良く受ける質問に、「加熱するとタンパク質が変性するから、生のほうが良いのですか?」というものがある。しかし、それは真逆。タンパク質は加熱したほうが消化は良くなるのだ。

まずはタンパク質の構造について。まずアミノ酸がペプチド結合によっていくつも連なった状態のことを、タンパク質の「一次構造」と呼ぶ。これは鎖のようなものをイメージしてもらえばOK。

その鎖が、水素結合によってところどころ結合し、折りたたまれる。そして糸鞠のような状態になったものを、「二次構造」と呼ぶ。αへリックスとかβシートなんて名前を聞いたことのある人もいるかも。

第二次構造タンパク質が、さらに引力によってからみあい、それが球状になったとき、これはタンパク質の第三次構造となる。この第三次構造のタンパク質がいくつかくっついたとき、最終的にタンパク質の第四次構造というものができあがるのである。

さて、水素結合は高温によって不安定となる。だからタンパク質を加熱すると高次構造が崩れる。一次構造が変化しないで、高次構造が変化することをタンパク質の「変性」と呼ぶ。

卵を加熱すると透明の白身が白くなってくるのは、「タンパク質の変性」によるものなのだ。「変性」というとなんだか悪いことのように思えるが、そうではないのである。

高次構造が崩れて変性すると、糸鞠がほぐれ、一次構造が露出する。

生の未変性のタンパク質は高次構造がキープされているため、一次構造が糸鞠の中に隠れている。この状態だと、消化酵素の作用を受けにくいのだ。だから生卵や生肉は消化が悪い。

加熱して一次構造が露出すると、消化酵素の作用を受けやすくなる。だから肉や魚、卵などは加熱した方が消化は良いのである。

ただし加熱し過ぎて固ゆでになると、かえって消化は遅くなる。これは変性が進み、疎水性(水に溶けにくい)の部位が表面に出てくるからだ。半熟状態だと親水性の部位が表面に留まっているため、消化酵素(溶液状態)が一番働きやすい状態となっているのである。


さて、他にも生卵には問題点がある。その理由を列記しよう。

1. サルモネラの危険性は日本では少ないが、それでもゼロではない。
2. アビジンという成分がビオチンというビタミン様物質の吸収を阻害してしまう。
3. オボムコイドという成分がトリプシンインヒビターとして働き、消化を阻害する。
4. 上記のオボムコイドやアルブミン、リゾチームなどがアレルゲンとなる。

オボムコイドについては知らない人も多いと思うが、日本の栄養学の開祖、小柳達男氏によれば、生の卵白を3個食べたとしても、1.3個ぶんは吸収されずに排泄されてしまうという。

サルモネラやアビジン、オボムコイドなどは加熱によって破壊できるため、やはり卵は加熱して食べるべきだろう。ロッキーのマネもほどほどに。

さて次に消化のスピードについて。胃内停滞時間は半熟卵の場合、1時間15分だ。しかし生卵は2時間半、固ゆで卵に至っては3時間15分である。(いずれも100gあたり)
よって消化速度から言えば、半熟卵が圧倒的に優位に立つ。ただし減量中などで腹持ちを良くしたいときは、ゆで卵が有用となる。