公園にいた6匹のノラ猫はいつの間にか佐々木と名付けられた猫だけになった。その猫がメスだと言うことを13歳で死んだノラ猫、はなちゃんを看取った餌やりのおばさんから聞いた。

 おばさんが佐々木に餌をあげて半年ほど経つらしい。夏に佐々木を見た時、まだ成長過程で贅肉がどこにもないシャープなプロポーションだった佐々木だ。その佐々木は自分よりもっと若い、というよりまだ幼児っぽいちっちゃな茶色のノラ猫が相棒でいつも連れ添っていた。木の茂みにじっと潜んでいるちっちゃな茶色の幼児猫に他の誰も寄せ付けないように纏わりついていた。言ってみれば佐々木のツバメ。佐々木には耳がカットされているさくら猫の印(避妊手術が施されている印)があるので相棒のちっちゃな茶色の猫が佐々木の子供ではないことは確かなはずだ。

 夏のある日、最初に佐々木と公園で出会った時、佐々木は猫撫で声で私の足に擦り寄って来た。それは私の手にちゅーるがあるからだ。そしてその茂みからこちらを見ている幼児ノラ猫に向かいベタベタした後、また私のほうへ戻って来ては足に擦り寄りちゅーるを食べることを繰り返すのだ。

 佐々木がちゅーるを食べているのを見て、相棒の幼児ノラ猫は何か美味しそうなものをもらってるなぁと茂みから少しこちらに近づいて来た。すると佐々木は幼児ノラ猫に擦り寄って自分の身体を壁にするのだ。幼児ノラ猫はそれ以上私に近づくことができない。私に近づけないことを見届けて佐々木はまた私の足下に戻って来てちゅーるを独占するのだ。

 佐々木を飛び越えて向こうにいる幼児にちゅーるをあげようとするとすかさず佐々木がちゅーるにありつく。幼児ノラ猫は警戒心が強く自分から積極的に私に近寄って来ようとはしない。餌にありつけないのがかわいそうなので、こちらから近づいたら幼児ノラ猫は茂みに隠れてこちらを覗いている。いつまで経っても餌にありつけないから身体があんなに小さいのかもしれない。私が佐々木を好きになれないのはこういう佐々木の態度に見えるエゴモンスターみたいな性格が鬱陶しいからだ。

 

 独占してちゅーるを食べ終わった佐々木はあろうことか、私の手を猫パンチして払い除けた。チュールの切れ目が縁の切れ目、用無しはとっとと去れ!?とでもいうような態度にびっくりした。頭に来たけれど私はぐっと堪えた。そして堪えた怒りを佐々木に感づかれないようにして、もう1本ちゅーるを差し出した。佐々木の相棒が茂みからその様子を覗いている。

 

 佐々木は夢中になって私の手からもう1本ちゅーるを舐めている。ご満悦の佐々木を見ていると、ますます憎たらしくなって来た。さっき私に猫パンチして払い除けた私の手からまたちゅーるを独り占めしてうっとりしている。悪びれるそぶりもない。「愛嬌たっぷりの私にメロメロなんでしょ。さっさと出しな」とでも言われているような。。。ムカついて来た。私をナメているとしか思えない。私に対する警戒心がまったくない。

 さてと。佐々木がうっとり夢中になっているちゅーるを突然切り上げてお預けにしてやった。フフ。キョトンとした佐々木はまた猫撫で声でちゅーるをねだりに擦り寄ってくる。そこだ!誘惑するような猫撫で声擦り寄る佐々木をを正面からガッと睨みつけた。いくら擦り寄って甘えた声を出してもその手には乗らない。佐々木は粘ってみたけど私を落とせないと悟ったのか諦めて茂みに隠れている自分の相棒の方へ立ち去った。


 佐々木は二度と私に至近距離で近づかなくなった。佐々木の相棒と他の4匹の猫がが姿を消してもう1ヶ月ほど経つ。どこかのTNR活動(ノラ猫を捕獲して避妊去勢手術をした後、譲渡したり、元の場所に戻したりする)の団体が捕獲したのだろうか。公園から突然4匹の猫がいなくなるなんてどう考えても変だ。夜、私が公園に行くと独りぽっちの佐々木が寂しく悲しそうな声で自分をアピールして来るのだ。

 

 でも佐々木は私に睨まれたことを忘れていないらしく(私は佐々木が好きになれない)近づいては来るものの捕まらない距離を取り、それ以上は私に近寄らない。

 そして私に向かって寂しく、悲しく鳴き続けるのだ。近寄りたくない私にでも相手して欲しいくらい寂しいのかと思い、ちゅーるを差し出してみたが一向に近寄っては来ない。
 

 「何やねん。お前。かまって欲しいんか、欲しないんかどっちやねん。自分だけよかったらええっちゅうお前の根性が今のお前の状況を作ったんやろ。自分だけよかったらええっちゅうお前の根性がや。お前が自分で作った状況やろが。私にどないせえ言うねん」。

 好きにはなれない性格の佐々木ではあるけれど、ツバメだか、相棒だか、佐々木のオンリーワンが消えて寂しく悲しい佐々木の気持ちに、不本意にもちょっと同情してしまうのだ。。。

 公園の夜の集会に参加しようと出かけてみたが、おばさんとも佐々木とも会わなくなった。日が短くなり始めてから夜の10時頃の集合が、8時頃行っても、7時頃行っても間に合わない。誰もいない公園で独りぽっちの佐々木が食べ残した餌を漁っている大きなゴキブリの集団だけだ。


 やっぱり佐々木が気になるので、よし、6時に公園に行ってみた。公園までマンションから30mの距離をおばさんは自転車で乗り付けたことろだった。案の定、佐々木がおばさんに猫撫で声で足下に纏わりつきながら餌をねだっていた。

 おばさんから乾いていない上等なキャットフードをもらってペロペロペロリン。ペチャペチャムシャムシャ食べながら何か喋っている。まるで人間が喋っているような声に思わず吹き出してしまった。
 

 「ウニャウニャウニャウニャ〇&%×〇#$&$×、、」
 

 「うん、うん、これ美味しいなぁ。これは私好きやねん。これはそうでもないけど、まあ、ええわ、、、、、、、、、、、、」

 という意味だとおばさんが教えてくれた。

 好きではない佐々木だけど、嫌うほどでもない。高齢の両親を介護している私が佐々木を飼うことはできない。でもこれからいきなり寒くなるだろうし、一人ぼっちで冬を身体だけではなく心までも凍えるのはちょっとかわいそうだなぁと思ってしまう。

 

 「佐々木、冬越すの大変でしょうね。急に寒くなるだろうし、それまでに何とか暖かく過ごせる所があったらと思うんですけど。。。」

 

 「。。。。。。。。。」

 

 「佐々木、ドロドロに汚れてるし、ノミも結構居そうなんで、寒くなる前にせめて身体だけでも洗ってあげようかと思うんですけど。。。」

 

 「そう?洗ったげる?ええよ。私が捕まえてキャリーに入れたげるよ」

 

 「木村(おばさんが飼わされている3ヶ月のオス黒猫)はここで相棒いないと寂しいんじゃないですか?」
 

 「いや。ええねん。私、佐々木はよう面倒みいひんわ。あれ、8kgくらいあんのとちゃうかなぁ。いつの間にかめっちゃ大きなりよった。私、あいつは何か好きになれへん。あの相棒のちっちゃいのいてたやろ。あれと盛るの見てゾッとしたわ」。

 

 「。。。。。。。(佐々木は耳カットされてるから避妊手術を受けたはずで、避妊した猫は大人しくなって発情しないと聞いたけど。。。それともあのちっちゃな茶色が迫って?考えられへん)」

 なるほど、どっちにしてもそんなことをしょっちゅう自分の部屋でされたら嫌だよなぁ。。。どうしようもなく救いようのない佐々木は独りぽっちでこの冬をどう越すのだろう。

 でも、佐々木がおばさんの餌だけであんなに大きくはならないはず。誰か他に餌をあげている人がいて、佐々木の話し相手になっているに違いない。佐々木のあの饒舌なおしゃべりを見ると、猫が人間と親密にコミュニケーションしなくて、あんな人間が話すように喋れるわけがない。

 佐々木は夜、おばさんから餌をもらって食べているけれど、日中はとてもやさしい人の元で面倒みてもらっているに違いない。でもそれにしては身体が汚れ過ぎている。。。うーん、まぁ、いいか。ここは見てみないフリだなぁ。。。

 エゴモンスターのような一面を見せる生意気な佐々木。避妊してるのに発情する佐々木。独りぽっちの佐々木。夜な夜な公園で私を見かけたら寂しく悲しく声をかけて来る。でも私にはどうすることもできない。はなちゃんのようにお婆さんになって大人しくなったら面倒みてあげれるかもしれないけれど。

 それにしてもあのちっちゃな茶色のノラ猫や他にいたはなちゃん以外の4匹はどこに行ってしまったのだろう。佐々木のちっちゃな茶色猫は誰かに飼われている可能性が高いけれど、他の猫たちは結構なノラ歴だから家で拘束されるのをヨシとしないだろうし、耳もカットされてるから繁殖して増えることはないにしても行方が気にはなる。

 佐々木は夜毎、公園に現れる限りおばさんが餌を与えてくれる。佐々木がこの冬どうなるのか微妙な距離感で様子を見続けようと思う。