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SecondAct.3「黒い教団」





額に暖かな感触がする。
不快感はない、むしろホカホカしていて一眠りしてしまいそうで―――。

「っうわぁ!?」

風雅遊矢は飛び起きた。
そりゃあ驚いた、あれだけ寒い中で行き倒れになっていたのだからこの暖かさに心底ビックリしたから。

「…遊矢?」
「……ヒカル…?………あ、あー!!」
「はぁ…?」
「無事だったんだな!!」
「こっちの台詞だ」

すぐ横を見ると、ヒカルが目を点にして遊矢を見ている。
そしてそんなヒカルの両手をがっちり握り締めて感涙しながら大声張り上げる遊矢の姿には苦笑いも出ない。

…とにもかくにもようやく状況に頭が追い付いた遊矢は真っ先に外を見た。

そこには相変わらずの雪景色。

「夢じゃなかったのか…」
「…お前なにか知らないのか?この雪とか、人気のなさとか」
「まさか、知ってるわけないだろ!知ってるわけ………」

知らない、ではなく忘れていた。
遊矢とデュエルしたあの黒いローブの男が言った言葉。
この世界から消す、だ。

一からヒカルに話した。
デュエルのことを始め、あの時偽界樹の上で起きた全てをだ。

「この世界は、俺たちのいるハートランドじゃない…ってことらしいぜ」
「…偽界樹の上でそんなことが」

遊矢の説明は分かりやすく、理解しやすかった。しかし、ヒカルには疑問が残った。
連中がいくら集団で襲い掛かってきたからと言って、人外染みたことはしていなかった。何故一介の人間にこんな世界に飛ばす力を持っているのか。

もしこの世界が本当に別世界だとしたら、彼らは少なくとも普通の人間ではない。
何故か、まずヒカルたちの周りで世界と世界を移動できるのはバリアン世界やアストラル世界の生まれやその血筋を持つ存在、または本物の人外だ。例としては托都やリン。
しかしそんな連中だ、多少近付けばそのエネルギーは肌で分かる。
偽界樹付近にそんなエネルギーの感覚は全くなかったのだ。

「ま、細かいことは今は後にして…まずは飯だな」
「飯?……あ」

ぐぅぅ…と腹の音がなった。
そういえば今は何時なのだろう、そもそも異変に巻き込まれてからどれほど時間が経ったのかも遊矢は把握していないし、デュエルしていた時の時間もあまり覚えていない。
とりあえずデュエルをしていたのは昼間だった、なら今は夜だろうか。

「じゃあ隣行くか」
「隣…?じゃあここ、俺の部屋?」
「……俺の部屋なんだけど…」
「…ええええええ!?」

言うつもりがなかったらしく少し恥ずかしそうにヒカルが言ったのを聞いて辺りを見渡すと、確かに自分の家にあるものではない。

そう、遊矢はシリアスな雰囲気で忘れていた。
遊矢の自宅は托都の自宅の隣、マンションでいうお隣さんだ。
部屋の構造も似ているし、そんなこんながあって今まで気づかなかったが、どうやらここは托都の家のヒカルが使っている部屋らしい。
つまり隣とは部屋を出てすぐ、リビングルームを指している。

ヒカルが遊矢に対しどんなことを想っているかは分からないが、そんな反応なのだからなんとなく察しはつくだろう。

部屋の扉を開けて廊下を歩いた先、リビングルームに行くとソファーで托都が寝ていた。
上着を着たままということは「寝落ちした」と推測できる。

「遊矢、いたずらしてみるか?」
「いややめとこうぜ…」
「そっか…」
「………」

遊矢はたまに思うのだ。
「ヒカルはオンオフ切り替えがあまりできてないわりには切り替えできた時のギャップがすごい」と。

「托都、おい、遊矢起きたぞ」
「………ん…起きたか…」

ふわりと金髪を靡かせながら寝起きの頭をぼけて揺らしながら立ち上がる。

「まだ寝てるのか?」
「起きている…つもりだ」
「はーぁ…分かった、座ってろ」

「ヒカル?」

「遊矢も座って待ってろよ、うまい飯作ってやるからなっ」


~~~


「…」

蒸し暑い夏の夜。
今日分の課題を終わらせ、雪那にメッセージを送り慶太に昼間の礼と謝罪をし終わり、やることもなくベッドで転がっている。

あの二人組―――いや、集団というべきか。
狩也は"正体を知っている"。
遊矢とヒカルが鏡から世界を守り、ハートランドから離れてその後の話。連中は鏡を復活させるべく生贄を集めていた。
それに関連する遊矢たちの伝言を托都から聞き、狩也は周りの仲間達を守ろうと考えた。
しかし運命というべきか、夜のハートランドで事件が起きてしまった。連れ去られたのだ。
狩也は必死に連中を探し、そして連中の一番上―――「教祖」を名乗る男を撃退した。

その時にその集団は托都に追い打ちをかけられたことで散り散りになり、解散したはず。
それが狩也の今日ずっと考えていたことだ。
主を失った有象無象が簡単に纏められるはずがない、ならばなにが起きたのか。

「…根が深そうだな」

深くため息をついて目を閉じる。
空調の効いた部屋だ、着替えていないけれどこのまま眠ってしまっても悪くないかもしれない。
そう思ったと同時に、机に置いたDゲイザーが着信音を鳴らした。

「……アミ…?」


~~~


「おぉぉぉ…!!」

「ふっ…」

遊矢の声にヒカルは思わずドヤ顔で胸を張ってしまった。

テーブルに並べられた食事は煮込まれた野菜とコンソメの香りですでに体の暖まりそうなポトフや色とりどりの野菜やクルトンの乗ったサラダ、たまたまあったパン、その他で構成され、どれもとてもおいしそうに湯気や香りを発している。

寝起きの兄弟の目を覚まさせるのにパンチはいらない、いるのはおいしい料理だ。
と言わんばかりにヒカルは是非を問おうとしている。

「お前…ここまでやるのか…」
「すっげー!!やっぱりヒカルってすげーよ!」

「当然だろ?伊達に一人暮らししてなかったっての」

ヒカルは事情あって、中学時代は一人で過ごすことが多かった。
話せば長いため割愛するが、少なくとも2年は自宅で毎日誰が帰ってくるわけでもなく、一人きりの生活をしている。
いつの間にか家事のスキルがグングンと伸びてゆき、気付いたらちょっとした料理は普通に作れるようになってしまった。

「作れるのなら自分で作れ、お前は…」
「いいだろ別に、お前の飯は嫌いじゃない」
「おだてて寄生していいのは子供だけだ」
「むっ…お前から見たら子供だし」
「立派な大人だ、全く」

まぁ、現在のヒカルは面倒くさがって料理なんて普段はしないため、托都もここまでやるとは思っていなかったわけだが。

「んじゃあいただきまーす!」

「…早く食えよ、バカ"兄貴"」
「誰が兄だ、誰が」

どれだけ茶化されバカにされそれをいなそうとも出来上がったものはどれもうまそうなものばかりなのは間違いない。
今日ばかりは世話になろう、と食事にすることにした。


―――――。


食事を終え後片付けも終えた後。

現在の状況、偽界樹での出来事、そして離れていた時のことを話していた。

遊矢は偽界樹でのデュエル中に光に包まれ、気付いたら雪の中で倒れていた。
ひたすらみんなを探して走り回っていたが、人気のないハートランドシティは寒さに支配され、途中から気力を失いかけていた。
そこに現れたのがヒカルだ、再会した直後に意識を失ったため、遊矢もよく覚えていないのだが。
聞くに、遊矢が寝ていたのは半日ほどらしい。
冷たい体をヒカルが付いて暖めて、目を覚ました後は記憶に新しい。

ではヒカルと托都の話だ。
黒いローブの集団に襲われた二人は、集団を蹴散らして偽界樹の下までやって来た。
しかし遊矢と同じく光に包まれて、気付けば極寒のど真ん中。
運良く近くのハートランド記念館に入れたが、やはり人の気配はなく電気もついていなかった。
電気をつけた後、寒さでエンジントラブルを起こしたバイクをなんとかして、人を探しに出た時、ヒカルが見つけたのが遊矢だった。
急いで遊矢を自宅に運び、それが夕方だったと思う、とヒカルは語る。

「やっぱり誰も人はいなかったんだな…」
「あぁ」
「なんなんだろう、この吹雪」

現在夏真っ盛りのハートランドシティに雪が、それも大雪が降るなんて誰も想定してはいない。
考えても、ここは別の世界、くらいにしか考えられず、結論は出る気配がない。

「だーめだー!!バリアン世界経由で元の場所に戻れねえかなぁ!」
「不可能だ」
「試したのか?」
「二人が部屋にいる間、バリアン世界との接触を試みたが…残念ながら」
「もしかして寝てたのって!」
「あぁ、とんだ笑い話だが体力切れだ」

バリアン世界との繋がりが深い托都なら、と思ったがまず接触すらできないのだ。その上、底尽きるはずのない体力があらかさまに低下している。
托都はバリアン世界から常にカオスの力を供給されている、分かりやすく言えばゲームの無限回復というものだ。
先ほどまで体力切れで寝込んでいたとなれば、供給すらままならない状況、ということになる。

「はぁ…ダメか」
「…そうだな」
「……、とりあえず今日は休もう。考えるのは、朝目が覚めて頭が冴えてからでいいはずだろ?」
「―――それもそっか」

降り止まない雪を見て半ば落ち込みながら、遊矢はヒカルの提案に賛成を示す。

状況が状況ゆえ、遊矢は部屋に戻らず、ヒカルのベッドを借りることになった。

明日の朝、吹雪が止むのを待ちながら遊矢は再びまぶたを閉じた。


~~~


寝静まる深夜のハートランドシティは吹雪が止み、静寂に包まれている。

風に吹かれる紫の青年は、塔の上から町を見つめていた。

「首尾はどうだ、クロス」

「―――トラヴィス。順調だよ、三人が合流した」

「…二人きりの時に敬称は付けない、か。まぁいい。狙い通りの結果になった」

遊矢とデュエルをしたあの青年―――クロスが対峙した男。
トラヴィスと呼ばれた銀髪の男は玉座に座り、ビジョンを見つめていた人間と同じ人物だ。

「で、君が出てきた理由は?」
「岸岬狩也の始末に失敗した。第二段階の準備のために俺が出る必要があっただけのことだ」
「…そう」

トラヴィスが手に握っていたクリスタルを弾くと、クリスタルから映像が浮かぶ。
そこに映し出された昼のデュエルの様子をまじまじと見つめ、自らの陣営のデュエリストが敗北した途端、クリスタルは砕け散った。

「でも、ここに呼ぶのか?ここにはあの三人が―――」
「まさか。奴を呑むのは太陽の世界よ。あれだけの力があるのだ、十分だろうよ」

懐から取り出したクリスタルは紅い輝きを帯び、まるで太陽光のような暖かさを手に伝える。

「だが、まずは奴だ」

眼帯に隠された左目が見つめる―――遊矢の隣でぐっすり眠りについたヒカルの姿を確認し、トラヴィスはその場を離れた。

「………トラヴィス…」


~~~


――――朝。


「………ん…」

今朝は妙に静かだ。
だがカーテンから日が差し込んでいるのを見る限り晴れていることは分かる。

隣で眠っているヒカルの顔はどこかにやけていて幸せそうだと遊矢は思う。
遊矢が自分で言えたことかは分からないが、ヒカルは遊矢が大好きだ、それもかなり。
だから非常時でも遊矢の隣にいることがきっとヒカルの幸せなのだろう。

彼は朝が弱いことを遊矢は知っている。起こさないようにその場を離れ、托都が寝ているだろうリビングルームへ行った。

「……遊矢か」
「うわっ!起きてたのかよ!」
「まぁな。視線を感じて眠れなかった」
「は…?なんだよそれ」

ソファーで寝転がったままの托都は、顔を覆う前髪を手櫛で若干整えて遊矢と対面した。

視線を感じた、なんて物騒な話だ。

「誰かが見ていたようだな」
「誰が何を?」
「…ヒカルを」
「!」

この場にヒカルがいなくて良かった、昨日遊矢がいて良かった。
今その両方が托都の安心を生んだ。

夜、ヒカルを誰かが見ていた。
その誰かとは――――恐らく事件の元凶だろう。

「もう未完の聖杯はない、今更なんのつもりで…」
「分からん…。だが、ヒカルを見ていた奴を、探す必要があるようだな」
「……うん」

これで今日の方針は固まった。こんな世界に飛ばした元凶、深夜遠方から覗き見ていたと思われる人物を探すこと。

遊矢だけ自宅に戻り、雪で濡れた服の代わりの服に着替えてまたリビングルームに行くと、ヒカルが起きてきていた。

「んじゃ、行くか!!」

白いマフラーを靡かせながら扉を開いた。

「………すごい」
「これが、雪か」

「うっひょー!!すっげー積もったな!!」

眼前に広がる真っ白な世界。
普段の未来都市ハートランドシティはすっかり白銀に染まり、太陽に照らされた輝きのあまりの美しさに息を呑む。

「よぅし!ヒカル!飛び込むぜ!!」

「え、飛び込むって…」

「そーら!!」

「遊矢!!?」

自宅は分かりやすく言うなら高層マンションの最上階だ。
遊矢はそこの柵を乗り越えて、飛び降りた。

落っこちる速度が妙なくらいにスローモーションに感じたがそんなことは考えている場合じゃない、慌てた二人は急いで飛び降りて遊矢に追い付かんとした。

―――遊矢は本当にゆったりと落ちていた。
風を操り、風でクッションを作り、気ままにゆっくり落ちてくる。
托都がヒカルと落ちてくる速度よりも遅く、二人が着地した後に遊矢もばさっという音と共に降ってきた。

「……大丈夫か?遊矢」
「―――なんとかな~。はははっ!雪つめてえ!」
「当たり前だ」

雪の上に寝転がった遊矢を上から見ると不思議なくらい笑っている。
ヒカルと托都は顔を見合わせた後、そんな遊矢の姿に少しだけ微笑んだ。

「それじゃあ、行くぞ遊矢」
「おう!」

遊矢の右手を上からしっかり握り、体を起こす。
少し背中が風に触れて冷たかったらしくがたがたと震える姿でヒカルはまたふふっと笑ってしまった。

こうして、三人はハートランドシティへ向かっていった。


~~~


やはりと言うべきか、ハートランドシティはどこも真っ白。人の気配はなく、どこか淋しさを覚える。

「全然だなぁ」
「すまんな、場所はさすがに分からなかった」
「気にすんなよ!調子悪いなら尚更さ!」
「だけど、本当に気配を感じたのか?間違ってないか?」
「普通ならばないとは言い切れんがこんな状況だ。人がいないと考えられる町で、俺達以外の気配を察知するのは容易いとも」

町には誰もいない。それは逆に言えば誰かがいればすぐ分かるということになる。裏を読まずとも分かることではあっただろう。

積もる雪を踏みしめながら話し合う三人の内、ヒカルだけが少し歩を進める速さを遅くして一人唇を噛んだ。

―――全てが終わったのに、俺は今でも二人の負担になってる。

ヒカルは、朝の話を聞いてしまった。
たまたま遊矢が出ていくのを見て、目が覚めたから追いかけたらあの会話。
自己防衛できないわけじゃない、ただ今までそうしたところで成功した試しはないし、二人が過保護なだけだと糾弾できる立場ではない。

悔しさでいっぱいだったが、それでもそれを口に出すことはできない。
何故なら二人は、あえて自分の前でそういう話はしないから。気を使っているのではない、ヒカルには、普通でいてほしいからだ。

「ヒカルー!」

「…!」

「どーしたんだよー!!早く来いよー!!」

「……、あぁ!!」

いつの間にかだいぶ距離が開いていた。
気付いた遊矢がヒカルに向かって手を振っている。
その姿で憔悴した心はまた潤って、頑張ることができる。

――カチッ

「…っ!?」

踏み出した時、なにかを踏んだ。
カチッと音がしたがスイッチが押された音ではなく、石同士が叩き合ったような音。

その瞬間、一帯の地面から光が漏れ出し、包まれるように集束し出した。

「なっ…!うわぁっ!」

「ヒカル!?」

光は柱となり、それに包まれたヒカルは光が消えた時に姿を消していた。

「消えた!!」
「罠か…!」

すぐさまヒカルのいた場所に駆け寄り、その痕跡を探ったがどこにも見当たらない。
完全にこの場から消え去っている、音の正体も光の正体も掴めないまま。

「クソッ…向こうも行動開始といったところか…」
「どうなってんだ、マジで…!」


「うわあああああああ!!」

思いもよらぬ状況に二人は頭を抱えた。
しかしそれすらも忘れさせるか、空気を裂く悲鳴が彼方から聞こえてきた。

「今のは!!」
「…ヒカルではないな」
「悲鳴の方に行ってみる、なにかあったのかも!」
「なら俺はアイツを探す。そっちは任せたぞ遊矢」
「おう!任された!!」

連続して巻き起こる事態に、遊矢と托都は二手に別れて町へ駆け出した。


~~~


ドサッバサッ

と、遠くから重い音が聞こえてくる。

いまだ夢の中だろうか、ヒカルは目を開いた。

「……ここは…」

暗い空間…だがなにもないというわけではなく、建物の内部なのか壁の質から人工物の中にいることは分かった。

「なにしてたんだか…えっと…―――!」

少し前の記憶を掘り返すと、直前自分が何をしていたかすぐに思い出すことができた。

遊矢たちと雪の中のハートランドシティへ出て、なにかを踏んで光に包まれ、気付いたらここにいる、ということを。

「そう、遊矢…托都も…!おい!二人とも!!どこだー!」

声は空しく反響するだけで、誰かからの返答はない。

「…足手まといと悲観した途端にこれか。さて、どうするか」

「どうする―――どうしましょう?」

「っ!誰だ!!」

頭を抱えるヒカルに声が聞こえた。

どこからともなく現れた髪の長い男は、薄い青の目を細めながらニヤニヤと笑っている。まるでヒカルを嘲笑うかのように。

「貴方が、かの未完の聖杯…予想よりも人間味を感じる」

「お生憎様だが、未完の聖杯なんてモノは持ってない。ほしかったら他所に行け」

未完の聖杯とすぐさま口にした男に戸惑ったが、「今の」ヒカルはそんな大それたものを持っていない。
それにもしそんなモノがあるのなら、それは遥か彼方、別の世界の少女の話だろう。

「知っているとも。だが、貴方がいればいい」

「ほーう…?それで?」

「私とゲームをしましょう。貴方が勝ったならここから出します、だが負けた時には――」

「…今の俺に、そんな価値はないけどな」

過去の自分の価値を知っているからこそこの自虐。
敵が何を考えているかは分からない、だがやるしかないのも事実だろう。敵の策に乗った気がしなくもないがここは受けるしかない。

「やるなら名乗れよ、相手してやる」

「ええ、そうですね。アルカナ、とお呼びください」

「よし!さっさと勝って、ここから抜け出してやる!アーマードコアディスク――展開ッ!!」

蒼銀の宝珠が煌めき、左腕へと装着された。
遊矢と同じ、いや双璧を成すもう一つのアーマードコアディスク。ヒカルの持つ力の一端だ。

「デュエルディスク、セット――!!」

「「デュエル!!」」

《LP:4000》


「始まったか…。朽祈ヒカル、その銀の翼の力、見せてもらうぞ。――――存分に、戦うがいい」


「先攻はもらう!俺は永続魔法《銀河重力-カオスグラビティ》を発動!これで、1ターンに1度カオスと名のつくレベル7またはレベル8のモンスターをリリースなしで召喚できる」

ヒカルと言えば強力なランク8モンスターエクシーズ。だがそれを召喚するには、レベル8のモンスターが2体以上必要。しかもそれを通常で呼び出せば合計4体のモンスターが必要になる。
まずはこの永続魔法を使うことで、1体を効率よく呼び出せるようにしたのだ。

「早速召喚の布石を打ってきましたね…」

「カオスグラビティの効果により、手札の《カオス・パージ ブラストソーサラー》を召喚!!」
《ATK:2000/Level:8》

呼び出された眠たげな女魔術師は手に持つ本を開くと、あくびしながらなにかを唱え始めた。

「ブラストソーサラーのモンスター効果、自分のフィールドに魔法カードが存在する時、手札からレベル8のカオスと名のつくモンスターを特殊召喚できる。来い!《カオス・パージ スナイプアサシン》!」
《ATK:2400/Level:8》

ブラストソーサラーが開いた本から魔方陣が現れ、ヒカルがカードを投げ込んだ。
するとそこから銃を持った黒装束の男が現れた。

「一気に2体目…!来きますか…!」

「レベル8のブラストソーサラー、スナイプアサシンでオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

黒い光と白い光が宙へと向かい、口を開けた渦に飲み込まれる。それはまさに、銀河の始まりの再現のごとき輝かしさで、見る者を魅了する。

「蒼銀の翼持つ竜、今此処に現れろ!来い!!《ギャラクティック・カオス・ドラゴン》!」
《ATK:3000/Rank:8/ORU:2》

蒼銀の双翼、美しき紅い眼、姿猛々しくも繊細な輝きを放つ竜はヒカルのフェイバリットモンスター。
銀河の名を冠したドラゴンが、此処に舞い降りた。

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ。……?」
《Hand:1》

パチパチパチ、と向かい合った男が手を叩いている。
ヒカルは思わず顔をしかめた。こんな時に称賛か、それともなにか理由があるのか、分からないがヒカルからすれば状況が状況だ、イラつくことに変わりはない。

「…素晴らしい、さすがと言うべきか」

「お褒めに預かり光栄だよ。それで、なにが目的だ」

「いやですねえ…私は純粋に貴方を称賛しただけのこと。疚しい気持ちはこれほどもありません」

「ふんっ、信用できるか」

いかにも怪しそうな、芝居のような動きをする男に見向きもせずヒカルは手札を確認し出した。
今あるのはたった一枚、だがこの一枚はとっておくべきとっておきだ。

「はぁ…その態度は天性のものだ、どうしようもありませんね。なら……力ずくで改めさせようか」

「…!!」

穏やかで飄々としていたアルカナの雰囲気ががらりと変わった。これは、完全な敵意だ。

「私のターン!私は儀式魔法《ペテン師ジョーカーの気紛れ》を発動!」

「儀式魔法…!!」

儀式召喚。儀式魔法という魔法カードを用いる特殊な召喚法だ。
召喚する儀式モンスターのレベル合計より上になるようにモンスターを手札かフィールドからリリースする。

「《ペテン師ジョーカー》はレベルが7になるよう、手札、またはフィールドからモンスターを生贄に捧げる。だが、私の手札はあいにくコレだ」

「―――な…」

アルカナが見せた手札にヒカルは言葉が出なかった。

それもそのはずだ。

「ジョーカー以外……全て魔法カード…だと…!?」

そう。召喚される《ペテン師ジョーカー》以外の手札4枚が全て魔法カードなのだ。
意味が分からない、目の前の敵は何故こんなことをしているのかヒカルには想像もできなかった。

「しかし、ペテン師ですよ?彼は。ならば、分かるでしょう。私は手札から、速攻魔法《クラブのキング》を発動!これにより、このカードはレベル12のモンスターとして扱われ、儀式召喚の素材にできる」

「なんだと!?」

速攻魔法から現れたクラブの男のレベルは12。つまり素材としては十分、否、素材になるために出てきたのだから当然というべきか。

「さぁ現れなさい!《ペテン師ジョーカー》!!」
《ATK:0/Level:7》

クラブの男が煙に包まれ、そこからケッケッケッと下品な笑いを浮かべる道化師が出現した。
攻撃力は0、だが不気味さは今まで見た中でも随一だ。

「くっ…速攻魔法でモンスターの代役を…」

「素敵でしょう?あぁ、ちなみに私、儀式モンスター以外のモンスターはデッキには入っていません」

「んなっ!!」

「なので思う存分、楽しみましょう。さぁ!ショータイムです!」

アルカナがパチンと指を鳴らすと、元々薄暗かった空間は真っ暗になり、視界はほぼなくなってしまった。

「なんだこの小細工…!」

「バトルです。ジョーカーよ、ギャラクティック・カオスに攻撃だ!」

「なにっ!?」

《ギャラクティック・カオス・ドラゴン》の攻撃力は3000、一方ジョーカーは0。自ら致命的な一撃を受けに行くなんて信じられない。

パチン、また指が鳴った。
空間は薄暗くも明るくなり、そこには驚きの風景が広がっていた。

「!!どうなってるんだ、これは…!」

「そう、これこそ瞬間移動のマジックです!」

先ほどまでヒカルのフィールドにいたギャラクティック・カオスはアルカナのフィールドに、そしてアルカナのフィールドにいたジョーカーはヒカルのフィールドに移り変わっていた。
そしてジョーカーは今まさにギャラクティック・カオスへ攻撃を仕掛けようとしている。

「ジョーカーのモンスター効果、バトルする時互いのモンスターを入れ換える、そして受けるダメージも――入れ換わる」

「なに…!?」

「ちなみにジョーカーは戦闘で破壊されません」

つまり本来アルカナが受ける3000のダメージはヒカルがそのまま受ける形になる。

ジョーカーの攻撃は受け止めるまでもなく蒼銀の竜の光の息吹によって消し炭にされ、ジョーカー自身も不気味な笑いと共に塵と化していく。
そしてその攻撃はそのままヒカルの方へと向かった。

「ギャラクティック・カオスっ…うわぁぁあああッ!!」
《Hikaru LP:1000》

「バトル終了時、互いのモンスターは互いのフィールドへと戻ります」

ぽんっとファンシーな音がして、フィールドにはギャラクティック・カオスが戻ってきていた。
もちろん、塵となったはずのジョーカーも、だが。

吹き飛ばされた体に鞭を打つようにして立ち上がると、自らが信頼を置く竜の眼が揺れていた。

「…大丈夫、大丈夫だ」

誰に言い聞かせるわけでもないが呟いたその言葉で竜は前を向き、目の前のペテン師を睨み付ける。

「私はこれでターンエンドです。さぁさぁどこまで足掻きますか?」

「くっ…」

「急がないと――貴方のお仲間、どうしてしまいましょうか」

アルカナを睨んだ顔がハッとした。

そうだ、遊矢と托都が今なにをしているか分からない。あの二人のことだから敵の手の中はないだろうが、そもそもこの吹雪の世界自体が胡散臭いのだ、どうなるか分かったものじゃない。

「っ…遊矢たちに手出しはさせない…!」

「………」

「必ず勝つ。そして、ここから脱出してみせる!」

拳を握った。

ここに遊矢たちはいない、自分を守ろうと必死になる人はいない。
守り守られる関係がいかに優しいかを知っているからこそ、自らを自らで守るしかないこの状況を乗り越えるために自らを奮い立たせる。

負けるものか、そう心の底から誓って。









Next act→


=================
【あとがき】

今回の一言、「エンタメデュエル(偽)」。
新たな敵はアルカナ!!儀式使いでトランプデッキ!いいですね!!一度やってみたかった!!
ちなみにエンタメデュエルではない!!

ヒカルメイン回、というわけで飯テロを始めるヒカルさんとかやけに過激派なヒカルさんとか普段よりもイケメン度上がってません!?あと私の語彙力も死んでない!?
約10ヶ月ぶりくらいの一人のデュエル回ですが、本当に…なんか、強い、さすがはヒカルさんだ!!(疲労性語彙力欠乏症)
托都がバリアン世界から常に魔力力を供給されている設定はようやく出せた、かな?
奴は体力はあんまりないです。下手するとヒカルよりもないです。それを不思議なバリアンパワーで補っているわけなんですが、普通に考えてもそれ弱点だよなっていう。まぁ左腕掴まれると立ってられない人だから今更だけど。
トラヴィスとクロス!!意味深ですね!すぐフラグ回収しやがったけどな!!さすがは悪役!!ヴェリタスとか鏡と同じにおいがするわ!!!
遊矢がいつもよりもガキっぽさあったね、なんやかんやでまだまだ子供なんだなぁと感じます。
そして謎に発揮されるヒカルさんのオカンぶり、まぁ風雅兄弟はダメ人間気質だから是非もないよネ。

次回!!強力な効果を持つジョーカーと読めないアルカナ、ひとりぼっちで戦うヒカルが今作初のアレを使います!!
更に狩也たちにも動きが……!?

【予告】
SecondAct.4「交差する運命」


===


前回では酷い目に遭った…いや、今までも大概だけども。

というより今回はより酷くないか!?明らかに扱い悪すぎだろ!

不当な扱いはよくないって社会で問題になるご時世に全く…!

はぁ……寝返ろうかな…。


~~~

【テラ撃破後の夜2】


「しっかし~良い夜だなぁ」
「ははっ!そうだな遊矢、こんな夜にはお酒が旨いぞ!」
「へー…俺まだ飲めないからわかんねえや」
「確かに、俺もその気持ちは…」
「………」
「そうか?じゃあ托都は分かるだろう?」
「んなっ何故…!?」
「一回くらい飲んだことあるだろう、男なんだから」
「はぁ…俺もまだこいつらと同じ括りだ、あとは2ヶ月待ってもらおうか」
「固いことを言うな言うな!それ、なら一杯試し飲みは」
「遠慮する!!」
「そうか……あの時父さんはショックだったぞ、私が悪いとはいえ暴言の連発は耐えられん」
「うっ…」
「それに遊矢が塔から落ちた時には私が死ぬかと思った…」
「うぅ…」
「さっきもまさか、助けに入った途端邪魔者扱いを…」
「ぐ……」
「父さんはかなしい…よよよ…」
「わ、分かった!付き合えばいいんだろう!全く、どうしようもない酔っ払いめ…!」
「そうかそうか!!よぅし!今日は朝まで飲むとしようか!」
「さっさと飲んで寝てくれ頼む」

「遊矢、お前の父さん…いつもあんななのか?」
「あー…父さん酒飲むとあれがデフォルトだから」
「あぁ……托都、生きて帰ってこいよ。骨は拾ってやるからな

「おいやめろ!!」


END


~~~

【テラ撃破後の夜3】


「…………」
「…………」
「なぁヒカル、托都ってすっげえ強そうじゃね?」
「同感だ。なんか、強そう」
「それが……それが…」

「…うぅ……気分が…」
「はっはっはっ!まだ一杯目だぞ!」
「……世界が回っている…」
「やだなぁ回っているのは酔いじゃないか~!」
「うぅぅ…」
「どうしたんだ托都、泣いてるぞ~!」
「………」

「このザマ、なんて……!」
「酒に飲まれてる…だと…!?」
「あの托都が…!!」
「信じられない…!」

「………二度と、飲まないからな…」ガクッ

「う、うわああああ!!托都おお!?」
「南無…」
「ヒカルも洒落にならないからなそれ!!」


END