独りの車椅子の老人が、星の降る満天の夜空を横切る一筋の光を見ながら、優しい言葉で呟いた。
「何も心配することはないんだ。もうすぐ追いかけるから・・・。」
人類初の木星有人探査。女性飛行士50年前、事故のためロストしたが突然地球に映像通信電波が届いた。
どうしても逢いたい人がいた。なぜならばこの宇宙船は光速に近いスピードで飛び続けていて
もうすぐ崩壊するからだ。
その人は、50年前の恋人だった。
地球宇宙センターでは、さっそく探して(意外と早く見つかり)連れてきた。
通信機の前で話すふたり。一度目の爆発のあと二人は、
「ずるいな・・・君だけ若いままで・・・僕はこんなに年をとったよ。」
老人はそう、話した。宇宙船と地球とでは時間の流れが違うのだ。
特殊相対性理論という法則である。
「あなた・・・・ごめんね」
次の二度目の爆発で通信が途絶えた。
「・・・・・・・・」
センターの顧問をしている彼は、50年間ずっと彼女を追い続けて捜索に必要な宇宙物理学や慣性学や数学、軌道計算あらゆる学問を学びまた苦手な政治力を克服し捜索のプロジェクトを存続させた。
50年間、いちども結婚もせず、ただ彼女に逢う為に・・・・・。
その日、地球に流れ星が静かにひとつ尾をひいて落ちていった。
人生とは一瞬の煌めきの中で燃え尽きる流れ星かもしれない。
老人はそう独り言を言いい、視力の衰えた目で夜空を見上げた。
何も心配する事ないんだ。もうすぐ追いかけるから・・・・。
追伸 久々に昔書いたブログのショートショート(ミニ小説)を改訂してみました。
前はハッピーエンドにしたんですが、本来はこのラストが正しいのです。
ずっと彼は彼女を生涯をかけて追い続けてさらに追い続けるというラストなんですよ。
ある意味ポジティブなんですが、物悲しさもあるわけでそれはなんていうか儚い恋愛ドラマですな。