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SecondAct.2「真夏の吹雪」





「……?……!」

思いもよらぬ寒さに一瞬瞼をきつく閉じた。

猛るような吹雪と極寒の中。

「……?」

遊矢はエメラルドグリーンのその瞳で世界を見る。

白銀に染まった、白い世界。

「こ、こは―――?」

瞼を開き、立ち上がる。
遊矢は驚愕した。

正真正銘、吹き荒れるは雪だ。猛吹雪だ。

こうなる直前、なにをしていたのか。
記憶を手繰り寄せ、デュエルをしていたことに気付くのは容易だった。

デュエルの途中、相手が発動させた罠カード。
それのせいかは知らないが、空に開いた大穴に吸い込まれるかのように強い光に包まれて、現在遊矢はこの真っ白なハートランドシティの街中に倒れている。

「……なにが、どうなって…寒ッ…!?」

一応だが、現在ハートランドシティは気候を春夏秋冬で分けるとするならば「夏」に該当する。
日照る太陽と大衆の感覚は夏のそれであり、こんな極寒の「冬」ではないのだ。

ならば何故今遊矢は冬のハートランドシティにいるのか。

デュエルの相手曰く「君達を消す」とのことだった。
つまり今いるこの冬のハートランドシティはこの世ではないどこか別の場所である可能性がある。
その上、「達」と複数を表したことでこの世界に放り出されたのは遊矢だけではないことも分かっている。

「…とにかく…みんなを探そう…」

凍える体を気合で奮い立たせ、立ち上がり積もった雪を払って一歩を踏み出す。
環境が違うだけで普段ならできることができなくなるという現実特有の実感に襲われた気がしたのをあえて無視して走り出す。

「ヒカル…托都……。早く、見つけねえと…!」


~~~


「うわああああああ!!」

《Unknown LP:0》

「ぬわああッ!!」

《Unknown LP:0》

「きゃああああああ!」

《Unknown LP:0》

一人、また一人と断末魔の叫びを上げながら倒れていく。
それらは全て黒いローブを着込み、あからさまに怪しい雰囲気を醸し出している。
その上死屍累々といった風に全員地面に伏しているわけなのだからきな臭いことは容易に想像できる。

「…これで全員みたいだな…」
「…!狩也くんあれ!」
「?…まだいるか」

黒ローブの人々が倒れる中、その真ん中で雪那を守るようにデュエルディスクを構えた狩也は、まだ見えぬ敵影を捉えたと同時に下唇を噛んだ。
そしてそのまま雪那の手を取り追っ手とは反対側に走り出す。

「狩也くん!大丈夫なの…!?」
「あんなのに一々管巻いていられるかよ!それに…ッ」
「……狩也くん…?」

その先は言えない。言ったら雪那を失う気がして言えなかった。

とにかく河川敷を走り抜け、町中に抜けたところで走る速度を緩めて、次第にその逃走は終わった。

「雪那、とりあえずさっさと避難しよう」
「それは…そうだけど」
「町に人の気配がない。間違いなく連中の仕業だ」
「だから…」
「あの時確かに壊滅させたはず…一体…」
「狩也くん!!」

人気のなくなったハートランドシティの片隅でただ一人悩む狩也に痺れを切らしたのか、雪那は握られた手を強く握り、声を張り上げる。

「…雪那……」
「ちゃんと話して!なんの説明もないのに、襲われて、狩也くんが戦って…そんなことおかしいもの!!」
「……悪い。でも…」

半年前の事件。それを話すことはあまりに容易だ。
しかし、もし本当に半年前の事件が発端だったとして、話してしまえば雪那を危険に巻き込むことになるのは間違いない。
ならば話さないことこそが、彼女を守る唯一の手段になる。

「…今は、言えない」
「……私だってデュエルはできるよ。狩也くん、一人は…ダメだよ」
「………」

――それでもいい。

――俺が強くなれるのなら。

その言葉を飲み込んだ。
言ったら、戻れない。

「…ホントに悪かった、じゃあ、避難したらな」
「…ええ!」

「避難だと?」

「…!!」

二人だけの空間は男の声に切り裂かれた。
振り向けば、恐らく先程巻いた奴等であろう二人組の姿。

「追い付かれたか…」
「狩也くん、タッグデュエルよ」
「…えっ?」
「私を信じて!」

雪那の真っ直ぐな目はしっかりと狩也を見ている。
だが、その選択に戸惑う狩也がそれを許すのは容易ではなかった。

「ダメだ雪那、お前に奴等とは…」
「どうして…!?」

「どうした、仲間割れか」

「ッ!てめえらの相手は俺で十分だ!」
「狩也くん…!!」

汗ばむ手のひらをグッと握り、拳を固める。
いくら圧勝してきたからとはいえゾンビのような雑魚を何十人もだ、体力の消費も無論それなりだろう。
だからといって雪那にデュエルをさせることが最も危険に繋がる。

「……俺は、雪那とは…っ!!」

「じゃあ、俺が手ェ貸してやるよ!!」

「…!!」

「誰だ!!」

人気を感じさせないハートランドシティで突如響いた4人以外の声。

その声が聞こえた方向に一斉に振り向くと、そこには緑の髪の青年が立っていた。

「……慶太くん」

「よっ!なんか見かけたから追っかけたら面白いことになってんじゃねーか!」
「子供の遊びじゃねえんだぞ」
「わーってるよ、でもさ、雪那ちゃんのこと拒否りまくってるお前を見るのもなんか居たたまれないしな」
「…お前…」
「つーわけだ。俺とならやるだろ、タッグデュエル」
「…そうだな」

高山慶太。遊矢の仲間の一人であり、かつては鏡と激闘を繰り広げた経験だってある実力者だ。
確かに慶太なら修羅場なら何度も潜っている。信頼は置けるだろう。

「話し合いは終わったか?」

「おうよ!」
「あぁ終わった。てめえらを、今から二人でぶっ倒す!!雪那、傍から離れるなよ」

「う、うん!」

雪那も多少の安堵感を手に入れたのか二人に笑顔を送る。

「はっ!所詮はガキンチョ!」
「消し飛ばしてくれる!」

「いくぞ!!」


「「「「デュエル!」」」」

《All LP:4000》


~~~


所は変わり、吹雪吹き荒れるハートランドシティ。
遊矢が目覚めた場所とは別の場所。

「………」

双方違うが美しい色をした眼は、霞んだ世界を見つめていた。

「…一寸先も大雪か……一体どうなってんだ」
「さぁな」
「さぁなじゃない、どうなんだソレ、動くのか?」
「全く動かん、急激な寒さでやられたようだ」
「はぁぁ……ダメかぁ…」

人の気配のないこの銀世界。
人目を憚らずにどこに身を寄せることもできるわけで、二人は目が覚めた場所からそう遠くなかったハートランドの記念館に避難してきていた。

Mr.ハートランドが残した悪趣味な記念館ではあるが、明かりがある。
特に困る要因があるとするなら托都のバイクが寒さでエンジン不良を起こしたことくらいと、

「……寒いな」
「仕方あるまい、電気が使えるだけ有難い話だ」
「それに遊矢が心配だし」
「…考えを挙げてみれば、問題は山積みになっているということか…」

遊矢もこの世界に飛ばされていたなら、敵は予想を遥かに上回る脅威だと言えよう。
どこか記憶の片隅で托都だけが気になっていることがあるのだが。

「さて、凍えているだけでも構わんならそれでいいが…」
「…?おい、なんだよ」
「風邪を引かれたら遊矢にする言い訳がないだけだ」
「はぁ……?」

着ていた黒い上着をヒカルの頭の上から被せ、疑問については簡潔に答えて動かなくなったバイクの方へ歩み寄る。

「…壊れていないなら、問題ないな」

「全く…」

深いため息を吐き、バイクの故障を再確認した。
壊れていなければ使える。いかにもだがこれ以上ないくらい分かりやすい。

「…さっむ…」


~~~


「先攻はもらう!私は、《喜怒の魔女》を召喚!」
《ATK:0/Level:1》

「んあ?聞いたことないな」
「しかもレベル1の攻撃力0か」

片方で笑い、片方で怒るような不気味な顔の魔女を呼び寄せた黒ローブの男は、二人の反応に笑みを浮かべて手札から1枚をセットする。

「私はカードを1枚セット、そして《喜怒の魔女》の効果発動!自分フィールドにカードがセットされた時、相手に500ポイントのダメージを、そして私に500ポイントのライフ回復を与える!」

「いきなりかよ!!」

「食らえ!!」

「っ!!」
《Kariya&Keita LP:3500》

《Unknown`s LP:4500》
「私はこれにてターンを終了」
《Hand:3》

開幕のターンで500ダメージずつを与え、500ライフを回復。
着実に、そして順当に攻めるタイプだと狩也は確信した。

だが息巻いているのは慶太の方、やられるだけでは終われない。

「よっしゃ行くぜ!俺の」

「俺のターン!!」

「えぇぇえ!!?」

拳をグッと突き出していざドローというところで狩也にドローされてしまった。
つまり、このターンは狩也のターンである。

「俺は《コスモ・メイカー シリウスファントム》を、特殊召喚!!」
《ATK:2100/Level:5》

「コスモ、メイカー…!?」
「バカな!我らが教祖の遺産に、こんな情報はない!!」

「コスモ・メイカー」。言うなれば宇宙を造る者。
狩也は今までテーマとして一貫したデッキを持ったことはなかったが、この数日前にこのデッキを手に入れ、そして新たなパートナーに選んだ。

「シリウスファントムは、自分フィールドにモンスターが存在しない時特殊召喚できる。そして永続魔法《レベル・プラネット》を発動!これにより、俺は自分のターンのエンドフェイズごとに300ポイントライフを払うことで、レベル5のモンスターをリリースなしで通常召喚できる!」

「レベル5のモンスターをコストなしで…!」

通常ならば、レベル5以上のモンスターにはコストが必要になる。
300のライフだけでレベル5のモンスターがレベル4以下のモンスターと同じくなにもなしに通常召喚可能なのは破格の効果だ。

「この効果により、レベル5の《コスモ・メイカー ガニメデライダー》を通常召喚!」
《ATK:1900/Level:5》

「更に、ガニメデライダーが召喚されたターン、「コスモ・メイカー」と名のつくモンスターのレベルを2つ上げる」
《Level:7》

「レベル7のモンスターをこんなにも手早く…!!」

レベル7以上のモンスターはリリース素材が2体必要となる。しかし通常召喚は1ターンに原則1度。手間がかかる作業だ。
それを1ターンで2体揃えたというのは、実力違わぬデュエリストの証だ。

「レベル7となったシリウスファントム、ガニメデライダーでオーバーレイ!2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

「ランク7ということは、奴の切り札ではない…!」
「なにが来ようとも恐るるに足りんわ!」

「秩序の中に眠りし竜、雲を貫き、星纏いて舞い降りろ!来い!《コスモ・メイカー ネヴラスカイ・ドラゴン》!!」
《ATK:2600/Rank:7/ORU:2》

天上世界から降りてくる流星のように宇宙を思わせる翼を広げた竜が現れる。
ネヴラとは星雲、星の雲。その竜の両翼はまさに星雲と同じ、幻想的な雰囲気だ。

「ネヴラスカイ…ドラゴン…」
「とっても綺麗…!」

「ネヴラスカイ・ドラゴンが召喚に成功した時、デッキからフィールド魔法を1枚手札に加えることができる。手札に加えたフィールド魔法《ヘブンリィボディの星雲》を発動!」

ハートランドの町並みは消え失せ、忽ち世界は暗く美しい星の世界へと変化した。
ヘブンリィボディ(heavenly body)とは「天体」を意味する。天体の中の小さな星雲の中にいると言うような光景は、狩也の後ろで咆哮する竜には相応しい。

「《ヘブンリィボディの星雲》の効果により、発動時に自分フィールドに存在する「コスモ・メイカー」の数だけデッキからドローする」

「次々と…」
「だが我々に勝てるわけは」

「ネヴラスカイ・ドラゴンの効果!1ターンに1度オーバーレイユニットを1つ墓地へ送り、相手モンスター1体を破壊!ノヴァブラスト!」

「しまった!!」

ネヴラスカイ・ドラゴンが発した波動によって《喜怒の魔女》は消し飛んだ。

「そして、ネヴラスカイ・ドラゴンの攻撃力分のダメージを与える!」

「なんだと!?」

「更に、発動しているフィールド魔法《ヘブンリィボディの星雲》の効果により、光属性ドラゴン族モンスターの効果によるダメージは、二倍となる!」

「これが決まればまずは一人!!」
「狩也くん!!」

ネヴラスカイ・ドラゴンの攻撃力は2600、更に倍となってダメージは5200。
一撃必殺、ワンターンキルへの準備は整った。

「お前達に付き合っている暇はない、一気に決めさせてもらうッ!喰らえ!ステラフォースブレイズ!!」

「………」

星々の輝きを彷彿とさせる烈火の激流は黒ローブの一人を飲み込み、辺りは青い煙に包まれる。

「決まった!」
慶太と雪那が確信を持った笑顔の反面、狩也の顔はハッとして凍り付いた。

――笑っている、もう片方の黒ローブは明らかに口角を上げている…!!

「残念だったなぁ岸岬狩也」
《UnknownA LP:1900》

「…やっぱりか」
「えっ、えっ!?」

4500あったライフポイントは1900にまで削られてこそいるものの、黒ローブのソイツは五体無事の様子だ。

「私はカウンター罠《怨讐の刃》を発動していた。相手のモンスター効果によるダメージを半分にし、相手にも同じダメージを与える」

「じゃあ狩也くんにも2600のダメージが…!?」

ダメージが半分になったことで《ヘブンリィボディの星雲》は実質無力化。更には自身へ強烈なダメージを通させる穴となってしまった。

「急しては事を仕損じる…なんの焦りだ?それは」

「くっ…!」

「自らの竜の一撃を受けるがいい!!」

「ッうぁあぁぁあ!!」
《Kariya&Keita LP:900》

罠カードから放たれた衝撃波で後方へ吹き飛ばれた狩也はARビジョンの見えない壁に衝突し膝をつく。

「ぁっ…ぐ…!」

「狩也!大丈夫か!」

「るせえ……、自分の心配してろよ…!」

「なんだよ!気に掛けてやってんのに!!」

「余計な、お世話だ……―――ッ!!」

右の拳を地面に叩き付け、その痛みでボケた脳内を覚醒させる。
飛ばされた時に噛みきれたか、下唇から出た赤いアームカバーで血を拭い立ち上がる。

「なんという体たらく、信じられないほどに弱いな」
「この分では余裕で潰せそうだ」
「所詮は子供ってことか」

「ッ!!まだバトルは始まっていない、フィールドはがら空き…なら、バトルだ!!」

攻撃の衝撃で揺れていた目付きは一瞬で攻撃体制へと変わった。
後ろで雄々しい姿を見せるネヴラスカイ・ドラゴンもそれに応えるように、星々の世界の遥か彼方へ咆哮した。

「おい狩也!それは―――!!」

「ネヴラスカイ・ドラゴンで、ダイレクトアタック!!コスモスネビュラストリーム!」

急いては事を仕損じると敵から言われた直後にも関わらずネヴラスカイ・ドラゴンへ攻撃の指示を出した。
敵の思う壺なんじゃないかと慶太ですら思える状況でここまでの狩也は見たことがない。

放たれた紅い星の閃光を目前にした黒ローブはニヤリと笑い、素早く手札からカードを選び出した。

「速攻魔法《メランコリーの鎖》を発動!ダイレクトアタックを無効にし、このカードを装備魔法とし、攻撃してきた相手モンスターのコントロールを奪うッ!!」

「なんだと!?っ!ネヴラスカイ!!」

「アイツ…ッ!狩也のコトわざと煽りやがったな…!!」
「ネヴラスカイ・ドラゴンが……っ!」

ネヴラスカイ・ドラゴンは悲鳴のような咆哮を上げ、《メランコリーの鎖》から伸びた黒い瘴気を纏った鎖によって敵陣への引き寄せられる。
そして黒ローブのフィールドまで引っ張られたネヴラスカイ・ドラゴンは蒼く輝く眼を赤に変えて、狩也に向けて敵意を示す叫びをあげた。

「さぁ!ターンを続けるか?」

「くっ…カードを2枚伏せ、ターンエンドだ。エンドフェイズに《レベル・プラネット》の効果で300のダメージを受ける…ッ…!!」
《Kariya&Keita LP:600》
《Hand:2》

「狩也くん!!」

痛みに耐えかね膝をつく狩也の姿を見て思わず雪那が駆け出した。

走る靴の音を感じ取ってか、そのバイオレットの眼を爛々とさせ敵意を剥き出しにした表情で立ち上がり、敵から視線を逸らさない。

喉元を食い千切らんとばかりに睨み付けてくる姿に多少の畏怖を感じ取り黒フードの二人は後退り、雪那も不安そうに立ち止まる。

「まだ負けてねえからな、雪那」

「……信じてるから!!」

「…茶番だな」
「一気に畳み掛けるとしようか、私のターン!」

仲良しこよしは気に食わないと顔をしかめた男はドローカードを見て笑った。

「バトルだ、ネヴラスカイ・ドラゴンよ!ダイレクトアタックだ!」

「狩也!」
「分かってる!罠発動!《コスモホール》!!墓地の「コスモ・メイカー」と名のつくモンスター1体をゲームから除外し、このターン受けるダメージを0にする!」

墓地のシリウスファントムを除外したため、狩也はこのターンダメージを受けることはなくなった。
つまり、なんらかの特殊な条件がなければこのターン負ける要素は失ったこととなる。

「しかし、我らを甘く見てくれるなよ。私はまだ通常召喚を行っていない。《哀楽の魔女》を通常召喚!そして、喜怒哀楽の二体の魔女が揃ったことで、手札から魔法カード《阿修羅の仮面》を発動!」

「なんだそれ!!聞いたことねえぞ!」

「《喜怒の魔女》、《哀楽の魔女》をゲームから除外することで、デッキから《波動化身 阿修羅》を特殊召喚する!」

二人の魔女は不気味な笑いと共にカードから現れた仮面に取り込まれ、それは次第に肉となり、グロテスクな形をしたなにかへと変化していく。

「うっえぇ趣味わっる…」
「……」

「さぁ現れろ、三対の顔を持つ化身、阿修羅よ!!」
《ATK:0/Level:10》

肉片のような仮面の塊は6つの腕、3つの顔を持つまさに阿修羅といった風貌に変容し、巨大なモンスターとしてフィールドに現れた。

「でっけえ…」

「でも攻撃力は0…!」

そう、攻撃力は0だ。レベルは10と最上級クラスにも関わらず攻撃力は皆無。

「阿修羅は攻撃する必要などない」

「なんだと?」

「阿修羅の効果、発動!ネヴラスカイ・ドラゴンをゲームから除外!」

「ネヴラスカイを除外した!?」

「これにより阿修羅は次のターンに破壊され、ネヴラスカイの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

阿修羅の効果は実質の時限爆弾化。除外したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果だ。
ネヴラスカイの攻撃力は2600、つまり次の慶太のターンのエンドフェイズに敗北が決まることになる。

「マジかよ…!?」
「これはマズいな…」

「私はカードを1枚伏せて、ターンを終了する」
《Hand:3》

慶太の脳内は今「プレッシャー」という文字でいっぱいになりつつある。
冷静にカードをディスクに収める敵の姿を見た直後だ、余計にプレッシャーがかかる。

だがこれは罠だ。阿修羅の効果がエンドフェイズに発動するからと分からせて焦らせれば、狩也のように乗っかってくるだろうと思っているのだ。

しかしかかったプレッシャー以外は落ち着いているつもりでいる。
焦っていることを感づかれたら終わりなのももちろんだが、何よりもここで冷静にならなければ本当に負けてしまう。

手札に効果ダメージを防げるカードはない。
阿修羅の攻撃力を額面通りに受け取ることもできやしない。
つまり、ドローできなければ勝利は絶望的だ。

「…俺の、ターン!!」

―――ドローカードを見れない。
右手で引いたカードがどんなものなのか、見たら負ける気がして、恐ろしい。

「………、…」

瞼を開き、カードの模様から名前を見る。
ぼやけた視界が広がった瞬間―――満面の笑みで慶太が叫んだ。

「ッいよっしゃあぁっ!!」

「慶太…!?」
「慶太くん…?」

白い歯を見せて、にっこり笑う少年の姿は勝ちを確信している。
半信半疑な狩也の方を向いて、確信的な勝利への道を目で伝える。――それを感じ取ったのか、狩也も慶太へ任せたぞと頷いた。

「よしっ!!俺は魔法カード《再生大地(リバースガイア)》を発動!除外されたモンスター1体を選択し、デッキに戻す!俺はネヴラスカイ・ドラゴンをデッキに戻すぜ!!」

「なにッ!?」
「エクストラデッキだと?血迷ったか!」

「永続罠《星流逆行》発動!!エクストラデッキからネヴラスカイ・ドラゴンを特殊召喚し、このカードを装備する!慶太!」
「おう!!来い!《コスモ・メイカー ネヴラスカイ・ドラゴン》!!」
《ATK:2600/ORU:0》

星の煌めきに応えるかのようにフィールドに現れた竜の咆哮は大地を揺らし、黒フードの二人はその振動に震える。

エクストラデッキを共有できるルールではないこのタッグデュエルでここまでの連携プレイング。
二人は驚愕し、そして狼狽えた。

あからさまに急造のタッグで、除外したカードをエクストラデッキに戻し、それをすかさず召喚するなんて普通はありえない。

「しかし、っオーバーレイユニットのないネヴラスカイ・ドラゴンなどただ攻撃力が高いに過ぎん!」
「さぁ攻撃するならしてみるがいい!」

「へえー、攻撃ね」
「…なるほど。阿修羅の効果には、攻撃された時に発動する効果がある、ってところか」

「!!しまったぁ!」

焦りと戸惑いから逆に今度は黒フードが自ら墓穴を掘ることとなってしまった。
そう、阿修羅は攻撃された時、受けるダメージを全て無効にして相手に与える効果を持っている。
あえて挑発し、狩也を引っ掛けるには至れたが、そこまでだ。

「速攻魔法《誘発進化》発動!モンスターが自分のフィールドに特殊召喚された時、召喚されたモンスターより攻撃力が低い植物族モンスターエクシーズを特殊召喚できる!」

「ネヴラスカイよりも攻撃力の低いモンスターエクシーズ…?」

「そう、攻撃力2600以下のモンスターエクシーズだ!現れろ!《鎖鳥の霊華 キングプロテア》!」
《ATK:0/Rank:5/ORU:0》

美しい赤と白の花が開き、現れた華の王女は気品と風格を持ち合わせている。
しかし攻撃力は0、オーバーレイユニットもない。

「ふっ…やはり攻撃するしかないではないか!勝敗は決したな!」

「勝手に決めつけてくれんなよ!キングプロテアの効果、このモンスターがいる限り、俺達は効果によるダメージを受けない!」

「な―――!!」

キングプロテアはオーバーレイユニットがない時、自らの主を効果ダメージから守るのだ。
これでエンドフェイズ、阿修羅の効果によるダメージは受けなくなった。

「どうだ!俺はこれでターンエンド!」
《Hand:4》

「くっ…」
「案ずるな、阿修羅の効果は…」
「分かっているとも」

阿修羅にはまだ効果がある。
相手モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る効果。
これでネヴラスカイ・ドラゴンのコントロールを得て、キングプロテアを攻撃すれば二人に2600のダメージを与えられ、勝利できる。

「さ~て狩也、雪那ちゃん!アイスでも食いにいく?」
「賛成!」
「…雪那が行くなら」

「き、貴様ら…!デュエルの途中だぞ!?」

「…?んあ、あーデュエルなら、もう終わったぜ」

「終わった…?」

「キングプロテアの効果、オーバーレイユニットがないこのモンスターが存在するターンのエンドフェイズ、自分フィールドのモンスターエクシーズ1体を選択し、破壊」
「その攻撃力分のダメージを与える」

「な―――――」
「なん――――!?」

「「ぬわあああああああ!!!」」
《Unknown LP:0》

キングプロテアの手に咲いた花にネヴラスカイ・ドラゴンは粒子となって消え去り、そこから眩い光と共に花薫るエネルギー波がまっすぐに阿修羅を貫く。
そして貫かれた阿修羅は爆発と同時に砕け、それに黒フードの二人は巻き込まれ吹き飛ばされた。

「ヘヘッ!俺にデュエルで勝とうなんて、100年早いぜ!」
「……ま、そういうことだ」

吹き飛ばされた衝撃で倒れた二人に調子づいてお決まりな台詞を吐いてみる。

周りに敵影がないことを確認した狩也はようやく雪那の元に戻ってきた。

「二人とも、無事でよかった…!」
「雪那ちゃんもしかして俺らが負けるって思った?」
「まさか!怪我したら嫌だもの」
「そ、そうか…」
「安心したよ、狩也くん」

雪那がホッとしたようで安心したのは狩也の方だ。とりあえずの危機が去ったのだから。

―――だが、

「んじゃ行くかぁ!」
「ええ!」

―――慶太は強くなった。あの時よりも、…ずっと。

―――俺は……?

「狩也くん?」

「…!」

「行こう?」

「…あぁ」

拳を握りしめ、太陽の下、歩み始めた。


~~~


「はっっくし!!」

寒い、すごく寒い。

みんなはなにをしているだろうか、この町には誰かいないのだろうか。

吹雪で薄暗いハートランドシティには人影すらなく不気味だ。
目を覚ましてから2時間は経っただろうか、走りさ迷い始めてから時間の感覚がどんどん薄れてきた。
知っている町並みなのに、行けばわかるなんて感覚はとうに無くしている。

「なんで、みんないないんだよ…」

駅前の広場にやってきた瞬間、遊矢の足並みは崩れ、その場に転んだ。
凍えるような寒さの雪にダイブして、数秒後に起き上がる。

「……どうなってんだよ…!!」

どうしようもない極寒の中、雪に埋もれながら孤独感に苛まれていた。

―――――!!――


「…声…?」


――――か――!――

聞こえたのは確かに人間の声。

男性とも女性とも解釈できる中性的な声。

――だれ――!!――

知っている。

遊矢は、その声の主を知っている。


「誰か!!いないのかーっ!!」


薄く、シルエットが見えてくる。
束ねた長い髪を揺らしながら、大きな声で叫びながら、その人物は走っている。


「―――ヒカル……?」


吹雪が静かに、だんだんと止んできた。

今なら走れる、そんな自信をもって、走り出す。

「ヒカル!!!」


「―――…!遊矢!」

走る足がだんだんと感覚を取り戻し、次第に距離は近づいていく。

そして、

「ヒカル…!」
「…よかった、遊矢…!」
「会えてよかった…!!ヒカルに……!」

握り合った手は冷たくも暖かくて―――、そのまま遊矢はヒカルへ倒れ込むように、意識を失った。


~~~


「………」

「もうしわけありません…!」

「よい、下がれ。報告など聞き飽きたわ」

「はっ…」

不機嫌な表情を隠さない男は目の前に広がるビジョンに更に顔をしかめる。

「…やはり、話にならんな」

「……では…」

「あぁ、俺が自ら出張る」

ビジョンに映った人物を見て立ち上がり、虚空からクリスタルを出現させて消えていく。

―――待っていろよ、神話の装甲。


―――そして、未完の聖杯。









Next act→


=================
【あらすじ】


今回の一言「お前のようなチャラ男がいてたまるか」
慶太が見た目と上部だけチャラ男なのは鏡編にも話したけど更に磨きがかかってて超面白い。
やだ、このチャラ男狩也よりイケメンよ。

狩也が新デッキで登場!!!その名も「コスモ・メイカー」!!
なんか遊戯王というかヴァンガードっぽい気がするようなしないような感覚よ。
そして新エースとしてネヴラスカイ・ドラゴンも登場。おっと、アナ○タ○アさんじゃないですよ。
ドラゴン系のモンスターなのはもちろん二対の竜の名残。狩也なら普通に人型モンスターでもよかったし、でもそこはね?
雪那ちゃんから不思議とかかあ天下な臭いがし始めてきた、これは将来が楽しみだなぁ(にっこり)
二人の噛ませのデッキはテーマとか特になく、結局なんのために襲撃に来たのかがイマイチ分からないまま終わった気がしなくもない。まぁちゃんと意味はあるんです。
そして遊矢とヒカルがまたなんかすごいいちゃついてる、このリア充なんとかしろ。
托都はどこ行ったかと言うと、ちゃんといます、台詞がなかっただけでいます。空気を読んで空気化しました。普段は空気読めないのに。
というわけで、狩也が無事じゃないけど勝利した後遊矢がヒカルと合流して、さぁどうなる?

次回!!今回とは話変わって遊矢たちのいる極寒のハートランドシティへ。
合流を果たした遊矢たち、こうして物語は次の物語へと動き出す――!!


【予告】
SecondAct.3「黒い教団」


===


久方ぶりに始まったと思ったら吹雪!?さっむ!!!

うむ、ならば暖まるためになにかアクションを起こすとしよう。

はぁ…なにしようって言うんだ…?

たとえば、この建物を燃やして雪を溶かす。

殺す気かお前。 

ならば雪を温泉にする、はどうだ!

とっととバイク動かしてくれ頼む。


~~~

【テラ撃破後の夜1】


「いや~テラも倒したし!ヒカルはすっかり元気になったし!父さんと托都は仲直りしたし!」
「おい遊矢最後余計……」
「晩飯がおいしいなぁはっはっはっ!」
「……確かに」
「だろ!」
「ふふっ誉められちゃうとお母さん嬉しいわ」
「わざわざありがとうございます…」
「いいのよ、遊矢が友達を家に呼んだのは雪那ちゃんと狩也くん以来だから」
「やっぱりその二人か…」
「…そういえばヒカルくん、なんだか左目の色がおかしいわ」
「ぎくり…」
「それにさっきの托都と…」
「わーっ!!あーっ!!」
「ね、托都」
「俺に振るか…!?」
「遊矢、二人の関係ってなんなの?」
「あーあの二人は……マブダチ?っいってえ!!」
「余計なことを言うな馬鹿が…」
「…マブダチって?」
「…知らぬが仏、いや、知らない方が幸せなこともある、だな」
「…?」


END