小説【楽しくやりましょうや】オリジナル 1 | やぢゃのごちゃごちゃブログ

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特撮関連やボカロをはじめ、私生活関係まで書いてしまうもの。
気分によっては、小説も書いたりします(二次創作だったり、オリジナルの短編だったり…)。
そして、さらに気分によって、絵を描きます(ただし目が腐る)。
更新頻度はデコボコします。つまり不定期です。

1話 実家





台所で朝食を作っていた尚靖は、
たたみの部屋にある、
『動く』布団に声をかけた。


「ママ、もう八時だけど?」

「あと十分、いや三十分……」

「ほんと、いくつになったら、
早起きできるようになるんだか」


尚靖の言葉に、嫌味のような
ニュアンスはない。

冬佳も、それは分かっているから、
気にするようすもなく、
布団の中でもぞもぞする。


「いいじゃん、お正月なんだしー……」


そう。
冬佳の言うとおり、本日はお正月。

元々職に就いていない冬佳は、
いつもどおりゴロゴロし、
今年度に職を離れた尚靖は、
いつもどおり朝食を作っていた。

一月一日の元旦である今日の朝食は、
もちろんお雑煮である。
だしをとり、そこにほうれん草、にんじん、
さといも、もちを入れる。

シンプル・イズ・ベストというのも、
佐川家のひとつの形だった。

尚靖はにんじんを切りながら。


「お正月だから、沙織たち、
帰ってくるんだよ」

「あッ」


はっとして、冬佳は目を開いた。

成人したふたりの娘、沙織と桃子。
ふたりが、お正月くらいはと、ここ、
実家に帰ってくるのだ。

沙織はもう三十歳になるのに、
未だ独身を貫きとおし、
十九歳で桃子は結婚し、
すでに五歳の息子もいる。

沙織と桃子夫婦(もちろん息子も)は、
沙織の車で三重から来るそうだ。


「九時につく予定、とか言ってたな」


ごく平然と、だしをとり終えて言う尚靖。
ちょっとあせりの色が出てくる冬佳。


「そうだっけ?」


「そうだよ。あと十分くらいでできるから、
起きておいで」


いつもどおり穏やかに言ってくれるが、
結構ギリギリなんじゃないのか、
この状況って。

と言っても、去年もこんな感じだった。

去年は、ドタバタしたあげく、
結局、部屋着のままで出迎えた記憶がある。
桃子はため息だったが、
沙織は「あんたららしいわ」と笑ってくれた。

でも、去年みたいになるのは、
やっぱり、ちょっと恥ずかしいものがある。


「……起きよ」


はー、とため息を漏らしながら、
ゆっくり体を起こす。

もう去年みたいになるのは、
何度も言うが嫌だ。






「たっだいまー、おっかさーん」


疲れ切った声とともに、
玄関の扉が開けられた。
佐川家長女・沙織だ。


「ちょ、お母さんじゃなくて?」


ちょっとうわずった声をあげたのは、
佐川家次女・桃子。


「おばさんアホー」


ぽへっとしたこの声は、
桃子の息子・悠翔(ゆうと)だ。

去年の冬に五歳になった悠翔は、
最近、なんだかよけいな言葉も
覚えはじめている気がする。

母親の影響じゃなきゃいいんだが。


「おかえり、みんな」


冬佳が出迎えると、
沙織と桃子は「うん」と頷く。


「こんにちは、おばあちゃん」


まだぷくっとした顔で、
悠翔は微笑む。

その子の父であり、桃子の夫である
輝(ひかる)は、頭を下げた。


「おはようございます、
おかあさん」

「相変わらず、輝くんは
しっかりしてるよねぇ」


答えたのは冬佳ではなく、
沙織だった。
昔っからのしゃしゃり出る癖も、
未だなおっていない。

正直、冬佳はちょっとなおせよ、
とか思ったりもするけど。


「どうぞ上がりなさい」


冬佳がうながすと、
沙織はちょっと驚いたような
表情になる。


「何びっくりしてるの」

「おっかあ……なんて優しい
物言いなんでぇ……!」

「はあ?」


昔は厳しい物言いだった、
とでも言いたいのか。
もっと厳しい家庭もあるわ。


「玄関で騒いでるんじゃない」


リビングの方から、
尚靖が笑いながら
こちらにやって来た。


「おう、親父! ちゃんと
お母さんは起きてた?」

「はいはい、そういうことは
いいから」


冬佳はあわてて沙織を、
リビングの方へおしやる。

その点については、
正直、尚靖が事実を述べると思う。

もうこれ以上、桃子夫婦の前で
恥はさらしたくない。


「なにさー、お母さんー」


ぶちぶち言いながらもきっちり
ついてきてくれるあたり、
昔とあまり変わっていないな、と感じる。

桃子たちも、くつを脱ぎ、
冬佳たちの後に続く。



正月の佐川家は、毎年のことでは
あるんだが、冬佳が
「自分がぐうたらしている」ということを、
必死に隠そうとするのだよなぁ。

いっつもバレて終わるんだけど。