11 〔 冷めたレモンテイ 〕 からの続き・・・

その動作をじっと眺めていた 小雪さん『 ねぇ それから それから 』 
もうすぐ午前0時になろうというのに 魅力的な瞳が拡大しきらりと輝く。

              ◇ ◇ ◇

『 ゆっくりでいいのよ 』 と言いながら続きをと催促しているような気がし 食べかけの
 リングシュークリームを口の中に・・・ 熱いレモンテイで流し込む。


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霧子の囁いた言葉が気になるが 暮から スキー仲間と恒例の八方岳白馬へスキーへ出かける。
八方尾根 黒菱中腹の山荘宿に泊する。
スキー客が 麓からゴンドラとリフトを乗り継いで上ってくる昼には スキーを終え昼寝だ。 
午後は 3時頃から山頂へ上り 本格的に滑り始める。 
霧子のことは 忘れかける。


年が明け仕事が一段落すると 霧子のことが気になりだし 心を躍らせながらミカドに電話する。
霧子は既に店をやめ 何処に行ったのか分からないと言う。
その晩ミカドに行き 先日一緒に席にいたホステス達にも聞いてみるが 突然で消息は知らない
と言う。


歯切れよいタンゴのリズム ラ・クンパルシータが 愛の苦しみを詠っている事を思い出す。
すぐに電話しなかったことを悔み ステージ奥で演奏するタンゴの曲も虚しく聞える。
注いだウイスキーを一気に飲み干し ホステス達にサヨナラも言えず 店を出る。
街で 霧子に似た後姿を見ると みんな霧子に思えてくる。
それでも一週間経つと面影も薄れ いつものペースで仕事をしていた。

              ◇ ◇ ◇

それから3ヵ月後の4月中旬 同僚と取引先へ 商談で出かける。
外堀通り・青山通り・紀尾井町通りが交差する赤坂見附。
その交差点を渡る途中 霧子とよく似た 会社の制服を着た女性とすれ違う。


同僚に 後から合流すると伝え その女性の後姿を追いかける。
広い交差点の中間で 信号待ちしている彼女に追いつくが 信号が変わるのを待つ。
青信号で歩き始めた彼女を追い越し 渡リ切ったところで振り返る。
霧子だ! 


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 午前0時 店内が少し静かになり 小声で小雪さんに:
『 霧子さん いや 小雪さん。 もうすぐ電車がなくなりますが 話の続きは後日にしますか? 』
 少し頭の中が混乱する。

 明るい照明に浮かび 白のワンピースが良く似合う 小雪さんは囁く:
『 霧子ですけど ワタシはタクシーで帰りますが もう眠いですか?  明日は 午後から学校
 ですので 私は大丈夫。 Dotpedさんが大丈夫でしたら もっと聞きたいわ 』
 両手で頬杖をし 催促する。
『 そうですか では続けましょう 』


〔 ひとつぶの涙 :シモンズ 〕


〔 ワインの涙 〕
目の中に取り入れる光の量を調整する 角膜と水晶体の間にある薄い膜〔 虹彩 〕。 虹彩の色が瞳の色。 虹彩の色はメラニンの量で変化します。メラニンの量が多いと 黒い瞳 少ないと緑 更に少ないとブルー。 日照量の少ないヨーロッパの人々には   メラニン色素が少ないブルーアイが多い。  〔 ワインの涙 〕グラスの中のワインを回転させると 内側をワインがセリ上がり グラスの壁にワインの薄い膜ができ それが雫となってグラスをつたう。ワインレッドの涙は?

『 あらっ! Dotpedさん  』 霧子は驚いた顔で 名前を呼ぶ。
『 霧子さん 電話もせずに・・・  』 言いかけた言葉を遮り!
『 ゴメンナサイ 色々あって・・・今 時間がないの。 』 


 霧子は 日中は会社勤め 夜は他のクラブでバイトをしていると言う。 
 今晩そのお店に行くと言うと お店ではなく 昼間会いたいと言う。
 5月の連休に会う約束をする。
 それでも不安で 必死に アパートの電話番号を聞く。
 この頃 携帯電話は まだなかった。


 それからの2週間は ほんとうに長い毎日だった。
 早く声を聞きたかったが やっとデートの数日前に電話し 時間と場所の打ち合わせをする。
 下町のアパート暮らしなので 山手の街並みと 近くの公園がいいと言う。


 当日午後1時 渋谷ハチ公前で待ち合わせる。 
 清楚なワンピース姿の霧子が 微笑みながら歩いて来る。
 東急東横線に乗り 都立大駅で降りる。

 30分歩き 駒沢オリンピック公園総合運動場へ行く。
 自分で作ったという弁当を ベンチに二人並んで食べる。 
 もう恋人気分で とても楽しく不思議であった。

イメージ 1
陸上競技場 ⇒

10以上の体育施設があり 色々競技場を見て歩き疲れたが 更に自由が丘まで歩き 洗練された街並みと 駅近くの商店街のウインドーショッピングを楽しんだ。
霧子は遠くの綺麗な夕陽を見ながら もうそろそろ帰ろうかしら?と言う。

 
『 夕食も一緒にできると 楽しみにしていたのに! 』  
『 初めてのデートで そんなに 迷惑をかけられないわ 』  
『 全然迷惑ではないですよ 折角予約しておいたのに! 』 ぶっきらぼうに言う。
『 えっ 予約してるんですか? 』  


 取り敢えずお茶でもと 強引に誘い 歩きながら左右に目を配り 予約した? 幾つかの
 和食レストランを頭の中で分析し 目星をつけておく。
 一緒に並んで歩いている時には よく見なかった霧子の顔を 落ち着いて初めて見る。


 素顔に赤いルージュを引いただけである。
 色白のせいか 目鼻立ちがはっきりしている。
 清楚で やはり美しい人だと思った。
 無地のクリーム色ワンピースにワインレッドのベルトが良く似合う。 
 ワインレッドのハイヒールも素敵だ。   * 〓〓〓〔 赤いハイヒール 〕〓〓〓 ↓ 
 


 霧子も 私の顔を真っすぐ見る。
『 Dotpedさん 貴方はやっぱり 思った通り とても優しい人なのね 』 と言うと 


 数滴の涙が頬をつたわり 滑り落ち ワインレッドの靴を濡らす。
 突然の涙にドギマギし 何と言葉を掛けたらいいのか どうしていいのか分からない。
 霧子の涙は 靴の上で ワインレッドに変わる。
 

 女の涙は 映画やテレビドラマ 幼い頃に妹との喧嘩以外 見たことがない。
 いくら焦っても 適当な言葉が見つからない。
 大人の男のつもりでも初心なのか 我ながら何もと情けない。
 

 霧子は 他人に言えない 辛いことや哀しいこと そして孤独を一人で堪え噛みしめているのでは
 ないだろうか?
 その時〔 絶対 今すぐ帰してはいけない!〕と思った。
 こんなに美しい女(ひと)だもの・・・


 その時は ・・・ 霧子と私の間に そして 霧子の人生に こんな展開が訪れると 誰が知ろうか!


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 それまで頬杖し聞いていた 小雪さんの頬から 一滴二滴と涙が零れ ワインレッドの いや 
 黒い靴を濡らした。
 この時に思ったが 霧子も そして小雪さんも 涙は零していたが 決して泣いてはいなかった。
 何? この女の涙 女の勘とは!

 次回へ続く・・・


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