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Second Act.9「時駆ける天馬」




「…それで、ソイツはそう言ったわけか」
「うん。そゆことだよ」

ここはハートランドシティのとあるホテルの一室。
政府の要人を始め、世界的スターや皇族までもが利用するホテルの最上階。このスイートルームを占拠しているのはリンという女性だ。
彼女は異世界に通ずることのできる貴重な人物、バリアン世界ともアストラル世界とも違う世界によく干渉している。

あの情報を仕入れた大河はアミと共にリンに会いに来た。
たまたま彼女が"こちらの世界"にいたことも幸運であったが、それ以上に移動するべき位置が分かりやすく行動に無駄がなくなるのはありがたい話だった。

「いやしかし…まさかあれが原因か」
「なにか知ってるんですか?」
「ん?…あぁ、簡単に説明しよう。遊矢たちを取り込んだ異世界、あれは"そこしかない"時間の流れの世界だ」
「…そこしかない?」

リンが言いたいことはこうだ。
本来我々の生きる世界は1分1秒、1コンマでも時間が流れ、日にち季節年月は変わっていく。天候や環境も時間の流れによって切り替わる。
しかし、遊矢や狩也が閉じ込められている世界には時間が流れるという概念がない。
機械的に朝から夜を繰り返すだけの世界、月日が変わることはない。ただ繰り返し、一日を断片的に切り取りそのまま保存して放置された世界だ。

「しかも、出入りできるのが連中だけということは、敵は時を操り切り取って空間を創る力があるということだ」
「……うっわ、めんどくさ」
「大河くん…」
「で、その原因…というか一因か」

リンは少しだけ申し訳なさそうな顔をして、ひとつ間を置いてから告白した。

「錬金術師との戦いでヒカルが開いたミドガルドの扉だな」

ミドガルドの扉―――。
錬金術師・ヴェリタスは時間の流れが速い世界と止まった世界を駆使し、その計画を現代において遂行させんと目論んだ。
しかしその世界から人間の世界に侵攻する際、人間界と異世界を隔てる扉――ミドガルドの扉が問題として立ちふさがる。
ミドガルドの扉は邪を払い、拒む。そこでヴェリタスは当初の第一目的である未完の聖杯に目をつけた。元々必要な材料であった未完の聖杯、それをうまく利用できる人材を探す中で見つけ出したのが救世の装甲。即ち朽祈ヒカルという青年だった。
彼は全ての事をうまく運べる素晴らしい人間だった。未完の聖杯でありながら、ニヴルヘイムがもたらす邪な力を退ける聖なる装甲を纏う者。
ヴェリタスは計画を進め、見事にそれを手に入れてヒカルは結果として扉を開いた。

逆を言えばそれ以降扉を閉めた者はいない。
ミドガルドの扉は現在、開けっぱなしの状態なのだ。

「ヒカルが巻き込まれたのは間違いないが、この事実を知ったら落ち込むだろう…」
「ヒカルさん…」
「それに気になるのは遊矢のお兄さんの方かな」
「どうして?」
「ほら、もしも彼らが本当に狩也くんが倒した教団だったとしたら、教団壊滅の原因は彼なわけだし」

大河は全て事情は把握している。
教団という鏡を復活させようとした胡散臭い宗教とその顛末、それに関わった者まで。
全て慶太から聞いていた。

そう。堰櫂托都こそが教団にトドメを刺した張本人。
狩也にやられた教祖は教徒たちと共に逃げたが、それの前に現れた托都は教祖に追い討ちをかけ、教徒たちは散り散りに、教祖は廃人化したらしい。
一体なにをしたか詳細まではわからない、ただそういったことがある以上、敵は托都にも因縁浅からぬ敵というわけだ。

「今はどうしようもない。遊矢たちとは、なんらかの方法で接触を試みる」
「ありがとうございます!リンさん!」
「だが、今は…」

リンがまた申し訳なさそうな顔をして立ち上がる。
高層ホテル最上階の窓から見る景色は夏の都会の平和な姿だけだった。


~~~


この雪の中の世界でなにが起きているのか、ヒカルには理解できなかった。
ただ突然起こった出来事に為す術もなくただ呆然とした。

「ここで、なにが…」

「それは――――」

先刻聞こえた女性の声、となにか知っているのか女性に対し聞いたこともないような必死な声の托都。
そして暴風によって破壊されるシャドウ・ハルシオン。

何一つヒカルにとっては理解できない。
あの托都が、女を相手に、デュエルにも負けて、無様なのは傍目から見ても分かる。

「僕から説明させてくれないか?」
「…?」

遊矢の後ろから現れたクロスにヒカルは目を見開いて驚いた。

似ている。彼はとても似ている。

「お前…ッ!トラヴィス!」
「あぁいや違うんだ!そうだ!そうだった!」

クロスの胸ぐらを掴み上げて拳を握る。
見た目からは想像もつかないがヒカルは自他ともに認める怪力だ。どこからその力が出てくるのかは誰も知らないが。
乱暴なことをされてクロスは手を上げながらなにかよく分からないことを言いながら慌てている。

「遊矢に近付いてなんの目的で―――!!」

「ヒカル、ステイ!!」

「犬かッ!」

すぐにでもその顔面を殴り飛ばさんとした瞬間、遊矢が犬へ命令するかのように叫ぶ。
その言葉はヒカルの耳に届き、すぐさま切れ味の良いツッコミを入れた。
その際掴んだ手が緩み、クロスはその場に尻餅をつきながら息を吸い込み吐き出してゲホゲホと咳き込んでいる。

「クロスは味方なんだ!その、トラヴィスってのは違うんだ!」
「味方…?」

「………トラヴィスは、僕の兄だ」

「……兄?」
「まさか!?」

割って入った遊矢にすっと表情を変える。
そして、クロスは尻餅ついたままその答えを示した。
遊矢に言った止めるべき兄の存在、それこそがトラヴィスだ。

「…そういえば、さっきもトラヴィスって言ってたよな」

「僕の兄…トラヴィス・ハーツは、時間を操り空間を創り出す教祖の息子」

「教祖の、息子…!?」
「じゃあお前も!?」

クロスは少しずつ、トラヴィスについてを語り出した。

トラヴィス・ハーツ、クロスの双子の兄。
時間を操り、ねじ曲げ、切り取る力を持つ異質な存在。
父が創った教団に父の願いに傾倒し、父を憧れの目で見ながらずっと傍に寄り添い続けた。
父の死後は絶対的なカリスマを以てバラバラになった教団を纏め上げ、凄まじい勢いで計画を実行に移し、現在に至る。

幼少よりその力に目覚めていた兄は、周りに力を分け与えることもできた。
彼ほど強力な力はないが、彼が作った空間へ出入りすることや誰かを空間に引き込む力が与えられた。

父がおかしな方向へのめり込み始めたのはそんなトラヴィスも原因の1つだろう。

「時間を…操る…」
「…その様子を見るに、未完の聖杯を兄さんは…」
「もしかして、時間を戻したのか…!?」
「そう。魂の時間を戻して器を回収した…と言えばいいか」
「あぁ!なるほど!!ってえ!!未完の聖杯!?」

遊矢は目を丸くした。
ヒカルが持っていた未完の聖杯は、ルクシアへと渡されてすでにないもののはず。それを、時間を戻して復活させたというのだ。
信じがたい話だが、現状を鑑みれば否定することもできない。

「…でも、どうして君を逃がしたんだ…?」
「さぁ…?奴からすれば、俺はいらないらしいけど」
「……。とにかく、こんな寒い外で話すのも体が冷えるだろうから」
「そ、そうだな!よし!」
「……………」

遊矢とクロスが慌ただしくどこへ向かうかを話す中、ヒカルはその輪から抜け出して彼の元へ歩み寄る。
あの騒ぎで目を覚まさないのだから相当なダメージを受けていたのだろう。

「なにがあったんだよ、ホント」


~~~


「………?」

空は茜色。太陽の照りつけが激しくも大人しい。
涼しい室内において、体を冷やさないようにかけられた毛布を払い除け起き上がる。

「…どこに行ったんだアレ」

目を開き、辺りを見渡す。人の気配はない、当然と言えば当然だが少しおかしい。
慶太までもここにはいないようだった。

探しに行かねばと体を動かそうとしたがうまく動かない。
寒いくらい冷やされた室内で暑さを感じるのは体の変調を示しているのだろうか。転げ落ちるようにしてソファーから離れたところで狩也は気付いた。
体の重さ、息苦しさのことより、このおかしな世界でいなくなった慶太を探しに行くことすらできないことが歯痒く悔しい。

「…とにかく、行こう…!」

テーブルで体を支えて意識を保とうと頭を振る。

陽はすでに落ちかけている。
夜になれば昼以上に厄介な熱気が待っているだろう。
更にまだ見ぬ敵の可能性がないわけでもない。いくら慶太がそれなりに強いデュエリストであろうと危険なのは考えずとも分かる。

意を決して扉を開き、狩也は赤い町の中へ消えていった。


~~~


「………」

話は2時間前に遡る。
慶太は陽の落ちる前のハートランドシティで一人、コーラを飲みながら歩いていた。
―――否、一人ではない。
彼は何者かの気配を感じながらただ町を歩いていた、まるで自身の家からわざと離れるようにしてだ。

そして、彼は今自宅から反対側だろう、ハートランドシティで最も有名な庭園にやってきた。

「全くよ、手間のかかる親友が二人もいるんだ、頼むから平穏無事に夏休み終わらせてくれって。可愛い彼女も作れなくなっちまうぜ」

薔薇の迷路を抜けた先の広場、たった一人で呟いた愚痴は男の耳に届いたらしく、思わず男は口角を上げた。

「関与しなければ生温い平和の中でその生を終えることができたがな」

「生憎友達の危機には敏感なモンでさ、俺、すぐ巻き込まれちまうんだわ」

「そうか。だが今貴様は異物だ、ここで消えてもらう――!!」

一瞬視界が揺れるほどの風が辺り一面に吹き込む。
デュエルディスクが装着された左腕で目を覆い、一秒二秒後腕を下ろした時、舞い落ちる花片に演出された銀髪の男が正面に立っていた。

「我が名はトラヴィス!新たな世界を支配する者、――まぁ、ここで花のように散る貴様にはなんの関係もないがな」

夏に似つかわしくない暑苦しい白いマントをはためかせ右手に落ちる花弁を握り潰す。

口振りからしてあからさまに敵の大将。
夏なのに寒いくらいのなんとも言えない恐ろしさに狼狽えたがそれ以上に高揚が勝った。
勝てばここで全て終わらせることができる。なにもかも元通りに、平和な夏休みが彼らに戻ってくる。

「花は散らないさ、俺がいる限りはな」

「…ふん、良いだろう。かかって来るがいい、貴様に1ターンの猶予を与えてやる」

「言ってろ!そんな口叩ける内にやらせてもらうぜ!デュエルディスク、セット!」

蕾のようなものがついた緑色のDシューターがデュエルディスクの形に変化し、蕾は花開く。
トラヴィスも白銀のデュエルディスクを構え、敵を迎え撃たんと立ち塞がる。

「「デュエル!」」

《LP:4000》

「先攻をもらうぞ。俺は永続魔法《終極の幻想時計》を、発動!」

「終極の、幻想時計……?」

聞いたことのないカードから溢れる禍々しいオーラ、そしてトラヴィスの背後に現れた青白い光を放つ不思議な時計。
どこにあるアナログ時計となんの代わりもなく時間を刻んではいるがそれが刻む時間は現在時刻ではなく12時。これではどんなカードなのか検討もつかない。

「ターンエンド」
《Hand:4》

「なっ!ターンエンド!?」

「どうした、猶予はくれてやる。俺が支配する時の中で、どうにかしてみるがいい」

針はその言葉に促されるようにして時を刻み始めた。
―――なにかがマズイ。その直感だけがあの魔法カードに対する危機を体に知らせてくる。

「俺のターン、ドロー!!」

手札に揃うは二枚のモンスターと一枚の魔法カード、これで斬り込むことは可能となった。

「俺は《鎖鳥の騎士 ロータス》を召喚!ロータスの効果により、手札の鎖鳥モンスター1体を墓地に送り、デッキから鎖鳥モンスターを呼び出すことができる!来い!《鎖鳥の狩人 ガーベラ》!」
《ATK:1700/Level:4》
《ATK:1800/Level:4》

剣を持った蓮の騎士と弓を持った扶郎花の狩人が立ち並び、その中心は誰かを待つように空いている。

「墓地に送った《鎖鳥の魔術師 ヒガンバナ》も、鎖鳥モンスターが存在する時特殊召喚できる!現れろ!」
《ATK:1200/Level:4》

これでレベル4のモンスターは三体。
ランク4だが素材二体のロゼッタやサンフラウでもランク5のキングプロテアでもない別のモンスターエクシーズが出てくるというのだろうか。

「レベル4のヒガンバナ、ガーベラ、ロータスでオーバーレイ!三体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

それぞれが象徴される花の色のような光に包まれ地面に開いた異空間に吸い込まれる。
それらが弾けて飛んだ時、大地から芽が息吹き、花開いて妖精の羽根を背に宿した白い髪の剣士が現れた。

「来い!輝く希望の白き剣、《鎖鳥の霊剣士 スノードロップ》!」
《ATK:2500/Rank:4/ORU:3》

「希望――――」

「スノードロップは召喚に成功した時、相手に素材になった植物族モンスターの数×400ポイントのダメージを与える!」

「ほう…」
《Travis LP:2800》

《鎖鳥の霊剣士 スノードロップ》の元々の必要素材数は2体。だが3体、4体とその数を増やすことができ、それでダメージの量と使える効果も増えるのだ。

「更に速攻魔法《シードブラスト》発動!自分フィールドのモンスターが相手に効果ダメージを与えた時、同じダメージをもう一度相手に与える!1200のダメージだ!!」

「ッ…!!」
《Travis LP:1600》

トラヴィスのフィールドには不気味な時計以外になにもない。つまり攻撃すればこのまま勝利はもぎ取れる。

罠かもしれない、だが対策はある。

「スノードロップの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、このターンの終わりまで相手は手札からカードの効果発動ができなくなる!」
《ORU:2》

「考えたものだな。《終極の幻想時計》をフェイクと見て俺の手札を封じたか。悪くはない」

トラヴィスの手札は4枚。確かに永続魔法がフェイクであると見るのは妥当だろう。名前だけなら怪しさより強力であろうイメージが貼り付くのも分からなくはない。

「バトルッ!スノードロップ、ダイレクトアタックだ!」

「そう、悪くはないがな―――」

「マリンスノードロップ!!」

雪のような白き剣士は純白の剣を振りかぶり、独り言を呟きながらも微動だにしない銀髪の男に斬りかかる。

「それは貴様の時間の中だけの話だ」

「なっ―――スノードロップ!?」

その頭を割らんと襲いかかるスノードロップはトラヴィスが呟いた言葉を聞いた途端、ビデオテープを巻き戻すような動きで慶太のフィールドへと戻っていく。
――それだけではない。慶太が発動したカードや召喚したモンスターも次々と現れ、いつの間にやらフィールドはターンが始まった直後へ変貌を遂げた。

「なにが……起きた…!?」

「《終極の幻想時計》の効果。このカードは俺が終えた時間の流れによって効果が変化するカード。1ターンの時を終えた俺はデッキまたは手札から《一の針》を墓地へ送ることで、相手ターン開始時にフィールドの状態を戻すことができる」

互いのターンを数えてエンドフェイズ1回から12回までの間、《終極の幻想時計》は回数によってその効果を変える。
エンドフェイズ1回目を終えた場合の効果はフィールドをターン開始時に戻す。それは手札、ライフ、墓地、全てだ。トラヴィスが受けた効果ダメージは全て無かったことになる。
だがその時間の逆行によって戻らないのは通常召喚権とメインフェイズ、ドローフェイズだ。

《Travis LP:4000》
「《一の針》が手札にあったなら俺は負けていた、その手は間違っていなかったというわけだ」

「っ…」

「通常召喚権がない今、再びスノードロップを呼び出すことも叶わない。さぁどうする」

こんな運試しに敗れたのかと思わず唇を噛んだ。
だが自身もなんのダメージも受けていない。モンスターがいなくとも守りきれるはずだ。

「カードを二枚伏せてターンエンド!さぁ来い!!」

どんな逆境でも笑顔だけは忘れない慶太が笑う余裕がなくなり始めた。さっき狩也に話した言葉が慶太の脳内で再生される。
こんなデュエルがはるはずがない。時間が戻される、自分のターンを自由に進めることもできないデュエルがあるわけがない。慶太にはそうしか思えない。

「俺のターン!」

今伏せた二枚なら戦闘だろうが効果だろうがダメージは耐えられる。
まだ勝機はある。次のターンにまたスノードロップを呼べばきっと勝てると慶太は信じている。

「俺は《刻翔超越》を発動!フィールドに《終極の幻想時計》が存在する時、手札からアレフ、ベート、ギーメル、ダレットの四体をゲームから除外し《刻翔竜 ヴリエミア・フォリア・ドラゴン》を特殊召喚する!」

「なんだそのモンスター…!?」

聞いたことのないモンスターは妖しく光輝く時計を魔方陣としてⅠからⅣと刻まれた四体のモンスターを喰らい姿を顕す。

「我が夢の断片、貴様に見せてやろう。降臨せよ!《刻翔竜 ヴリエミア・フォリア・ドラゴン》!!」
《ATK:0/Level:10》

その竜はトラヴィスと同じ、銀色の竜。美しさの中に共存する狂気のような邪悪さすらトラヴィスの瞳の奥にあるものと同じく感じる。

「攻撃力0…!!どんなモンスターだろうが、ダメージが与えられない攻撃力なんじゃ勝てないな!」

「馬鹿め、攻撃力の数値などただの数に過ぎん。俺の時間の中ではな。ヴリエミア・フォリア・ドラゴンの効果、除外されたアレフ、ベート、ギーメル、ダレットを墓地に戻し、このターン四回のバトルを行う!」

喰らった四体のモンスターはモンスターエクシーズのオーバーレイユニットのように光となって銀色の竜の周りを浮遊し始めた。

だが攻撃力0のモンスターが三回もバトルしたところでなんの意味もない。与えられるダメージは0でしかないのだから。

「でもそれが怪しい!罠カード《茨の盾(ソーンシールド)》発動!!このターン、相手はバトルするごとに1000ポイントのダメージを受ける!これでも攻撃するか!」

「行け!ヴリエミア・フォリア・ドラゴン、ダイレクトアタック!」

「なにっ!!」

トラヴィスはまるで話を聞いていない。
罠の効果でダメージを受けると分かっているはずなのに使役する竜に攻撃を指示した。

「貴様のフィールド、よく見てみるがいい」

「っ…!そんな…!?」

ハッとしてフィールドを見る、そこに伏せカードの存在はない。最初から伏せていなかったか、手札に戻っているではないか。

「《終極の幻想時計》第二の効果、《二の針》を墓地へ送り、互いに伏せたカードを手札に戻す」

「お前は元々伏せカードがない…!」

「その通り。そしてヴリエミア・フォリア・ドラゴンの効果には続きがある、それは、バトルした回数×1000ポイントのダメージを相手に与える」

「―――マジかよ」

《刻翔超越》の効果でヴリエミア・フォリア・ドラゴン召喚に必要となる素材は二体以上。
皮肉か偶然か、それはスノードロップと同じ、素材にした数でモンスターの効果が変化するモンスターだったということだ。

「この敗北を気に病むことはない。花はいつか枯れるもの、その時が幾分か早まっただけのことだ。食らえ、ジェネシス・ミラージュ!!」

「ッ!!っああぁぁぁあ!!」

《Keita LP:0》

四つの光が束となり荒れ狂う星の波となって慶太に襲い掛かり、一瞬でライフポイントを呑み込んだ。

「…っくそ…」

庭園の花壇に体をぶつけて立ち上がれないまま遥か先にも感じる距離にいるトラヴィスを睨み付けた。

「暇潰しにはちょうどいい遊戯だった、だが前にも言った通り、この世界に貴様は不要なもの」

「…それ、どういうことだよ…!」

「終極時計の鍵となる未完の聖杯の存在、よもやそれが仇敵とは予想外であったが…」

「ま、さか…」

静かに歩み寄りながら淡々と話すその内容は、信じがたいが確かに有り得なくはない話だ。
彼らの狙っているものは遊矢たちではない、最初から関係がない。

「お前、狩也が未完の聖杯とかいうおかしなモンだって言うんじゃ――!!」
「なにを当然なことを。それが事実だ」
「っ―――!」

敵の言うことが全て真実だとは限らない、だがそれは真実味があった。こんな世界だからこそあってしまった。
トラヴィス率いる教団が欲しがるものを見す見す普通の世界に放り出すわけがないから。

「貴様が消えた後、ゆっくり奴を探し出してやろう。元いた世界に消えるがいい」

「っ…待て!!狩也を、っ!!」

「案ずるな。奴は俺が世話をしてやる。道端の花を踏みにじるようにじっくりと、なぶるように、だが」

「―――――――!!」

粒子状になって消えゆく手を伸ばして目の前の男に掴みかかる。
しかしそれは叶わず、その体はこの灼熱の世界から消滅して消え去った。

「――――さて、どこにいるやら…。徹底的に――追い詰めてやろう」

静かに揺れる風に包まれる庭園。

風で飛ばされ、落ちた美しい紫の花弁を踏み潰した。


~~~


「…今のは……」

「ヒカル?」
「なにか感じ取ったのか?」

「……いや、なにも」

――一瞬慶太が見えたような気がする。

まさか、そんなわけはない。
雪の中を歩くヒカルは自分に言い聞かせて遊矢たちを追った。

「…なにも、ないよな」

消えていく彼が必死になりながら自分に掴みかかろうとしたのは、きっと気のせいだったと思いながら。







Next act→

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【あとがき】

今回の一言「インチキ効果もいい加減にしろ!」
やだ…トラヴィスのデッキがチートカード実装してる……、しかもノーコストだわ…勝てる気がしない…。

トラヴィスの初デュエル、恐ろしいほどに強い強い。なんだあの強さありえねえ。今までにないタイプの強力ラスボス感ありますね。
狩也の死亡フラグがあらゆる方向から建築されていっててもう私困っちゃう。暑さで普通にやられてしまった上ラスボスが狙いを定めて襲いかかるまであと少しという盛り盛りっぷり。だが私は反省しない。
つかリンさんキタ━(゚∀゚)━!
メイン無能来た!これで勝つるッ!!……いや、今回は有能だわ、即時に事件の原因を見つけ出したところが、だがな。
つーわけでA.Visionで開けるだけ開けたミドガルドの扉の話がここで回収です。そういや閉じてねえわ状態。
時間の力を持つトラヴィスと時間に関する設定があるミドガルドの扉、もうなんとなく分かるわっていうようなお話で……。ヒカルが風評被害受けてて笑えるけど一切笑えねえ。
そんなヒカルは無事遊矢たちと合流、クロスとも一応分かり合えたかな?でもヒカルはそれどころじゃなさそう。喋らないけど恥は晒してる托都のことだよッ!
それでも一番の胃痛は遊矢な気がしなくもない。
そして負けて元のハートランドに強制送還された慶太のメンタルが一番ダメージありそう。スノードロップもったいねえ…もったいねえよ…。

次回!灼熱の空の下、狩也とトラヴィスがついに邂逅…!!
時間を操り支配するデュエルを繰り広げるトラヴィスに立ち向かう狩也、しかし…?
遊矢たちも動き出す、かな?

【予告】
Second act.10「創刻」


~~~


単独俺参戦だぜ!!やったー!!!

ここに出番があるってことは、トラヴィスとの決着戦があるってことだよな?な!

え?もう終わり?今回のデュエルがラスト?

ちょ嘘だろ!?華やかな俺の夢がーッ!?

~~~

【吹雪の世界で合流後1】

「よしっ!」

「あれ、なに作ってんだろ?」
「さぁな。自信はあるようだが」
「不味くないのは知ってるけどさ、珍しいよな」
「あぁ、居候のわりにはなにも作ろうとしない」
「…もしかして下手っぴになってるから作りたくないとかじゃ…」
「…まさか」
「なくはないぜ!…アイツ不器用だし」
「………心配だな」

「(なんでアイツらずっとこっち見てるんだ…?)

「失敗しませんように…!」
「食材が無駄にならないように…!」

「……………」


END

~~~

【吹雪の世界で合流後2】

「よし!寝る前に風呂だな!」
「先入れよ、俺は一人で入る」
「ええーっ!?いいじゃん!合宿の時は一緒だったろ!」
「大浴場と一般家庭の浴槽を一緒にするな!狭いだろ!」
「ぶーっじゃあ托都は!」
「二人が寝た後にゆっくり」
「ええー…ノリ悪いぜ!合宿の時もそうだし…なんでだよー!」
「……その、なんだ」
「いいんだよコイツは」
「…反省はしている」
「………???」
「いやー前に風呂上がりではだ」
「そこで言うか!?」
「別に遊矢ならいいだろ」
「よくない!な、ないに決まっているだろう!?」
「兄弟だろ」
「それとこれとは訳が違うぞ!」
「照れるなよ、面白いだけだぜ」
「…………」

この二人になにがあったのか、それを俺は、その数日後に知ることになる。


END