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Second Act.8「過去の物語」



話はおよそ10年前に遡る。
ここはとある集合住宅の一室。

「夜月、そんな仕事詰めだと体壊すぞ?」
「いーのいーの、私若いからまだイケるイケる」
「イケるわけないだろ!飯食え!」
「こ、こらっ!引っ張るな!」

夜月の服の裾を必死に引っ張る手が画面を見た途端に止まる。

「………これ誰?」
「んん?あー、それね、堰櫂ってちょっと有名な家」
「なにかあるの?ここに」
「なくはないかなぁ…多分だけど」

画面に大きく映し出された金髪の女性と「堰櫂」という名前。そしてその来歴。
特に変わった文は見当たらないが、それは他人が見た場合だ。

「俺に似てるな、この人」
「あー…似てるね」

金と茶の髪はどこか似ている、いや、夜月から見たら面影すら覚える。
しかしそこにいるのはあくまでも「風雅」の子だ、なんの関係もないと信じたい。

「明日、ちょっと遠出するわ。留守番頼める?」
「大丈夫!夜月が好きな晩飯作って待ってる!」
「よしっ!私の好きな味付けは?」
「濃い塩味!」
「分かってる!さすがは托都、私の弟だ!」

長身の夜月が少し腰を曲げてハイタッチを交わす。

幼い頃の朧気な記憶。今もどこか懐かしく、夢にまで見るその光景は、闇の中でも輝きを放ち、忘れることを、恐れている。


~~~


――雪の中のハートランドシティには不穏な空気が立ち込めていた。

頭上から遊矢を見下ろす赤ローブの女らしいデュエリスト。そして傷を負った遊矢の前に現れた托都。
その二人がなんの因縁か、すでに臨戦体勢なのだ。

「托都、どうしてここに…」
「ヒカルから通信があってな、お前が危ないと言うから来てみたが…」
「どう考えても罠だろ、それ…」
「分かっていたとも。ヒカルにこちらから連絡がとれなかったからな」
「マジかよ!」

敵の罠である可能性など托都にとっては重要ではないらしい。
問題なのは遊矢が危険に晒されているということだけ。それだけで敵のいる場所に乗り込めるのだ。

「…わざわざ自分から罠にかかりに来たなんて、愚かな」

「ヒカルの名を騙った奴の化けの皮を剥がしに来ただけだ。先刻言った通り、遊矢のデュエルは俺が引き継ごう!」
「托都!本気かよ!?」
「本気だ」

ライフポイント2450、手札は3枚。フィールドにモンスターはなく、伏せカードが1枚だけ。
圧倒的に不利なこの状況で托都は戦おうと言うのだ。赤いローブのデュエリストは不敵に笑って声を上げる。

「無論、構わんぞ!フィールド、墓地はそのまま使い、デッキは貴様のものを使うがいいさ!」

「いいんだよな」
「あぁ」
「でも…もしなにかあったら…」
「心配するな、俺が負けるわけがないだろ」

不安そうな遊矢の頭をぽんっと撫で、紅い水晶に収まったデュエルディスクをセッティングする。

「……そこの」

「…僕?」

「詳しい話は後で聞かせてもらう」

「…分かった」

クロスの事情はあえて聞かない。いや、遊矢が守ろうとしていたのならそれはもう敵ではないのだろうと自分の中で完結したからこそだが。

デュエルフィールドに立ち、左の瞳を紅い色に染めARとリンクする。
人ならざる存在の証、というのは言い過ぎか、それでもその色は異質な存在に違いはない。

「「デュエル!」」

「さて、私のバトルフェイズ中なわけだが…なにもせずに敗北、は面白味がない。私はこれでターンエンド!」
《Hand:0》

温情と言うべきか、ナメられてると思うべきか。この状況なら確実に負けが決まっていたのだからナメられてるが妥当か。

「俺のターン!」

遊矢の墓地を共有、ということは墓地にエア・ストリームソードが存在しているということになる。
それはつまりレベル4モンスターが墓地に2体いるということだ、手札をあまり消費せずにこれらを使えば大きなアドバンテージになる。

しかしフィールドにはアウトゥムヌム・モントがいる限り光属性モンスターは呼び出せない、そしてフィールド魔法《月光下の決闘場》の効果で互いに光属性モンスター以外が攻撃すれば、攻撃力が0となる。
だがバトルしなければ永続罠《夜天の呪縛》の効果でモンスターは破壊される。

まず托都のデッキに光属性モンスターはほぼいない、その点はいい。逆に言えば光属性が優位になるこのフィールドで、托都が使う闇属性モンスターたちはほぼ価値のないものと化すのだ。
分かりやすく言えば「詰んでいる」。

「一体どうやって切り抜けるつもりだ?」

「魔法カード《クロス・ツヴァイ》を発動!墓地のモンスターエクシーズ1体を除外し、そのモンスターのランクと同じレベルのモンスターを二体、墓地から特殊召喚する」

「墓地にはエア・ストリームソード!しかもカーツとシュート・ブレイブがいる!」

墓地のランク4のエア・ストリームソードを除外することで、レベル4の疾風のカーツとシュート・ブレイブがフィールドに舞い戻る。強力な効果だ。

「更に、《クロス・ツヴァイ》の効果で復活したモンスターのレベルが4以下の場合、レベルを二倍にする。俺はレベル8となった《Ss-疾風のカーツ》と《Ss-シュート・ブレイブ》でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

緑色の光が交差して天高く舞い上がり亜空間に飲み込まれる。托都が風属性を使ったエクシーズ召喚など見たことがない。貴重なものだ。

「現れろ!《機械堕天使 シャドウ・ハルシオン》!」
《ATK:3000/Rank:8/ORU:2》

「シャドウ・ハルシオン…でも、《月光下の決闘場》がある限り、攻撃すれば攻撃力が0になる」

「そうだ。だが、やらねば負けてしまうからな!シャドウ・ハルシオン、アウトゥムヌム・モントを攻撃!」

「そんな!!」
「自爆するつもりかよ!」

機械の美しき堕天使は翼を広げて秋の花嫁へと向かっていく。
しかし月光に照らされたその姿にはなんの変化も起きやしない。

「シャドウ・ハルシオンは戦闘時、1度だけ相手の発動したカード効果を無効にする」

「《月光下の決闘場》をすり抜けて…!」

「行け!シャドウ・ハルシオン、トワイライトレイン!」

夕闇の赤を象徴する閃光が雨のように天空から降り注ぐ。巻き込まれた秋の花嫁はか弱い叫びを上げて破壊された。

これで光属性を縛るコンボが崩れ、貴重な光属性モンスター「機械熾天使」を呼ぶことができるようになった。

「ふん、中々やるな。さすがはバリアンの神の子といったところか」
《Unknown LP:3500》

「誉れとして受け取っておいてやる」

「でも、これじゃあまだまだ足りない。もっと一撃かましてこないと!」

「…………」

―――アンタ、デュエル弱くない?もっと一撃かましてきなよ!

違う、と心の底から声がする。
遠い記憶と合致するその言葉に一瞬気が緩んだだけだと、正面に立っている敵は彼女ではない。そう、信じている。

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド」
《Hand:2》

死人が生きているわけがない。
あれはあくまでも敵、ただ言葉だけが似ているだけで、赤の他人だ。

「どうした、呆けていては私に勝てないぞ」

「くっ…」

「私のターン、ドロー!!私は魔法カード《月光下の宝札》を発動!墓地の「月華」と名のつくモンスター1体につき1枚、デッキからカードをドローする!」

墓地の「月華」と名のつくモンスターは、プリマヴェーラ・モント、アエスタス・モント、アウトゥムヌム・モントの三体。よってドローできる枚数は3枚。
手札が0なのだから今は強力に他ならない。

「ドロー!!私は更に、《死者蘇生》を発動!蘇らせるのはアウトゥムヌム・モント!」
《ATK:2500/Level:8》

「また光属性を…」

「いいえ、私は三枚目の《チェインジフォース》を発動。これにより、アウトゥムヌム・モントを生贄に、《月華の光姫 イヴェール・モント》を特殊召喚する!」

最後の1体、冬の花嫁。
秋の花嫁は蕾へと還り、その花は白く輝いて咲き誇る。

「現れよ、《月華の光姫 イヴェール・モント》!!」
《ATK:3000/Level:9》

「攻撃力…3000か」

攻撃力だけを見るなら特に問題はない。シャドウ・ハルシオンと並ぶ程度ならどうにでも処理できる。
だが効果はどうだろうか、光属性を縛る効果があったアエスタス・モントとアウトゥムヌム・モント、それらと同じか同等のものがあるのは明白だ。

「イヴェール・モントはアウトゥムヌム・モントと同じ、光属性モンスターの召喚を封じる」

「そんなものは想定内だ。で、隠している玉はなんだ」

「焦りは禁物。イヴェール・モント!シャドウ・ハルシオンを攻撃!」

互いに攻撃力は同じ。
しかしわざわざ召喚したモンスターを自爆させるとは考えられない。

「イヴェール・モントの効果、戦闘する相手モンスターの属性が光属性以外の時、そのモンスターを無条件で破壊する!」

「シャドウ・ハルシオンを!?」
「そうきたか…!」

イヴェール・モントが持つ真の能力、それは攻撃宣言と同時に発動するモンスター効果。
シャドウ・ハルシオンの属性は言わずもがな「闇」。イヴェール・モントが破壊できないのは光だけ、よってバトルは中断されてシャドウ・ハルシオンだけが効果で破壊される。

「クソッ…!」

「バトルは中断した、つまりまだ攻撃権利は残っている!これでトドメ!イヴェール・モントでダイレクトアタック!」

「罠発動!《エクシーズ・ディメンジョン・バック》!除外されているモンスターエクシーズ1体を選択しフィールドに特殊召喚、このカードをオーバーレイユニットとする!」

「あれは俺が伏せたカード!」

遊矢が伏せたカードが上手く働いた。
偶然にもエア・ストリームソードが托都の使った魔法カードによって除外されていて、遊矢はそんなつもりで伏せたわけじゃないためまさかといった様子だ。

「蘇れ《Ss-エア・ストリームソード》!そして効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、バトルによるダメージを半分にし、破壊を無効にする!」
《ATK:2100/ORU:1→0》

「イヴェール・モントの効果は1ターンに1度…いいだろう!」

「ッ!!」
《Takuto LP:2000》

「耐えた!!」
「すごい…これが、バリアンの神…」

遊矢が伏せたカードを最初に確認し、それを保険として利用するために魔法カードを…。
クロスのこの読みが本当ならば相当な手練れだ。間違いない。
……実際本人的にはたまたま偶然運が良く奇跡的にこうなった、が合っているだろうが。

「私はカードを1枚伏せてターンを終了」
《Hand:0》

「………」

――敵はまだなにかを隠している。
ここで逆転の一手が引けなければ負けは確定するだろう。
せめてエア・ストリームソードをなにかに生かすことはできないか、またはシャドウ・ハルシオンを復活させられないかと、脳内でデュエリストとして思い付く全てを挙げる。
だがそれを実行するためにはどうしてもカードが足りない。
とにかくドローだ、このドローにかかっている。

「托都!」

「!」

「受けとれーっ!!」

「……これは…」

遊矢が投げ渡した1枚のカード、黒い枠のそれはモンスターエクシーズ。
これで方針は固まった。

「俺の、ターン!!」

―――来た…!

「永続魔法《属性変化-エレメント・ダーク》を発動!1ターンに1度、属性を1つ選択し、選択した属性のモンスターを召喚した時、全て闇属性に変更する!俺が指定するのは光属性!」

「なるほどそうか!召喚するモンスターが光属性ではなく闇属性になるなら!」

属性が違うのなら光属性モンスターを呼び出すことも可能になる。

「フィールドの、エア・ストリームソードを素材にエクシーズチェンジ!現れろ!《希望騎士 ホープ・オブ・ソード》!!」
《ATK:2500/Rank:4/ORU:1》

現在ホープ・オブ・ソードの属性は光ではなく闇。だがまだイヴェール・モントの効果でバトルはできない。しかしバトルしなければモン
スターは破壊される。

「エレメント・ダークは互いのフィールドにモンスターが存在する時、破壊することでカードを1枚ドローする!」

そしてエレメント・ダークが破壊されたことでホープ・オブ・ソードの属性は光に戻る。
イヴェール・モントが封じることができるのはあくまでも召喚時のみ。召喚されたモンスターをどうにかする手はない。
これで無敵の属性制限コンボが崩れたこととなる。

「バトルだ!同時にホープ・オブ・ソードの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、戦闘する相手モンスターの攻撃力1000ポイントにつき攻撃力を800ポイントアップする!」
《ORU:0》

「イヴェール・モントの攻撃力は3000…2400の攻撃力上昇か」

《ATK:4900》

ホープ・オブ・ソードの効果は攻撃力上昇系でも特殊なものだ。相手の攻撃力が高ければ高いほど相手は自分の首を絞めることとなる。
元々2500の攻撃力を持つホープ・オブ・ソードにとって、攻撃力3000などおいしい獲物だ。

「行け!ホープ・オブ・ソード、イヴェール・モントを攻撃!シューティングスターブレード!」

「っおのれ…!!」
《Unknown LP:1600》

「イヴェール・モントがいなくなった今、光属性を召喚できない制約はなくなったわけだ」

「まさかッ!!」

「速攻魔法《堕天使の帰還》を発動!フィールドのモンスターエクシーズ1体をリリースし、墓地の「機械堕天使」と名のつくモンスター1体を特殊召喚する」

攻撃を終えたホープ・オブ・ソード、そして《月光下の決闘場》を突破できる墓地の「機械堕天使」モンスター。そんなものは1体しかいない。

「復活しろ、シャドウ・ハルシオン!」
《ATK:3000/ORU:0》

「攻撃力3000!これが決まれば托都の勝ちだ!!」

「これで終わりだ!シャドウ・ハルシオン、ダイレクトアタック!トワイライトレイン!!」

決まった―――!!
シャドウ・ハルシオンの攻撃によって土煙に包まれたフィールドを見て遊矢やクロスに確信が走る。
しかし托都はいまだしかめっ面のまま、煙の中に消えた敵の姿を捉えようとしている。

「…これで終わるほど柔ではないか」

「ええっ!?」

「その観察眼、見事!!だが、まだまだだ」

「――――お前…は」

目を見開く。ありえない、と。

煙が晴れたその先、攻撃によって吹き飛んだフードの中身、赤いローブの下の顔が露になっていた。

「…久しいね、大きくなったじゃん!」

「――ヒカル?」

「……夜月…」

薄紫の髪と金の瞳、ヒカルと似てはいるが違う、それはかつてこの世に存在した「朽祈夜月」の姿に間違いなかった。

「あり得ない…」

「…どういうことかな?ソレ」

「シラを切るつもりか!!アンタは、もう…!」

「……そうだね。でも、アンタたちにそういう特別なパワーがあるのと同じ、私にもなにかあったみたいだ!」

ニッコリと友好的な笑顔を見せる夜月らしき誰か。
逆に托都はだんだんと戦意を失っていくのが見て分かる。

「私が発動したのは罠カード《月光下の結界》。墓地に「月華」と名のつくモンスターが存在する時、ダイレクトアタックで受けるダメージを半分にする」
《Unknown LP:100》

「ギリギリで止められた!?」
「………トラヴィス…なんて卑劣な…!」

相手のライフが首の皮一枚で繋がったことなど托都の耳には入ってこなかった。
目の前の現実は、それを許さなかったからだ。

「…どうする?デュエルを続ける?」

「………」

「あー、まぁ信じてくれないよね、普通そうだわ。でも私、全部覚えてるから。だから逃げたら許さないから」

「……なら、何故敵に…」

「―――新世界で生きるため、それでいい?」

死んだはずが目の前にいて、敵になっていて、それが新世界で生きるためとはなんなのか、全くもって理解できない。

「私は死んだよ。だから新しい世界で生きるんだ。そのために、アンタを倒すよ」

「……」

「戦うんだ、それしか道はない。アンタには勝つか負けるかしかないんだ」

「…俺は……」

勝敗の選択。
負ければ遊矢たちを危険な目に合わせることになる、だが勝てばまた彼女を黄泉に送ることになる。

あの日、雨の中で死んだ夜月の顔が脳裏に浮かぶ。

―――また、夜月を…?

そんなことができるわけがない。
二度も同じ、大切な人を殺すことなど。

「―――戦えない」

「………そう」

「アンタとは、戦えない…」

左手に持ったカード、《RUM-ブリリアント・ブライト》がその手から静かに落ちていく。

その宣言は、実質の敗北宣言にも等しいものだった。

「なら私がターンを進めさせてもらう!私のターン、ドロー!!」

「托都!!おい!!」
「無理だ遊矢…」
「クロス…?」
「彼には勝てない…」

クロスの目は本気だ、本当に托都は勝てないと言っている。
それは内情を知る彼だからこその言葉だ。

「私は魔法カード《月光下の転生術》を発動!墓地のプリマヴェーラ・モント、アエスタス・モント、アウトゥムヌム・モント、イヴェール・モントを除外し、《月華姫 ルナティック・トリミニエオス》を儀式召喚する」

「墓地のモンスターを素材に儀式召喚!?」

墓地から復活した四体は天に昇り、そこから新たなモンスターが現れる。
それは体から花を咲かせ、美しく優雅であるが、それでいて不気味な四季を司る最上の存在。

「天上に祀られし至高の華よ、人の生きる世界に毒を以て鉄槌を!現れなさい!《月華姫 ルナティック・トリミニエオス》!!」
《ATK:4000/Level:10》

「攻撃力4000…!」
「でも托都のシャドウ・ハルシオンは攻撃力3000!一撃なら耐えられる!」

「甘いよ!ルナティック・トリミニエオスの効果発動!召喚時、私のフィールドのこのカード以外のカードを全て破壊!1枚につき800ポイントのダメージを与える!」

フィールドには《月光下の決闘場》と《夜天の呪縛》。
これらが破壊され、全ての制約は取り払われた。しかし待っているのは1600のダメージだ。

「っ!!」
《Takuto LP:400》

「托都!」

「更に!相手フィールドの伏せカード1枚を選択して私のフィールドにセットする!そのカード、もらっちゃう!」

伏せていたカードは罠カード《スカーレット・カオス》。戦闘で受けるダメージを0にし、相手のエクストラデッキからモンスターエクシーズを特殊召喚できるカード。
これでこのターンを凌ぐことはできたが、奪われてしまっては使うことができない。

「《スカーレット・カオス》…ね。周到じゃないか、油断させておいて勝つ。なんて大人になったね」

「…!そんなことは…」

「でもこれでおしまい、ルナティック・トリミニエオスで、《機械堕天使 シャドウ・ハルシオン》を攻撃!ルナティックトルビヨン!」

月光が荒れ狂う渦にシャドウ・ハルシオンが呑まれて消えていく。

「―――!!托都!!」

その渦が迫る時、一粒涙が溢れた。

―――これはきっと、罰だ。

―――今までやってきた全てへの報いだ。

―――夜月がこうして俺を直接断罪するのなら、受け入れるしかない。

「―――………」
《Takuto LP:0》

「……そんな、托都が…」

輝く月の渦に呑み込まれた托都は、結界に叩きつけられ、そのまま敗北を喫した。

ただそれを遊矢たちは見ていることしかできなかった。

「なにが、起きてるんだ…」

遊矢たちを囲う結界の中にヒカルは入れない。
駆け足で辿り着いたそこでなにが起きていたのかも分からないまま立ち尽くす。

「…どうして本気にならないの」

「……っ…俺は……アンタとは、戦わない…」

「世界を守るために戦ったアンタが、私とだから戦えない?おかしいよそれ。私は敵だよ」

「それでも…!夜月を、俺は…失いたくない!」

「…托都……」

「…幻滅した。私、さっき言ったよね。全部覚えてるって、付け足すわ。今の私はアンタが憎い」

言葉の一々が胸に突き刺さる。剣のように、ナイフのように貫く言葉に涙が止まらない。

「あの時托都に殺された私が、それでも弟と思って愛していたのに!!アンタは、なにも変わっちゃいない!泣き虫で弱虫なままだ!」

「夜月…!」

「…次に会う時は、私が托都を殺すつもりで行くから」

赤いローブが翻る。最早返事を聞く価値すらないと見下しながら。

「待て…!―――待って、くれ……」

夜月は微粒子となり消滅していく。

意識が霞んで消える中、手を伸ばしても――――彼女には届かなかった。

「托都!!」
「…!結界が!」

夜月が消えたことで結界が消滅する。
結界の外にいたヒカルも漸くその状況を理解した。

「…嘘、だろ……」

「…!ヒカル!!」
「……あれが」

「遊矢!これは一体、ここで、なにが…?」

「……それは――――」


~~~


「…すっかり寝ちまったな、狩也」

部屋から出て5分、ソファーに横になってすやすやと寝息をたてる友人の姿に慶太は心底驚いた。

今後の話し合いをしているのに疲れたんだ、元々具合が悪そうだったし仕方ない。
慶太はそう心の中で完結させ、上に薄いブランケットをかける。

「さぁて、と」

外を見ればまだまだ陽は沈みそうにない。
だが、このままではなにも解決しない。

「ちょっと行ってくるぜ。留守番、頼んだからな」

慶太は自宅を後にした。










Next act→


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【あとがき】

今回の一言「調子に乗ってデカイ口叩くと後で恥をかくことになるZE!」
見事フラグ回収である。さすがは托都だ!!こいつやたらとすぐフラグ回収するぞ!!

というわけで敵の正体は夜月さんでしたー!でしたーじゃねえよっていう。尋常じゃないくらい問題があるぞこれはっていう。
まぁ分かってた分かってた…分かってただろうよこれは…ただ遊矢はヒカルだと思った模様。そりゃそうだ。似てるっちゃ似てるし。
これで後半戦から托都と夜月さんのお話が描けますね!やったー!!
なによりメンタルが弱い!夜月さんが偽物という可能性すら考えない托都のメンタルが弱いこと弱いこと。やってらんねーですよお兄さん!!
というか罠だとわかってきたのにKONOZAMAだよってね。
途中から遊矢とクロスが空気になったり実況解説になったり忙しかった。特に遊矢が大忙し。
なんだろう、托都がここまで手酷くやられたのはLS本編でもなかったような…イグランジアには一矢報いたしね。
テラ1戦目は書いてないけどまぁあれはね、メンタルはブレイクされなかったから。
しかもその場で気絶するくらいだからダメージもすごい、やだ、夜月さん怖い。
そして慶太が動いたッ!!狩也をおいて家から出るなんてひどい~~~・゜・(つД`)・゜・
というか寝落ちする狩也も狩也なんだけどね。
これが物語を大きく動かすことになるなんて…。

次回!!町に出た慶太が見つけた人物、それは全ての黒幕・トラヴィス!!
真実と脱出のために灼熱の世界でデュエルが始まる!
そして狩也は……?

【予告】
Second Act.9「時駆ける天馬」


~~~


朽祈夜月、ただいまッ!参上ッ!!

いや~~勢い余って復活しちゃったわ~あっはは~どうしよ、このノリで一杯やる?

久々のお酒~!きゃー!いっただっきまーす!

うまーい!!あ、あれ?尺が足りな


~~~

【C.Cが始まる少し前…3】


「ヒカルさん!托都さん!」

「ん…?あ、遊矢!アミ!」
「またうるさくなるな…」
「よっ!二人とも仲良さそーだな!」
「誰が…」
「コイツのせいでエライ目に遭った…」
「あー、はい…見てました…」
「大体誰のせいだと思っている」
「お前が勝手に女に囲まれるのが悪い!」
「はぁ……」
「大変だな、托都も」
「尻に敷かれてるわよね…」

「ねえねえ見て!あそこ!」
「すごーい!美男美女カップルじゃない?」
「隣もすごくかわいい!」
「ダブルデートじゃない?」

「だ、だだ、だぶ…!!」
「なぁアミ、ダブルデートってなんだ?」
「し、知らなくていいっ!!」
「いっ、いってー!!」

「仲が良いな、あの二人」
「じゃれ合うなら家でやれっての」


END


~~~

【C.Cが始まる少し前…4】


「と、いうわけで!」
「カラオケだー!!」

「久しぶりに来たな、カラオケ」
「……」
「ん、托都どうした?」
「…ここは、何をする場所なんだ?」
「………へ?」
「暗いのは構わんがやけに眩しい照明だな…」

「托都さん、知らなかったんですか…!?」
「マジかよ……」

「…?だから、具体的にはなにをする場所で………?」
「黙ってこれ持ちやがれ」
「は、はぁ…」
「……よし!」

「ヒカル、一体なにを…」
「さぁ…」

「よし!」
「な、なんだ!?なにをすればいい!」
「歌え!」
「え……」
「ま、俺も歌うから、とりあえずこれを歌え」
「!?」

「演歌ーッ!?」
「ヒカルさん、鬼畜…!!」


END