家族の問題とか、老いの問題とか、男女の問題とか、ありそうでなさそうな、でもありそうな話が
淡々と続くようなドラマが多いですね。
たいてい、そのときどきの社会問題のようなテーマが、さりげなく盛り込まれていて、ドキッ!と
させられたり、ハッ!とさせられたり、ウーーーンと考えさせられたり・・・。
最初に観たのは「 ふぞろいの林檎たち 」あたりだったような気がします。
そんな山田太一は、寡作ですが小説も書いています。
ところが、小説で描かれる世界は、ドラマとは異質な世界。
ドラマは、どちらかといえば「 日常 」から端を発して、その日常がほころび、崩れて行くような
流れが多いのですが、小説の場合は「 非日常 」が軸になるケースが多くなります。
この「 遠くの声を捜して 」も、突然不意打ちのような感覚に襲われ、正体不明の声が聞こえて来る
という話。読んでいる方が、何とも不思議な感覚に陥って来るような気がします。「 霊界 」なのか
「 異界 」なのか「 四次元の世界 」なのか、はたまた「 内なる自分の声 」なのか・・・結局、
それらも含めて謎のまま、物語は終わってしまいます。
山田太一の小説には『 異人たちとの夏 』『 飛ぶ夢をしばらく見ない 』『 終わりに見た街 』など
独特のタッチで紡がれた物語が多く、シナリオのタッチとは一線を画しています。社会の現実や真実を
見極めようとするのがシナリオ(ドラマ)なら、自らの実験的描写方法を試しているような小説の技法
その摩訶不思議なところが魅力なのかも知れません。