なんとか特急に滑り込むと、今朝も多くの乗客が鮮やかな字で「神降臨!」と書かれたスポーツ新聞を広げていた。どうやらまたどこかで人が死んだみたい。ドア付近で荒い息を整えてからいつも座っている一番奥の席に腰掛ける。
“神の寝室”が何故未成年の間だけじゃなく大人たちにまで注目されているかと言うと、最近日ごとに増えていってる自殺・集団自殺・他殺の首謀者が他の誰でもなく“神”だと思われているからだ。
何故ならいつもその現場にはいつも何処かに“神”の文字があるから。
死者が残した手紙には「神の仰るままに。」とか「この身を神にささげる時が来たのだ。」とか必ず書かれているし、時折変な形の十字架や、戦々恐々とした内容の詩が遺留品から発見されるらしい。
でも確かに“神の寝室”には「死」について書かれていることが多くあるけど、法律はギリギリいつも守ってる。政治を揶揄したり現代の無情を語る時も。まるで法の一線に触れるか触れないかのスリルを楽しんでいるかのように・・・。その証拠に、こんなに話題になってもいまだに“神”は逮捕されない。それどころか、“神”の正体さえ謎のまま。書かれている内容や、しゃべり口調からなんとなく解かっているのは彼が男である事ぐらい。だからワイドショーや雑誌は“神”の正体を暴こうと躍起になっている。人気の俳優がドラマで陰湿な殺人犯を演じて見せると「この人が“神”?」政治家達も本職そっちのけで「こんな危険人物をほおって置くなんて警察は何をしているんだ!?」とか「“神”は有能な法律家に違いない!」とか、まるで子供がかかる新種のウイルスを見つけたみたい。まぁ、子供達がこんな暗いホームページにはまっているのを世の大人達が喜ぶわけが無いけど・・・。
そんなことを考えながら、ひざの上の鞄に置いた鏡を覗き込みながら髪をしばっているといつものように次の停車駅から親友のマチが乗ってきた。
「おはよう。」
「おはよう。どうしたの?元気なくない?」
背が高くて、皆に信頼されてて、綺麗で、お金持ちで、テニス部のエースで・・・・・・まるで漫画に出てくるよな私と正反対なマチは昔から私の憧れ。
「うん。いつものことなんだけどさぁ・・・」
「あぁ。マチのお義母さん?また噴火したの?」
苦笑いのマチがこっくり頷く。
マチの家は数年前に再婚してて、その新しいお義母さんがかなりのヒステリー持ちらしい。
父親はパイロットであまり家にいないのでこのことを知らないが、たまに聞こえる叫び声や、何かが割れる音は近所に住む主婦達の想像力を煽る一方だった。
「噴火って言うか、私が“神の寝室”に行ってるのを見られちゃってさ。
そんなもの見て何の知恵を付ける気?!ってキレてさ。そしたらもう止まらなくって。最近目つきが悪いと思ってただの、服装もおかしいだの言われてさ。昨日から一週間学校以外の外出は禁止だってさ。ほんとやんなるよ。」話が進むにつれて激しくなる貧乏ゆすりと声に彼女の怒りが現れていた。
放課後最寄り駅に着くと今にも雨が降ってきそうな色の空だった。
私は学校が終わるといつも真っ直ぐ家に帰る。
家が遠いのもあるし、私はマチと違ってクラブに入ってないから暇なんだ。
今日もいつもの様に駅から続く商店街を歩いてかえる。
といってもこの商店街は縦に二つの商店街が繋がっているからものすごく長い。しかも家の花屋は二つ目の商店街の一番最後の店だからかなり遠い。
だからいつも急いでいる朝と、人でごった返している夕方は商店街に入る一つ前の角を曲がって抜け道をする。
『抜け道って言っても普通に帰るのとそう時間は変わらないんだけど・・・・・・・・。』
そう思って曲がろうとした時私は走ってきた彼とぶつかってこけた。
ドンッ!!
ぶつかった瞬間彼の腕に抱えられていた沢山の荷物がコンクリートの上に散乱してしまった。
「・・・・・・・すいません・・・・・。」
「いえいえ。こちらこそ・・。」
彼は腰を打ったのか、顔をしかめて擦りながら立ち上がった。
私がコピー用紙やら、バナナやら、沢山の缶詰やら、ぶっとい本やらを拾い集めている横で、
「あーあ袋千切れちゃっってるよ。また桜に怒られる。」
とスーパーの袋を摘みあげてがっかりしている。