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第7話「君が君であるために」



8月の陽射しは強く、焼けるような肌の痛みが疲れた体を刺激する。
喉の乾きが限界を迎えて地面に座り込んでいると、後ろから冷たい水の入った水筒を持って疲労を感じさせない平然とした表情のヒカルがやってきた。

「さて、と。準備運動はこれくらいでいいな」
「はぁ…はぁ…、これが…準備、運動…」
「案外ストイックだろ?」
「予想をウサギが飛び越すくらいには…」

被るように水を頭上へぶちまければ、炎天下でもそれなりに涼しい。
乱れた金糸から滴る雫を拭わずにマフラータオルを頭に乗せた。Tシャツがぴたりと張り付く感覚も今なら心地良いくらいだ。

さて、何故突然トレーニングなのかだが。
狩也がヒカルに頭を下げてから数日経ち、いつもこんな風に走り込みに付き合わされている。さすがの狩也も普段体力がないあのヒカルは偽者なのかと疑ってしまうくらいには予想外だった。
走るだけならこんな風に疲れるはずはないが、なにしろ長い。真夏に走る距離じゃない。一体なにをどうすればこの朽祈ヒカルという人物はけろっとしていられるのだろうか。

「こうやって意識してみると、先輩ってすごい人なんだな…」
「俺が?なんの冗談だそれ」
「そういうところです」

呑気にしているヒカルを見ているとどうにも自信が抜け落ちていく気がしてならない。本当にヨーロッパで活躍するプロデュエリストか疑問を抱いてしまいそうだ。

「俺もそんな風になれたらいいな」
「…狩也は焦りすぎだ、何事においても」
「えっ」
「さっきだってハイペースで走ったろ?誰も急かしてないしゆっくりで良いんだよ。自分だけ生き急いでも誰も得なんてしないからな」

ヒカルは水を飲んでから一呼吸置き、笑ってそう言った。
笑ってはいたが狩也からすれば笑えない。

あの人も、いつかの日々に生き急ぎ自分に疲れてしまった側の人なのに。

今笑顔でいられていることに対する疑問は止まない。
何故?どうして?もう大人だから?先輩だから?…きっと違うのだ。

「さぁて、もう一走りいきますか!」
「ま、まだ走るんですか!?」
「昨日食べたケーキのカロリーをまとめて消化するまではやめないからな」
「あ…あはは…」


~~~


「行けッ!ネヴラスカイ・ドラゴン、ノヴァブラストッ!!」

星の波動は照準に狂いなく武者と男を飲み込んだ。
瞳に輝く勝利への期待が一等星のごとく煌めく中で、夜桜舞い散る宇宙空間に影が現れた。

「…!?」

古い城の門前で立ちはだかる男は健在。それに加えて厳つい鎧武者も傷一つない。
どんな手品を使った脱出トリックでも今の攻撃から抜け出せると思えない。ならば何故か、答えはあまりに簡単でありながら驚くべきものだった。

「フィールド魔法《華園の城》が発動している時、モンスターは破壊されない。更に、互いのプレイヤーはバトル及び効果においてダメージが発生する場合、ダメージ処理を中断しカードを1枚ドローする。そのカードがモンスターカードだった時、ダメージが発生する」

《羅刹武者 暁》は《華園の城》が発動している時、自身が対象となる効果で破壊される場合《華園の城》の効果に依存して破壊されるか否かが変わるというものだ。

要するに狩也が与えるはずのダメージはまだ与えられてすらおらず、狩也がここでモンスターカードを引き当てることで初めてLPに傷をつけられ、暁を破壊するにはやはりモンスターを引くしかないのだ。

完全に運試しカードではないか。

そんなものに絶対的な信頼をおいてあそこまで堂々としていたなんて想像できていたわけがない。

「俺がモンスターを引けばお前の負けだ!わかってるな!」

「無論だ。尤も、貴様にモンスターは引き当てられんがな」

「なにッ…!?」

馬鹿にしたような笑みが敵から零れた。

当然ながらデッキ40枚はデュエルディスクの自動シャッフル機能でランダムにシャッフルされた状態だ。それは手でシャッフルした場合のイカサマを防止すると同時に完全に予測できない"運"の要素を強めている。
つまり敵の言った言葉はあくまでも予想に過ぎない。
透視能力があってもこの距離なら見えるはずもない、未来予知なんてことがあればデュエルは出来レースになること間違いなしだ。

ならば狩也も予想をブチ立てる。
"引けないはずがない"
と。

「さぁ引け、それが貴様の未来だッ!」

「ッ…ドロー!!」

狼狽えたのを隠してデッキの一番上を引き抜いた。

宇宙に吹くはずがない風が吹く中、捲ったそのカードの色は、 

「…魔法カード…!」

竜の波動は止み、星々の静寂が身に沁みる。
モンスターカード以外を引いたことで敵のダメージは回避された。貴重なオーバーレイユニットも引いた魔法カードも無駄遣いに終わったのだ。
だがまだオーバーレイユニットは一つ、いくらでも策は講じられる。

「くっ…カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
《Hand:2》

「私のターン!そうか、貴様は未来を掴めぬか」

「未来を掴む方法はいくらだってある!お前の決めたレール上以外に、いくらでも!」

「自身の愚かさに気付けぬ者ほど無様なものはない」

「自分の愚かさ…?」

狩也自身が人生を振り返り、もし愚かな行動だと位置付けるなら…と、我が身を振り返りかけたところで考えることをやめた。
答えは出ている、そんなものに心を乱せば十中八九敵のペースに飲み込まれてしまう。いやむしろそれが狙いなのだろう。

「言葉を紡がぬことが貴様の答えか。ならば力ずくで聞き出すとしよう。私は《羅刹武者 暁》の効果を発動ッ!オーバーレイユニットを1つ使い、モンスター1体を破壊、その攻撃力と暁の攻撃力の合計分のダメージを与える!」
《ORU:2》

「なっ!?」

なんと暁は、さっき狩也がネヴラスカイ・ドラゴンと《ヘブンリィボディの星》の効果を掛け合わせて撃ち込んだダメージ5200と同じダメージを単体で与えられる効果を持ったモンスターであった。
モンスターの特徴の類似に驚きたいところだが、先の説明通りなら敵自身のフィールド魔法の効果を受けることになるのだからワンターンキル自体に確実性がないはずだ。

「無論フィールド魔法の効果対象になることは承知している。だが私は貴様とは違い、己の道に欺瞞や嫉妬を持ち込まぬ故、一撃で沈めてやろう」

「なにが言いたいんだ…!」

「多くを語る必要はない。その身が刻んだ記憶に偽りがないと言うのなら、我が一撃━━━受けきってみせよッ!!」

男の言葉と同時にデッキから引き抜かれたカードの枠は橙、モンスターカードだ。

「嘘だろ!?」

先程といい今といい、一々どこか掴み取りづらい言葉を並べてはカードを引けるか否かを予想する男は2度目も予想を現実に変えた。
そしてそれが意味するのは、必殺級の一撃が襲い掛かるという絶体絶命のピンチだ。

「罠カード《フォトンスター・クロス》発動ッ!フィールド魔法《ヘヴンリィボディの星雲》を手札に戻し、このターン受けるダメージを半分にする!」

爛々とした幾億の星が上部から色を失い、宇宙は手札へと消えていく。
これで狩也が受けるダメージは半分。従って2600のみとなり、ワンターンキルは成立しない。
だが《フォトンスター・クロス》にネヴラスカイ・ドラゴンの破壊を防ぐことはできない。フィールドにモンスターカードはなくなる。

「ネヴラスカイ!!っ!!」
《Kariya LP:1400》

モンスター破壊の余波を受けて怯んだ瞬間、

「次ッ!暁、ダイレクトアタック!!無双刀剣ッ!!」

次なる攻撃の手は打たれていた。


~~~


白亜の城。
異空間の狭間に存在を隠した楽園は、城主と同じ純白が包み隠せぬ狂気を放っている。

「よくぞ復活なさいました、我が復讐の主よ!こうして出逢い、そして通じ合う事ができる…あぁ!なんて素晴らしい!」

「面倒な御託を並べるな、一々癇に障る女だ」

白い瞳をした異質な男。彼こそがこの空間の主であり、彼女らを束ねる長だ。
尤も、彼自身そんな組織に名を連ねた記憶はない。あくまでも便宜上、組織の一人として数えられているに過ぎない。

「しかし、本当に復讐の概念神としての力があるのか?」
「…疑っているの?アダム」
「そうではなく、昨日まで一介の人間であった存在が…こんな…」

退屈そうに金の髪をクルクル弄っている姿だけを見れば、「復讐の概念そのもの」であるなんて誰に言っても通じない。
アダムの疑いを孕んだ視線が届いたのか、彼は口を開いた。

「貴様の言うことも間違いではない。俺は本来の力を封じられている。先程外界に出向いたが…まさか、次元干渉に制限を掛けられるとは予想外だ」

「では、どうすればその力を解放できるのだ?」

「ふんっ…貴様らに全てを知る権利があると思うな」

立ち上がりそう吐き捨てて、広間を抜けた先の階段へと向かっていく。

「どちらへ向かわれるのですか?」

「どうやら人間は一度群れると離れられんようでな、様子を見に行ってやるだけのことだ」

向かう先には天に聳え立つ塔。

「━━全てを知ることができるのは、終末の時…たった一つ残される純粋な魂のみ」

呟いた言葉の真意を知る者はここにはいない。

そう、今は。


「今は知らぬままで良い。それが正しいのだから」

「…」

朽祈ヒカルは内心驚愕していた。
なにしろ見知った顔が知らない人物の性格やら言動を引っ提げてまた現れたのだから。

事を簡単に振り返る。
リコードイミテーション・イブに襲撃されたヒカルはそのまま交戦。
あと一歩で敗北という状況に追い込まれたがその時突如現れた謎の男・ヴァイスによってデュエルは中断。遊矢たちも駆けつけたが紆余曲折を経て拉致されるに至り、現在この白い塔に幽閉されてしまった。

ここまでわずか数時間ほどだが色んなことが同時多発的に起きたことによる混乱から落ち着きを取り戻すまでにはまだまだ時間を要しそうだ。

「お前は、どっちなんだ?」

「どちら、とは?」

「托都なのか、ヴァイスなのか」

「知れたことを。我が名はヴァイス、最初からそう言っている」

姿は同じだ。ただ一点を除けばいつもの托都とほとんど変わらない。
しかし、ヒカルはその姿すら見もしなかった。
たった少しの希望を以て投げ掛けた問いの返事は期待したものではなかった。

「今の問答は全く無駄。一体いつまで現実逃避をするつもりだ、未完の聖杯」

「…そうだな」

辛辣な言葉も普段なら考えられない。
優しくもないが厳しくもない、実に回りくどい不器用さは微塵も感じられない言葉の中には、内に秘めたモノだけが目的であることを示している。
見た目だけが一致した別人。友である彼をそう思わなくてはならないのは苦痛以外の何物でもなかった。

「だとしても、」

「…?」

「俺はアイツを信じてる。アイツは死んでも生きて帰ってくるような往生際の悪い奴だからな」

ヒカルが語る托都の往生際の悪さはなんの比喩でもない事実。
それを忘れない限り信じ続けられるのは2年前と何ら変わらない、否、それ以上に強固となった絆のおかげだ。

だからこそ、その絆があるからこそ、ヴァイスが言ったことを信じられなかった。…信じる他なかったのだが。

「人間は、疑心を抱きながらも誰かを信じようとする。いつどの時代においても愚かな生き物だな」

「愚かじゃない!この感情は、お前みたいな人でなしには一生分からない…!!」

「…好きにすればいい」

室内にあった影が消えて、ヒカルはバルコニーから離れた。

勢いで人でなしなどと言ってしまったが自分も大概人でなしだ。きっとまだ、その理由は分かっていないのかもしれない。

「矛盾してても、それでも…信じるんだ」


~~~


「ッう、ぐ…!!」
《Kariya LP:100》

想定以上のダメージに膝をついた。
見ればまたもや敵の手にはモンスターカードが握られている。
先に《フォトンスター・クロス》を発動しなければやられていた。

冗談じゃない━━━。

どれだけの強運なのか。そもそも敵のデッキのモンスターカードの割合はどれほどなのか。
余計な思考が勝利を上手く狩也から引き離そうとしているような錯覚に陥りそうになってしまう。

「どうした、女神にまで見放されたか」

「うるせえ…ライフが残ってる限り負けないんだよ。それに、一撃必殺が笑わせるっての!仕留めきれてねえからな!」

ライフポイントは強がれるほど残っているわけではないが、ここで気圧され足を竦ませれば敗北という崖下に突き落とされるのが目に見えている。
逆に言えば、"ライフポイントは残っている"のだ。
まだまだチャンスはある、作ることだってできる。

「ならば貴様の力を見せてみよ。私はターンを終えよう」
《Hand:2》

敵は完全に狩也に"敗北する"と思っていない。
もしかすれば、最早眼中にもないのかもしれない。手札を二枚も残していることからその可能性は高い。
悔しさが込み上げそうになりながらそれに耐え、呼吸を一つ。
そして、きらりと輝くアメジストのペンダントは眼前に掲げられた。

「そこまで言うってのなら俺だって、目に物見せてやるッ!!」

光に乱反射するのは翼の力。
錬金術が生み出した力の全て、その名は━━━、

「フリューゲルアーツ、解放(リリース)ッ!!」

《Arts Release Mode Nigredo》

フリューゲルアーツ。
かつて錬金術師・ルクシアが造り上げた決戦用技法を秘めた4つの"翼の力"。
それを解放するには、心の闇を理解し、分解、戦う力に再構築する強い心の持ち主だけ。
かつては遊矢もこの力のコントロールに難儀した。

「来るか、フリューゲルアーツッ!」

解放したのは黒化(ニグレド)フォーム。フリューゲルアーツ解放の第一段階。
デュエルディスクのあらゆる部分は黒色と化し、美しい紫の瞳をも染め上げる。発せられるオーラは禍々しく、闇そのもののようにも見えた。
これこそ心の闇の具現、力に変えたものの全て。彼はまさに"黒化"しているのだ。

「行くぞッ!俺のターン、ドロー!!」

フリューゲルアーツの力を解放したことでデッキにも大幅な変化が及ぶ。
狩也の場合、コスモ・メイカーに対し強力な力を発揮するカードが新たにデッキに備わっている。

「フィールド魔法《ヘブンリィボディの星雲》発動!そして、フィールド魔法が発動したことで速攻魔法《二対流星(ツヴァイシューティングスター)》を発動ッ!」

《二対流星》は、《ヘブンリィボディの星雲》が発動した時に発動できる速攻魔法。
《ヘブンリィボディの星雲》をそのまま破壊し、前のターンに破壊された「コスモ・メイカー」1体と、同じレベルまたはランクの「コスモ・メイカー」1体をエクストラデッキから特殊召喚できる強力なカードだ。

「呼び出すのは、《コスモ・メイカー ネヴラスカイ・ドラゴン》と《コスモ・メイカー ネヴラダーク・ドラゴン》だ!!来いッ!」
《ATK:2600/Rank:7/ORU:0》
《ATK:2600/Rank:7/ORU:0》

星雲の名を冠した美しき竜と、同じ輝きに闇を宿した黒い竜。
かつてトラヴィスに拐かされ手に入れた力すらも今ではこうして狩也の切り札の一員だ。

「ランク7のネヴラスカイ・ドラゴンとネヴラダーク・ドラゴンを、レギオンオーバーレイッ!!二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、レギオンエクシーズチェンジッ!!」

空に煌めく満天の星と、闇を宿した仄暗き星は両翼を力強く羽撃かせ天に開いた亜空間へと飛び込んだ。
そこから現れ出でるのは、星を創る星の竜。

「果てなき銀河より現れし星の海、光と闇の渦巻いて此処に現れろッ!!来いッ!《コスモ・クリエイター ネヴラシエル・ドラゴン》!!」
《ATK:3000/Rank:7/ORU:2》

まさに星の海、雲は大海のように広がり波打つ。翼の中に宇宙を創ったようなあまりに美麗過ぎる竜は、それでいて主を守る力強さも持ち合わせている。
これが、狩也が界の空で手にした白きカードの正体。

遊矢が使ったホープ・ブレードと同じ二体のモンスターエクシーズを使用したエクシーズ召喚で呼び出されるモンスター、それがレギオンエクシーズと呼ばれる存在の一種だ。

「ネヴラシエル・ドラゴンは1ターンに1度、相手にこのモンスターの攻撃力分ダメージを与える!この時、相手のカード効果は全て無効になるッ!」

「コストなしで、《華園の城》を掻い潜るか…!」

「食らえ!!スターダスト・ブレス!!」

「ぬぅッ!!」 
《Unknown LP:1000》

竜の息吹が男に直撃した。
いくら運試し効果であろうと無効にすれば大したことはない。

「ネヴラシエル・ドラゴンの効果!ダメージを与えたことにより、このターンの終わりまで攻撃力を2倍にする!」
《ATK:6000》

攻撃力は堂々の6000というトンデモ数値を叩き出した。
あとは暁を攻撃し、ダメージを通せれば狩也の勝ちとなる。確率勝負だがやらないよりもやる方が確率が高いのはバカだって分かる。

「バトルッ!ネヴラシエル・ドラゴンで《羅刹武者 暁》に攻撃!!」

「《華園の城》の効果発動!引くがいい、その手で未来をッ!」

━━絶対に外せない。

━━ここで外せば次はない。

「上等…!!」

信じるべきは自分のデッキ、自分の運命力、自分の運。
全てが重なれば勝てる。
指先をデッキトップに置き、心を落ち着かせる。

静寂の中で聞こえたのは誰かの声。
どこかで聞いた、似たようななにかで聞いた声がする。

負けたくない、負けたくない。

誰の声だったか。そうだ、これは"自分自身"の声だ。
あの灼熱の日に、後悔の始まりの日に望んだ言葉は今も憑いて回る。
既視感に焦りを感じ、汗が滲んだ。

「その様子では引けぬな」

男の声が残酷に告げる。

"そんなことない" "引かなくてはいけない"

迷いを無理矢理にでも晴らし、デッキトップのカードを力強く引いた。

片目でうっすらと見たのは、━━緑の枠。

「そんな…!」

たった一瞬の迷いで勝利の女神は狩也の元から飛び去ったとでもいうのか。
ほぼ確定的な勝利は呆気なく手元から離れてしまった。

「やはり貴様のような人間に、勝利など訪れぬか」

「なにを…っ!」

「力有るものが必ずしも勝つわけではない。己を信じる者を守り、己の信念を貫く者こそが真に強者と呼ばれる存在になるのだ」

「なにが言いたいんだ!!さっきからごちゃごちゃと!!」

「裏切り者には分かるまいッ!!敵であろうと味方であろうと、貴様は信念を曲げた罪人と違わぬわ!!」

「!」

裏切り者。その言葉は、狩也にとって切り離せないものであることを思い出さされた。

トラヴィスが引き起こしたC.C事件。
その一因にもなり、その際遊矢に起きた"ある出来事"の原因でもあった狩也は、トラヴィスになにをされたわけでもなく自分の意思で実行していた。
遊矢をそんな目に遭わせることになることは本人も予想していなかった、は言い訳だ。
世界を滅ぼそうとした組織に荷担した時点で裏切りのレッテルは貼られて当然だった。

正義という信念を曲げたわけではない、ただ遊矢を倒すという意味で悪になりきれなかった。

━━━遊矢を倒す、の理由すら最初から捻り曲がっていたのだが。

「故に、貴様は最初から敗北している。力を手にしただと?笑わせるな、貴様は弱者だ。己に敗北した憐れな存在だッ!」

「ッ!お前になにが分かるっていうんだ!!」

「あぁ、判らぬとも。だが、私は貴様のように中途半端な善悪の間を歩む者を嫌う。貴様のような奴が"有"であることを赦せるものかッ!!」

先程までの冷静沈着さは何処に失せたのか、激しい男の説教は狩也の胸の内に反響する。

手にした力が意味のないものだ、と言われた。
善悪が中途半端だ、と言われた。
自分に負けた弱き者だ、と言われた。

間違っていない。全て正しい。
今のターンでフリューゲルアーツの力を使って、ネヴラシエル・ドラゴンを完全な形で使いこなせたのか。
いいや、狩也から見れば上手くても他から見たら使いこなせてなどいなかっただろう。
もしかしたら先輩はもっと上手く、なんて雑念が入り込む。

「…だとしても…ッ!!」

「……」

「俺は自分を信じ、自分の正義のためにここに来た!それは自分にしかできないからだ!」

いつか聞いた声がまた響く。

『君の物語を紡げるのは、君だけだ』

空の狭間で誰かが言った。
未来を見失ってさ迷った狩也に優しく言った。

だから前に進むしかない、半端者でも真っ直ぐなら進めるはずだと諦めずに。

「━━そうか、ならば終わらせてやろう」

「…ッ!ネヴラシエル・ドラゴン!?」

男の声でハッとなって振り返る。

ネヴラシエル・ドラゴンが雄叫びを上げながら粒子となって消えていく。
何故なのか、答えは正面にあった。

「手札より《夜陣武者 双月》の効果を発動した。相手のモンスターが《華園の城》の効果によりダメージを無効化された時、そのモンスターを破壊し、このターンに私が受けたダメージを全て相手に与える」

「なっ!また、《華園の城》で運試しを!?」

「莫迦なことを。貴様とは違い、私は己を信じカードをも信じている。応えぬ事はない」

男の言うことはまるで妄想夢想のように運要素で全て辺りを引く理由を無理矢理作っているように感じられる。
だがデュエルモンスターズというものには"心"でもあるのか、プレイヤーが信じればそれにカードは応える。
そう、伝説の決闘者・武藤遊戯とその使用したデッキのように。

「ゆくぞ、ドロー!!」

一瞬の静けさ。
男はカードを捲り、それを確認する。

「…なにが来た…!?」

明かされないカードの種類、一体どれを引いたのか。




「どうやら、"私の勝ち"のようだな」




宣言通り、掲げられたのは橙枠のモンスターカード。


「なんで…!」

「消えるがいい、敗北者」

鎧武者が星の輝きを刀に収め、収束したエネルギーを一気に解き放った。
同じものでありながら強力なエネルギーに負けたネヴラシエル・ドラゴンは灰となって消えた。
そして、ダメージが跳ね返るということは、先に与えた3000のダメージがライフ100の狩也に襲い掛かるということだ。

「くっ…っ、うぁあああっ!!」

《Kariya LP:0》

勝負は決した。
黒き光は消え失せ、デュエルフィールドが消失したことで、体は雲に覆われたハートランドに放り出される。

「…ふんっ」

末路を見届け、異空間の扉を振り返った瞬間、

「…待て…!」

「勝敗は決した。貴様は、"また"負けたのだ」

「だとしても…、まだだ…まだ…!」

左目から流れた血涙は、フリューゲルアーツから引き起こされる負荷。
ダメージを受けて立ち上がりながらも、あまりに痛々しい狩也の姿に背を向けて、男は話を続ける。

「心意気は買うが…私には貴様とは違い、私を待つ者の元へ戻らねばならぬ」

「先輩は…!どこに…ッ!!」

「敗者に教えることはない」

扉の先に消えた男を見ているしかできなかった。

ぽつぽつと降りだした雨が擦り傷だらけの肌に滲みる。
雨がザーザーと音を変えた時には完全に膝をつき俯いたまま動けない。負荷で落ちていく血は拭えぬまま、地面に流れていく。

「くそっ…くそッ!…チクショウ…なんだって、いつもいつも…大事な時に…ッ!!」

血の涙はいつの間にか透き通った本物の涙になっていた。狩也はそれにも気づかぬまま独り言を繰り返す。

「俺は…ッ!」


『貴様は弱者だ。己に敗北した憐れな存在だッ!』


「…もっと、強く…!!」


~~~


「本当に、癇に障る」

「…今度は誰、…っ」

夜空を見つめていた瞳は敵意をもって振り返った先の女を見たはずだった。
しかし━━━、

「っ…あの錬金術師は本当に無能だったわ。よもや、レーヴァテインをも扱えないだなんて」
「ぁ…ッ…お、前…!」
「久しぶりの感覚はどうかしら?」

触れた口からなにかが入り込む気持ち悪い感覚に嘔吐(えず)きそうになった。

一瞬の出来事に理解する間もなかったが女が囁いた"レーヴァテイン"というワードに恐怖を抱いた。
レーヴァテイン、害をなす杖。裏切りの象徴。

精神に干渉し心を壊すモノ。

錬金術師・ヴェリタスが未完の聖杯を手に入れるため、ヒカルの精神を文字通り『壊した』異物。

トラウマが一気にフラッシュバックする。
全てが始まった夏の始まり、錬金術師にされたことが全て甦ってくる。
あの悪夢のような現実がまた繰り返されるのか、と考える暇は与えられなかった。

「あ、あ…ぁあああッ…!…や、やめ…入って…くるな…ッ!…っ…どう、し、て…!」
「欠片を"直接埋め込めば"取り除かれることはない」
「くっ…今、な、んて…いって……?」
「"貴方の人としての記憶を消すわ"」

遠く聞こえた声が妙にハッキリとしていた。

「貴方は未完の聖杯、余計な記憶や感情は必要ない」

黒ずむ意識から大事にしていたものが消えていくような気がする。

「信じるなんて感情は、道具には要らないものだから」

イブの微笑は歪み、崩れ落ちたヒカルを見下ろす。

全ては復讐のため、ヴァイスという神に未完の聖杯が従順であるために錬金術師に与えたレーヴァテインの原型を使い、計画をヴァイスが知らぬ間に進める。

「これで…これで良いわ…!!朽祈ヒカルという個をここで殺して、物語の幕を引きましょうッ!!」

歪んだ野望は加速する、更なる物語へ。






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【あとがき】

今回の一言「煽られスキルEX」
狩也は煽られるとすぐキレる(2話参照)。派手に前作の意趣返し食らってて笑うに笑えないけどこれはいつもの狩也。
何気にネヴラシエル・ドラゴンのオーバーレイユニット残っててまだまだヤバイ。

狩也と言えば煽られ役ってくらい最近煽られてる。
どことなく先輩の系譜を継いでいたり、仲間の影響を受けている辺りは狩也はきっと裏切り者って後ろ指差される存在ではないんだろうなって思う。むしろ托都の方がよっぽど…。
土壇場に弱いところはフリューゲルアーツ補正でも治らなかった模様、わりと致命的ですよ狩也さん。
そして片目絶唱顔。これはね、深いワケがあるんだ。
フリューゲルアーツは脳内に流す情報量が尋常じゃない、心の闇だけなら痛いだけだけどそういう情報過多で血管プチンもあり得るのデス。ちなみに痛いだけってのは黒歴史が刺さってるだけよ。
早速仲間割れしてるリコードイミテーション。ほんとコイツら纏まりがねえな。
ヴァイスに仲間意識がほとんどないことがチラチラ確認できましたが、あぁ見えて人間大好きだからです。一方アダムたちは人間嫌いです。つまり…。
ラスト、おいラスト。 ま た お ま え か 。
錬金術師に繋がりがあったこともバラされましたが本気でそれどころじゃない。
このあと一体どうなるのか…お楽しみに?(多分ヴァイスの中身はヒヤヒヤしてる)

次回!!最弱最クソ系女子ッ!!ピンクは○○ッ!!ルルンちゃん、登場です♡
ヴァイスとの邂逅から一夜明け、遊矢の身体に起きた異変の正体が明らかに…!?
そしてアミとレッカの前に現れるはリコードイミテーション最弱少女・ルルン!一体どこがどういう意味で最弱なのかは次回のお楽しみに♡

【予告】
片目が割れた人形が見た夢は、いつか"人の形"ではない"人"になるための虚構。
いずれ人より完成された人でなしになることに盲信することの許された小さな小さな贋作人形。
クルクル回る運命は更なる物語へ。
恋乙女と相対し涙を流す空の下、出でた二つの可能性。
それは、光も闇も番う無限の輝き。
第8話「私だけの言葉」


===


はぁ…血涙芸だ煽られマスターだと散々な謂われようだ…。

大体!俺だって好きでこんなキャラなわけじゃないんだッ!!

本当なら雪那とベタベタにくっついていたいし、先輩から色んな話を聞きたい。あと!慶太と遊びに行ってもいいかもしれない!

…遊矢はその…一緒に学校に行ってやってもいい…。

あぁやっぱ今の無しでッ!!無ししてってーッ!


===

【手紙を求めて…2】

「……」

あれだけ必死に隠すんだから、あの手紙にはなにかが書いてあるんだよな…。
でも処分しないということは大事なものかもしれない、例えば遊矢のお父さんからもらった剃れっぽい手紙をついつい嬉しくて残してるとか。
…ないな、遊矢はともかく托都だし。

「ま、もしかしたら後々なにかの拍子にひょっこり隠れたのが出てくるだろうし今は忘れてやるか」

ガタン!

「……」

見てない。見てないぞ。
棚にぶつかった拍子にひょっこり紙が落ちてきた気がするけど俺はなにも見てない。

「…ちらり」

ひっそり確認して戻そう。

うん、きっとそれがいい。

「…じー……」

じー…。


ピシャン!!!


「…見なかったことにしよう」



END
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===

「そうか。貴様らの正義は、この程度か」

「えっ!?」

土煙の中に消えたヴァイスのシルエットは、マントのフード部分に隠されていた姿を描き出す。

"それ"の正体を後ろから見たヒカルは驚愕した。

「嘘、だろ…?」

「嘘なものか。だが、残念だ。わざわざ姿を晒すつもりはなかったが…仮面を剥がされた以上、仕方のないことだ」

徐々に晴れる煙の奥、壊れた仮面の中にある"白い眼"が二人の姿を捉える。
そして顔の上部を覆い隠していた仮面がヴァイスの鳴らした音ひとつで粒子と化して、煙と共に消えていく。

風に靡く金の髪は獅子のごとく、茶色の髪はふわりと揺れる。
開かれた瞳の色は森のように深い、"あの"深緑の瞳ではなく、不気味なほど煌めく白い瞳。

「なんでお前が……!!」

思わず叫んだ、仮面の奥のその正体の名を。


「托都━━━ッ!!」


あの日消えた非日常の彼は、闇を裂き、黒を白へ潰して現れた。


風雅遊矢へ、復讐を遂げる概念(ひと)として。


第6話「悲劇より顕れる」




「クソッ!!どこまで追えばいいってんだよ!」

すでにあの油臭い工場地帯を抜けた。
それでも狩也が追う敵は逃げることをやめない。ただ時たまに後ろを確認し誘っていることだけは分かっていた。

「どこまでも俺を馬鹿にするっていうんなら、容赦はしねえからなッ!!」

ビルの谷を、住宅街を抜けて更に更に、ハートランドシティの深い部分へと駆ける。
気付けばステージは埠頭へ移り数日前にも似たような理由で訪れたと当時の自分のなにもしていない事実に唇を噛み締めた。
だがそんなことを気にしている暇はない。とにかく敵を追わねばならない。
狩也にとっては遊矢も托都もどうでもいいが、この平和を乱すなら迷わずトリガーに指をかけるだろう。
そう、遊矢のことはあくまでも『どうでもいい』のだ。

自分との再戦が望めなくなった場合を除いては。


~~~


「どうなってんだ!?」

煙が晴れた先で立っていたのは紛れもなく、敵の罠によって行方が分からなくなっていた托都だ。
そう、容姿は托都そのものだ。様子がおかしいことと明らかな敵対姿勢が気になるところである。
異様な白い瞳と使役するモンスターたち。そして自分を大々的に神だと宣い、あまつさえ遊矢に敵意を剥き出しにしている。
アミと慶太がそこから連想したのは、かつて遊矢の兄としてではなく風雅の人間に復讐を掲げ現れた『あの時』の堰櫂托都の姿。
今ではすでにその際の牙は抜け、最大の天敵だった父親とも和解しているはずだ、何故今更彼がこんなことになってしまったのだろうか。

「托都…?」

「…はぁ…人間は、外面が一致しているだけで同じモノとしか認識できなくなるのか。やはり、いくら文明が栄えようとも脳(ココ)が大して進化していないらしい」

呆気にとられていまだ動けないヒカルの方に一瞬だけ振り向き、そしてそう語った。

『彼』は自身をヴァイスと呼んだ。
今の言葉をそのまま捉えるなら、まさに他人の空似。托都のそっくりさんということだ。
にしては似すぎている、髪の毛のクセから背丈までが同じ人間など双子でもない限りいるはずがない。

「貴方は誰!?托都さんじゃないの!?」

「何度も言ったはず。我が名はヴァイス。肉体の名など知らぬわ」

「肉体の名前…?」
「それならやっぱり貴方は托都さんなの!?」

「そうさな。確かに"体"は奴のものだ、それは認めよう。だが、"意識"や"魂"は全く異なる存在だ。俺は奴という肉を得て此処に顕現した、それは来るべき王の復活とも似ているだろう」

堰櫂托都という人間の体に乗り移った悪霊、神霊と言うべきか。
この言い分ではまるで意識を乗っ取ったともとれるが、実際はどうか、ヴァイスは続ける。

「それ故本来ならば風雅遊矢など、どうでもいい只の人間。しかしな…」

「まさか…!托都が願ったって言うのか!?」

「そうだ、未完の聖杯。よく聞いていたな」

ヴァイスは先に、言った。
"貴様(ゆうや)が憎いと叫んだ奴がいた"
確定的な死を望むとまで言い切るなんて、そんなことを言うなんて、事情を詳しく聞いたわけではないヒカルからすれば托都が言うにはあまりにありえない言葉だ。

「大体、復讐の概念神が対人の憎悪無くして目覚めるものか。堰櫂托都は"最初から"俺の転生する器だと決まっていたのだ」

「そんな…じゃあ、托都はどうなったって言うんだ!!」

「さぁな。だが一つだけ教えてやろう」

"概念神が転生した時、その人間の意識は食い潰され消えてなくなる"

残酷な事実が刃となって突き刺さる。
托都はなるべくしてヴァイスと成り、20年の時間を生きてきた彼は無いモノとして扱われるために昨日まで在ったのか、と。

「お前…ッ!!お前がッ!!」

「おっ、と」

瞳の輝きが赤く燃え盛ったのをヴァイスは見逃さなかった。
ヒカルが立ち上がったところに先ほど弾け飛んだ鳥籠状の檻と同じものを形成しそのままヒカルを閉じ込めた。

「ヒカルさん!」

「くっ…!」

「残念だったな覚醒体。そのまま向こうの餓鬼が派手に散るのを指を咥えて見ているがいい」

見下すような笑みに、無力と噛んだ唇から思わず血が滲む。

「さて、パーティー再開といこうか。残念ながら俺のライフポイントは1以下すら削られてはいないが、どうする?」
Weiβ LP:4000》

「そんな!どうして!?」

「永続罠《反逆者の流刑》を発動していた。このカードは俺に対するダイレクトアタックを全て無効化し、ダイレクトアタックを行ったモンスターをエクストラデッキに戻し、このデュエル中の再度の召喚を封じる!」

「なんだって!?」
「それじゃクリスタル・ディーヴァバタフライは…!」

一撃目の時点で受け止められた挙げ句にクリスタル・ディーヴァバタフライはその身の水晶を砕かれてエクストラデッキへと散ってゆく。
召喚難易度が高いエクシーズシンクロというもののを使う時点で一撃必殺を狙っていた二人の策は儚く無駄に終わってしまった。

「一時でも俺を追い詰めたことを誇りに思え。人間には夢を見るのが似合いだ」

「なに言ってんだよ!まだ俺たちは負けちゃいねえぜ!」
「ええ!私はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」
《Hand:3》

今伏せた2枚のカードには、攻撃を止めるカードとモンスターを墓地から呼び戻すカードがある。
これを使えば、ラピスラズリ・バタフライドラゴンを呼び出すことが出来、更には1ターンをしのぐことも出来る。

ヴァイスが自らに課したハンデによってこのターンの次にヴァイスのターンが回ってくるのは慶太とアミの2ターン目を1つずつ、つまり2ターン耐えきる必要がある。
うまくいけば慶太のターンでもう一度ワンターンキルを狙えるはずだ。

「やはりこの程度。数どころか相手にする価値もない」

「な、なにをーッ!?この期に及んでまだ俺たちが弱いってのか!冗談じゃねえぜ!」

「ならば貴様らの身に刻むがいい!我が力はペンデュラム召喚だけではない、肉体が同じということは奴の力すらも意のままということを!」

妖しく輝く二対の堕天使の中心、そこに現れた扉は激しい風を呼び一帯を揺らして存在を確立させた。

「セッティングされた《転生の堕天使》の効果、ドローフェイズをスキップし除外された俺のモンスターをフィールドに特殊召喚する」

「そんな!」

「更に《輪廻の智天使》の効果により、特殊召喚するモンスターの内1体をデッキに戻すことでエクストラデッキから天使族モンスター1体を特殊召喚することができる!」

蘇るモンスターは当然スカーバティ・ネメシスとヘブンズ・アルテミス。このどちらかをデッキに戻して別のモンスターを呼び出すこともできる。
なんという出来すぎたコンボ。まるで最初からクリスタル・ディーヴァバタフライが現れることを知っていたかのような戦略の組み立て方だ。

「ヘブンズ・アルテミスをデッキに戻し呼び出すのは《機械堕天使 シャドウ・ハルシオン》!来い!2体のモンスター!」
《ATK:3000/Level:8》
《ATK:3000/Rank:8/ORU:0》

顕現したゲートから現れた二体の堕天使。
その内影を操る機械堕天使はかつての深紅の色を失い白と黒に潰されていた。

「シャドウ・ハルシオンを!ヴァイス、どこまでお前は…!!」

「知らん、死人に口無しだ。デッキに戻されたヘブンズ・アルテミスの効果発動!このモンスターデッキではなく墓地に送ることで、堕天使と名のつくモンスターの攻撃回数を1回ずつ増やす!」

これでスカーバティ・ネメシスとシャドウ・ハルシオンの攻撃回数はそれぞれ2回、合計4回の攻撃回数を持つことになった。
ライフポイントは4000だ、二人に4000ずつ宛がわれようと削りきれる。
先程のお返しと言ったところか。

「どんなに攻撃回数が増えたって…!」

「高々攻撃のために手を増やす必要が何処にある?その罠、俺が見切れないと思ったか」

「えっ!?」

「スカーバティ・ネメシスの効果。このターン、バトルする権利を全て破棄することで、その攻撃回数の数だけ相手に攻撃力分のダメージを与える」

合計4回のダイレクトアタックを捨てて、効果ダメージに変換する。よってアミが伏せた二枚のカードは意味を成さないものとなった。

全てがヴァイスに読まれている。これではアミと慶太には対抗策がない━━━!

「まずは貴様からだ。花の命は短い故な、一瞬で終わらせてくれるッ!スカーバティ・ネメシスの効果発動!ナハト・ディジェネレーション!!」

「ッ!!うわあああああぁぁッ!!!」
《Keita LP:0》

雲に覆われた夜空を内包したスカーバティ・ネメシスの一撃が襲いかかり、その牙は慶太のライフポイントを一滴も残さずに刈り取った。
残るは2回分、それをアミは受けなければならない。

「慶太、くん…」

「…くっ…逃げ…アミ……!」

地面に叩きつけられて体を思うように起こせない慶太の姿を見て、アミも恐怖でその場から動くことができない。

「遊矢はこの惨状を知った時、どんな顔をするものか。想像するだけで笑いが溢れそうだ」

「やめろ托都!!お前がこんなことするはずがない!二人を、遊矢を傷付けたりなんてしない!」

振り返ったヴァイスの眼はあまりに冷たく、射抜くような視線に畏怖を覚えた。

「我が名はヴァイス、故人の名を叫んでもなにも帰っては来ないぞ。しかし、貴様が泣いて乞うなら別だがな」

「っ…!」

「選択の時間は与えんぞ。スカーバティ・ネメシスの効果発動と同時にシャドウ・ハルシオンの戦闘を破棄した。覚悟を決めろ小娘、救世主は現れぬようだ」

救世の装甲を持つヒカルはこの状況、アミにとってのヒーローである遊矢もいない。誰も助ける人がいない。
慶太と性別の差で体の強さ弱さが異なるアミが実体化するダメージに耐えきれるか、きっと耐えきれない。

「食らえ!ナハト・ディジェネレーション!」

凶牙が影の渦を纏ってアミに向かってくる。
逃げられない、巻き込まれる━━━死んでしまう。

「誰かぁっ!!」

悲鳴が耳を劈く。

そして声は同じく、ヴァイスの後ろから木霊した。


「やめろ━━━!!」


鳥籠は突然の銀の輝きに破られ、駆け出した脚は禍々しい牙よりも早くアミの前へ辿り着いた。

「…!」

《Ami LP:0》
「…あ、あれ…私…?」

「やめろヴァイス、二人にこれ以上手を出すなッ!!」

立ちはだかったヒカルの左腕には蒼銀煌めくデュエルディスク。

どうやらスカーバティ・ネメシスの牙はヒカルの乱入によって直前で止められ、アミはダメージを受けながらも実際の衝撃を受けなかったらしい。

「ヒカルさん…?」
「遊矢のためなら、仲間のためなら泣いてやろう。跪いてもやろう。でも、それはお前が約束を守ることが条件だ!二人を見逃せ、そうするなら何処へなりとも連れていけばいいッ!」

「…朽祈ヒカル。確かに、これは奴の…」

意味ありげに顔を背けたヴァイスも、すぐさま歩を進ませヒカルの元へやってきた。

「いいだろう。運の良い人間どもは救世主に感謝するがいい」

「ヒカル…さん…!」

「ダメ!!ヒカルさん!」
「大丈夫。だから二人は遊矢を守ってくれ」

後輩を想う優しい笑顔に決意が垣間見えた。
これを止めれば自分達が、という恐れがそれ以上声をかけることを阻害した。

「風雅遊矢に伝えておけ。"白い城で待っている"とな」

「待ちやがれ…!!」
「ヒカルさん!!」

二人が話を聞くこともなくそのまま世界から消失した。
亜空間に繋がるゲートへ消える直前、ヒカルがなにかを落としていったのを見たアミはそれを拾い上げる。蒼いブレスレットのようだ。

「…これ…」
「手がかりに…?ぐっ…!」
「慶太くん!?」
「戻ろう、遊矢のとこに」

今は敵を追うこともままならない。
まずは遊矢がどうなってしまったのかを確認すべきだと、二人はその場からゆっくり離れた。


~~~


「どうして…!」

レッカが解呪する結界の紅い光は収まるようには見えない、むしろ徐々にその眩い輝きは強くなっていくようにも感じられた。
すでに中に閉じ込められた遊矢から反応がなくなっている。死んではいないだろうが肉体に残るダメージは相当のはずだ。

「なんであの人は、こんなことを…っ…?」

なんの前触れもなく突如結界が消え始めた。
レッカが解呪に成功したわけではない、突然のことだ。
目的を達したのか?まさか狩也たちが倒したのか?などとレッカの思考は巡り巡った。

「遊矢さん!」

前に倒れそうになった遊矢を支えて声をかけると意外にもすぐに目を覚ました。どうやら結界には体力や気力を奪うような力はなかったようだ。

「…あれ、みんなは?」
「ヴァイスを追いました。無事ですね?」
「うん…一応…、あれでもなんか…左が重いような気がする」
「左?」

左半身の見た目に異常は確認できない。
しかしレッカは遊矢のアームカバーの下になにかがあることを察知していた。
失礼します、と声をかけてアームカバーを上部に捲るとそこには痛々しい茨のような模様が描かれていた。それもどこかで見たようなものだ。

「これは…」
「…托都と、同じ…?」

そう、托都の左腕に宿ったバリアンである証と同一のものだった。
当然ではあるが遊矢はバリアンではない。一体なにをされたのだろうか。
レッカは左腕にゆっくり手を添えてもう片方でぐっと掴んだ。

「いっ!!たぁ…!?」
「どうやら本当に同じもののようですね」
「アイツ、こんなモンを…」

遊矢は一点に受けた痛みを体全体に受けるというデメリットを身をもって体験した。
不可解ではあるが、ヴァイスの発言を思い出して納得する点もある。
これは確かに、体を蝕む毒にも似た力だ。

「…アイツ、何者なんだよ」
「ごめんなさい。私には、それをどうすることもできません」
「気にすんなって」

アームカバーを戻して立ち上がろうとしたがよろけて転んでしまった。見えないダメージの蓄積が原因だろうか。

「悪いけど、ちょっと…休む」
「遊矢さん…?」

ぼそっと呟いた後、小さな寝息が聞こえていた。
こんな状況でと呆れるべきか、はたまた違う原因がまだあるのか、分からずじまいのまま空は曇り太陽は彼方へ消えていった。


~~~


男は『無』だ。
所詮は贋作。本物の存在が『有』である以上、彼はなにもない存在だった。

故に男は有でありながら無であった男の下にいる。
そして聞いたのだ。

「貴方の目的はなんだ」

玉座の男は嗤いながらこう答えた。

「復讐」

復讐者━━━。そうだ、彼は復讐者なのだからこの答えが返ってくるのは当然のことだ。
だがそれだけのはずがない、と無の男は再び問いかける。

「復讐の先にはなにがある」

復讐者は黙りこんだ。そしてこう言った。

「人類への救済だ」

長い長い話を続けた。

輪廻転生することで人間の世界を『視た』男は繰り返される人生の中にひとつの答えを手に入れた。
人間の闇は深い。深すぎて理解できないほど。
概念として深淵に突き進むことを止められない男はその答えを実行に移そうにも人生は短く足りなかった。

しかし、今はどうだろうか。
男を転生に導いた協力者の手によって、男の計画は円滑に事を運んでいる。

もうすぐ計画は果たされる。
世界は確実に変わるだろう。

「貴様は、『有』になりたいか?」

唐突な問いだった。
それには答えられなかった。

「今は無も有も同じこと、この身が在る限り、我が忠義を貫きましょう」

跪き男は白い瞳に服従を誓った。




そう、忠義を貫くと言ったのだ。
だからこそ男には、無であったとしても許せないものが一つだけある。

振り返ればそこにいる、その少年の抱えた罪が。

「ようやく追い付いた…!!」

金髪を乱した赤い服の少年の瞳は紫色の炎が燃えている。

「来たか、岸岬狩也」

「ご丁寧に誘導しやがって、誘われてやったんだから感謝しろ」

「こちらは呼んだつもりはない。貴様が勝手に追ってきただけのこと」

黒の長髪、太陽のような橙が揺れる切れ長の目、それらを引き立たせる和装が特徴の長身の男は狩也の追跡を誘導し、誘い込んだ張本人。
つまりリコードイミテーションの一員、ヴァイスの仲間である。

「言ってくれるな、ヒカル先輩はどこだ?大方あのバカもそっちにいるんだろ」

「未完の聖杯か…居場所が知りたいか、ならばデュエルだ。デュエルで私を負かすことが条件だ」

アダムと同じデザインのデュエルディスクを見て息を呑んだ。
漸く、漸くデュエルすることができるという高揚と絶対に負けない自信が狩也の胸の奥で交差した。

「我が決闘は一撃必殺、受けて立つか━━!!」

「あぁやってやるとも!!」

デュエルディスクのコアとなるアメジストは上空で姿を変え、太陽に反射して白い色を放つ。
そうして左腕に装着されたデュエルディスクは黒と赤のサブカラーが狩也ととてもマッチしている。
これこそ、界の空で狩也が手にした新たなデュエルディスク。ルクシアが造り出した新型のデュエルディスクだ。

「「デュエル!!」」

《LP:4000》

火蓋は切って落とされた。
一撃必殺だろうが狩也には関係ない。ただ勝つことだけがこの先の平和を手にする鍵になる、それだけだ。

「私が先攻を貰おう。私はフィールド魔法《華園の城》を発動!」

「フィールド魔法…?」

油と塩臭い埠頭は何処、夜桜舞い散る日本の城とそこに通ずる橋がかかった幻想的な和が馴染み深いフィールドが現れた。
ここまで立派な城はなかったが古に通じている点において一致している故郷・天之御崎を懐かしみたいところだが、そんな暇はない。
フィールド魔法ということはなにか男に有利な効果があるに違いないと狩也は身構える。

「私は《夜陣武者 黄昏》を特殊召喚!黄昏はフィールド魔法が発動している時、特殊召喚できる」
《ATK:1500/Level:5》

「そして、もう2体」
《ATK:1500/Level:5》

レベル5のモンスターが3体揃った。これは恐らく強力なモンスターエクシーズが現れるだろう。

「私はレベル5の黄昏3体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚ッ!」

「一体どんなモンスターを…!」

「日出ずる刻現れし無双の剣、我が手に宿りて燃え盛れッ!《羅刹武者 暁》ッ!」
《ATK:2600/Rank:5/ORU:3》

六つの腕にそれぞれ刀を手にした鬼の武者。
太陽の名を冠した巨大モンスターはまるで悪鬼羅刹のごとき表情で狩也を見下ろしている。

「私はこれにてターンを終了。貴様の力、見せて貰おう」
《Hand:1》

「たかが攻撃力2600程度じゃ、俺は負けねえ!俺のターン!!」

敵がフィールド魔法を使うなら、狩也だって同じ手を使える。
ここは合わせることで自分にも有利な陣地を作り上げることを優先としなければ敵の罠に絡めとられるやもしれない。
つまり初手からクライマックスを狙うわけだ。

「俺はフィールド魔法《ヘブンリィボディの星雲》を発動!」

夜の世界に星が生まれた。
地面の底には星の彼方が広がり、世界の誰も知らない桃源郷を思わせるこの空間は華やかさとは裏腹に互いが互いを射殺すほどの視線のぶつかり合いが繰り広げられている。

「《コスモ・メイカー アークトゥルス》を召喚!更に、アークトゥルスを召喚したことで《コスモ・メイカー クドリャフカ》を特殊召喚!」
《ATK:1200/Level:3》
《ATK:0/Level:7》

「アークトゥルスは、召喚したターンのエンドフェイズまでレベルを7にまで引き上げることができる!」
《Level:7》

狩也も初ターンからレベル7のモンスターを揃えてきた。
しかも《ヘブンリィボディの星雲》が発動している今ならワンターンキルをも狙える。

「レベル7となったアークトゥルスとクドリャフカでオーバーレイ!エクシーズ召喚ッ!秩序の中に眠りし竜、雲貫き、星纏いて舞い降りよ!来い!《コスモ・メイカー ネヴラスカイ・ドラゴン》!!」
《ATK:2600/Rank:7/ORU:2》

天の星が生まれ変わって竜の姿をとったのか、そんな空想が拡がるほど美しい星空の竜が降臨した。
両翼に星雲を宿した竜の熱い想いの咆哮はそれだけで羅刹を砕かんという勢いが感じられる。

「己の主を護る竜…なんと、宝の持ち腐れか」

「ネヴラスカイ・ドラゴンの効果発動!1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い相手モンスター1体を破壊して、ネヴラスカイの攻撃力分のダメージを与える!!」
《ORU:1》

もちろん破壊されるのは暁しかいない、ダメージは2600だが《ヘブンリィボディの星雲》が発動している状態なら話は別だ。

「《ヘブンリィボディの星雲》の効果で、光属性ドラゴン族モンスターが与える効果ダメージは二倍!これで5200だ!」

完璧なワンターンキル戦法だ。
しかし指を指された男の表情に変化はない。負けることを恐れていないのか。

「さっさと決めて、お前からヒカル先輩の居場所を聞き出すッ!行け!ネヴラスカイ、ノヴァブラスト!!」

星の波動が武者を飲み込み、その一撃は迷わず目の前の男へ突き進む。
それでも男の顔はいまだ無表情、恐れは微塵も感じない。

狩也の目に勝利への期待と希望が煌めいた。

まるでそれは一等星のように。










====================
【あとがき】

今回の一言「だが慶太、テメーはダメだ」
アミちゃんは庇うけど慶太は庇わないヒカル、マジリスペクト。
そしてヴァイス様はやりたい放題。なるほど分からんが高速で脳内を駆け巡る効果説明にジャッジ呼びを禁じ得ない。

な、わけで!!ヴァイスの口から色々説明された通りあんな感じです。
托都の意識を吹っ飛ばしてヴァイスが意識を乗っ取り、まるで自分の体を自分が使っているかのように行動しているというわけです。なので決して托都が突然いたい人になったわけではない、いや元々いたい人だけどさ。
性格が似てるから違いが文だと分からないけど「ぬ」とか付けちゃってる辺りは古代から生きてる感ある、いつかSAKIMORI語で喋り出したりしないよな?大丈夫だよな?大丈夫じゃない。
ヒカルのスーパー現実逃避タイムが未遂に終わる辺り、ヴァイスは有能。覚醒さん今期唯一の出番終了。最近空気だな。
遊矢だけじゃなく後輩を守るために犠牲になる決意ができるようになったのは純粋に成長したと言えるけど、自己犠牲だけじゃ止められないことに気付かないと彼はまた死ぬ(確信)
遊矢の出番が一瞬あったけど本当に一瞬でどうしようって感じがする。相変わらず毎回恒例前半空気主人公っぷりを発揮してくれて僕は嬉しい。ちなみに今期は後半もこんな調子である。
狩也のデュエルが開始ッ!ここからアツいライバル関係が始まるわけですよ、遊矢とヴァイスよりもある意味見所詰まってて個人的に推してます。良キャラ同士のデュエルは楽しい。

次回!!狩也とリコードイミテーション・ムサシのデュエルの後半戦!
衝撃の展開と驚くべきフィールド魔法の効果、一撃必殺の意味を理解した狩也は…?
更に更に、ヴァイスがとった行動が…!?

【予告】
過去の夜空に揺れた星、勝利に焦がれてすれ違った手は今再び握られた。
花散る残酷の中で奇跡に触れる君の想いに応えられる友の姿はなく、ただの孤独に唇を噛む。
たとえ敗北を視たとしても、あの日魔術師が言った言葉を忘れぬために。
その恐怖を怯え隠す姿は、まだあの頃のまま。
第7話「君が君であるために」


~~~





「…」

目を開いた。

満天の星が拡がる天には優しさがない、暖かさもない。
作り物の冷たさだけが肌に触れた。

「…」

氷のように冷たい硝子に触れ、視線を落とした。

今その手にあるのは彼の手をとるための約束ではなく、どうしようもなく彼から突き放された自由のない枷で、近いはずの距離はとても遠い。

金と銀の宝石から零れた滴を拭うこともしないままに、ただひたすら彼らの無事を祈った。

「遊矢…」

今はまだ、気付かない。







Next →


===


人間に転生する度にその人間の情報が入ってくるわけだが…。

今回は凄まじく情報量が多い、なんだ堰櫂托都という人間はそこまで抱えた闇が深いのか。

しかし…朽祈ヒカルによく世話を焼いているな、特別な繋がりが…なっ!?

ま、まさか!!こやつらそういう関係なのか…!?


===

【手紙を求めて…1】


「わ、わわっ…!!」

なんてことだ…!こんなものを見つけてしまうなんて…!!
…周りには、誰もいないな?

「どきどき…」

これは、どこで読むべきか?

「うーん、…そうだ!」
「なにがそうだ、だ」
「えわぁぁ!?た、托都いつの間に!?」
「いくらヒカルでも勝手に部屋に入るのは見過ごせないな」
「い、いや別に間違えただけだ!無実!」
「一体なにを持ち出したんだ、…それ」
「あっそれ…」

取られてしまった…やっぱり秘密だったのかな。

「…………」

あれ?なんか、フリーズしてる?

「托都、もしかしてその手紙…」
「それは言うな…!!…まさか、見たか…!?」
「見てないけど…」
「なら忘れろ!これは人権に関わる、いや俺の人生に関わる…!!」
「な、なんと!?」

気になる…!!すごく気になる…!!

「いいな、忘れるんだぞ」

「……」

めちゃくちゃ気になる…!!




END
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===
第5話「正義の為と、君は云う」





「なぁ托都、ちょっと」
「どうした」
「はい、右手出して」
「はぁ…?」

ヒカルが突然托都を連れ回し突然呼び出すことはここ最近常のことだが、こうして不可思議な行動をとられれば托都もいい加減に困り顔になってしまう。
ただ言うことを聞かねば拗ねられるのが現実、おとなしく右手を差し出した。

「…なんだこれは」

右手首に髪を束ねるためのシュシュのようなブレスレットを通された。
紅い色が基調で、その上からフリューゲルアーツに似た色の蒼い宝石が纏められた二重の構造になっているらしい。
…が、客観的に見たら托都とは不釣り合いな装飾だ。というより女性や子供が身に付けるアイテムではないだろうか。

「じゃーん!お揃いってやつ?」

見ればいつの間にかヒカルも左手首に同じものをはめていた。
色は托都の方と逆、蒼と紅の両極がヒカルによく似合っている。

「この歳でこんなものを…」
「こんなものなんて、酷いやつだな。いらないなら捨てるから返せ」
「捨てるのは勿体ない。それなら貰っておこう」

しかし珍しいこともあるものだ。
たしかに今日一日、托都はヒカルのとある進言で引っ張られていたが、夜になってこういうプレゼントがあるオチがあるのは想定できなかった。
別に記念日でもなければ托都の誕生日でもないのにどういう風の吹き回しだろうか。

「あのさ、それ、お守りだから」
「なに…?」
「もしもなにかあったら、きっとそれが守ってくれる。俺は傍には居続けられないから」

二人の関係は、守り守られることにある。
互いの背中を預けて日常と非日常の境界線を歩き続ける。どちらかが傷付いても、きっとどちらかが癒してくれる。

決して一人にはしない。

そんな約束をした。

だがヒカルは世界に飛び立つべき存在だ。休みを明ければまたプロデュエリストとしてロンドンへと旅立つことになる。
そうなれば二人は離れてしまう。
だから互いの代わりになるお守りをヒカルは托都にプレゼントした。

「どんなことが起きたとしても、このお守りがある限り絶対に手を離さない」

托都の右手を力強く握ったヒカルの左手は、弱々しいのにとても暖かい。

「では、俺もそれに応えねばな。時が来たならばその手を必ず握ってみせる」

夕焼け空に、誓ったお守りの二色は美しく輝いた。


~~~


「白い、復讐…?」

突如空を裂いて現れた白き外套の男。
あらゆる生物が畏怖するほどの覇気と仮面の奥から感じ取れる生命への賤しみ。
人の形をし人の言葉を話してはいるが、どれも人外そのもの。この世の存在とはとても思えない。

思わぬ敵勢力の介入に狼狽えるヒカルを尻目に、ヴァイスと名乗った男は地上に降り立った。

「女、一旦退け。この場は俺が出張ってやろう」
「ヴァイス様…。貴方ほどのお方があのような小僧と直接話を交わす必要はありません。どうぞ、エデンにお戻りください」
「俺は退けと言った。未完の聖杯がどれほどの勇士か、一見の価値はある」
「…畏まりました」

深々と頭を下げたイヴは左腕からデュエルディスクを消滅させた。
ヒカルのディスクに表示されるエラーと鳴り響く警告音は紛れもなくデュエルが強制終了した証拠だ。

「待て!逃げるのか!!」

「逃げるだなんてとんでもない。次があるなら、ちゃんと決着させましょうね」

追う間もなくイヴはこの世界から消滅した。
仕留められなかった上に敗色濃厚だったデュエルを、まさか敵の手で中断させられ助かったなんて悔しさに唇を噛んだ。
もちろん、その怒りの矛先は新たに現れた白い男に向けられる。

「こんな真似をして、なにが狙いだ!!」

「狙いだと?…ふむ、退屈しのぎにこれから掌握する世界の見物に来た、と言えば納得するか?」

「世界の掌握!?」

世界を滅ぼそうと企てる敵は過去に飽きるほど見てきたが、まさか世界征服が目的の敵が現れるなんて予想外もいいところだ。
古典的すぎてヒカルは逆に目を丸くしてしまう。

「まずは一歩目。貴様には人質になってもらおうか」

「なに…?」

「"奴"の死を望む者がいる。そのために必要な鍵が貴様だ」

"奴"とは何者か、更にその"奴"の死を望んでいる誰かがいるというのも引っ掛かる。
大方、どうでもいい理由で未完の聖杯を使うだのなんだのだろうと考えていたが、少し敵の状況も考えと違うようだ。

「誰が好き好んで人質になんてなるかッ!さっさとお前を片付けて、あの女を追う!!」

「見事な心意気だ。だが、━━━━ッ?」

「えっ?うわっ!!」

ヴァイスが左腕を掲げた瞬間、二人の予期せぬ方向から凄まじい強風が吹き荒れる。
まさに暴風、夏の嵐のような風から誰かの声が聞こえてきた。

「ちょっと待ったぁッ!!!」

「遊矢!?」

竜巻状の風に乗ってやってきた遊矢は狩也や慶太たちを連れ、ヒカルの前で壁になるようにヴァイスに立ち塞がった。
遊矢自身すごくかっこよく登場したが、突然すぎた暴風にひっくり返ったヒカルのことには気づいていない模様だ。

「先輩!無事ですか!?」
「おう、おかげさまでな…」
「話は全部聞かせてもらったぜッ!ヴァイス、お前の好きにはさせないッ!!」

「風雅遊矢と愉快なご一行か」

「愉快な…」
「ご一行…」

遊矢のおまけ扱いに衝撃を受けたアミと慶太より、地雷を踏まれた狩也が先手を打った。

「こっちは5人、お前は1人だ!抵抗するなら容赦はしねえからな!」

「はははっなにを言っている。貴様らなど数に入るものか、数の優位性で俺に勝てると思うなッ!」

ヴァイスから言わせれば狩也、アミ、慶太は頭数にすら入っていない。その事実が狩也を余計に奮起させる。
思わずデュエルディスクを手に取った狩也の手はヒカルが止めた。

「先輩!」
「ヴァイス、お前は…一体誰の死を望んでいるんだ…?」
「誰かの…?」

ヒカルの意外な言葉に互いの闘争意識が止んだ。
そればかりか、挑発を繰り返していたヴァイスが俯いたような気がする。

ヴァイスが言った死を望む誰かとは、ヴァイス自身ではないかとヒカルは推察した。
本当に復讐の神であるなら誰かの願いを叶えることもあるだろう。だがこの男がそんな優しさを持っているとは思えなかったのだ。

重苦しい静寂の中、漸くヴァイスが口を開いた。

「俺が望むのは人類への制裁のみだ」

「じゃあ、不特定多数の死を望むってことなのか…!?」

「その中で犠牲が生まれるなら已む無しだ。だがな、たった一人、そうしなければならぬ奴がいる」

空気がピリピリと張りつめる。
すぅっと息を吸い込んだヴァイスは"彼"を見て言った。

「風雅遊矢ッ!貴様は俺が討ち落とす!」

「なっ!?」
「遊矢を!?」 

「貴様のことが憎いと叫んだ奴がいた。ならば、神たる俺が応えぬはずがなかろう」

先程と同じく掲げた左腕から白い光が溢れ出る。
悪神の輝きとは思えぬその眩さに目が眩んだ瞬間だった。

「故に苦しめッ!爪の先から髪の一つも残さずにもがいてみせろ、神話の装甲ッ!!」

「なに、っ!?」
「風!?うわぁっ!!」

ヴァイスが放った白い光は先程遊矢が乗って来た竜巻と同一規模の暴風を巻き起こし、その場のほとんどが風に耐えられずに飛ばされてしまう。
耐えた遊矢が後方の仲間たちに気が行った隙に、その足元の地面が紅い輝きを放ち始めた。

「ッ!!な、なんだよ…これ!?」

足元から洩れる結界。
その光は遊矢の体に指先から変化をもたらした。
徐々になにかの模様が浮いてくる。それはいばら姫の城に茨が巻き付いていくのと似た異常を遊矢の体に起こしている。

「うぅ…遊矢…!!」

遊矢の様子に気がついたヒカルがよろよろと起き上がってきたところをあちら側は見逃さなかった。

「あ、っ!?」

瞬間移動を思わせる動きで現れたヴァイスはヒカルを脇に抱えて上空へと飛び立つ。

「っ!先輩!!」

「おい狩也!!」

遅れて立ち上がった他3人はなにもできずにそれを見ているしかできなかった。

ただ狩也だけはなにも言わずにその姿を追い掛ける。
遊矢の状況を無視してただひたすらに。

「あのバカ、なにやってんだよ…!!」

「遊矢!!大丈夫!?」
「なんか…体が、重い…」

地べたにへたり込んだ遊矢の顔に汗が滲んでいる。
困惑したアミがちらりと一瞬だけ見た両腕はゾッとするほどに変わり果てていた。
少しずつ黒々と変化する姿を見ていられずにアミは目を背けてしまった。

「どうして…こんな…」
「大丈夫、アミ…。それよりヒカルは…?」
「そんなこと今聞かないで!!」
「早く追わないと…」

「遊矢さん!!」

衰弱して動くこともままならない遊矢に、後ろから少女が声をかけた。

「レッカちゃん!?」
「ここは私がなんとかします!早く追ってください!」
「でも…!」
「狩也さんだけでは勝てませんから!」

遊矢を包む結界に両手を当てて目を閉じたレッカは慶太とアミへ声を飛ばす。

それに納得はできたか、いないのか分からないが、慶太はアミの手をひいてその場から立ち去る。

狩也がヴァイスを追った方向へ向かって二人は駆け出した。


~~~


「ッ放せ!!このっ!この!」
「望みなら離してやろう。ま、落ちて死ぬのが目に見えるがな」

ジタバタ暴れるヒカルを正論で押し込み、地上で追ってきているだろう追跡者たちの姿を捉えてニヤリと笑う。

こうすれば遊矢に対して友達意識の薄い狩也は追うに決まっている。
その上どうやら援軍が来たらしい。慶太とアミが更に後ろからその姿を追ってきている。

無論ヴァイスにとってはこのチェイスも単なる気まぐれに過ぎない。
何故か、手にすべきものを奪った今ならすぐに異界にダイブしてしまえば彼らに追う手段はない。
そこから結論付けられるこの行動の意味は一つ。

「よかろう、数など毛ほどの有利になるものか。俺の初陣に、貴様らの命を以て華を飾ることを赦す!」

自信満々のこの男を間近にしこう抱えられていることしかできないのが中々歯がゆい。
どうにかして顔を見ることはできないものかと上手く角度を変えるが、仮面の形状を若干把握したこと以外は特に目新しいものもない。強いて言えば、風で揺れる白いフードの端から金の髪がちらりと視界に入ったくらいか。

「…金髪…?」

ヴァイスという名前から見た目まで真っ白な男が髪の色は金とはまた可笑しなものだが、その鮮やかな金髪にヒカルはどこか既視感を感じていた。


━━━━━、


一方地を全力で駆ける狩也たちは、上空を飛ぶヴァイスが何者かと合流したのを確認した。
だが合流した後なにを始めるつもりか、左右に分かれていく。

「二手に分かれたぞ!!」
「…アイツ」

分かれた時、左側に跳んだ男が狩也と視線を合わせた。
まるで狙いを定めた猛禽類のごとき眼だ。
それに対する狩也の表情の変わり方を見た慶太は分かれ道の、右の道に逸れながら言う。

「狩也、お前は左のやつ頼む!」
「慶太くん!?」
「俺らが真っ白野郎を押さえてやっから、やりたいことをやりたいようにやれッ!!」

「…分かった!」

少しだけ言い淀んだ狩也は返事を返してすぐに左へと疾走していった。

見届けたあと、慶太とアミは右の道を抜けて、工業地帯特有の狭い道や迷路のような通路を通り、あやしいガスの臭いが漂う廃工場の広場へと到達した。

そこには頬をついて退屈そうに待っている白い男。
と、その後方、二人にとって見たこともないような不思議な構造をした檻に閉じ込められているヒカルの姿があった。

「おう!待たせたな真っ白野郎!」
「遊矢になにをしたの!?」

「はぁ…人間はいつの時代も厚顔無恥な輩しかいないのか。文明が栄えようともその性質は変わらんのだな」

ヴァイスは瓦礫から立ち上がり二歩三歩先に進んだ後、左腕を掲げ黒い霧からデュエルディスクを精製した。
そのディスクはどこかで見た気がするような、しないような形状をしている。
だが慶太やアミに、それを気に止める余裕はない。

「最初からやる気なら!」
「デュエルで勝って、全部聞き出してやるッ!」

二人のデュエルディスク、花や蝶を模した華やかなそれが展開され、辺りはARフィールドへと変貌を遂げる。

「「「デュエル!」」」

《LP:4000》

火蓋は切って落とされた。
敵は未知の存在。どういうものか、デュエルという概念以前に何者かも分からない。
しかしなにも知らないからと言って、負けるわけにはいかない。二人にはその仮面を剥ぎ、白い男から二人の未来を奪い返さねばならないのだから。

「っ…!?おい、誰かそこにいるのか!?」

「ん?」
「ヒカルさん!!私たちです!アミです!」

ヒカルの声が檻の中から響く。
だが様子がおかしい。まるであちらからはアミたちがなにをしているか、なにも把握できていないかのような言い方だ。

「なにも見えない…!くそっ、どうなってるんだこれ!」

「大したことではない、貴様の視界を一方的に遮断させてもらった。見るに堪えん殺戮は精神に苦だろう」

どうやら敵には敵なりに気遣いをしているつもりのようだ。全くもって余計なお世話だが。

視界を遮られた状態ということはヒカルからデュエルの内容は全く確認できない、ということだ。
ヴァイスの手の内を絶妙に隠す手段としては申し分ない。

「貴様らはフィールドのカードを共有することを許す、そしてライフポイントは互いに4000持つといい」

「随分余裕じゃねーか」
「バカにして…!」

「代わりといってはなんだが先攻をもらおう。では、ゆくぞ」

ルールは変則のタッグデュエル。
2対1の方式で、二人はフィールドを共有するがライフポイントは共有しない。しかもヴァイスに与えられたのは先攻の権利のみ。
明らかにアミたちが有利だが、先程ヴァイスは数は意味を成さないと豪語した。勝てる自信があるというのか。

「俺は手札より魔法カード《二対転輪》を発動!デッキからカードを2枚選択し、ゲームから除外する代わりに、デッキからカードを2枚ドローする!」

「先攻はドローできないっていう不利を早速…」

40枚のデッキから引き抜いた二枚のカード、それらにヴァイスは明らかな高揚を見せた。
これからなにが始まるのだろうか。

「見せてやろう。これがあらゆる世界、あらゆる事象より俺が取り込んだ力の一つだ!」

手札からカードが2枚選ばれた。2枚、つまり魔法や罠だろうか。危険な香りがフィールド内に立ち込める。
だが、それらは予想を遥かに上回るものとなって二人に立ちはだかることとなった。

「俺は《転生の堕天使》と《輪廻の智天使》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
《L:1》 《R:10》

「ペンデュラムスケール!?」
「なにそれ!!」

スケール1の《転生の堕天使》とスケール10の《輪廻の智天使》がペンデュラムゾーンにセットされた。
これによってレベル2から9のモンスターを手札から召喚可能となる。

一見すればこのプレイングはとるに足らないものだろう。
だがそれは、"この世界では"非常識となる。

「ペンデュラム召喚!現れろ、我が手に宿る力よ!《機械堕天使 スカーバティ・ネメシス》、《機械堕天使 ヘブンズ・アルテミス》!」
《ATK:3000/Level:8》
《ATK:0/Level:2》

禍々しくも美しい両翼は楽土か天国の使者のものか。二体のモンスターはその見た目に似つかわしくないフィールドに顕現した。

「なんだ、あれ…」

「ペンデュラム…?なにがどうなって…?しかも、機械堕天使…!?」

出現した2体のモンスターのレベルは全く異なっている。
召喚条件すらロクに知らされぬまま、"未知の"召喚法「ペンデュラム召喚」は行われた。

ペンデュラム召喚とは、特殊なモンスターカード「ペンデュラムモンスター」を2体必要とし、ペンデュラムゾーンと呼ばれる場所に2体をセットすることで、レベルとは異なる「スケール」の数値の間のレベルを持つモンスターを複数呼び出す召喚だ。
今回の場合スケールは1と10。つまり、2から9のレベルのモンスターをペンデュラム召喚が可能だったわけである。
(※現マスタールールでは、ペンデュラムゾーンは魔法・罠ゾーンと合併されていますが、本作では前マスタールールを採用していますので、ペンデュラムゾーンは別枠とさせていただきます。)

「これこそがペンデュラム召喚。事象"ARC-V"より生み出された覇王の技術だ」

「ペンデュラム召喚…なるほど、そういうこと…めんどくせえなこりゃ」

オチャメに片目を瞑った慶太。内心はあの敵に対して前人未到の勝利を上げるための策を考えることで精一杯、余裕なんて無い。
隣のアミはあからさまに動揺している。慶太がなんとかしなければ、パニック状態になってしまうかもしれない。

「俺はカードを1枚伏せ、ターンを終了する」
《Hand:1》

モンスターの効果はどうなのか、ペンデュラムモンスターは本当に召喚にしか使えないのか、二つの疑問が慶太の脳内を駆け巡る。
しかもトドメを刺すかのような「機械堕天使」というカテゴリ。昨日の今日でこれとはなんの因果なのか。
そもそも何故機械堕天使を使っているかが不明な点は置いておくが。
だが迷う暇はない、戦いは始まっているのだから。

「俺のターン!!」

アミにできるだけのサポートをする、これだけで戦況は大きく変わるはずだ。
未知の召喚法・ペンデュラムと機械堕天使たちに対抗できるのは今ここでアミにしかできない、"エクシーズシンクロ"だけだと信じて慶太は戦うしかない。

「俺はカードを3枚伏せる、そして《鎖鳥の竜騎士 ネモフィラ》を召喚ッ!」
《ATK:0/Level:1》

凛と咲く花はネモフィラの花の小さなワイバーンに騎乗し、力強く剣を抜いた。

「ネモフィラは俺のフィールドにカードがセットされた状態で召喚に成功した時、伏せカード2枚とネモフィラをゲームから除外してエクストラデッキからレベル8以上のモンスター1体を、召喚条件を無視して特殊召喚できる!」

小さな体に大きな可能性。
ネモフィラには伏せカードと自分自身を生け贄に捧げることで、強大な力を産み出すことができる━━━のだが、モンスターエクシーズが持つのはレベルではなくランクだ。もちろん慶太がモンスターエクシーズを持っているわけがない。
ならば誰がレベル8以上のモンスターを呼び出すのか、もう決まっている。

「アミ!!」
「わ、私!?」
「うん!」

そう。エクストラデッキにレベル8以上のモンスターがあるのはこの場でたった一人、アミだけだ。
慶太からの支援で落ち着きを取り戻したアミは、デュエルディスクのエクストラモンスターカード収納スペースから飛び出した一枚の白い枠のカードをディスクにセットした。

「来て!瑠璃色に煌めく蝶の竜!《煌蝶竜 ラピスラズリ・バタフライドラゴン》ッ!!」
《ATK:2800/Level:8》

荘厳にして美麗な瑠璃の体を持つ竜。
目を覆ってしまいたくなるほどにまばゆい輝きに、重苦しい覇王の気配を一瞬で消し飛ばされた。
この世のものとは思えぬ"奇跡(シンクロモンスター)"は、蒼いネモフィラの花舞う世界に現れた。

「見たかッ!俺たちのコンビネーション!」

「ふんっ…たかが即席程度でなにをほざくか。呼び出しただけではスカーバティ・ネメシスにも劣る木偶の坊にすぎん」

「私のラピスラズリ・バタフライドラゴンは木偶の坊なんかじゃないわ!」
「そうだぜ!さぁアミ、ガツンと決めよう!ターンエンドだ!」
《Hand:2》

フィールドを共有しているため、慶太はフィールドを開けたままでもターンを終えることができる。
しかもこの変則ルール、次にターンが回ってくるのは…。

「私のターン、ドロー!!フィールドに「蝶竜」と名のつくモンスターが存在する今、魔法カード《クリスタル・ムーン》を発動!」

《クリスタル・ムーン》は自分フィールドに「蝶竜」と名のつくモンスターが存在する時、エクストラデッキからエクシーズチューナーモンスターを特殊召喚できるとても強力な魔法カード。

そしてエクシーズチューナーモンスターとは、これからアミが行う「エクシーズシンクロ召喚」に必要不可欠なモンスターだ。

「現れて!エクシーズチューナー、《クリスタル・ローズクィーン》!!」
《ATK:0/Rank:4/ORU:0》

エクシーズシンクロ召喚、それはシンクロモンスターをエクシーズチューナーモンスターでチューニングして行う奇跡の召喚法。
シンクロモンスターともモンスターエクシーズとも違うモンスターは互いの性質を掛け合わせ生まれる存在だ。

「私はレベル8のラピスラズリ・バタフライドラゴンにランク4の《クリスタル・ローズクィーン》をチューニング!光満ちる時、希望開く星光なる蝶…今舞い踊りて輝く未来を!エクシーズシンクロ召喚!煌めけ!《水晶蝶姫 クリスタル・ディーヴァバタフライ》!」
《攻撃力:3000/ランク:12》

四つの光の輪が天に昇り、竜は光目掛け羽ばたき、体を八つの光に変えた。
その光から開いた新たな道には蝶竜と同じ輝きを放つ水晶の蝶の翼を宿した、華々しく美しい歌姫のモンスターが降り立つ。

これぞエクシーズシンクロ。
モンスターエクシーズでありながらオーバーレイユニットを持たず、シンクロモンスターでありながらレベルを持たない蝶竜の化身の姿だ。

「クリスタル・ディーヴァバタフライの効果発動!このモンスター以外の特殊召喚されたモンスター全てを装備し、バトルの時全てを除外することで攻撃力を合計分アップさせ、その数だけバトル回数を増やす!」

「ペンデュラム召喚は特殊召喚扱い…、セッティングされたペンデュラムモンスターは問題ないが…」

大量召喚を持ち味とするペンデュラム召喚には効果絶大、予想外の痛手にヴァイスは思わず危機感を感じたか。

フィールドに召喚されていたスカーバティ・ネメシスとヘブンズ・アルテミスはクリスタルと化してクリスタル・ディーヴァバタフライに吸収された。

「ついでに罠発動!《重力転換-グラビティ・ソーン》!このターン、エンドフェイズまで俺たちのフィールドのモンスター以外、効果を発動できない!」

ペンデュラムモンスターがいかなるモンスターであろうと、効果を封じられれば手も足も出ない。
フィールドはがら空き、与えられるダメージ総数は12000ポイント。これが決まれば圧勝のワンターンキルコンボ完成だ。

「バトルよ!クリスタル・ディーヴァバタフライの効果で、装備した二体を除外して攻撃力アップ!2回のバトルを行うわ!」
《ATK:6000》

「よし!行けぇ!!」
「これで終わりよ!ダイレクトアタックッ!クリスタルハミング!!」

「ッ!!」

歌姫の歌が放つ光の波動が衝撃波となりヴァイスへ襲い掛かる。

ヴァイスは身構えこそしたものの、攻撃は直撃。
間違いなく倒した、それを確信できるほどの一撃であった。

土煙の向こうに消えたヴァイスの姿は確認できないが、ヒカルの様子は大きく変化していた。

「あ、あれ…?見えてる…?」

「ヒカルさーん!!」

「アミ、慶太…ってお前らなんでここに!」

「まぁまぁ勝ったんだからいいじゃないッスか~!!」

どうやら先程まで全く見えていなかったアミたちの姿が見えるようになったらしい。
更に檻が上部から消えてゆき、呆気にとられたままのヒカルが地べたに座った状態で残された。

「よかった!無事で本当によかった!!」
「見たか真っ白野郎!!これが俺たちの、正義の一撃だッ!!」

意気揚々とする慶太は拳を固めてヴァイスに対して叫ぶ。

だが━━━━、

「そうか。貴様らの正義は、この程度か」

男は目の前で嗤っていた。

「えっ!?」
「まだってことかよ…!!」

土煙の中に消えたヴァイスのシルエットは、マントのフード部分に隠されていた姿を描き出す。

"それ"の正体を後ろから見たヒカルは驚愕した。

「嘘、だろ…?」

「嘘なものか。だが、残念だ。わざわざ姿を晒すつもりはなかったが…仮面を剥がされた以上、仕方のないことだ」

徐々に晴れる煙の奥、壊れた仮面の中にある"白い眼"が二人の姿を捉える。
そして顔の上部を覆い隠していた仮面がヴァイスの鳴らした音ひとつで粒子と化して、煙と共に消えていく。

そうして現れた真の姿に、アミと慶太は言葉を失った。

「どうして…!?」
「━━なんだって、こんなことにッ!」

風に靡く金の髪は獅子のごとく、茶色の髪はふわりと揺れる。
開かれた瞳の色は森のように深い、"あの"深緑の瞳ではなく、不気味なほど煌めく白い瞳。

「なんでお前が……!!」

思わず叫んだ、仮面の奥のその正体の名を。



「托都━━━ッ!!」



あの日消えた非日常の彼は、闇を裂き、黒を白へ潰して現れた。



風雅遊矢へ、復讐を遂げる概念(ひと)として。





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====================
【あとがき】

今回の一言「ヴァイス様絶好調」
舌が回る回る、お前普段そんなに喋ったりしないだろってくらいよく喋る。ただ根が何一つ変わってないからアレもなにか機会があれば同じくらい喋りそうな気はする。

と、いうわけで!!一体何者なんだ(笑)と言われ続けたヴァイスの正体が明らかになりました!テンション高すぎて本当に本人は素顔を見せる気なかったのか。
あとヴァイスさん実はヒカルさんにはバレてた説を提唱しておく。驚いてはいたけど、金髪の下りでバレてたろ。
なによりも、ペンデュラム召喚初実装…!!!案ずるな、次回にその本気を見せてやろう。…本気じゃないけど。
アミちゃんのデュエルが久しぶりー!!二年ぶりー!新規カードがねえ!!!(悲しみ)
みんな大好き魔法少女ぶりを遺憾なく発揮してくれているアミちゃんに思わず聖桜もにんまり、慶太もにっこりである。
慶太の思わぬ連携プレーはなんだかコイツ永遠の二番手だなってのを確信させた。つかコイツまた主夫力上がった?
狩也はまさかの遊矢スルー。また狩也が遊矢と仲違いしてる…。別に遊矢と仲悪いわけじゃないよ、狩也が一方的にツンデレなだけだよ(要するに仲良し)。
遊矢はなんかよくわからないトラブルが!!あれはなにが起きたんですか!次回以降を見ろ!!

次回!ついに明らかになったヴァイスの素顔、衝撃の展開にヒカルがとった行動は…?
そして、謎の影を追った狩也はその影と対峙する。一撃必殺のデュエルが今始まるッ!!まだ6話だよぅ!?

【予告】
正義を成す為、悪となれ━━囁かれた言葉は黒い空の下で木霊する。
いつから黒だけが穢れであると言われていたのか、そこに在るのは世界を潰す白き特異点。
繰り返される人生(ひげき)の中で、見つけた答えを果たすため、彼は時を廻り続けた。
そう、これは人類への救済だ、と彼は云う。
第6話「悲劇より顕れる」


===


はぁ…久々のデュエル回だと思っていたら、何故かデュエルが中断されていた。

その上アミにメインデュエルを取られる始末。

慶太はともかくアミが今さらデュエルしていることに誰も違和感はなかったのか。

これが、展開の圧力…。次回もデュエルはないんだろうな…。


===

【夏休みの思い出…1】


「夏祭りだぜッ!!」
「……」
「そうか」
「ってぇ…二人とも!!今日のお祭りいかないのかよー!!」
「行ってどうするんだよ、この家から花火は見えるし、騒ぎになるのが目に見えてる」
「くっ…正論…」

で、でも!!どうしても二人と行きたい!夏祭りに行きたいんだ!!
なのに…二人はどうしてこんなに落ち着てんだ…?…あ、いや冷めてるのかもしれないけどさ。

「頼むぜヒカル!!」
「いやだ」
「托都!!」
「…遊矢、聞きたいことがある」
「えっ!?なになに!!」

もしかして、一緒に行ってくれるんじゃ━━━!!

「夏祭りとは…なんだ」
「うんうん!ってえええぇぇぇ!?」
「祭りと言われれば、分かるが…夏が付くことによって、変化があるのか?」
「…」

祭りに夏がくっついたら起きる変化…たしかに、ただの祭りと変わらないよな…いやいや俺が知らないだけで実はなにか違いがあるとか、ないとか…あるとか?

「多分…」
「多分?」
「夏祭りに行けば答えが見つかるはずだッ!!」
「ならば行こう」
「よっしゃあ!!」

ちょろいッ!!
あ、でもホントになにが違うのか気になるなぁ。探してみる?

「(夏祭りの起源が分からないのかこの二人。…面白そうだから観察するか…)」
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第4話「萌芽」



雲から月が覗く夜。

此処は『彼ら』の時代から遥か昔。
未だ汚れを知らない優しさでできた山中の村。


「あのねあのねお兄さま!今日はとっても良いことがあったのよ!」

狭い民家の一画を占拠している大きいベッドの中で、ホットミルクを啜りながら少女が楽しげに語りかける。
兄と呼ばれたその人は自分の分のミルクを淹れて椅子に腰かけると、少女と同じく笑顔で返事を返した。

「へえ、どんな良いことだい?」
「隣のおうちのミッシェルがね、今度ケーキを焼いてくれるの!お兄さまとわたしの分!」
「そうか。ミッシェルさんの焼くケーキは村じゃ評判だからな」

小さな村の中ではなにか突出した特技を持つ者が全体から称賛されることはよくあること。
ミッシェルという人物の場合はケーキを作ることが得意らしく、一日歩いて漸く辿り着ける町にある高級なケーキに負けないくらい美味しいと村中で高い評価を得ている。

「はやく元気になりますように!っておまじないをかけてくれるんだって!」
「…そうか」

こうした会話だけを見れば快活そうな少女だが、彼女は生まれつき難病を抱えている。
現代ならきっと治せるものだ。しかしこの時代の、しかもこの山奥の村ではやれることなど限られている。
両親は他界し兄が一人で働き妹の面倒を見ている。
少女ができるだけ明るく振る舞っているのも、いつも世話をしてくれる兄のためなのかもしれない。

「もう遅い、俺は部屋に戻るけど、一人で眠れるかい?」
「えぇー!お兄さまと一緒に寝たい!」
「こーら無理言わない。代わりに明日はセーラが好きなシチューを作るから」
「ホントに!?」
「あぁ」
「約束よ!絶対の絶対に!」

小指と小指を繋げて指切りげんまん。

星の流れる夜の村の小さな約束だった。


~~~


太陽が沈みきり月が昇った頃、人の温かさを失った家に戻ってきた。
戻ってきたとはいっても、家主はいない。
たった一日明けただけなのに何故ここまで状況は変わってしまったのか。

『アナタさえいなければッ!!』

「ッ…!!」

突き刺すような少女の罵倒が耳に残って脳内を領域侵犯してゆく。

話は数時間前、新たな敵の出現に伴う情報交換の際に現れた白い髪の少女。
「レッカ」と名乗った少女は病室にヒールを鳴らして踏み入ると、まずヒカルに対し散々罵倒を繰り返した。
「ヒカルがあの家に行く話を持ち出さなければこうはならなかった」
「全ては不甲斐なさの自覚ができていないヒカルのせいだ」
と、部分的に正論が挟まっている分、ヒカルの心はナイフを本当に刺したかのようにボロボロにされてしまった。

遊矢や狩也、更にはリンが「予測できない事態」であったことを説明し、最終的にはリンが文字通り黙らせたおかげでそれ以上はなかった。
だがヒカルがその場で口を開くこともなかった。

遊矢たちに囲まれとにかく自宅に戻ることになったが、一緒に居ようという提案を振り払い、こうして一人暗い部屋の中でうちひしがれていた。

「全部、全部俺の責任だ」

ベッドで寝ない癖がついてしまっている托都がいつも寝ているふんわりとした黒いソファーに腰掛けて、そのまま体を横たえた。

なにもする気が起きない。
なにかを考えることもままならない。

覚悟を決めてもなお辛かった2年前の消滅よりもっと心に痛みをもたらす別れ。

無感情なまま流れる涙を止める誰かがいない。

「全部…っ…なにもかも…、俺が、いなかったら……っ」

一人呟く声は静寂に融けて意識ごと沈む。

暗闇に紛れてひとつ風がその場から立ち去った。


~~~


「どうだった、先輩」
「声はかけられそうもない」

様子見から戻った遊矢のため息の大きさで分かっていたが、実際の凹みようは尋常ではないようだ。
狩也がチラリと見た先、悪びれなくレッカが冷たいお茶を啜っている。

「…それで、どうやって責任取るつもりだ?」
「私に落ち度はありません。それにあの人が落ち込んだところで関係ないです」
「あのなぁ…先輩が一番ショック受けてるんだ、追い詰めたらあの人はとことん沈むからな」
「狩也、いつの間にヒカルのことそんな」
「いいだろ今は」

遊矢が覚えている記憶の範囲内で、ヒカルと狩也の関係性が深く進行していた覚えはない。
が、狩也はうんうん頷きながら先輩は~と言っている。
というか、狩也はいつからヒカルを先輩と呼ぶようになったのかすら分からない。

ぷいっとそっぽ向いたレッカの前にアミがクッキー生地と白いチーズが美味しそうなレアチーズケーキを差し出して、その隣に座った。

「レッカちゃん、だったよね。私アミ、よろしく」
「ええ、よろしくお願いします。…あれ?」
「どうしたの?」

握手したままじーっとアミの目から視線を逸らさないレッカとそのままじーっと見つめられているアミ。
なんとも言えないシュールな光景だ。

「どこかで会ったような…初めて会った気がしません…」
「うーん、不思議なこともあるわね」
「まるで平行世界のようなイリュージョンです」

外野の二人からしたら言っていることがさっぱり分からない。とにかくレッカはアミに見覚えがある、らしい。

「しかし、あんなことほざいたからにはお前にはなにかあるってことだよな」
「さっすが岸岬狩也、勘だけは鋭いですね」
「勘だけはってなんだよ勘だけはって!」
「落ち着け狩也!話にならねえから!!」

チーズケーキを頬張りお茶を流し込んだ後、レッカは姿勢を正してから話を始めた。

「まず私は、彼ら…リコードイミテーションを裏切り、ハートランドにやってきました」
「リコードイミテーションを、裏切った!?」
「はい」

つまりレッカはリコードイミテーションの一員だった、と言っているのだ。
狩也が思わず一歩後ろに下がり、フリューゲルアーツとデュエルディスクを構えかけたのを遊矢は左手でそっと動きを止めた。
まだ様子見、ということか。

「組織は、神への復讐を望み、白き概念神の転生を狙っていました」
「白き概念神?どういうこと?」
「概念神とは、人間や生物が持つ概念が魂を持つことで生まれる存在。白き神の場合、司る概念は『復讐』」

神への復讐とはまた大きく出たものだ。
だが、アダムとイヴと名乗る二人組ともなれば、旧約聖書に準えて神々になんらかの思惑を持っていたとしてもおかしくはない。
ましてや彼らは楽園を追放され、罪と罰を得た。それらは現在の人間にも継承されている。
その軛から解き放たれれば、人間の世は大きな様変わりを遂げるだろう。
尤もそれが良い意味で変わるとは限らないが。

そして、復讐の足掛かりとしてまずは『復讐』の概念そのものへの協力を仰がんとしている。
本来そんなことはありえない話だが、錬金術を扱うような人間がまともな道理と思考を持ち合わせているはずがない。

「概念神に関する詳しい話は私にもよく分かりません。恐らく、アダムとイヴのみが知るところなのでしょう」
「じゃあ托都は…」
「彼は人外、いえ…半神の人間です。神を呼び覚ますためには、神を生贄にする必要があるのかもしれない」

神を生贄に神を呼び出す。
文面だけでも末恐ろしいことだが、それが意味するのは白き神の現世への再臨と、托都を失うということ。そんなことが起きてしまえば最早誰がなにをしても手遅れになってしまう。

「リコードイミテーションを、止めよう」
「遊矢…」
「なぁみんな、お願いがあるんだ」

遊矢から出された提案。
それにレッカを除く狩也とアミが頷いた。

「もう、ヒカルには戦わせない」


~~~


深い闇の奥底に辿り着いた。

何処か高い場所から突き落とされた感覚が身体に残っている。

「おとうさん!」

父と呼ばれたその人は返事をすることもなければ振り向くこともしなかった。
待って、という制止をも無視して歩き去る背中を小さな子は追った。

しばらくして父は漸く歩みを止めた。

「君は誰だい?」

優しげな父の笑みに悪意はない。
迷い子に語りかけるような言葉は、『父』ではなく他人の『男』のものだ。

それに言葉を返すことは叶わず、男はまた振り返り、今度は正面からやってきた赤ん坊を抱いた女と去っていった。

「ねえ」

呆然とする少年に誰かが声をかけた。
聞き覚えのある声はあの日、死にかけた自分を助けた女性とよく似ていて、期待と不安を抱えながらその名前を呼んだ。

「夜月!!」

女性は驚いていた。まるで、鳩が豆鉄砲を食らったかのように。

「ぼく、迷子になっちゃった?パパとママはどこにいるかな?」

視線を同じ位置にすべく膝を曲げて夜月は首を傾げて優しく聞いた。
名前を呼ばれたことは聞き間違えだったと言わんばかりに反応はない。

「夜月!おれだよ!わかるだろ!」
「ん…?どっかで会ったかな…。わからないなぁ、ごめんね!」

彼が知っているその人ではなかった。
女性は彼の頭を撫でて、どこかに去っていった。

「待って!!」

誰も、彼を知らない世界。

最初からいなかったことが当たり前の"真実"だと主張する世界の一端から、幼い少年は駆けていく。

誰か、誰か、気付いて

声は届かない。
いつの間にか周りを歩いていた人の群れに顔はない。少年が彼らを知らないように彼らも少年に気付くことはないのだ。

「誰か…!!」

いつしか少年は成長する。
色を失った世界の下ではその孤独を知る人はいない。
ただひたすら逃げるように走り続けて、人の波を抜けた場所に辿り着く。

そこには、

「…あぁ、そうか」

楽しそうにはしゃぐ青い髪の幼児は少年になり、あの両親や友に囲まれて成長する姿があった。
生き方もそれに伴う喜びもなにもかもがないものだった。

羨ましい、疎ましい、妬ましい

あらゆる感情が波となって心を覆う。
笑う少年の姿に息もできない苦しさを覚え、暖かな世界が遠く感じた。
呼吸ができなくなって、膝をついた。

「ね、大丈夫?」

頭上から少女のような、少年のような耳慣れた声がする。

「なんか見覚えがあるんだけどさ…えっと」

青みのある紫の髪が懐かしい彼の名前を思わず呼んだ。

「ヒカル…?」

必死に記憶を掻き出そうと目を閉じて頭を掻く。
そしてポンッと手のひらに拳を乗せてひらめいた!と子供のようにジェスチャーを示した彼は言った。

「たしか━━━!」

「ヒカル!!」

名前を確かに呼ぼうとした。
しかし誰か、快活そうな少年の声に呼ばれて彼は呼ぶことをやめてしまった。

手を振り彼を呼ぶのはやはりあの少年だった。

「あぁ、今行く!」

声をかける間もなく彼は少年の元へと消えていく。

待って、なんて言えなかった。
あの時約束したことは嘘だったのかとも責められなかった。
たった一人だけの存在すら自分には与えられないのかと、立ち上がる意思をも食い散らかして悲しみに嘆いた。

胸の苦しさを解消することも、心の痛みも癒やすことも叶わないまま彼らは日常を謳歌している。
見ていることしかできない。それらに介入することはできない。

全て、全てが少年に奪われてしまった。
大切だった一人息子はどうなった?
自分に優しくしてくれた姉のような人は?
寂しさを埋める約束は?
自分の手元にあったものは儚く、"なかったもの"として微塵も残らずに少年の手元へ。

憎らしい、憎らしい、憎らしい

あぁなりたい、そういたいなんて希望のある感情では語れるものではない。
この感情は最早嫉妬を通り越した憎悪にも似ている。
涙は出ない、それすら流すこともできないほどに、かつての怒りが奥底から溢れ出す。

━━━やはり、彼は間違ってはいなかった。

境界で出会ったもう一人の…過去の自分が抱いた"怒り"の感情。
それらを秘め事など理由をつけて奥底に押し込めておくことができるはずがなかった。
10年以上の痛みと苦しみを少年が知るまではこの炎が消えることはないのだと、ついに確信した。

「そうだ。貴様はなにが望みだ」

上から落ちる何者かの声に、またも顔を上げる。

"白い瞳"

色のない白が見下ろしている。
それを見て確信した、「あぁ、これには今思う願いを叶える力がある」と。
すぅ、と息を吸い、全てを吐き出す思いで、白い瞳に願いを吐露した。

「そうか」

なにもかもを塗りつぶす白い瞳の声はそれを好しとした。
叶える代わりに条件があると言う。

「己が罪を受け入れろ。そして━━━、その"個"を頂こう」

そんなものは大したものではない。快諾した。
近づく瞳の主は見たことがあるような姿だったが、それにも興味はなかった。
憎しみ、怒り、その感情が力を得るというのならなにもないのだから失ったところでなにも意味はない。

美しい深緑だった瞳はいつか、その色すらも失った。


━━━━━、


「…?」

一体今までなにがあったのだろうか、瞼を開けばそこは普段となんら変わらないハートランドシティだ。

「ここは…?」

あちらこちらと見回しても不審な点は見当たらない。
まるで今まで夢でも見ていたかのようだ。

「俺は、一体なにをして…」

直前までの記憶がすっぱ抜けている。
だが自分の家の位置は分かるし、もちろん自分が何者かも分かる。特に違和感のある部分はない。

夏の暑さで一瞬記憶がトんだ、なんて天外な話だがそういうことにしよう。
と、帰路についた。

町を往く人々は平和そのものだ。
楽しげな家族連れやカップル、仕事終わりのサラリーマン、友人たちと歩く学生や旅行者等々、十人十色。
暫く町を歩くこともなかった、久々に肌に感じる優しさがどこか安心感を覚えた。

その中、一際目立つ兄弟が居た。どうやら喧嘩しているらしい、どちらも小学生ほどだ。
兄は背伸びまでして弟からカードを引き離そうとしていて、その兄の行為に弟は泣きながらジャンプしている。
兄の身長と弟の身長にはだいぶ違いがあった。

『兄弟』

そのワードが胸のどこかに突っ掛かる。
だが気にするほどでもないためその場を後にした。

次いで視界に入ったのはツーリング中の男女だ。
少し年長の女性は彼女や妻と言うには様子が違う、どちらかと言われれば姉のようだ。
後ろの少年は中学生くらいか、さっきの兄に似ている気がする。とても愛らしい笑顔で話を弾ませている。
その女性を夜月、と呼んだ。

『夜月』

どこかで聞いたような名前だ。
だが芸能人かなにかの名前を聞いただけだ、きっと知らない誰かだろうとその場を後にした。

気付けば自宅の前にいる。
扉を開き、明るい室内へと足を踏み入れた。

「おかえり!」

ハッと顔を上げた瞬間、『彼』の顔が視界に入った。
なんとなくその声を聞いて安心したのか、返事を返さずにすぐにソファーに寝転がってしまった。
この香りもいつもと変わらない。

「今日はどうしたんだよ、急に飛び出して。まさか、またなにかあったのか?心配したんだからな!」
「別になにもない」
「じゃあケーキ買ってきたとか!」
「ない」
「ちぇっ」

つまらなさそうに足をバタつかせるのを見ていると、視線に気付いたのか近づいて、微笑みながら聞いてきた。

「ここに来て安心してる?」
「あぁ」
「それならよかった」

「ここに来て」が、どういう意味の問いだったか、考えることができるほど意識ははっきりしていない。
それほどに今は眠たいのだ、命のある限り眠りにつきたいほどの睡魔に意識が遠のいていく。

「もう、疲れた」

"ここならなにも起きない。平穏のまま、ただゆったりと過ごしていられる。"
"だからおやすみ。"

"ゆっくり、永く永く、永遠に。"

「ずっとここにいるから」

声は、遠い記憶のあの人のように心地良い。


━━━少し眠ろう。


まだ月が昇らない室内で静かに眠りについた。


~~~


小鳥が囀ずる音がする。
カーテンの隙間から差し込む朝の光が眩しい。

ヒカルは夢の中で見たこともないような笑顔を見たような、そんな朧気な記憶の縁から現実に引き戻された。

「…朝まで寝てたのか」

握りっぱなしの手を開くと、日の光に照らされた紅く輝く宝石があった。
フリューゲルアーツ、托都が唯一残したもの。

彼は自分が日常の中にいたことを覚えていてほしいとだけ伝えて消えた。
それは彼の存在を忘れない、だが忘れてこれから生きていくことを要求したのかもしれない。
そんなことがヒカルにできるはずもないが。

「ここじゃ落ち着かないな…」

モヤついた感情が溜まっている分、外に出て気分を少しでも変えた方が良さそうだ。

最低限の準備だけして家を後にした。

…のを、影で見守る二人が居た。

「遊矢、なんだこれ」
「決まってんだろ。ヒカルを見守り隊だよ」
「昨日の今日でなにやってんだオイ」

色違い縁のお揃いの眼鏡、遊矢の方は特徴的な髪の色を隠す地味な色の帽子を被っている。
狩也のツッコミのキレがいつもより数段鋭いような入り方をしたが、傍目から見ればどっちも不審者である。

だが町行く人の目線はそんな不審人物にはない。
その先を目的もなく歩くのは普通生活していて滅多に遭遇することのない偶像世界に住む人だ。

「あのヒカルが変装もせずに町を彷徨くなんて、やっぱり…」
「…先輩」

人見知りで遠慮しがちなヒカルが人だかりに耐えるのはまず無理だ。更に付け加えると今はこんな状態、とてもじゃないが応えることも難しいはずだと遊矢は分かっていた。

遊矢がヒカルを戦わせないと言ったのは、彼の心を落ち着かせるため。
レッカの言い分も分かるがヒカルは加害者ではなく被害者だ。バカとはいえそれが分からない遊矢ではない。

「ヒカルは俺が守らなきゃ」

先を進むヒカルの背中を見つめて拳を握り固めた。

━━━━━━、

一方そのヒカル自身の話だ。

彼も自分がどこに進んでいるのか、全く分かってすらいなかった。
まず目的があって町を歩くならこんなにも足取りは重くないし、ちゃんと人目を気にして本来の姿を隠して行動する。
つまり目的地はない。あるとすればそれは夜中塵と消えたあの女の居場所だろう。

一刻も早く、托都の安否を知りたい。

「一体どこに消えたんだ…」

ぽつりと呟いて顔を上げた。
気付けば活気で溢れた街中ではなく怪しげな裏路地にいた。
どうやら歩きすぎたようだ。
キョロキョロ辺りを見回して大通りへの道を探す。
人がギリギリ通れるだろう道なら間を抜けて近道にできるはずだ、と狭い道を選んでいたその時のこと。

「あれは!」

道を抜けて消えてゆく女の姿。
濃い赤紫の長い髪は、つい二日前月明かりに照らされて夜風に流れていたあの女の髪と同じものだと確信した。

罠だろうがなんだろうが追わない手はない。
むしろ罠かどうかを考える余裕はヒカルにはなかった。

「ヒカル?」
「追うぞ遊矢。慶太たちに連絡」
「OK!!」

ヒカルの追走を見ていた二人も端末に連絡を入れ始め彼を追った。

女を追えば追うほど伝わるのは、罠の香り。
裏路地どころか古くさい工場地帯にまで誘い込まれている。間違いなく女は"わざと"ここにやってきた━━!!

「見つけた…ッ!!」

女が立ち止まった場所は円状に開けた工場の一角。

「さぁて、第二幕を開演しましょうか」

漸く互いに姿を捉えた。

夏だというのに何故か冷ややかな風が一帯を支配する。

「上等だ。こっちは二幕目どころか一幕目を上げさせる気はねえからな」

「あらまぁ強がっちゃって」

「虫の居所が悪いんだ。女だろうが誰だろうが容赦はしない」

イヴの笑みに対しヒカルの表情は険しいまま。
二色の瞳で睨んだ先にはあの夜なにもできないまま、抵抗すらままならない内に平和も居場所も奪った女がいる。冷静でいられるはずがない。
威嚇であり宣戦布告のつもりで構えたデュエルディスクの銀色が太陽光で金の色を放っている。

「いいわよ、私もそのつもりで出向いたの。未完の聖杯がほしくなっちゃってね?」

「お前が負けたらその時は分かってるだろうな」

「ええ、でも負けるはずがないでしょう?」

自信満々。
お前のような小僧に負けるものかといった様子だ。
妖しき女の余裕が果たしてどこまでのものなのか。実に愉快そうな表情を見れば見るほどにあの時の怒りが徐々に胸の内側にのしあがってきた。

「行くぞ!!」

「いつでも!」

「「デュエル!!」」

《LP:4000》

デュエル開始の宣言が合図となったか、空は厚い雲に覆われ、今にも雷と共に大雨を呼ばんとしている。

「先攻は私がもらうわ。私は永続魔法《幽獄塔 バベル》を発動!」

現れ出でたのは天を貫く魔塔。
その塔について、ヒカルは逸話もカードの効果も知っている。

神々に近づくため人類が創り出した禁断の塔。
それは神の怒りに触れ、罰を受けた人類は統一された言語を失いバラバラの言語での意思疏通を余儀なくされ、塔も完成しなかった。
これもまたアダムとイブと同じく旧約聖書の一節に刻まれている。

それより重要なカードの効果は、1ターンに1度デッキから「七異の怪」と名のつくモンスターを"コストなしで"特殊召喚するという強力極まりないもの。

「私はバベルの効果を発動。デッキから《七異の怪 アスモデウス》を特殊召喚!!」
《ATK:0/Level:10》

「攻撃力が0…?」

てっきり攻撃力3000や4000クラスのモンスターを呼ばれるとばかり思っていたが、「色欲」から連想するならハニートラップ、誘惑的な効果のモンスターを置いたのだろうか。

「私はこれでターンエンドよ。さぁ見せてもらいましょうか、プロフェッショナルがどんなものか」
《Hand:4》

「俺のターン、ドロー!」

立ちはだかる効果不明の不気味なモンスターに臆してばかりではいられない。
一気呵成に攻めて攻めて、討ち滅ぼすしか道はない。

「魔法カード《銀河の双翼》を発動!エクストラデッキから指定のランクのモンスターエクシーズを除外し、除外されたモンスターと同じランクの「ギャラクシー」と名のつくモンスターエクシーズを特殊召喚する!」

「エクシーズ召喚を行わずに…面白いわ」

エクストラデッキから選び除外したのはランク8の《煌轟竜 ギャラクティック・メテオ・ドラゴン》。
これでヒカルはランク8の「ギャラクシー」モンスターエクシーズを1体呼び出すことが可能となった。

「現れろ!《ギャラクティック・カオス・ドラゴン》!!」
《ATK:3000/Rank:8/ORU:0》

上空の雲を裂いて現れた神々しい銀河の竜。
爛々とした眼はまるで宇宙を産み出したビッグバンのごとき輝きだ。

「更に装備魔法《ギャラクティオン・ブレイザー》を発動し、ギャラクティック・カオスに装備!」

この装備魔法は、装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時貫通ダメージを与える効果がある。
本来ならギャラクティック・カオスが持つ効果と合わせたコンボを発動できるがオーバーレイユニットはない、どうやってコンボを成立させるつもりなのか。
切り札はすでに手札に備わっていた。

「そして魔法カード《ドラゴンズ・リゾルブ》発動!除外されたドラゴン族モンスター1体を選択し、そのモンスターを自分フィールドのモンスターエクシーズのオーバーレイユニットにする!」
《ORU:1》

先程の《銀河の双翼》で除外したギャラクティック・メテオ・ドラゴンはオーバーレイユニットとなった。
使うものは余さず使うのがプロフェッショナルのやり方といったわけだ。

「オーバーレイユニットが増えたことで、ギャラクティック・カオスの効果を発動!オーバーレイユニットを1つ使い、このモンスター以外のフィールドのモンスター全ての表示形式を変更するッ!」
《ORU:0》

《DEF:0》

わざわざ攻撃表示で呼び出すならきっとそれが理由で誘発させて発動する効果に違いない。
未知のモンスターが相手である今、守備表示にさせながらも攻撃は通りダメージも与えられるならそれが最も安全だろう。

「バトルだ!ギャラクティック・カオスでアスモデウスを攻撃!!ブレイザーストリームッ!!」

両脇に装備された機械的なビーム砲に《ギャラクティック・カオス・ドラゴン》が持つ星の瞬きが集束し、それらは色欲の悪魔目掛けて一気に解き放たれる。

食らえばダメージは3000だ。だがイヴはいまだ笑みを止めない、むしろ口角を上げて、力強く宣言した。

「アスモデウスの効果発動ッ!」

「なにを…ッ!?ギャラクティック・カオス!?」

放たれた粒子砲は風に流され、攻撃したはずの銀河の竜も様子がおかしい。
まるで、目の前の妖艶な悪魔に魅了されている。

「アスモデウスが"守備表示"の際の戦闘時、フィールドの状態を入れ換え、戦闘を続行する!」

「なんだと!?」

イヴは読んでいた。
"彼はあえてモンスターを守備表示に変えて、なおかつダメージを与えられるようなコンボを揃えられるはずだ"
と。

空間自体が歪み、鏡写しのように引っくり返った盤面に消えたはずの先程の粒子砲が迫る。
フィールドに現れたアスモデウスごと激しい光の奔流に巻き込まれ、ヒカルの体は後方へ吹き飛ばされてしまった。

「ッ……」
《Hikaru LP:1000》

読んだはずの先には更に先を読んだ女の巧妙な罠が仕掛けられていた。

地面に強打した背中がヒリヒリ焼けるように痛むのを我慢して立ち上がった時にはフィールドは元通りになっていた。
アスモデウスも含めて、だ。

「アスモデウスは戦闘で破壊できない。バトルが終わればフィールドに舞い戻るわ」

「何度でも攻撃を受けられるってことか…」

本来なら守備表示モンスターに攻撃してもダメージは与えられない、だが今は装備魔法によって貫通ダメージが発生する。
このままでは戦闘が行えなくなる。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
《Hand:3》

今伏せたカードは、相手のエンドフェイズ時に相手のモンスター1体を除外する効果がある。
これをうまく発動できたならまだ勝機は十分だ。

「このエンドフェイズ、アスモデウスの効果発動!」

「まだ効果が!!」

「バトルフェイズ時、アスモデウスと戦闘を行ったモンスターのコントロールを奪うッ!」

「そんな…ギャラクティック・カオスを…!?」

突如として甘い花の香りに満たされたフィールド内で、支配権を握る女王だと宣言するかのようにアスモデウスが鞭を振るった。
鞭が鳴る音に弱く唸った銀河の竜は、ヒカルのフィールドから消失しアスモデウスの後ろへと配置された。

味方のいないフィールドはがら空き、伏せた罠も攻撃を防げるものではない。
考えてみれば、こんな状況を相手のターンに作るなど誰が予想できたか。

「ふふっ、アナタの負けよ?」

「くっ…!」

負けたとは思わないがそれでも追い込まれているのは事実。巻き返しはそう簡単なものでもない。

だが諦めれば道は閉ざされてしまう。
ならば、諦めるわけにはいかない。

「諦めるか…絶対に、負けるわけには…!!」


「そうだ。貴様にはまだ役割がある」


上空から響くどこか耳慣れた低い声。
一瞬にして、正面のイヴだけを見ていた目線はその声がする空へ向けられた。

「何者ッ!?」

「なにを言うか、女。"貴様が"俺を呼んだのだろう」

「━━━まさか…」

険しいイヴの表情はみるみるうちに恍惚としたものとなり、上空の男へ声を上げた。

「アナタが…ッ!!あぁ!アナタこそは!!」

白い外套をはためかせなにもない上空に立つ男。
隠した頭と顔から感情は読み取れないが、明らかな"異常"と"畏怖"がヒカルの感じ取った全てだ。

これは、決してこの世界に存在して良いものではない。

"今すぐに消してしまえ"

心の底から誰かの声が聞こえるくらいに、その男が放つ圧倒的なエネルギーは、暗闇の雲を切り裂く刃となり顕現した。


「我が名はヴァイス━━━、世界に蔓延る"復讐"の概念神だ」


ヴァイス。
目を逸らしてしまうほどに白く、禍々しい男の名。


暗雲は途切れ、太陽は光のシャワーのように差した。





Next→

===================
【あとがき】

今回の一言「風雅遊矢絶対殺すマン」
なんか懐かしいけど本番はこれからやで、あと一週間待て!!
やっぱり大体遊矢のせいじゃねーか!!!
ヴァイス…一体何者なんだ……。

ヒカルメインデュエル回ッ!!!(決着つかない)
テンションの下げ上げが激しすぎてそろそろ胃潰瘍にならないか私は心配です。
こんなにも愛があるけどヒカルは托都より遊矢が好きなんやで、世界は無情だね。これが"真実"だよ。
(修正、今回大体ヒカルのせいだった)
いやこれネタでもなんでもなくて、ヒカルが遊矢ラブってのが"真実"で遊矢が居場所を奪ったのも紛れもない"真実"で托都が遊矢を憎んだ過去があるのは"真実"だった。
つまり仲間であるこの三人の積み重ねた時間が最悪の結果を生んだってわけです。
それがどういう意味かはまだお預けで、次回以降です。しかし追い込まれると托都は可愛げがある。むしろ通常から泣き虫モードにしてやるにはこうするしかない。
イヴさんのデッキはアダムと同じバベルの塔。しかし初お目見えなのに2ターンしかもたなかったぞ、次回どうなるのこれ。
遊矢と狩也が仲良くしているだけでかなり嬉しい、なんだってこんなに仲良しなのに前回あぁなったの、狩也くんったら天の邪鬼!

次回!!白き復讐の化身顕現ッ!!遊矢たちの前に現れた男の意図は…?
仮面の男・ヴァイスが語る新たな戦火の灯火。そして遊矢に試練が訪れる!!あの子のデュエルが2年ぶり!!!

【予告】
暗闇を裂く怨讐は、白き仮面に虚ろを隠し顕れた。
己の罪を認めた彼と己の罪を知らない彼らは只一つの真実を握り対峙する。
未曾有の災厄を前に花が踊り蝶が舞う。
迷い込んだ悠久の楽園に命を賭して、白い瞳は正義を前にただ嗤うのみ。
第5話「正義の為と、君は云う」


===


あぁ全く情けないッ!!

なんということだ、よもや深層世界の俺はあそこまで弱いなんて…!

まさか…、こうなればこんな姿も二人に見られるのではないか…?

あーッ!!それはいけないッ!!目を覚ませッ!!今すぐ起きろ馬鹿ッ!!


===

【界の空から帰還後…5】

「…?」

おかしいな。

「……?」

見つからないな。

「………?」

一体どうしたことか。

「あれ?托都、どうしたんだよ」
「ん?あぁ、遊矢か」
「なんか探してるのか?手伝うぜ!」
「すまない。これは一人で探さねばならないものだ、遊矢には見せるに見せられない」
「ええー?そんなぁ!」
「悪いな、本当に内容も言いづらいものというわけだ」
「そっか、じゃあ探し物頑張れよ!ばいばーい!」
「あぁ」

……行ったか。
さすがに、遊矢には口が割けても言えないな。"アレ"については。

「さて、探し物探し物…」

「あーッ!なにこれッ!?」

「なッ!?」

まさか遊矢が見つけて━━━!?

「托都!!なんか見つけた!!なにこれコスプ…あっつぅっ!?」
「人の歴史に気安く踏み込むことはやめろ、遊矢」
「えっ!?でもこれちっちゃいたく」
「いいな?」
「あっ…ハイ」

夜月め…!!まだ隠していたのか…ッ!!
こちらまで恥ずかしい思いをするなんて…なんて…。

「いっそ殺してくれ…」
「どうしてそうなった!?」

END
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===

第3話「堕天使の舞踏会(マスカレード)」


遠退く意識の中で、一点の光が灯った。

━━━手を…ッ!!

暖かい日だまりのような懐かしさに、身体は自然と動いていた。
その光に手を伸ばしたが時すでに遅し、意識はブツリと、コンセントを抜いたテレビのように消え失せた。

彼は、大切な人の望む世界を望めなくなった。
故に悔いはなかった。なかったはずなのに、何故なのだろう。

"あの人が幸せならそれでいい、自分には関係ない"と胸に秘め続けていた言葉が今以上に適しているとは思えない。

もう朝日は昇らない。

この選択は正しかったのか、確かめることもできない。

「…俺は」


━━━━━、


「…俺は、…?」

やけに眩しいような、暗いような、よく分からない場所で目が覚めた。
少しずつ視界が明瞭化していき、辺りの様子が明らかになり始めて見回してみた。
どうやら下が明るく、上は暗いようだ。
照明が下に付いているのだろうか。

人気がなく不気味な雰囲気が漂うこの空間が多分ではなく絶対昨晩の事件が関係していると理解できた。
尤も真っ暗なため、夜が明けたとも言い難いが。

ガンガンと頭が痛むのは無視して、とりあえずの目的はこの空間からの脱出だ。
まずは立ち上がろうと床から手を離した。

「っ!!」

瞬間、吸い込まれるように体は倒れ、立ち上がることができなかった。

「どうなっている…?これは、」

よく、よく目を凝らして見てみると手首になにか巻き付いている。
糸のようなそれは引きちぎろうにもやたらと頑丈で、特に左腕の方は何重にも巻き付けられ、頭痛の理由がなんとなくわかった気がした。

「ご丁寧にここまでするとは…全く、大人しくしろということか」

周到にも左腕を封じられては抵抗もままならない。
どうせ制限されてはやることもないのだ。夜のあの出来事を思い出すことにした。

「ヒカルは、無事なのか…?」

流れ星のごとき登場で現れた新たな敵・原罪のイヴ。
彼女は罠を張り錬金術を行使、ヒカルの身体を分解処理しようとした。
止めることができない彼に対し、持ち掛けた取引は「自身が身代わりになる」こと。
托都は確かに返事をイエスで返し現在に至っているが、取引が果たされたとは限らない。

未完の聖杯はいらない、と言ってはいたもののその存在は強力な兵器に他ならない。
かつて、錬金術師・ヴェリタスは裏切りを促し記憶を操作する凶悪な洗脳装置を使いヒカルを利用したこともあった。
そんな事態に陥っていってしまっていたとしたら、どうなのか。

そして、気になることがもう一つ。

「白き神、か」

黒い神ならここにいる。だが"白き神"とはなにを指しているのか。
托都自身となんらかの関係があるのか、全く別の存在なのか、抽象的な言葉からはなんの考察もできやしない。
ワードの少なさもあるが、思考を一々止める頭痛が忌々しい。

「そろそろ限界…だな」

座り込んだまま、右手で前髪ごと額を押さえ込んだ。

托都の左腕にある不気味な模様━━混沌の刻印は、人ならざる者の証であり世界を束ねる者である証拠だ。同時にデュエルディスクにも、攻撃や守りの手段にも利用される。
その代償か、コレに人が触る等触れられた場合、全身に痛みが伴う。
そこから導き出されるのは、触れられている間はなにもできない、なんの能力も動きもとれないという最たる弱点。

限界というのも、食い込むほど巻き付いた糸に締め付けられた左腕が、ずっと危険信号を発しているからだ。

「意識が飛ぶ前に、脱出の手を…」

頭痛が酷い。思考を固めるほどに凍り付く。
考えることをやめたらマズイと警鐘を鳴らしている。

「手助けが必要かしら」

パチン。
指を鳴らした音と同時に脳内を掻き回していた痛みが消え失せた。

「━━貴様は、」

「さっきぶりね。さぁ、お話を始めましょうか」


~~~


朝日はあたたかに、暗い部屋に朝焼けが差し込む。
無機質な電子音だけが鳴り響く部屋で、遊矢は浮かない顔をしていた。
静かすぎる時間の流れはつい昨晩の襲撃などなかったと言わんばかりに主張しているが、敵の作った布陣は完璧に遊矢たちを囲い込んでいた。これに落ち着いてなどいられない。

━━━話は数時間前に遡る。

まず"前提"としてだ。
C.C事件後のトラヴィスは父が伝えてきた教団の教えを破棄。道を外した者はセキュリティにより捕縛され、その他は日常に消えていったはずだった。
だが一部は身内を失い一人残されたトラヴィス自身を案じ、彼の手足となりあらゆる地域に散らばっていた。

特に幼少からの従者であるアルカナはこの事件の折、トラヴィスからの通信を通じヘリを飛ばし、保護を行った。

ヒカルの無事はトラヴィスの予想外なファインプレーによって確認された。だが予想外は更に遊矢を驚かせる。

"托都の行方が分からない"

そんなことを誰が予想できたか。
遊矢自身が托都を心配していないわけでは決してないが、何故あれほど警戒心が強く人間的にも異端としても強力な力を持った托都が、と戸惑ったのだ。

なにがあったかはきっとヒカルが知っている。

目覚めるのを待つ室内に、一人の女性が入ってきた。

「遊矢、」
「リンさん…」
「今アドルインが全力で調査中、あの場でなにが起きたかは大体分かるはずだ」
「ありがとうございます。でも、それより」
「分かっているさ」

以前、クロスが解説した未完の聖杯のメカニズム的にも托都がそうなる可能性は確実に0だ。リンにも皆目見当がついていない。

リン曰く「ドン・サウザンドが自演自作でなにかをやらかしたか」とそんな予想を立てたらしい。
今が丸くても実際は破壊の神、バリアンという悪の混沌の頂点だ。いつ人間界とアストラル世界に牙を剥くか分からない以上は疑いもかけたそうだ。
しかしドン・サウザンド自身がこれを否定した。
むしろ想定していない、何処にいるか把握すらできないとのことなのだ。
もちろん、丸々信じるつもりは毛頭ないが。

「ん…っ」
「!ヒカル!」

僅かな陽射しを取り込む二色は、月と太陽の色。
朝の光の眩しさにヒカルは目をぱちくりさせた。

「━━朝…?…あれ、遊矢…ぁっ!?」
「よかったぁ!このまま起きないんじゃないかってハラハラしたぜ!」
「お、おい!苦しい!抱きつくな!」

名を呼ばれて僅か0秒、飛び付いた遊矢の表情は安堵のそれだ。
だがヒカルがそれを理解したかは別の話。すぐに突き飛ばして呼吸を整え始め、落ち着いた頃には遊矢も冷静になっていた。

「それで、どうしてこんなところに?」
「深夜に山奥で倒れていれば病院に運ばれるのは自然だろう?」
「…あぁ。まぁ、そうですね」
「詳しい話はゆっくり聞かせてもらう、まずはこちらの話から聞いてもらおう」

ヒカルから聞ける話は多いだろうが、目覚めたばかりで調子が通常に戻るまで時間も必要。まずは遊矢側の出来事を話すことになった。


~~~


岸岬狩也は悩んでいた。
缶コーヒーを片手に青空を眺め、天に向かってため息をついた。

「なーに黄昏てんだよ狩也」
「慶太…」
「話、一応聞いたぜ。大変だったんだな」
「大変だったのは先輩だろ」

遊矢よりは話し掛けやすい。現在の慶太に対する狩也の評価だ。
この気さくさと絶妙に地雷を避ける会話術。遊矢のようにプライドをズタズタにしてくるような踏み込み方はしてこない、なんだかお母さんのような包容力まで持ち合わせている。
その上、本人は狩也に比べて強くあることに拘りがない。それは"諦めというより見守るため"な気がする、とアミが言っていた。

「界の空で力を手に入れたんだ」
「うん」
「これさえあればもう噛ませ犬になんてならない、誰かに弱者だって言い訳を押し付けずに済むって思ってた」
「そっか」
「それがなんだ、昨日のザマは。遊矢に言いくるめられて役目を取られて、結局遊矢はあのままやってたら勝ちだった」

もし俺だったら、勝てていたのか。
狩也はそう続けた。

C.C事件において、主犯であるトラヴィス以外に同罪を課されるほどの人物がいたとするなら、間違いなく狩也の名前が挙げられるだろう。
己の強さのために裏切り、遊矢への嫉妬心から敵対。一時は遊矢を追い込み、そして倒した。
その代わりに得たものはなにもなく、最後には心の内側がすっからかんになっただけだった。

遊矢たちの優しさかそれとも事情ゆえか許されて、距離を少し置きながらも裏切り者なんて話はなかったと言わんばかりに友達らしい扱いを受けているが、それが逆に狩也の首を絞め続けた。

━━━そんな狩也に思ってもいなかった機会が訪れた。

界の空。世界の狭間に迷い込み、錬金術師と再会した狩也は遊矢たちと同じ力…フリューゲルアーツを手にした。
今まで自分が思っていた嫉妬心すら自分が弱い理由を他人に押し付けるための口実にしかなっていないのも分かった。

結果、こちら側に戻ってから漸く自信もついてきた。
ヒカルに師匠になってもらい指南を受けていると、相応の実力もついてきたのではないかと思えるのだ。

…とはいえ、その自信も昨日の件で溜まったゲージを0にされてしまったわけだが。

「別に狩也は狩也だし、やってないのに負けた勝ったは分からない。それにまだ次があるだろ?」
「あれば、の話だけどな」
「これで終わるとは俺は思わねーよ?」

リコードイミテーションと遊矢に呼ばれた敵は目的を果たしたとは言ったが、あの"一人目"や"一体目"の意味は分かってはいない。慶太の言う通り、再襲撃ありえる。
こう言ってはいるが、狩也自身次があるなら確実に戦いを望むだろう。

「ま、難しいことは後でだ!とりあえず、遊矢のところ行こうぜ!ヒカルさんのこと心配だろ?」
「そうだな」

次のことより目の前の先輩の安否だ、とこう落ち込んでも思えるのは間違いなくその先輩のおかげだ。
広場からすぐ近くの医療施設に向かおうと振り返る。

「…おいおい」

そこに少女が立っていた。
それもとびきり怪しい黒いローブを深く深く被っている。

「ほら、言ったソバからってやつ?」
「マジかよ」
「こんな夏に真っ黒なんてあの人以外でありえるかって!て、わけで!誰だお前!!」
「おい…慶太、」

カンッ!!

ハイヒールを鳴らす音が場の明るい空気を一変させる。
慶太も遊び半分ではいけないか、と薄ら笑いを引っ込めて真顔に様変わりだ。

「私は、托都さんのお話を聞きに来ました!風雅遊矢さんはどこですかッ!?」

「遊矢を、探してるのか…?」
「あのなぁ!聞き方ってモンがあるだろ!大体、お前みたいな怪しい奴に誰が教えるか!」

「なーにを偉そうにッ!私はあの施設の古参ですから!はい、論破ッ!!」

「なんにぉおー!?」

論破か不思議な論破に慶太が地団駄を踏んで怒っている。
最初から怪しんでいた慶太からすれば神経を逆撫でする一発を食らったと言ってもよいだろう。
逆に隣の狩也は冷静で、しかも先ほどの言葉の意味に心当たりがあった。

"施設の古参"ということは、托都の母の住む孤児院を指しているはずだ。
以前遊矢から無駄に話を聞かされていたためすぐに思い当たったが、にしてもこの見た目と態度には違和感しかない。

「場所を教えてもらいます!私はあの人に会わなきゃならない、この先の未来のために!」

「未来のため、だと?」
「おう!そんなに知りたきゃデュエルで俺に勝ってみろ!」
「慶太、まずは話を聞き…」

「分かりました!」

返事を返した後少女は狩也の方を見た。
意味ありげな表情は、なにかを伝えようとしているのだろうか。

「ここで私の実力を、知ってもらうのもいいかもしれませんから!」

少女はこんな人に負ける気がしないと続け、烈火の炎のように紅いデュエルディスクを装着して、被っていたフードを脱いだ。
燃えるように紅い瞳、その紅さはまるでデュエル時の托都と同じような異質な輝きを放っている。

「慶太、」
「言いたいことは分かってる。でも、それでも昨日の今日なんだ、分かってくれよ」
「…了解だ」

慶太も頭では理解していたようだ。
ただ警戒するのは間違ったことではない。もしかすれば少女が敵である可能性もある、可能性は感じた時点で捨ててはならない、確信に変わったなら別の話だが。

「「デュエル!!」」

《LP:4000》

「先攻はいただきますッ!私はフィールド魔法《堕天使の舞踏会(マスカレード)》を発動ッ!」

「へえ、早速フィールド魔法か!」

青空はARに掻き消され、移り変わりし舞台はまさに豪華絢爛の舞踏会。
黒い羽根が舞い落ちる宮殿に迷い込んだデュエリストの運命は、魅了され敗北に膝をつくかそれともダンスをモノにしての勝利か。

「このフィールドでは互いのプレイヤーは1ターンに1度、《仮面天使トークン》を特殊召喚しなければならない!そして、このトークンは特殊召喚の素材にしなかった場合、エンドフェイズに破壊されて800のダメージを受けることになります!」
《ATK:0/Level:8》

「エクシーズ対応のトークンだって…?」

トークンのテキストには、本来なら絶対にありえないはずのエクシーズ召喚に使用できるという文が書かれている。
このフィールドにおいてはなんでもあり、自由だとでも言うのか。

「そして私は魔法カード《複製天使加工術》を発動!これにより、私はもう1体の《仮面天使トークン》を特殊召喚します!」

レベル8のモンスターが2体、エクシーズ召喚対応ということはやることも必然的に、ランク8モンスターエクシーズのエクシーズ召喚だ。

「レベル8の《仮面天使トークン》2体で、オーバーレイッ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚ッ!!」

吸い込まれた紅い光は思わず目を背けてしまうほどの光を放ち、亜空間から降り立つは機械の身体、折れた片翼を隠さない、薔薇の花の意匠が凛々しい堕天使。
その風貌はまるで━━━━、

「天上より堕落せし紅き女王よ、その紅き薔薇で暁を穿て!現れよッ!《機械堕天使 ローゼン・ルシフェル》!!」
《ATK:2500/Rank:8/ORU:2》

言葉を失った。
美しさではない、あまりの衝撃にだ。

「おい、嘘だろ…なんで」

何故あの男…托都以外のデュエリストが


「機械堕天使だとッ!?」


"機械堕天使を使っている"のか━━━。


~~~


「さぁ、お話を始めましょうか」

「話すことがあるのならな。生憎俺にはない」

「いけずね。でも同感よ、私も貴方にする話はないの」

まるで支離滅裂だ。
話がないのに話をしようとは、まるで自分からはなんの話もないから向こうから話を聞いてあげようとわざわざ一緒にいる友人のような行動に少し首をかしげた。

女がなにをしたか、先程までの頭痛も綺麗さっぱり消え去り思考がやたらとクリアなのも意味があるのだろうか。

「でも仕方がない。目覚めていない以上、私はやるべきことをやるだけ」

「目覚めていないとはどういうことだ。この通り、最悪な目覚めだったわけだが?」

「言っているでしょう?"貴方に"興味はないのよ。私達が欲しいのは"白き神"。出来損ないなんて持て余すだけよ」

やはり同じワードが出てきた。
興味がない、なら何故わざわざ手元に置く必要があるのか。生贄、あるいは誘き出すための餌か。
ドン・サウザンドもお世辞には白い神とは言いがたい、むしろあれは紅き神というべきだろう。

「此処で答えを教えてあげる。貴方が一体なんのために神に等しい力を手にし、なんのため今まで生きてきたのかを」

虚空に突き出した左手に、光に包まれた石の短剣が握られた。
イヴは妖しい笑みを浮かべたまま、托都の身動きを封じている結界が広がる牢の奥に踏入り、鋭く研かれた白い剣を右手で擦り撫でる。

「我々が求める白き神は、あらゆる世界の概念を内包した存在。概念が存在する限り死ぬことのない概念そのもの」
「概念そのもの、だと…?」
「ええ。そして、白き神が司るは『復讐』の概念。人間同士を嫌悪する世界の象徴」

概念の化身は姿を持つ者こそいないが、その魂はその概念に最も相応しい生物を選び、個体の死が訪れる度に魂から魂へと移り変わり、転生(リンカーネイト)する。

「概念に選ばれた生物は、本来その瞬間に個体の人格を食い破られ消滅する。…でも、」

伝えられた言葉の意味を理解した時、背筋が凍る感覚を味わった。

もし、復讐の概念を持つ存在に選ばれ、魂が宿ったとすれば、なにがあるか。


「貴方は、何故━━━目醒めていないのかしら」


~~~


言葉を失うその姿。
君臨したのは薔薇色の堕天使。

「見ましたか!ええ、見たでしょう!これが私のエースモンスター。《機械堕天使 ローゼン・ルシフェル》ですッ!」

薔薇の香りを辺りに散らす堕天使の姿に慶太も狩也も衝撃が隠せなかった。

世界でたった一枚ずつ、混沌の力が産み出しているはずの『機械堕天使』。
托都以外が使うはずがないそのモンスターと同じ名を持った機械の堕天使とそれを使役する謎の少女。
謎は増える一方だ。

「私はカードを1枚伏せてターンエンドです!さぁ、アナタの実力を私に見せてください!」
《Hand:2》

「おいおい冗談じゃねーぜこんなん」

「慶太狼狽えるな!後退すれば向こうの思う壺だ!」

「わぁってる!俺のターン、ドロー!!」

托都とデュエルをしたことはない、ということはもちろん機械堕天使と対面したことがないわけだが、そもそもあんなモンスターに対策を取ろうと思う方が間違いだ。
ここは一点突破、ダメージを与える云々よりも確実に倒すことが大事だろう。

「俺はフィールド魔法《堕天使の舞踏会》の効果で、《仮面天使トークン》を特殊召喚!更に、このトークンをリリースして《ロザリオ・ワイバーン》を特殊召喚!」
《ATK:1000/Level:4》

《ロザリオ・ワイバーン》はフィールドの植物族以外のモンスター1体をリリースすることで特殊召喚できるモンスターだ。
これでこのターン、慶太が800のダメージを受けることはない。

「そして俺は《鎖鳥の騎士 ロータス》を通常召喚!ロータスの効果で、手札の鎖鳥モンスター1体を墓地に送り、デッキから鎖鳥モンスター1体を特殊召喚する!来いッ!《鎖鳥の狩人 ガーベラ》!」
《ATK:1700/Level:4》
《ATK:1800/Level:4》

蓮と扶郎花の二体は薔薇と十字のワイバーンの両脇に出現に、剣と弓を構える。

これにより慶太のフィールドにレベル4のモンスターが3体揃った。

「レベル4の《ロザリオ・ワイバーン》と、ロータス、ガーベラでオーバーレイッ!エクシーズ召喚ッ!!」

出現するは世にも美しき花の妖精。
陶器のような肌、新雪が落ち色を得たかと錯覚させる髪はまるで冬を思わせ、剣を持つ姿はあまりにも可憐だ。

「現れろ、輝きし白き希望ッ!《鎖鳥の霊剣士 スノードロップ》ッ!!」
《ATK:2500/Rank:4/ORU:3》

スノードロップの効果によって、召喚時に素材とした植物族モンスターの数×400のダメージが相手を襲う。
この召喚で使用したのは2体。よって与えるダメージは800だ。

「っ!!よくも!」
《Unknown LP:3200》

「もういっちょ!魔法カード《シードブラスト》発動ッ!今与えた効果ダメージをもう1回与えるぜ!」

「きゃっ!」
《Unknown LP:2400》

尻餅をついた少女は恨めしそうに慶太をにらんでいる。
一方慶太は怪しくはあるがかわいい女の子ににらまれている状況にため息をひとつつく。
「こんな状況じゃなかったら声かけるくらいかわいいのに」
と残念に思いながら。
しかし勝負は勝負、心を切り替えなければならない。

ともかくライフポイントはあと2400にまで削ることに成功した。
慶太はあと1600もこのターンで決めるつもりだ。

「スノードロップを対象に魔法カード《マリンスノー・バレット》を発動ッ!このターン、スノードロップは相手モンスターと戦闘する際に破壊されず、ダメージ計算を行わずにモンスターを破壊する!」

「なるほど。ローゼン・ルシフェルの攻撃力は同じ、これでローゼン・ルシフェル"だけ"を破壊できる」

たとえ攻撃力が同じであろうが上であろうがスノードロップは破壊されず、慶太はダメージも受けない。それでいてモンスターは破壊できる。
ローゼン・ルシフェルさえ突破すればフィールドはがら空き。エースモンスターだと称したからにはそれ以外の決め手に欠けることも露見している。
心理的余裕を見せた少女の慢心によるミスプレイを慶太は見逃さなかった。

「バトル!スノードロップで、ローゼン・ルシフェルを攻撃!!マリンスノードロップ━━シュートッ!!」

スノードロップの持つ剣が銃剣に変化し弾丸のごとき速さで堕天使に襲い掛かり、純白の剣は心臓の位置にある薔薇の意匠を貫き爆発した。

見るも無惨に砕け散ったモンスターの残り香だけが漂うフィールドでダメージを受けた者はいない。
だが次の、更に次の手は慶太の手札から引き抜かれる。

「ラストッ!スノードロップがモンスターを破壊したことで手札から速攻魔法《太陽光線(サンライトブレイズ)》を発動!このターン植物族モンスターがバトルで破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

スノードロップが破壊したローゼン・ルシフェルの攻撃力は2500。そして少女のライフは2400。
ギリギリだが削りきれる、むしろうまく計算したと慶太にしては褒めるべきだろう。

「てなわけで、これで終わりだぜ!いっけえ!!」

妖精の羽を羽ばたかせ剣を携えたモンスターは少女に突貫する。

それに対し少女は若干冷ややかな視線を送り、一度呼吸を調えて高らかに宣言した。

「フィールド魔法《堕天使の舞踏会》の効果発動ッ!」

「このタイミングで!?」

「このターン破壊された機械堕天使と名のつくモンスター1体を選択し、その攻撃力の半分ライフを回復します!」

破壊されたのはもちろん《機械堕天使 ローゼン・ルシフェル》、その攻撃力2500の半分、1250が少女のライフポイントに加算されることでライフは3650に。
ダメージは受けるがまだまだ、ライフポイントが1150残ることになる。

《Unknown LP:2400→3650→1150》

「なんてやつ…!っ、ターンエンド!」
《Hand:0》

「この瞬間ッ!墓地のローゼン・ルシフェルの効果が発動ッ!」

「あれは、オーバーレイユニット!!」

「再び現れよ!ローゼン・ルシフェルッ!!」

突如として発動したその効果は、破壊されたターンのエンドフェイズ時に破壊された時のオーバーレイユニットから1つを取り除き、フィールドに特殊召喚する蘇生能力。
ローゼン・ルシフェルが破壊時に付与されていたオーバーレイユニットの数は2個、その1つを使用することでフィールドへと舞い戻ったのだ。

《ATK:2500/ORU:1》

「すげえな!でも、こっからどう勝つつもりだ?」

「慌てちゃダメですよ、勝負はこのワンターンにかかっているんですから!」

楽しそうに一本指を突き立てた少女はそのまま指をデュエルディスクにセットされたデッキ、一番上に置いて親指を添える。

一挙一動が可憐な姿に本当に一目惚れしそうになるが、踏みとどまるべきだろう。

「私のターンッ!!」

デッキから抜いた一枚のカードに、少女は勝機を見た。

「私は罠カード《アフターリベンジ》を発動!ライフを1000支払い、前のターン相手から受けた効果ダメージ分ローゼン・ルシフェルの攻撃力をアップします!」
《Unknown LP:150》

「うえぇっ!?」

スノードロップ召喚時の800と《シードブラスト》による追加の800、そして《太陽光線》による2500ダメージ。合計は4100だ。

《ATK:6600》

「でも!俺も墓地から《鎖鳥の歌姫 マリーゴールド》の効果を発動するぜ!」

《ATK:6600》

マリーゴールドは墓地から除外することで、自分フィールドの「鎖鳥」と名のつくモンスターの攻撃力を相手のモンスター1体と同じにする効果を持つ。
これでスノードロップも6600に攻撃力が跳ね上がった。

このターン、まだ《堕天使の舞踏会》の効果で《仮面天使トークン》は召喚されていないが、強制効果は必ず発動する。
そして特殊召喚素材にできなければ800のダメージを受けることになる。
自ら危険な橋を渡る必要はない、どうするつもりか。

「決まったな!この勝負ッ!」

「いや、私の勝ちですッ!」

「な…!?スノードロップ!?」

「ローゼン・ルシフェルの効果ッ!!相手モンスターの攻撃力が変化した時、オーバーレイユニットを1つ使うことで、そのモンスターを破壊しますッ!ミスティックレインッ!!」
《ORU:0》

そう、攻撃力が上昇すればローゼン・ルシフェルはこの効果で敵を破壊し、そうでなくとも与えるダメージが4100になれば一撃必殺。
まさに決めの一手だ。

「さぁ!ローゼン・ルシフェルでダイレクトアタックッ!シャイニングインパクトッ!!」

「ま、マジかよ!!うわぁぁっ!!」
《Keita LP:0》

思わず目を背けるほどの閃光に包まれた堕天使はその身すら光に変えて突進し、光はライフを削り取るように弾けた。

次に狩也が目を開いた時には慶太のライフが0になっていた。

「ちっくしょー!」
「さぁ!場所を教えてください!」

悔しがる慶太の前にカツカツヒールを鳴らして足早に現れた少女はとにかくなんだか行動が忙しない。
見かねた狩也がやってきて、少女に声をかけた。

「遊矢なら、これから会いに行くけど来るか」
「ええ是非!!やっぱり話の分かる人は楽ですね!」
「な、なんだよそれ!まるで俺が話の分からない奴みたいに!」

事実である。

話が拗れてデュエルまでしているが、明らかに敵対者ではない上にやたらと友好的だ。

「ほら置いてくぞ」
「置いていきますよ~」

「あっ!!待てってばッ!!」

ぶつくさと文句を言いながら慶太もついてきた。
なんやかんやで信用はしていたのかもしれない、デュエル前の発言が本当ならばの話だが。


~~~


「そうか、遊矢たちもそんなことが…」

遊矢たちの話は大方終わった。
アダムという男が現れデュエルを仕掛けてきた事、組織の名が「リコードイミテーション」である事、狙いが未完の聖杯ではない別のなにかである可能性が高い事。
大きく分けてこの3つはヒカルも理解できた。特に3つ目は。

「さて、次はヒカルの番だ!」
「なにがあったんだ、あの場所で」 

話題を振られたヒカルは少し考え込んで、しゅんと落ち込んでしまった。

「敵に、…錬金術師と思わしき女に襲われた」
「錬金術師!?」
「確かにあの場に残った残滓から、ルクシアやヴェリタスと同じような異能力を感じたが」

錬金術を操る者たちはヴェリタス達の他にいないとばかり考えていた遊矢たちの前に、こうして新たに現れた錬金術師。

ヒカルは、その錬金術師…イヴと名乗った女は恐らくアダムの仲間だろうと言った。
理由はそのまま、アダムとイブという旧約聖書に登場する人物からだ。

「それで、大丈夫だったのかよ…!またレーなんとかってくっついてたりしないよな?」
「そっちは大丈夫。…でも」

でも?と疑問を投げた遊矢に対し、ヒカルからの返答がない。
あまりに長い間に、リンが口を開いた時だった。

「俺のせいで、托都が…」
「ヒカルのせいって…」

「そう、アナタのせいです」

突然の第三者。
遊矢は聞き覚えのある少女の声を聞いて振り向いた。


「アナタのせいで、白き概念神が覚醒してしまうのですからッ!!」




~~~


「っあ━━━…?」

一瞬の出来事に反応できなかった。
見開いた緑はその痛みに次第に歪み、視界が赤く染まりだした。

「真実の石剣、賢者の石から錬成されたその剣に貫かれた貴方は真実を知る」

突き刺さった石の剣は冷たい氷に触れている錯覚を覚えた。
逆にその冷たさが気にならないほどの急激な体温低下、震えるほど寒さは徐々にその事実を脳に、身体に知らしめていく。

「今までなんのために生きてきたかは知らないけれど、貴方は価値のない生を延長したに過ぎないわ」

赤い光を放つ結界よりも更に生々しい人の血が流れ流れて、重さに耐えきれない体が倒れて意識を削がれる。

ゆらゆら揺れる視界の端に、托都は見下ろす女の狂気的な笑みを見た。

「貴方は神の力を得た時点で人格は"死んでいる"」

「な、…に…?」

「さようなら。せめて優しい夢を見て、そして本来あるべき姿に消えなさい?」

血に濡れた頬に触れるイヴは優しげに語りかけた後、口角を吊り上げて嗤った。

「貴方に優しい夢が見れるというのなら、ね」








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【あとがき】

今回の一言、「ホモはせっかち」。
慶太が猪突猛進脳筋地雷回避ママ属性を手にしてしまった!!!(なお狩也限定で発揮される模様)
しかし負けるッ!!さすがは慶太!!俺たちにできないことをやってのけた挙げ句に負けたぞッ!!!

さぁて、出落ち気味に托都が死にましたが死んでないでしょう。死んでたらRRはどう説明するのかって話なわけで。
ともかくイヴおばさんが楽しそうでなによりです。
ヒカルの話とはなんだったのか、8割が慶太と狩也に割かれて尺の1割くらいしかもらえていない気がする。遊矢は出番があるだけマシ。
リンさんも登場で、トラヴィスの霊圧が消えた。
狩也はテンションダウン。缶コーヒー片手に黄昏て終始テンションが低いままツッコミ役に徹してましたね、やっぱり狩也は前線よりツッコミが似合う。
ついに出た!!新キャラクター、謎の少女ッ!!一体何ッカなんだ…。
敬語、強気、デュエル強い上にたゆんたゆん、機械堕天使に関しては結局触れられてないまま、挙げ句の果てにヒカルを思いっきり罵倒。これは間違いなく敵ですね(知ってた)
謎の少女ちゃんが言うからまーたヒカルが曇っちゃうでしょ!いつものことだけど!!
次回はそんなヒカルさんがメイン、と、もう一人が…。

次回ッ!!謎の少女・レッカの登場第2回ッ!
物語は更に加速する中で、一人落ち込んだままのヒカルを誘うように現れる女の影。
そして真実の石の剣に刺された彼は一体どうなる…?

【予告】
黄金と蒼銀、二つの眼は揺れる。
少女の怒りは胸の内を貫くように突き刺さり、星の夜の記憶に苛まれる。
もしもあの時、彼に救われなかったら。
もしもあの時、彼を救うことができたなら。
己の弱さと強さに苦しみもがき、それでもまだ諦めたくない。
第4話「萌芽」


===


狩也すげー!!ブラックコーヒーが飲めるのか!?

あぁ、まぁな。

すっかり大人の味覚になりやがってー!

当然だろこれくらい。

ところで、プルタブが開いてないのはなんでだ?

くっ、バレたか…!!


===


【界の空から帰還後…3】


「……」

フリューゲルアーツ…翼の力か。
これがあるからって止まってたら、また遊矢に先を越されることになる。
これからも精進しよう。

「さて、そろそろ先輩と待ち合わせの時間…」

ん…?なんか騒がしいような…。

「狩也!」
「先輩ッ!?どうしたんですか!そんなに慌てて!」

もしや、未完の聖杯を狙う敵が現れて━━━!?

「みゃーん」

「猫!猫がくっついてくるー!!早くー!!」
「にゃー」
「嫌ああああ!!来るな寄るなあっち行けーッ!!」

「猫…?」


END


===

【界の空から帰還後…4】


「面目ない…」

「にゃー」
「驚きました。先輩、猫が苦手だなんて…」

「猫が苦手なんじゃなくて、動物が苦手なんだ…」

「動物?」

本当に意外だ。
先輩ってなんというか、こう、愛されキャラっていうか…。
動物的な愛嬌があるからむしろ同調するかと思ってたけど、苦手なのかー。
……そっか~。

「えいっ」

「にゃーん!」
「うわあああああああ!!?」

「この際です、仲良くなりましょう!」

「一生恨むからなッ!?」


END