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Second Act.11「風に別離と裏切りと」



それぞれ、戦いにおいて負けられない理由は多々あるだろう。

単に負けたくないという意識。なにか大切なものが懸かっている戦い。勝つことが絶対条件の取引。

彼にも、そんな感情が渦巻いている。
勝たねばならない、そうでなければ追い付けない。
ウサギとかめの童話のようにのんびりしていたらいつの間にかにかめに追い抜かれ、そこからいくら走っても追い抜けない状態だといつか誰かが揶揄した。

いつまでも遊矢になにもかもを任せていられるかと拳を握る狩也の瞳の底には熱く燃ゆる炎だけが宿っている。


~~~


「俺のターン!!」

フィールドにモンスターは0。
先程まで健在だったネヴラスカイ・ドラゴンはエクストラデッキに消え、敵の厄介なモンスターを倒すためには再召喚の必要がある。

なによりもトラヴィスの後ろで時を刻み続ける不気味な時計の存在が気掛かりで仕方がない。
1ターンを過ぎた時にフィールドの時間を巻き戻し、2ターンを過ぎた時に伏せカードを手札に戻す。ここまではフィールドの効果チェック機能で先に判明したものだ。
だが未知の3ターン後、全く効果が開示されることはなく謎に包まれている。

「俺はフィールド魔法《ヘブンリィボディの星雲》を発動!」

夏の灼熱が照りつける庭園は宣言と共に仄暗く美しい星の世界へ移り変わる。
まるでプラネタリウムの中に入り込んだような気さえするその星雲は、力強く光を放つ。

「フィールド魔法…それで、この心象世界でなにをする?」

「まぁ見とけ!《ヘブンリィボディの星雲》が発動している今、速攻魔法《スターダスト・ブーケ》を発動!墓地の「コスモ・メイカー」を素材にエクシーズ召喚を行う、しかもこの時レベルは7に統一される!」

「《星屑の飛来》と同一効果を持つ…いや、墓地という点は強力だな」

《星屑の飛来》の場合はフィールドにモンスターが存在しない時手札からエクシーズ召喚を行う効果。だがこちらは《ヘブンリィボディの星雲》は必要としない。
手札、墓地からエクシーズ召喚を連発できるとは抜かりのないデッキ構成だ。

「墓地の《コスモ・メイカー コズミック・アクシズ》と《コスモ・メイカー ジャベリン・ベガ》をオーバーレイ!!エクシーズ召喚!!再び現れろ!《コスモ・メイカー ネヴラスカイ・ドラゴン》!!」
《ATK:2600/Rank:7/ORU:2》

冥府から立ち上る二つの光が輝き放つ竜を再びフィールドに呼び戻す。
先の出来事があったからか、主を護らんと雄々しく翼を広げて目の前の狂気を睨み付け大地を揺らすほどの咆哮を上げた。

コズミック・アクシズの効果により、《終極の幻想時計》は封じられた。これで知られざる第3の効果も見ることはないだろう。
更にネヴラスカイ・ドラゴンの効果でヴリエミア・フォリア・ドラゴンを破壊しダメージを与え、フィニッシュ。
素晴らしいワンターンキルの図式だ。

「ネヴラスカイ・ドラゴンの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスター1体を破壊!ネヴラスカイの攻撃力分のダメージを与える!対象は、ヴリエミア・フォリア・ドラゴンだ!!」
《ORU:1》

《ヘブンリィボディの星雲》が発動していることで、光属性ドラゴン族モンスターの与える効果ダメージは倍になる。
ネヴラスカイ・ドラゴンは見れば誰もがわかる、光属性のドラゴン族だ、効果の適用内にある。

「ネヴラスカイ・ドラゴンの攻撃力分の、更に二倍ダメージ…!だが、墓地に《刻翔の琉鍵 ギーメル》がいる限り、俺が受ける効果ダメージは半分になる!」 

「半分行けば十分だ!!」

攻撃力は2600、ダメージが通れば残るライフポイントは1400のみ。ダイレクトアタックでオーバーキルすら可能な数値というわけだ。

「っぐぅ…!!」
《Travis LP:1400》

「厄介なヴリエミア・フォリア・ドラゴンも消えた、これで俺の勝ちだ!行け!ネヴラスカイ・ドラゴン!コスモスネビュラストリーム!!」

「だそれだけで俺が屠れるなどと逆上せるな!ヴリエミア・フォリア・ドラゴン、効果発動!」

「なっ!」

デュエルディスクのセメタリーゾーンが闇を放ち、黒ずんだ一枚のカードがトラヴィスの手に収まった。
それはモンスターゾーンに攻撃表示でセットされ、星の満ちる一撃を翼で受け止めた。

「…ヴリエミア・フォリア・ドラゴン…!!」

ヴリエミア・フォリア・ドラゴンは効果で破壊されたターンのバトルフェイズ時、ダイレクトアタックされた場合特殊召喚され攻撃モンスターと同じ攻撃力となる効果を持つ。
今トラヴィスが使用したこの効果により、ヴリエミア・フォリア・ドラゴンの攻撃力は2600。
だがどちらのモンスターも自壊することなくフィールドに留まっていた。
それもそのはず、この効果で召喚されたこのモンスターと戦闘する相手モンスターはターン中戦闘で破壊されることはないのだ。

《ATK:2600》

「一手外したな、さ、どうする?」

「くっ…カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
《Hand:1》

初回ターンに警戒して伏せカードはセットしなかったが、何事もなく切り抜けられたのならもう大丈夫なはずだろうと一息ついた。

問題は目の前のドラゴンだ。連続攻撃できる効果がすでに失われてはいるものの怪しさは普通のデュエルで相手がセットしたカードや初めて見たカードに対するそれとは全く異なっている。

「俺のターン、ドロー!…さて、決められた時の中での戦いももうすぐ終わる」

「そうかよ。こっちはまだ負けたなんて、思ってないけどな」

「感情の問題ではない。時間の中で起きることはすでに決まっている、それを変えることなどできはしない」

《終極の幻想時計》の針は5を指している。
トラヴィスの宣言通りならこのターンに決着をつけるということだ。難しくはないだろうがあまりに現実的ではない。
しかし彼の言い分ではまるでこの後なにが起きるかを知っているかのような気までする。

「決められた時間の中で、決められた運命の下でしか生きられない人間には理解できないだろうがな」

「余計なお世話だ」

「―――それこそ、その歯車は差というものを作り出すこともある。お前と風雅遊矢のように」

「ッ!」

遊矢の名を挙げると、一瞬だけ凄まじい反応を見せた。
埋まらない差は決められた運命や時間により、決して埋めることができないと"決められている"。なんて、馬鹿馬鹿しい幻想が通用してしまうほどということだろう。

「…ありえない、俺は――遊矢より強く…!」

「一体何時の話をしているんだ?それはもう過去だろう」

「…っ……」

「この先の未来、貴様にアレを越える強さがあるとするのなら……それは時を変えるほどの力がなくてはならんな」

宇宙では決して吹くことのない暖かな風がデュエルフィールドを吹き抜けた。


~~~


真っ白な吹雪に包まれた夕の世界をベランダから眺めてもなにが見えるわけもない。
まるで昨日と同じ時間を過ごしている、なんて思えてしまうくらい吹雪の度は昨日と同じものだった。

「……」
「あ、あの…」
「別に信じたわけじゃないからな。原因がお前にもあるのなら警戒は怠るつもりなんてない」
「…そうか」

ベランダで一人黄昏ていたヒカルに依ってきたクロスから伸びた手は最初の一言で振り払われた。
話を聞きこうして遊矢が理解して和解した中で、珍しくヒカルは信用していないようだ。不貞腐れた表情がそれを物語っている。
無理もない、ヒカルは失ったはずの未完の聖杯をトラヴィスの余計なお世話によってまた取り戻してしまった。
それにクロスとトラヴィスが兄弟と言うのなら騙し討ちのために共謀、裏切りのフリをしている可能性だってありえなくはない。

「…気になることがある」
「…なに」
「未完の聖杯は魂の器、…君には装甲が代わりになる…でももし、その力を失った時…」

"魂が消失し、永遠の眠りが待っている"
そんなこと、最初からヒカルは百も承知だ。

「なんで君は、ルクシアにそれを託したんだ?…恐ろしくはないのか…?」
「別に」

最初から知っていたから、分かっていたから。

そもそも自暴自棄になっていたのを遊矢に救われた、遊矢との出会いで救われた命。
自分のために消費するつもりなどヒカルには毛頭ない。それは自殺願望的な意味ではなく、誰かのために終わりたいという意味だ。

なんの運命の巡りか、アーマードが再び宿った。それは奇跡という名の偶然。
もしもアーマードがなかったとしてもヒカルは未完の聖杯をルクシアに授けただろう。いや、そのはずだ。

鏡との戦いで、不運な人間が数多いることを知った。自分が悩むことすら馬鹿馬鹿しい程にだ。
ルクシアやヴェリタスもきっとその数に入る人々だった。
自分の夢に向き合い始めた時から決めていた、そんな人達を救いたい守りたいと。

「俺は、ただ鏡との約束を守りたいだけだ」
「…命を擲ってでも…?」
「…それで誰かを救えるなら、なんだってしてやるさ」

できやしなかった、なんてことはまだ分からない。
それが分かるのは真の意味でヒカルが死んだ時なのだろう。

「僕には、そんな特別な力はない弱い人間だ。命を、投げ捨てる勇気もない」
「投げ捨てるっていうのは、それが最初から無駄だと分かっている時だけだ」
「…そう、だけど…」
「お前が本当に兄を守りたいって言うのなら、逃げないことだ」

自分の弱さを認めて、それでいて逃げ出さないこと。
それこそが誰かを守る強さになる。
ヒカルがそれを知ったのもつい最近のことではあるが。

「…僕は」
「目を背けるな!」
「……」
「この道を選んだ以上、目を背けることはするな。それこそがお前を信用した遊矢たちへ最大の裏切りだ」

ダブルクロスなんてまっぴらのごめんだからな。
ボソッと呟いてヒカルは室内へと戻った。

「…僕は…!」

胸に手を当て力強く拳を握り締めた。


~~~


「俺は魔法カード《機械仕掛けの宝札》を発動!墓地の機械族――アレフ、ベートをゲームから除外しカードを2枚ドローする!」

「手札を補充されたか…!」

厄介なことが起きる予感しかしない。
間違いなく、ヴリエミア・フォリア・ドラゴンの上が現れると本能的に感じ取った。

「魔法カード《時空断》発動!《終極の幻想時計》が発動している時発動し、ヴリエミア・フォリア・ドラゴンとデッキからヘー、ヴァヴ、ザインをゲームから除外することで、」

「…一体なにを…」

「《刻翔竜 ヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴン》を特殊召喚する―――!!」

大地が裂ける、言葉にならない叫びを上げたかのように歪む世界の狭間に暴風が吹き荒れ、ヴリエミア・フォリア・ドラゴンと三体のモンスターはその隙間に居るのであろう何者かの狂牙にかかり世界から消滅する。
それは、あの竜とは比べ物にならない。邪の力を流し込みながら現れた。

「狂騒の中で震え戦くがいい。顕現せよ、《刻翔竜 ヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴン》!!」
《ATK:0/Level:10》

「………なんだ、あれ…」

―――竜が、見えない。

霧に包まれているのか、靄がかかっているのか、姿を顕した竜は姿を見せたとは言いがたい状態でフィールドに舞い降りた。

後ろで威嚇の叫びを上げるネヴラスカイ・ドラゴンにもその異様さが伝わっているらしく、空を飛んでいたはずなのに狩也を守るように翼で盾を作り始めた。

「デュエルモンスターズの精霊の分際で主を守るか、だが――ヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴンは召喚時、相手フィールドのモンスターすべて、このターン効果の発動と破壊耐性を無効にし、攻撃力を0にする!」

《ATK:0》
「ネヴラスカイ…!!」

弱々しくなり崩れ落ちたネヴラスカイ・ドラゴンの星を重ねた眼はいまだ暗闇の竜を睨んでいる。

「っ…邪魔な竜だ、退散してもらおうか。ヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴンは攻撃時、その攻撃力は除外された「刻翔の琉鍵」と名のつくモンスターの数×1000となる」

除外された刻翔の琉鍵はアレフ、ベート、ヘー、ヴァヴ、ザインの5体。
つまり攻撃力は5000ポイント。攻撃を受ければネヴラスカイもろともに敗北が決まる。

「消え去れ銀河の竜よ!ヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴンで攻撃!イグナイトブレイズ!!」

「簡単にっ負けるか!!速攻魔法《RUM-シューティングスター・フォース》!!ネヴラスカイ・ドラゴンを、ランクが1つ高いモンスターにランクアップさせる!ネヴラスカイでオーバーレイネットワークを再構築ッ!!」

力を失った竜は最後の力で力強く飛び立ち、亜空間へと旅立つ。
そこから現れるのは夕焼けの竜。星雲の眼を宿した茜色の空の輝き持ちし竜だ。

「瞬く粒子の星よ、虚ろう夕闇の狭間より現れろ!来い!《コスモ・メイカー ネヴラトワイライト・ドラゴン》!!」
《ATK:2800/Rank:8/ORU:1》

「ネヴラトワイライト…!来たか!」

ヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴンの召喚時に無効化された効果も、その後に召喚されたモンスターに対しては意味を成さない。
狩也は自由に効果が使用できる。

「ネヴラトワイライト・ドラゴン、効果発動!オーバレイユニットを1つ使い、このモンスターと相手のモンスターがバトルする時、相手モンスターを破壊する!」
《ORU:0》

相手ターンに発動できる強力な破壊効果。タイミングを逃さず発動できれば間違いなく敵を仕留められるだろう。
向かってきたヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴンの牙に対し、ネヴラトワイライト・ドラゴンは夕闇に染めた翼を限界まで広げ、それを星が砕ける一瞬の輝きのように発光させる。
その光は星雲を焼き、竜を滅ぼさんと炎を燃やすが、効かない。霧に弾かれ流星の瞬きは消えていく。

「どうして!!」

「ヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴンは除外された「刻翔の琉鍵」が3体以上の時自らに効果破壊耐性を与える!」

「……ッ!!」

ライフは1000、差は2200、防がなければ負ける―――!!

「罠発動!《スターブラスト・ブレイク》!この戦闘におけるモンスターの破壊を無効にし、俺が受けるダメージも無効にしてその半分のダメージをお前に与える!」

「なんだと…!?ッぁああ!!」
《Travis LP:300》

なんとか止めた。攻撃を止めた。
ヴリエミア・ペルフェクシオン・ドラゴンの攻撃力上昇は自身の攻撃宣言時のみ。相手ターンには発動しない。
―――次のターン、ネヴラトワイライト・ドラゴンの攻撃が決まれば狩也の勝ちだ。

「…あと少し…もう少しで…!」

「その一歩は、あまりにも遠すぎるな」

言葉の意味が入ってこない。

「な…――――に…?」

目を見開いた。
霧を纏う目の前の竜は、攻撃を終えたはずだった。だったのに―――。

「…ネヴラトワイライト…?」

「《終極の幻想時計》、第4の効果。《四の針》を墓地へ送った。これにより俺はこのターン、"もう1度バトルフェイズ"を行うことができる」

夕焼けの太陽に照らされた竜は残酷なその言葉により、禍々しい竜らしき何者かの牙に貫かれた。

その光景は、太陽を堕とした。としか表現のしようがないくらい驚愕をもたらした。

「食らえ、――イグナイトブレイズ」

「―――ッ、ああぁあああっ!!」
《Kariya LP:0》

星は燃え尽き、そして空は黒く染まる。

ARは解除されたものの、軋むような痛みに苛まれる体は自由に動かせはしなかった。

「…、…負け…た……?」

負けたことは分かる。ただそれに至るまでが未知の世界だった。なにも考える暇すらなく葬られたのだ、無理はない。

思うことは一つ、「また負けた」ということだ。

「…さて……」
「…!…どこへでも連れていけ、勝手にしろ」
「そう話を進めるな。俺はお前のその力を認めている」
「…なにを…」
「先に言ったな。迎えに来た、と。―――教えてやろう、その言葉の意味を」

言葉の一つ一つが甘い毒のように突き刺さる。

「お前が―――風雅遊矢を倒せ」
「…なにを……?!」
「俺の手を取れ、共に行こう。案ずるな、未完の聖杯の代わりぐらい用意しているとも」
「っ!なにを言ってる!?俺に、遊矢を裏切れと…!!」
「勝ちたいのだろう?」
「―――!」

ずっと隠し続けてきた野心が何重もの壁を壊されて外界に、月に照らされる。

「こうした敗北の中で、強くなる奴に嫉妬している、そうではないか…?」
「そんな、馬鹿なこと…あるわけ―――」

今目の前の深紅の目に全てを見透かされている。
なにを隠してもこの男は見抜いてしまう気がして、なにかを考えることすら放棄してしまいそうで。

「―――本当に、遊矢に……?」
「…あぁ、勝てる力とその機会を授けてやろう。そして全てが終わった時…そうさな、お前が大切に想う全てを新世界に迎えよう」

元々後付けのようなものだった「仲間意識」が少しずつ焼かれて失われていくのを感じた。
最早未完の聖杯などどうでもいい、自分でない誰かのことなど知ったことじゃない。どこか花の香りがするあの先輩を指していると思いながらもそれは関係のない他人のことだと今なら割り切れる。

――ただ勝ちたい、遊矢に勝ちたい。

願っていた、ずっと待っていたチャンスを与えてくれると言うのに、それを振り払う意味なんて今の狩也にはない。

その手が遠いようで近いように感じて、あの日、初めて遊矢に負けたあの時の死の実感すら越えるほどに焦がれた思いが胸の奥で張り裂けそうになりながら、―――なにも言わずに、トラヴィスの手を取った。

「…いいだろう。ただし、慶太や雪那たちに手は出すなよ。あくまで狙いは遊矢だけ、アイツを倒したその時は、お前の首を取りに行く――!!」
「勇ましいな。ならば行こうか、―――時の果てへ」

真夏の灼熱が揺らす世界から人は消えた。
その世界はまるで時が止まるよう、静かに、静かに消えてなくなっていった―――。


~~~


「さぁて本格的に元の世界に戻る方法、探さねえとな!」
「そうだな…托都は、やっぱり…」

「無理だ」

サッパリしすぎているほどシレッと言い切っているためやはりバリアン世界との繋がりは極薄い状態のままのようだ。

「だよなぁ…クロスはどうだ?」

「僕は、教団を裏切った時点で出入りする能力を失ってしまったから…役に立てなくてごめん」

「気にすんなよ!なっ!」

ポンポン、というかドンドンと背中を叩かれクロスはなんとも困った顔をしている。

だが進展はない、このままだとなにもできずに敵の野望が果たされてしまう可能性まである。そんなこと、あってはならない。

「…結局、二日経って進んだことは、教団側が一人こっちに来たくらいか」
「悪かったな、成果も得られなかった」
「お前が気にしてどうするんだよ」

入口があるなら出口は必ずある、だが入口はとっくに閉鎖してなくなってしまった。つまり出口もなくなった、というわけだ。

「………――?」
「ヒカル?どうかした?」
「…なんか、聞こえた気がして…」
「聞こえるって、まさか敵!?」

思わずヒカル以外のその場全員が身構えた。
近くに敵がいる?もしくはなにかを感じ取った?全てはヒカルにしか分からない、彼は目を閉じたまま黙り込んでしまっている。

「……紬?」

「はぁ!?」
「…あのドラゴン、一体なにを…」

「…おい、本気か…!?」

何故か大慌てであたふたしている。しかも右往左往している。
わたわたするのもなんだと托都が座るソファーに座ってまたなにか頷いている。

「…よし、頼んだ!」

「な、なにがあった…?」

「元の世界に帰れる!」

「な、な、な…」
「嘘、だろ…!?」

突拍子もないヒカルの言葉に誰もが耳を疑った。

荒れ狂う吹雪の世界に、ほんの少しだけ亀裂が入ったのは誰も知らない。







Next Act→


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【あとがき】

今回の一言「狩也さんご乱心シリーズ」
トラヴィスの熱い宗教勧誘には勝てなかったよ…(いつもの)
しかしあんな感じに敵を遊矢に切り替えてもあっちの味方になってるわけじゃなさそうなのが狩也らしい、ツンデレかな?(大混乱)

《終極の幻想時計》がじわじわ強い。じわじわどころかかなり強い、こういう地味なチート系ラスボスは嫌いじゃないわ。
デュエル面は多分今季最速スピードで書いていた気がする、さすがに中盤戦になってくると胸熱に胸熱でテンション上がるんだろうね、まぁ胸は熱くなっても雪那ちゃんの胸は厚くならないんですが。
まぁ狩也がものの見事に寝返ったわけですが、このあと遊矢にぶん殴られるんだろうなって思うと不憫だな…。しかもあからさまにフラグな発言してるし。
トラヴィスがほんと然り気無く未完の聖杯について言ってましたね、その保険ちょっとリスク大きくない?大丈夫?少なくとも強奪しようと思ったら三人倒さなきゃダメだよ?
ヒカルとクロスが和解ルートを順調に歩んでるというかヒカルが大人になりつつあるというかで、A.Visionから色々学んだなコイツ。
主人公の出番の少なさに驚愕してるけど次回は久々にメイン回だぞ!やっぱり遊矢は後半からだよね~。え?前作でメイン回やったはだいぶ後のほうだった?オボエテナイナー\(^o^)/
というわけで後半戦突入ッ!!!

次回!!吹雪の世界から脱出せよ!え!?タイムリミットは1時間!?
ついにリンと紬のおかげで帰れる、と思いきや待っていたのはトラヴィスが仕掛けた罠。限られた時間の中で無事に帰ることができるのか?

【予告】
Second act.12「真っ直ぐに、前を見て」


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僕ら、無事に帰れるのだろうか…。

教団の力はもうないし、彼にも信頼されていないし正直心配だ…。

あぁ…なんだか目の前がぐーるぐるぐるぐると…。

うう…ちょっとだけ離脱したい……。


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【吹雪の世界で一夜明け1】

「よーっし!!無事に吹雪も止んだことだし、ようやく外に出られるぜ!」
「昨日あれだけ萎れてたのに次の日には元通りって、お前すごいな…」
「へへっ!すげーだろー!」
「調子が良いのは悪いことではないが、ここは俺達の知らない世界だ。あまり遊び気分になるなよ」
「わぁってるよー!全く、托都はいつからそんな母さんみたいなこと言うようになったんだよ!」
「一応兄という自覚を持っているだけだぞ、誰が母親だ」
「でも雪遊びか、たまには…」
「お前もか…」
「本当はお前も遊びたいんだろ?」
「ほらほら楽しいぞ~?」
「さっさと行くぞ大馬鹿ども!!」
「いったぁーッ!!?」

END