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また、虎キチはこの時を境に、こんなことを口にするようになってきました。
「俺は、元彼女(3年前の不倫相手)にしょっちゅう、独身の彼氏作れって言ってた。
そしたらすんなり別れてもいいし、その方が彼女のためだろうし、俺もそこまで彼女のことを好きじゃないとも思ってた。
でも、別れて初めて、彼女が大事な存在だったんだって、気づいた。
俺自身も、すごく傷ついた」
ここまでは、いいのです。
私が気になるのは、ここから先の部分です。
「俺と付き合うことで、猫ちゃんの時間を奪ってしまう。
元カノには彼氏作れ作れって言ったけど、猫ちゃんには言いたくない。
彼氏作って欲しくない、だって猫ちゃんが大好きだから。
でも、それが、猫ちゃんの、出会いも時間も奪ってしまうんだと思うと……。
俺のせいで猫ちゃんが縛られてしまうんだと思うと、申し訳なくて……」
私は、根本的に男女平等、ジェンダーフリーの考えです。
女性のハンドバッグまで持つ男は、嫌いです。
姫と家来か!
情けない!
と、思いますからね。
私はバスケットの中のハムスターのように無力じゃないし、自分の意思もある自立した人間のつもりです。
だから、男にべったりと依存する女も嫌いだし、女を無力だと決めてかかって、なんでも世話を焼く男も同じくらい嫌いなのです。
そんな私だから、こういう言葉には、こう反論します。
「虎キチくんが私の時間を奪うことなんて、できへんよ。
私は、自分の意思で、虎キチくんとの時間を過ごしてるんやで。
虎キチくんが嫌いになったら、自分からあなたのもとを離れる。
私は虎キチくんに縛られたりは、せえへんよ。
私の人生は私の意思で送ってんねんから、虎キチくんにはそんな力もなければ権利もない」
しかし、虎キチは何度私がそう言っても、この言葉を繰り返し続けました。
「俺のせいで、猫ちゃんの時間が、奪われる」と。
「そんなことはないって、言うてるやんか?」
「いや、強がり言わなくていい、
猫ちゃんが不幸になったら、全部、俺のせいなんだ」
「だから、私は私の人生、選んで生きてるんであって、
不幸になればなったで、私の選択であって、私の責任であって、
一個人の人生を不幸にしたり幸せにしたりする力は、虎キチくんにはないよ」
「俺、きっとお前を不幸にする。それがつらいんだけど、
別れたくないんだ、好きなんだよ」
こうして書き起こしてみたら、ずいぶんと異様な会話です。
噛み合っていないし、会話になってないのです。
違和感がありました。
普段は論理整合性を愛し、筋道立ててものごとを考える、思考型の虎キチです。
その彼が、ときおりこのような、全く非論理で、受け答えのおかしい会話と、根拠のない思い込みに執着することがありました。
全く、虎キチらしくないのです。
幸いにして、
「あなたのせいで不幸になんかならない」
「私は、自分の意思であなたとこうしてお付き合いしてる」
虎キチのネガテイブワードが出るたびにこの答えを繰り返していると、
そのうち虎キチもだんだん、こうした言葉を言わなくなってきました。
それはそれでよかった、
私はそう思っていました。
でも、本当は、問題が片付いたわけではなかったのです。
私は、
表面的には明るく楽しく、頭もよく情に熱い虎キチの、
思いもよらない闇の片鱗をこの時見たことに、まだ気づいていませんでした。