https://youtu.be/rO8aJGI3jI8?si=tA_mxbHVuU7YvqoD


数年前、親ガチャという言葉が流行った。  

格差が広がり、不平等が当事者問題となった現代。糸が切れたように溢れ出した不平不満が、世の中への怒りを象徴するキラーワードとして生まれた。


主人公・朴秀美(ボク・ヒデミ)もまた、そのハズレの連鎖の中にいる。家庭環境も、生まれた村も最悪。不の連鎖しか生まない劣悪な地で、ラッパーになる夢を見る朴を、南沙良が演じる。

『愛されなくても別に』『禍々女』など話題作が続く彼女が、今作ではキレキレのラップを武器に、鬱屈を抱えた等身大の高校生を見事に体現した。


対照的に、スクールカースト上位に君臨する矢口美流紅(ヤグチ・ミルク)を演じるのは、モデル・女優として躍進する出口夏希。一見完璧に見える彼女も、家庭内に拭い去れない空洞を抱えていた。


​閉ざされた田舎町、出口のない日常に窒息しかけている三人の女子高生。

夢を繋ぎ止めるために必要だったのは、綺麗事の希望ではなく、生々しい大金だった。

彼女たちが選んだのは、人生を根こそぎ変えてしまう劇薬。

決められた退屈な将来にNOを突きつけ、泥濘の中からその手で未来を掴み取れるか。


開始10分、物語の全容はまだ見えない。描かれるのは、学校や家庭への漠然とした不満に倦む少女たちの日常。

だが、ある事件がその平穏を切り裂く。

男性優位社会に潜むリスクと、あまりにクズな現実。

ゴミのような日常を懸命に凌いできた彼女が男という社会に仕返しを成し、眠りにつき静まり返った夜道を風を感じながらスケボーで滑走するシーン。

その瞬間だけ、鬱屈した世界から解放されたような錯覚を覚える。

しかし直後に依然として歪んだままの現実へと引き戻される。


解放感と鬱屈が交互に押し寄せる、緻密なシナリオ。


「そんな馬鹿な」と笑うのは容易い。だが、彼女らにとって今ここが地獄であり、これ以下など存在しない。

だからこそ、行動に躊躇はない。犯罪のラインを踏み越えてでも勝ち取りたかったのは、クソ食らえな不平等を忘れさせてくれる、刹那の新しい世界だった。


作中で引用されるウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』は、朴秀美の愛称であり、物語を読み解く鍵。

彼女はハッカーのごとく、目の前の歪な現実(社会や自分の限界)をハックし、新しい自分へと生まれ変わろうとする。


一方、美流紅の名は、同性愛者の権利を叫んだハーヴェイ・ミルクを想起させる。彼女は「犯行」という名の「反抗」を通じて、閉塞した家庭や社会へ声を上げる。


無邪気な2人を見守り、迷わないように手綱を握り、時には真剣に説き、自分も悩みを抱えつつも彼女たちに寄り添う良き理解者の岩隈。


努力、友情、勝利という絆で三人は新たな世界を手に入れる。


本の中に隠し閉じ込められたアレは、この村から抜け出せず狂いそうになっている彼女たちそのもの。


全部捨てて、全部燃やして、飛び放て。  

未来を選べないなら、自らの手で奪い取れ。  

もう心が無いなんて言わせない。私たちは自由だ。