今回は比較的簡単な英作問題を取り上げ、受験必須表現を使いながらも、それだけでは不十分であり、日本語の特性を押さえた上での英作法を説明する。


次の日本文の下線部を英訳しなさい。(2020北九州市大)

 

 生徒の死亡事故、体罰・暴力・ハラスメント、教師の大きな負担、休日返上の苛酷な勤務……、毎日のように部活動の問題が騒がれる。現在はまさに「ブラック部活」の時代だ。

 ただ、正直に言うと私は、これほど部活動が問題になるとは思わなかった。なぜなら、多くの人にとって部活動は当たり前の存在で、そこにある問題すらもおろそかにされてきたからだ

 しかし、部活動に潜む問題が浮き彫りになったからこそ、あらためて部活動とは何かを考えるべきだろう。いったい「ブラック部活」の時代はなぜ、どのように始まったのか。

 (中沢篤史「『ブラック部活』を乗り越えて」『現代思想』による。ただし、出題に際して原文の一部を改めた。)

 

【解説】

この出題文は、「正直に言うと」「~を当然だと思う」という文法必須表現を使ってあげれば、恐らく合格点を貰えると思われるが、この短い日本文の中にも日本語構文、また、その構文上直訳しても意味がないような表現がある。さらに言えば、この出題文を英語で書かせるとき、「部活動」というのが日本の独特の現象であり、単純に club activities と言っても相手が日本の文化や教育に多少の知識がないと真意が伝わる保証はないということも知っておいた方が良い。

 

以上のことを念頭において、第1文の解説をする。

 


<第1文>

「ただ、正直に言うと私は、これほど部活動が問題になるとは思わなかった。」

 

この文については、日本語構文に手を加えて和文和訳をしなくても書けそうだ。「ただ」は、前文を考えると、「そうは言っても、しかし」くらいの意味なので、However くらいで十分。また、「正直に言うと」は受験必須の to tell you the truthが使える。また、「これほど部活動が問題になる」は club activities would be a serious issue like this と書ける。like thisは「このような深刻な問題」と解釈してこのように書いたが、日本人学習者が好きな such a serious issue でももちろんよい。また、 this big「こんなに大きい」という副詞のthisを使えば、 club activities would be this controversial.「これほど議論になる」と解釈しても書ける。「問題」という言葉が出てくると、無条件で problemを使う受験生が多いが、「社会問題」や「国際問題」などでは、issueという言葉が使えるようにしたい。また「思わなかった」は I didn’t think that S + V でも良いが、I didn’t expect that S + Vとexpect「予測する」くらいが使えるともっと良い。

 

以上のことを踏まえて訳例を書いてみれば、

 

「ただ、正直に言うと私は、これほど部活動が問題になるとは思わなかった。」

 To tell you the truth, however, I didn’t expect that club activities would be a serious issue like this.

 

<第2文>

「なぜなら、多くの人にとって部活動は当たり前の存在で、そこにある問題すらもおろそかにされてきたからだ。」

 

この第2文については、受験必須の「当たり前」という表現があるが、ここは少し日本語構文を考えておく必要がある。考える点は、次の二つ。

 

・主語をどうするか

・日本語構文と関わる「存在」という言葉

 

まず、「主語」について考えて見る。「主語」を「部活動」にするのか、他の主語を持ってくるのか。この文脈においては、学校に「部活動」があるのは、親も生徒も一般の人も「すべての人が部活動を当然だと思っている」と一般論で理解する方が適切であろう。このような一般論には people が良い。この場合、日本語脳はすぐ「われわれ日本人は」の感覚で we を持ってくる人が多いが、we は 「動物」に対する「人間」、「欧米人」に対する「日本人」など、we – theyという関係、もしくは we – you という他者を想定する表現なので気をつけること。客観的な一般論を述べるときの人を表す言葉は、peopleが適切。単数で硬い表現を使えば one である。個別具体的な一般論では、you を使うので注意。主語の選択は実はややこしい。

 

次に日本語構文と関わる「存在」という言葉であるが、日本語は<AはBだ>構文が頻出する。その場合、英語のように SVC と最後を形容詞で終わらせる。また、SVO 的に最後を動詞で終わらせると落ち着かない場合が多い。例えば「その本はすばらしい」で終わらせず、「その本はすばらしい本だ」と名詞を繰り返すことをする。このような例は気をつけて日本語を見ていると結構多い。出題文においては、「部活動は当たり前だ」で終わらせず、「部活動は当たり前の活動だ」と「言える部分に「存在」という硬い言葉で言い換えているだけで構文的には名詞の繰り返しのバリエーションである。よってこれを英語にした場合、「存在」をexistence などという言葉で訳出すると反って不自然な英語になる。英語構文の観点から言えば、この「存在」は無視して、「クラブ活動を人々は当然のことだと思っている」と理解すれば、受験必須表現を使って、People take club activities for granted と書ける。

 

次に第2文の後半部分を説明する。

 

<第2文後半>

「そこにある問題すらもおろそかにされてきたからだ。」

 

この日本文は「主語」の部分でも触れているが、英語はSVO構文が基本ということを思い出し、構文転換した方が書きやすい。日本語は「そこにある問題」、つまり構文的には「そこに問題がある」という文が連体修飾語文に変形しただけで基本構文は「~がある」構文。しかし、英語は SVO 構文が基本ということを思い出せば、「そこ(クラブ活動)が問題を持っている」⇒「クラブ活動が持つ問題」と考えれば、簡単に problems club activities have と出来る。もちろん、involveなどの動詞の正しい使い方を知っていればそれを使って、problems involvedと書けば良いが、無理に使う必要はない。

 

また、「問題すらもおろそかにされてきた」は先に述べたように主語を「人々」とすれば「人々は問題をおろそかにしてきた」とSVO で考えればよい。受動態で書くと返って不自然であろう。なお「おろそかにする」は、neglect が適切であろうが、文脈を考えて、「無視する(ignore)」でも十分であるし、受験必須イディオムの make light (little) of を知っている人はこれも使える。以上のことを念頭に第2文を書いてみれば、

 

「なぜなら、多くの人にとって部活動は当たり前の存在で、そこにある問題すらもおろそかにされてきたからだ。」

 

This is because people take club activities for granted, and people have ignored problems that club activities have.

 

このように書いた上で、名詞の繰り返しを代名詞で置き換え、また時制なども気配りして全体をもう一度書き直したものを提示しておこう。

 

<出題文>

ただ、正直に言うと私は、これほど部活動が問題になるとは思わなかった。なぜなら、多くの人にとって部活動は当たり前の存在で、そこにある問題すらもおろそかにされてきたからだ。

<訳例>

However, to tell you the truth, I didn’t expect that club activities would be a serious issue like this. This is because people take them for granted so much that they have neglected problems that club activities have.

 

最後に全体の訳例について少し説明を付け加えると、「なぜなら」を文を切らずに、…., because S + V としても良いが、これでは1文が長くなりすぎて読みにくい。そこで、ここは文を一旦切って、「これは~のためである」という受験必須表現を使っている。また、take them for granted so much that S + Vは so ~ that …. という、これまた受験必須構文で文をつないでいる。

 

今回は、受験必須表現や語句を問うというレベルの問題を扱ったが、それでもやはり、日本語構文の問題があることに気づいて欲しい。さらに言えば「部活動」などということは、実に日本的現象であるということにも気づいた上で英訳に臨めればさらに良いと思う。