泥棒猫、別れを告げる | 泥棒猫の言い分

泥棒猫の言い分

愛した人を略奪しました。

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この頃、私は母と同じ家で顔を合わせるのを徹底的に避けてきました。

 

 

母が私を罵倒している声は毎日のように聞いていました。(母は耳が悪いためにただでさえ大きな声で話すのですが、ヒステリーを起こすと金切り声で叫ぶように怒鳴ります。何時間でも平気です。どこの部屋で話していても聞こえます)

 

うっとおしい。

うんざりです。

 

 

お風呂とトイレ、冷蔵庫は母が使っていないゲスト用を使い、キッチンは母が寝室に入る気配がするまで使用しませんでした。

 

これも12月5日までの辛抱!

もうこの家には二度と帰らない。

この頭のおかしいバアさんには一生二度と会わない。

 

 

 

 

 

 

そう思っていましたが、

父にだけは挨拶をしておきたかった。

その日までに、母が留守で父が一人でリビングにいてくれることがないものか。

私はその機会を待っていました。

 

 

 

 

 

 

 

それは、12月4日のこと。

虎キチが、今こっちを発った、これから寝るよとメールして来たあと。

父が普段より早い時間に帰宅しました。

母は趣味の習い事に出かけていて、留守でした。

 

 

 

 

 

父に話しかけにリビングに入ると、父の方から話しかけてきました。

 

「お前、明日出て行くんやろ?」

 

驚いて言いました。

 

「なんで知ってんのん?」

 

「お母さんが、お前のブログ読んどるんや」

 

私は確か、虎キチとどこで出会ったのか母から尋ねられて、自分のブログの話をしたことがありました。

ブログには、引っ越しするから12月4日以降はしばらく更新出来ないと書きました。

覚えていたとは。

そして探し出して、読んでいたとは。

 

「もう直接謝ってやらんでもええから、手紙だけでも書いといてやれ。ひとことでええ、ごめんなさいって」

 

「それは出来へん。私、悪かったと思ってないから」

 

「そうか……」

 

少し黙って、父の方から言いました。

 

「もう、一生、会うこともないな」

 

父とは話していませんでしたが、父は私の決意を知っていました。

私は思いがけずに涙があふれてきました。

 

「そうやな」

 

「旦那さん大事にして、元気でな」

 

「お父さん」

 

私は父を抱きしめました。

 

「今まで、育ててくれてありがとう。私はあなたの娘で良かったよ。あなたが父だったことは私の誇りやった。ありがとう、お父さん。お父さんも元気でいてな」

 

「やめろ」

 

気恥ずかしそうに父は私の腕を振りほどきました。

私は嗚咽しながら父から離れました。

 

「明日早いし、もう私寝なアカンのよ。おやすみ、お父さん」

 

「おやすみ」

 

これが、最後の親子の会話。

私が自分の一生で、父を見た最後になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

起床して、身支度を整えました。

 

さようなら。

もう二度と私はこの家には帰らない。

 

 

 

 

 

 

私は自分の車のエンジンを入れました。

愛する男が待っている、

私の未来が待っている、

そこに向かって。