「沙門空海」は「陰陽師」シリーズで有名な夢枕獏さんが十年以上かけて書き綴った長編小説です。
文庫本でなかなかの厚さで四冊分。
という事で、映画では大胆に内容がカットされています。
もう原作好きの立場からしたら不満しかないのではないでしょうか。
この映画は原作を読んでない人か、原作が好きな人が作った二次創作の別物として観られる人にオススメします。
肝心の内容はというと、空海が顛末を見届けた「楊貴妃にまつわる事件」の物語という感じです。
原作では空海による例え話を用いた密教の解説だったり、術を使う人物と平然と渡り合うシーンなど
空海の天才さを存分に感じさせる展開となっています。
けれど、映画の方は短い時間を「楊貴妃事件」にかけているために空海の活躍は多くありません。
例えるなら「家政婦は見た」の市原悦子さんのように、事件を一番近くで見ている人物という感じです。
頭の良さを映像だけで描くのは難しいので仕方ないのですが。
この映画は字幕版で見ると、空海役の染谷さんが中国語と日本語を自在に操って話しているのがわかるので
その点で空海の頭の良さを感じるのが良いかもしれません。
日本語吹き替え版で見てしまうと空海がかなり空気っぽいです。
物語の構成でちょっと面白いと思えたのは、四冊分の作品を二時間ほどの映画にまとめるため
たくさんいた登場人物を減らした方法です。
エピソードごとすっかり削除されてしまったキャラクターもいますけれど、
他のキャラクターの役割を別のキャラクターに背負わせることで減らすという方法もとっています。
例えば原作では空海と一緒に行動するメインキャラクターは同じ日本からの留学儒学生の橘逸勢ですが、
映画では白楽天と逸勢を一人にまとめています。
これにはあまり大きな効果はありませんでしたけれど、映画では幻を使って瓜を売る老人に
かなり重要なキャラクターの役割を背負わせていました。
狙いなのか偶然なのか、おかげでなかなか驚きの展開を演出する事が出来ていました。
密教の教えの一端や、当時の唐という国のすごさについては原作を読まなくてはわかりませんが
あまり深いことを考えずに楽しむのであればそれなりに面白い作品だったと思います。
かえすがえすも空海の活躍が少し弱いのが残念でしたけれども。
エンドロールに鳴り響くRADWIMPSの主題歌が空海の偉大さを高らかに歌っているので
それで帳消しにするしかないかなと思います。
映画版を見てもっと空海の活躍を見たいと思ったら是非とも原作小説を読んでいただきたいです。