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Second Act.7「虎王の共鳴」




「遊矢がいない?」

《うん。もう一日経ってるのに帰ってこなくて…偽界樹に向かったはずなのにそこにもいないの》

「なるほど。わかった、僕も探してみるよ」

《ありがとう大河くん!》

ピッと通信端末を切る。
ソファーに寝転びながら友人の行方を考える。

風雅遊矢がいなくなった。

毎回のことながら彼は姿を消すのが得意というか、巻き込まれやすい体質というか。
通信を切って口から漏れた感想はそれだ。

「仕方がない…探しに行こうか。色々関わってそうだし」

テーブルに置かれたファイルには人名と略歴がびっしり刻まれている。

それを見た少年――天領大河は天井の照明に視線を移し、ふふっと笑った。


~~~


「たっだいまー!!」
「……誰もいねえぞ」
「わ、分かってる分かってる…」

慶太の家に到着したが案の定家の中に人の気配はない。
ここまで歩いてきた中で誰も見つけられなかったのだから当然と言えば当然なわけだが。

しかし冷房は効いている。ここから落ち着いて話ができるだろう。

「ま、座れよ!まずは体を休めて、話はそれからだぜ!」
「そうだな。じゃあ遠慮なく」

リビングルームは極々普通の一般家庭、といった雰囲気だ。
テレビがあり、テーブルがあり、キッチンとリビングルームが繋がっていて、どこにでもあるような普通の家っぽいと部屋を眺めた狩也は椅子に座りながら観察した。

「んじゃ、まずはなにがあったかだな」

冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ慶太が話を振った。

それはそうだ、当事者と対峙していた狩也の方が話はいくつも知っているだろう。

「…クリスマスに、おかしな宗教の連中と戦ったの覚えてるか?」
「あー、あれかぁ…でもさ、あれって托都さんが分解させたんじゃなかったのか?」
「俺もそう思ってた。だけどな、最初に対峙した時、奴らは言ったんだ」

教祖様を倒した。
狩也に対し、あの黒ローブ集団はそう言った。
彼が倒した宗教集団はすでに無いものだ。慶太ですら認識はそれなのだから周りも同じに違いない。

「じゃあ、今の状況はそいつらが?」
「恐らくな。それと、遊矢たちにも同じことがあったはずだ」
「まさか、遊矢たちもこっちの世界に!?」
「多分。計画の邪魔になる連中を別の場所に叩き込んどけば簡単に事を終わらせることができるからな」

遊矢、ヒカル、托都は間違いなく連中からすれば驚異、そして教祖を倒した狩也も邪魔だろう。
――未完の聖杯、の発言を差し引いた場合だが。

「慶太は大方俺に巻き込まれたんだろ」
「あはは~うん、そうそう」
「ノリが軽いぞ…」
「逆だよ逆。こんな時だからこそ、明るくな!まぁ肩の力抜けって」
「…力を抜く、ね」

ひんやりと冷たい麦茶を口に運ぶ。

状況が状況だからこそ楽しそうに、明るく、元気に、とは慶太らしい。
だが狩也は狩也でしかない、人間が違う分性格も違う。この事態を受け入れて悠々自適にはなれない。

「俺さ、いっつもヘラヘラしてるって思うだろ?」
「?あぁ、そうだな」
「実はさ、昔はこうじゃなかったんだぜ。でも、遊矢に会ってからかな…周りが深刻な顔してる時は俺がみんなを笑顔にしてやろうって思ってさ、だからいっつも笑ってんの」
「…鏡との戦いの時、ずっと笑ってたのは」
「おう!みんなが不安そうにしてんのを見てられねえからな!」
「ったく…お前って奴は…」

遊矢に出会い、そして友になったその日から慶太は仲間に家族に笑顔を振り撒くようになった。
何事も楽しみ、分かり合う。あの鏡とのデュエルの時ですらそれを忘れないのだ、筋金入りなのは違いない。
今もそう、狩也の前で笑顔は絶やさない。この世界でたった二人だとしてもだ。

「なっ!落ち着いたら色々試してみよう!」
「…分かった」


~~~


「やぁ、ところで―――風雅遊矢って子、知らない?」

「―――君、だぁれ?邪魔なんだけど」

「やだなぁ人探ししてるだけだよ?邪魔するつもりなんてないよ。たまたまそこを歩いていたら楽しそうに笑ってたからついついね」

大河は頭を掻きながら態度を一変させて睨む青年に笑いかける。

「それとも、知ってるからこそ答えられないのかな?須磨寺雄也クン」

「ッ!!僕の、名前を…!!」

「僕は遊矢をフルネームで呼んだよね?君も同じ名前なんだもん、反応されたら面倒だ」

須磨寺雄也―――それが彼の名前。
名前を知っているのなんて家族か教団か、だ。何故知っているのかが分からずに酷く狼狽えている。
その姿があまりに滑稽で、大河は更に追い打ちをかけた。

「まぁ、答えられないなら仕方ない。君たちの大ボスに聞かなくちゃ…トラヴィス、だっけ?いいの?こんな公で叫んで、全部丸聞こえだったよ?はっずかしー」

「お前…ッ!!」

「じゃあ僕は本拠地を探させてもらうから、後はお好きにどーぞ」

顔の色を赤に染めながら須磨寺は拳を震わせる。
それを確認した大河は目を細めてそれを嘲るように見ながら背中を向けた。

「待てェ!!」

「ん?」

「いいよ。お前が勝ったら風雅遊矢の行方を教えてやる!でも負けたならお前も灼熱の地獄に送ってやる!!」

「―――それはそれは、どちらにせよ僥倖。さぁ来なよ、相手してあげる」

―――思惑通り。

いつの間にか、須磨寺にも大河にもデュエルディスクがセッティングされてデュエルの準備は整っていた。

少なくとも大河は初見ではない。狩也のデュエルを見ていた。
しかしそれだけでは不十分。どれだけデッキが回るのかは見ものだろう。

「いくよ」

「「デュエル!」」

《LP:4000》

「先攻は僕がもらう!僕は《魔神眷属ブエル》を召喚!」
《ATK:1000/Level:2》

気味の悪い手足と顔の怪物。
先程の狩也とのデュエルではこのモンスターを使った無限コンボが発動し、狩也を苦しめた。
どうやら今回も同じコンボを狙っているらしい。

「更に僕は《召喚の魔導書》を発動!自分フィールドに「魔神眷属」と名のつくモンスターが存在する時、二体の「魔神眷属」をデッキから効果を無効にして特殊召喚する!現れろ《魔神眷属アンドロマリウス》!《魔神眷属バルバトス》!」
《ATK:1000/Level:2》
《ATK:1000/Level:2》

「もう揃えたか、早いね」

「レベル2のブエル、バルバトス、アンドロマリウスでオーバーレイ!!エクシーズ召喚!来いッ!!《魔神眷属バアル》!」
《ATK:1000/Rank:2/ORU:3》

三体のモンスターが天に登り、またも現れたのはキメラの化物。
正体と効果が分かっている分いっそう不気味だ。

「僕はカードを1枚伏せてターンエンド!さぁ!攻撃してみろよぉ!」
《Hand:1》

バアルの効果はバトルする相手のモンスターの攻撃力をバアルと同じにする相打ち狙いの効果。
しかし、ブエルを素材にしたことでブエルの効果によりバアルは何度も蘇る。
この無限ループは強力な敵の一手だ。

「まぁまぁ焦らないでよ。僕のエンタメデュエル、見せてあげるから」

「エンタメ…?なぁにそれ。僕には関係ないから、さっさとターンを進めてよ」

「ええー?ホントー?じゃあ見逃しちゃっても僕しーらなーい!ドロー!」

引いたカードは普通の罠カード。そう、あくまでも普通のカード。
が、大河の手札は驚くべきものだった。

なんと――――全てが魔法、罠カードなのだ。

「じゃあまずはカードを4枚伏せて、フィールド魔法《カーニバルゲート》を発動!」

フィールドは摩訶不思議。サーカスの世界へ迷い込んだかと錯覚できるフィールドへ変貌し、大河の後ろには巨大な火の輪が出現した。

「このフィールド魔法はね、1ターンに2回だけ特殊召喚を通常召喚に、通常召喚を特殊召喚に変えることができるのさ」

「な、なんだよそれ!ズルい!」

「じゃあズルいと思う君に僕のデッキについて教えてあげるよ」

「は、はぁ?」

「僕のメインデッキ40枚の中に、モンスターカードはない

「な、なんだって…!?」

エクストラデッキは例外として、メインデッキにモンスターはいない。1枚もだ。
須磨寺がズルいと言った《カーニバルゲート》の効果もこのデッキでは全くの無意味、このデッキではなんのシナジーもないカードなのである。

「ただし、エクストラデッキにモンスターはいるよ。それだけは知っといてもらおうかな」

「は…エクシーズも、融合も、モンスターが素材になるんだ!どうやって召喚するつもりだよ!」

「それをこれから見せてあげるんだ。まぁ目を離さず見ててって!《カーニバルゲート》の発動したターン、僕は召喚行為を行えない。ターンエンドだ!」
《Hand:1》

フィールドには4枚の伏せカード。怪しさしかない。いやむしろ怪しくないわけがない。

「僕のターン!そんなに見せたかったら、サーカス小屋にでも行けよ!!僕は《魔神眷属アスモデウス》を召喚!」
《ATK:1000/Level:2》

「ふーん…たかが2000程度でなにするものぞってね」

「甘い!魔法カード《竜巻の魔導書》を発動!「魔神眷属」が2体以上フィールドにいる時、相手フィールドにセットされた伏せカードをすべて手札に戻す!」

突然吹き荒れた嵐にカードが引き剥がされるようにして手札へと帰っていく。
これで大河のフィールドには《カーニバルゲート》のみとなった。

「アスモデウスの効果発動!このモンスターをリリースしてバアルの攻撃力を、オーバーレイユニットの数×800ポイントアップさせる!」
《ATK:3400》

「わーお、こりゃマズイ」

フィールドはがら空き。このまま攻撃を受ければ大ダメージだ。

「行けェ!!バアル、ダイレクトアタックッ!!」

「ッ!!いったいなぁ…!」
《Taiga LP:600》

衝撃をまともに受けて尻餅をつきながら悪態をつく。
ライフは僅か600、だがそれを気にする素振りはない。

「次でトドメを刺してあげる。ターンエンド!」
《Hand:0》

「じゃ、その前に倒さないとね」

無理難題を軽々と言ってのける。
敵の攻撃力は3400。破壊すればブエルの無限ループコンボ。モンスターがいないこのデッキ。
一体どう勝つつもりなのか。

「僕のターン、ドロー!じゃあ、まずはカードを5枚セット!」

「5枚!?」

「そして、《カーニバルゲート》とこれらの伏せカードを全て墓地へ!これにより、《SX-月雪虎神 タイガーブリザード》を特殊召喚できる!」

「シャイニングエクシーズ!?」

フィールド魔法1枚と伏せカードを全て要求するモンスター。なんてコストのかかるモンスターなのか。
否、大河のデッキだからこそこの高コストモンスターは輝けるものだ。

「さぁ現れて、僕の分身。《SX-月雪虎神 タイガーブリザード》!!シャイニングエクシーズはその効果で相手のモンスターエクシーズのオーバーレイユニットをデッキへ、自身のオーバーレイユニットの数×500ポイント攻撃力がアップ、タイガーブリザードは素材にした伏せカードをオーバーレイユニットにする。よって攻撃力は4500だ!」
《ATK:2000→4500/Rank:6/ORU:5》

《ORU:0》

「ありえない…!こんな、モンスターが…!!」

「デュエルモンスターズにありえないなんてないのさ」

動揺を隠せない須磨寺に更に煽るように笑って返事を投げつける。
須磨寺からすれば怒り狂うほどに腹が立つ相手だろう。狩也の時と違い、全く自分のペースに乗らないのだから。

「バトル!タイガーブリザードで、バアルを攻撃!ブリザードスターブレード!!」

「へへっ!かかったなァ!バアルの効果、はつ―――」

「無駄だよ。タイガーブリザードにオーバーレイユニットがある限り、互いにバトルフェイズ中あらゆるカードの効果は発動できない!」

「そんな!!う、うわぁぁぁ!!」
《Sumadera LP:2900》

タイガーブリザードの効果でバアルの無限ループコンボは発動しない。よってフィールドは空いた。

予想外、あまりにも予想外な事態。須磨寺は唇を噛んだ。

「僕はカードを1枚伏せてターンエンドだよ」
《Hand:0》

信じがたい。フィールド、モンスター、ライフの差的に見れば大河は圧倒的に不利だった。
だが大河のターンを終えれば一変。須磨寺はライフこそ上回っているが、フィールドを震える吹雪で凍りつかされコンボも崩れた。
先の狩也とのデュエルとは全くの真逆。飲み込んだはずが次にペースに飲み込まれたのは須磨寺の方だ。

「許さない…僕は新たな世界で生きる人類だぞ…!!こんなこと、あっていいわけがない…!!」

「なんでもいいけど、頑張れ~今なら応援してあげるよー」

「ッ黙れえ!!僕の、ターン!!――!」

引いたカードは逆転の一枚。運は須磨寺に味方した。

「僕は永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動!蘇れ、バアル!!」
《ATK:1000/ORU:0》

バアルを復活させた、が、処理は《リビングデッドの呼び声》による特殊召喚だ。ブエルの効果は発動できない。

「僕は手札から魔法カード《ソロモンの指輪》を発動!バアルを素材に、ランクアップする!」

「へえ、やっぱり」

「バアルでオーバーレイ!1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!ランクアップエクシーズチェンジ!現れろ、《魔神王ソロモン》!!」
《ATK:3000/Rank:10/ORU:1》

《ATK:2000》

ソロモンが召喚されたことで、シャイニングエクシーズ召喚時に発動された攻撃力の上昇は取り除かれる。
これで攻撃力の差は1000。大河のライフは600、攻撃を受ければ大河の負けだ。

「応援してくれてありがとう。でもお前は終わりだ!消えろ!ソロモンでタイガーブリザードを攻撃、ゴエディアの焔!」

「タイガーブリザードの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、バトルする互いのモンスターの攻撃力を半分にし、このターンで受ける効果ダメージを0にする!」
《ATK:1000/ORU:4》

《ATK:1500》

「くっ…っああぁぁ!!」

《Taiga LP:100》

タイガーブリザードの今まで隠されていた効果を使うことで敗北は免れたがそれでもライフは風前の灯火。
ソロモンの効果がタイガーブリザードの効果で使えないことは幸運と言える。

「仕留め損なった…でも、もう余裕なんて言わせない!これでお前はモンスターを失った!《カーニバルゲート》がない以上、もうどうしようもないだろう!!」

「………」

「次のターン、楽しみにしてなよ。ターンエンド!あは、あ、ハハハハハハハハハハ!!」
《Hand:0》
《ATK:3000》

「次のターンが、あると思っていたのかい?」

「は、は、はぁ…?」

俯く大河が発した不穏な発言。
実質の勝利宣言ともとれるこの言葉、須磨寺はすぐには信じられなかった。

「な、なぁに言ってんの?お前のデッキにモンスターはいない!ソロモンの攻撃力は3000!どう越えるつもりだ!?」

「はーぁ。これだから短絡思考の単細胞は。ホント、話にならないな」

大河がフィールドに伏せた1枚のカード、それが今発動して光輝いている。

「そのカードは…!!」

「僕も使わせてもらったよ、《リビングデッドの呼び声》をね」

先程須磨寺が使ったカードと同じ、《リビングデッドの呼び声》。
その汎用性の高さは確かに評価が高く、採用率も高い。ならば同じカードがデッキに入っている可能性も、低くはない。

「僕が呼び出すのは当然、タイガーブリザード!」
《ATK:2000/ORU:0》

墓地から呼び戻され吠え猛る白虎。
その咆哮は大地を揺らし、フィールド全体を威圧する。

「今さら、タイガーブリザード…!オーバーレイユニットのないそいつになにが…」

「僕のターン、ドロー!!」

引いたカード、それは大河が待っていたカード。これこそ勝利の鍵―――!!

「魔法カード《虎王の共鳴》発動!!これにより、タイガーブリザードはランクが2つ高い「タイガー」と名のつくモンスターエクシーズにランクアップする」

「そ、そんな…ランクアップだって!?」

「タイガーブリザード1体で、オーバーレイ!!1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!ランクアップ、エクシーズチェンジ」

タイガーブリザードは虎型の光となって天を星のように駆け回り、亜空間へと消えていき、光が大河の声と共に弾け飛んだ。

「月雪に染まる獣よ、此処に白き光を纏う白虎となれ!現れろ!《白虎神王 グランシェードタイガー》!」
《ATK:3000/Rank:8/ORU:1》

風が舞い、駆け降りてきたその獣は神話で語られる白虎そのものだ。
非現実じみた虎の王は力強く吠えている。

「…でも!ソロモンと攻撃力が並んだだけ!お前に手札がない以上、次のターンで僕がモンスターを引けば僕の勝ちだ!」

「それはどうかな。グランシェードタイガーは、僕の墓地の魔法、罠の数×500、攻撃力をアップする」

墓地にはタイガーブリザードのコストとなった5枚のカードと《カーニバルゲート》。

《ATK:6000》

「攻撃力6000だって!?」

「まだだよ!グランシェードタイガーはオーバーレイユニットを1つ使うことで、このターンの終わりまでこのモンスター以外のカードの効果発動を無効にする!アビリティショック!」
《ORU:0》

グランシェードタイガーが放つ雄叫びがあらゆるカードを氷で固め、その発動を無効化する。ソロモンも例外ではない。

「さぁ仕上げだ!グランシェードタイガーで、《魔神王ソロモン》を攻撃!マキシマムフリーズ!!」

「ぼ、僕が、負ける…!?うわああああああ!!」

《Sumadera LP:0》

極大の吹雪がソロモンに襲いかかる。その余波は須磨寺に直接攻撃となり、一気にライフを削り取った。

「勝負あり!よくやったぞ、グランシェードタイガー」

依ってきたグランシェードタイガーを撫でると猫のように喉をならして喜んだ。
ARが消えると同時に粒子となり消えてしまったが、その絆の深さは目に見えて分かる。彼らの信頼は絶大なものだ。

「さーて、と…遊矢の居場所を教えてもらおうかなぁ」

「―――アイツは、この世界にはいない」

「…いない?」

「アイツらは極寒の吹雪の異世界に取り込んだ!!あの世界を出入りできるのは僕たちだけ!!二度と戻ってこられないよ!」

大河の冷めた目線にも意を介さずに遊矢たちの行方とその真実を叫び散らす。

その異世界には彼ら以外出入りできない。よって遊矢たちは脱出不可能。理屈は分かる。恐らく狩也たちも同じような状況なのだろう。

「残念だったなぁ!お前らはここで死ぬ!僕らは新世界で生きるからねぇ!出来損ないどもは舌噛みきって死んじゃえバーカ!」

捨て台詞を吐きながら体を微粒子状に変えて須磨寺は消滅した。まるで最初からいなかったかように。

「―――消えたか。ま、目的もなんとなく分かったし。良しとしよう」

遊矢たちの行方、敵の目的はそれとなく掴むことができた。大河から見れば十分な収穫だ。

「……もしもーしアミちゃん?色々分かったよ。……まぁ、とんでもないことになってるかな。異世界に詳しい人、いたよねー。あの人こっちにいるかなぁ?」

―――それにしても、おかしな話だな。

―――狩也くん、遊矢と同じ名前のデュエリストに負けかけて…あんな事実が見つかるんだから。


~~~


「―――ッ!!」

―――なにが起きた?

―――時計が反対に回って、それからなにかあったか?

―――いや、なにも起きていない。なにも…!!

「そう身構えるな、なにもしていない。いや
厳密には終わっているか」

「一体なんのつもりだ…!」

「俺は人間の時間を操る力を持っている。それを使い、貴方の魂の時間を戻した。一度認識したのならば分かるはずだ、なにが戻ったのかが」

「…………――まさか」

胸に手を当て目を閉じれば、静かに打つ鼓動と空間の静寂の中に異物のようで異物ではない物の存在を感じ取れる。
星が放つ一条の光、暗い海にたゆたう魂の器。
ヒカルは知っている。この輝きを知っている。

「…未完の、聖杯」

「成功…ですか」
「あぁ、あとは―――」
《トラ…ヴィス、こっ、ち……準、備…終わっ、た》
「分かった。ならば次はそちらだな」

頭の中に響く須磨寺の声にトラヴィスは思わず笑みを溢す。

「用件は終わった。貴方は彼らのもとへ戻るがいい」

「は…?どういうことだ。未完の聖杯を…一体、なにが…」

「俺が求める聖杯は、貴方ではない。そんなことより、早く彼らを探し出せ。鳥の餌にするのには早すぎるからな」

「な…!!遊矢たちは!」

「さらばだ」

「待て!!うわっ!」

この空間にやってきた時と同じような光に包まれ世界は歪曲する。

謎がヒカルの頭の中を埋め尽くしていく。
トラヴィスが求める未完の聖杯はヒカルのものではない、ならそれは誰のものだと言うのか。いや違う、何故失った未完の聖杯を復活させたのか。

そして、彼らは今、なにに巻き込まれているのか。理解のしようもなかった。










Next act→


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【あとがき】

今回の一言、「煽りスキルEX」
大河=サンが突然の再登場にも関わらず煽りスキルが本編時代を振り切るレベルでランクアップ。
というかホントにどこから沸いてきたんだってレベル。

あれ?遊矢より強くね!?前回完全敗北した遊矢UCをお届けしましたが今回はまさかの「ジャッジがいないことを良いことに敵を煽りまくって完全勝利した大河UC」である。やだ、大河強い。
まぁ、デュエル回数が少ない分公開された二回はどちらも勝利しているわけで、強いっちゃ強い。
そして大河の新モンスターはたった1体だけ!!優しさの欠片もない編成だわ!!いやまぁ原作にもモンスターがいないデッキを使うキャラはいますが…トークンまで使わないとは…。
真月フラグと呼ばれていた男は見事フラグブレイクして味方キャラ化した、と。お見事でございました\(^o^)/
ヤバイ新キャラの名前は「須磨寺雄也」でした!遊矢と雄也、これがいかに物語に絡んでくるのかは後半戦のお楽しみにしときましょう!
トラヴィスの目的もはっきりしない、これは一体どういうこと?ヒカルの未完の聖杯もまだまだ未知の力を秘めてるのか、それとも……。
主人公側が出てこない!!!!遊矢に出番がない!!!あれ!?コレデジャヴ!?托都もいないぞぉ!?ただしヒカルは出てくる!!!

次回!!一話待たせたな!見るがいいそして刮目せよ!連載から四ヶ月、第8話でようやくデュエルするバカ兄貴の姿を!
乱入してきた托都の目的、そして謎の赤ローブの目論みとは?
そして衝撃の事実が…!?

【予告】
Second Act.8「過去の物語」


===


は~久々のデュエルは腰にクるね~!

まったくーそんなつもり全然なかったのになぁ予想外も予想外だよ。

転生したとはいえ一応僕このメンバーじゃ最年長なんだよ?もっと気を使ってほしいよね!

え?これを読んでる君らの腰が重い?

ははっ!互いに年取ったねえ…。


~~~

【C.Cが始まる少し前…1】


「お、おぉぉ…!!これが…!!最近オープンしたというハートランドトップクラスの超人気スイーツショップ!!」
「全く、こんなところに何の用があるんだ?まだ事後処理も終わっていないというのに、そんな悠長なことをしてる暇は…」
「日頃の疲れを癒すには、甘いものと相場が決まってるんだよ!お前も好きだろ?」
「…別に」
「……ノリ悪いなぁ…それなら俺一人で行くからな、じゃっ」
「いやいや待て待て待て!!そのまま行くつもりか!?仮にも有名人だろう!?」
「じゃあどうしろっていうんだよ」
「はぁ…せめて、なにかしらで顔を隠せ。そうだな……これとかどうだ」
「…………」
「よし、我ながら完璧だ」
「ヒゲメガネのどこが完璧だ」


END


~~~


【C.Cが始まる少し前…2】


「ったく!こんなんだったらない方がいい!髪型だけ変えてくる!」
「すまん…悪ふざけが過ぎた…」
「悪ふざけかよ!じゃあ、ちょっと待ってろよ」
「………俺も連れ添うことになるのか?これは」

―5分後―

「待たせたな!よし、それじゃあ―――」

「あの人かっこいい!」
「すっごいイケメンさんがいるー!」

「……へ?」

「あ、あの!このあと予定とかありますか?」
「よかったらお茶しませんかー?」
「悪い、連れがいる」
「じゃ、じゃあお連れの人も一緒にとか!」
「…そいつは人見知りが激しく、他人に愛想がなければワガママで言うことを聞けない性格だ。それを連れては――――」
「誰がワガママだてめー!!!」
「なッ!?」

「お、女の子!!?」
「なぁんだ彼女持ちかぁ」
「いこいこー」

「な、なにをする!!」
「こっちの台詞だバカ!!愛想がないのはお前だろ!!」
「仕方あるまい、お前が付き合えと言うから断っていただけだ」
「言葉を選べって言ってんだ!」
「可愛いげのない奴め、だからワガママだと」
「喧しいわ!!」

「楽しそうだなー」
「ええ、いつもの二人だわ」


END