秋の終わりに、伸一達は練習試合をしました。

「伸一、ぜんぜん駄目」

試合を見に行ったお母さんが、帰ってくるなりこう言いました。

「真ん中にいるときは、いいパスを出したり、いい動きをするんだけど、後ろにいるときはぜんぜん駄目」

お母さんの話しを聞いてみると、どうやら伸一はずるいサッカーをしているようです。


もともと伸一は、サッカーの試合においては状況判断のいい子でした。

小学校4,5年生の頃は、試合に出ると、相手のパスコースを読んでカットしたり、危ない! という場所にぱっと現れてピンチを救ったりするのが伸一でした。

それが今は。

ディフェンダーのポジションにいるとき、相手のフォワードにボールが出そうになると、一歩間をおいてからボールに向かうときがあるようなのです。

どうも相手のフォワードと1対1になる状況を嫌って、わざとボールに向かうタイミングを遅らせているらしいのです。

身体能力の低い伸一にとって、相手と1対1になれば、大抵競い負けてしまいます。だからあえてそのような状況を作らないようにしているのです。

これは、伸一ばかり見ているお母さんだから気が付いたことで、他の人たちは気が付いていないかもしれません。

でも、それに周りが気づいたとき、どうなるでしょう。

私もその話しを聞いたとき、そんなサッカーをするのなら、サッカーなんかやめてしまえ、と思いました。

でも、伸一の気持ちもわからないでもないです。

伸一も、伸一なりにつらかったり、嫌な思いをたくさんしてきたのでしょう。

伸一にいろいろ言いたかったのですが、止めました。


いまだに伸一は背が伸びず、声変わりもせず、子供っぽいままです。

やがて背が伸び、体が大きくなって、精神的にも大人に近づいた時、伸一のサッカーももう少し変わるでしょう。