
北杜夫さん、本名;斎藤宗吉さんが亡くなりました。享年84歳。
『 白きたおやかな峰 』、新潮社の純文学書下ろし特別作品。表装の傷み具合に年代を感じます。おそらく、
この本を読んだのは、かれこれ40年前だと思います。

箱に入った立派な装丁。
裏には選評が記されていて、「 林房雄 」「 吉田健一 」「 串田孫一 」「 安岡章太郎 」 の四氏がそれぞれ、
個性的な言い回しで、この書下ろし小説の素晴らしさを語っています。
北杜夫さんの著書を最初に読んだのがこれ・・・。つまり私は、所謂 「 ドクトル 」 シリーズではなく、北杜夫さん
の別の一面から這入って行ったことになります。躁鬱病を自認していた北さん風に言えば、私の場合は 「 鬱 」
の作品から這入ったという次第。

40年もの間、静かに本棚に納まっていた本の背表紙は、すっかり変色してしまいました。
数ある北作品の中で、どうしてこの本を一番最初に手に取ったのか、定かではありません。ただ、当時、本屋
の棚に並ぶ本の中にあって、「 たおやかな 」 という表現がとても気になっていたような記憶があります。
【 ついに現れてきた。今まで夢と写真でしか見たことのない、目くるめく巨大な山塊が。地球の尾根といわれる 大地のむきだしの骨格、カラコルムの重畳たる高峰の群が。】
という書き出しの一文に、この小説の全てが凝縮されています。
日本で考える尺度を遥かに越えた圧倒的な存在感で迫る巨大な山々。それとの対峙と、自分自身の葛藤の
ような気持ちが、北さんに小説を書かせたような気がします。
後々になって、「 躁 」 期の文学も読みますが、やはり私にとっての北杜夫は 「 鬱 」 の人でした・・・合掌。