評価:85点(★★★★☆ 3.7)


■ 今さら初めての「ちいかわ」

公開から約2カ月で興行収入158.4億円を突破し、2026年の年間興行収入1位となった話題作『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』を、今さら初めて劇場で観てきました。


平日の昼間、400席ほどのスクリーンは7割以上が埋まり、子どもから10代、20代、親子連れまで幅広い客層でなかなかの盛況ぶり。私はこれまでアニメも原作漫画も通らず、キャラクターをなんとなく知っている程度の完全な初見です。


最低限の予習をして臨んだものの、もし何の知識もなければついていくのが難しかった場面もあったでしょう。なぜこれほど支持されているのか、自分の目で確かめてみたかったというのが正直な動機。


■ あらすじ

広場でくつろいでいたちいかわたちのもとに、「特別な島」への招待状が届く。報酬100倍や豪華な食事に惹かれた一行は、怪しむラッコとともに島へ向かうが、そこで思わぬ出来事に巻き込まれていく。


■ 率直な感想は「出来の良い冷凍食品」

結論から言えば、私にとってこの映画は「出来の良い冷凍食品」でした。評価は85点(★3.7)。


作画は綺麗でキャラクターも可愛く、子どもが楽しめて大人も考えさせられる。完成度は間違いなく高い。けれど、生涯忘れられないような衝撃や、心を大きく揺さぶられる感動までは届きませんでした。


「おいしい。よくできている。でも…」近頃の冷凍食品は驚くほど手軽でおいしいけれど、わざわざ「人生の思い出の味」とは語らない。そんな感覚です。


■ 「優しい残酷さ」と、あまりにシュールな設定

物語は、ちいかわたちが「報酬100倍」という、どう見ても怪しいチラシ(ほぼ闇バイト)に釣られて島へ行くところから始まります。普段の生活の厳しさを知らない初見の身としては、「絶対に裏があるだろ」とどうしても物語として導入に乗れなかった。


島での出来事は、表面上はマイルドな道徳劇の体裁をとっています。セイレーンと島民の対立や「人魚を食べる」という物騒な設定はあるものの、グロテスクな描写は避けられ、どこか料理番組のような響きに変換されている。


しかし、設定を紐解くとかなりエグい。ヒトハとフタバは人魚を食べて永遠の命を得たものの、その実態は「単三電池式」という脱力のオチ。一方のセイレーン側も、見つけた島民を昆布締めや味噌漬けにして復讐しようとする。人魚を食べた相手を見てけたら暗闇へ永遠に閉じ込めようとする。文字にすれば陰惨極まりない復讐劇ですが、そこをポップに、かつ「怖いけれど怖すぎない」絶妙なバランスで見せているのは上手いところです。


■ 伏線の置き方と、すべてを持っていく島二郎

島に到着してからの展開では、後々回収される伏線が次々と置かれていきます。ただ、初見の私にはそれが自然な流れというより、「後で使うために今ここに置いておきます」という意図が透けて見えてしまい、少し冷めてしまう。


物語の構造自体は王道です。単純な悪者退治ではなく、「それぞれの立場に事情がある」という苦みもきちんと描かれています。

しかし、最終的にすべての問題解決をかっさらっていくのが、圧倒的な強さと謎の術を持つ「島二郎」です。激辛カレーで全てを解決してしまう展開には、「結局は島二郎の力なのか」という残念な気持ちが残りました。


■ 「絶賛されすぎでは?」という違和感と考察ブーム

映画の出来栄えとは別に、一番引っかかったのは世間の過剰な絶賛との温度差。

SNSでの「人生最高」「絶対に観るべき」と過剰に持ち上げる風潮や、再生数稼ぎのための誇張には正直うんざりさせられます。


ちいかわに限らないですが、最近の映画に付き物の考察についても、ちいかわが巻き込まれています。「深く考察できる映画」と「面白い映画」は別物。パンフレットや後日のインタビュー、伏線パズルを解かないと作品の良さが伝わらないのだとしたら、それは映画の力不足ではないか。映画はまず2時間の本編の中で完結してほしい、と感じてしまいます。


ちいかわの世界は喋れるキャラが限られてる分、その想像の余白が観客一人一人が違っていて、それこそが良さでもある魅力に行き着いている。


それなのに誰かの説明や補足がないと全容が把握できないという界隈も存在する。理解が追いつかない。言語化出来ない。のみ込めない要素がスッと入ってくる。外部の考察動画をチェックしないと作品が昇華されない、もしくは勝手な解釈によって完成されていく歪んだ構造は、本来追い求めているテーマや方向性が作者の意図とズレたあられもない解釈に陥る。


全てを1から100まで説明してしまう鬼滅の刃はセリフが邪魔だとか、全部喋って馬鹿みたいと揶揄されることもしばしばですが、ある意味では全員が同じ道に辿り着くという観点から行くと、興行的にも受け手の所在についても成功しているなと感じます。


多くを語らない今作は、説明しないカッコ良さよりも介入する余白を提供しすぎて、外部の余計な人達によって完全化されていないか。もしくは受け取る側が成長を経て身体に馴染ませていく、咀嚼していくという工程で完成されていくなら負荷が高すぎるとも思える。道徳とはそういうものなのかもしれませんが。


■ 初心者ゆえの疑問と、本作の本質

「喋るキャラクター」と「ドラクエの主人公的な喋らないキャラクター」の混在や、ラップをするのに喋らない「うさぎ」のシュールさなど、たた出てくる言葉遊びなど少し狙いすぎている印象を受けます。


それでも、現実の理不尽や大人の冷たさを知った身から見れば、『ちいかわ』の世界はむしろ優しい。子どもたちが「相手にも事情がある」と学ぶための道徳の入り口としては、非常によくできた教材。


長年追いかけてきたファンと、初めて触れた私とでは、見えている景色が違うのは当然のこと。アニメなんだから細かいことを気にする必要もないし、かといって何でもかんでも絶賛する必要もない。


「良くできているけれど…」私にとっては、よく出来た美味しい冷凍食品の評価でした。