ゴマみたいな小さな蜘蛛が、
洗面所の窓際(室内)に、貧相な巣を張った。
そんなところで餌は掛からない。
数日後に干乾びて終わりだろうと思っていた目の前で、
彼の10倍位の大きさの羽虫が入り込んで、
突如、白い糸との格闘が始まった。
かつて、外で巣にかかった蝉を助けようとして手を出し、
蜘蛛のエサを奪った挙句、
糸にまみれた蝉の方も助けられなかったことがあり、
自然界の弱肉強食に手を加えないよう決めていた。
爺にも捕らないように言い置いて見守った。
*
少し後に様子を見ると、
動かなくなった羽虫に小さな蜘蛛が近づいていた。
蜘蛛はエサを食べるのではなく、体液を吸うと聞いたことがある。
彼にとって何日分の食料だろう。
*
しかし数時間後、蜘蛛の何倍もあった羽虫が姿を消していた。
あの状態から飛んで行ったとは思えないが、
蜘蛛が全部食べたとも思えない。
他の虫が奪う環境にもなく、
なんとなく薄気味悪い気持ちだけが残った。
*
特にオチはない。
嫌な読後感を残すミステリー小説を、
「イヤミス」と呼ぶらしいが、このくらいはたいしたことないだろうか。