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ねえ、知ってる?
ハートランドの、東エリアの時計塔の話。
クリスマスの10時にそこで愛を誓い合うと、幸せになれるんだって。
…なぁ、お前聞いたか?女子の話!
俺、あの子狙ってんだよ!
……えっ、あの子、そうなのか……。
…!あのさ、クリスマスの10時、
東エリアの時計塔、
そこに、来てくれないか?
お前が好きなんだ、一緒にいてほしい。
…喜んで、
狩也くん。
The next story is C.C
Vanish Lightning sky
~~~
それは今から半年前こと。
一人の少年の物語。
町に蔓延る悪意、善意を利用し、闇の復活を望んだ悪の教団。
彼らを断罪せんと立ち向かい、そして辛勝。
教団は散々となり、この世界から無くなったものと彼らの記憶の中で、そう扱われていた。
そして、現在。
「我が声を聴け!同志達よ!」
声は高らかに、
「闇の復活は果たされず、我が父はあの男への怨讐の内に没した!」
力強く、
「奇跡という下らない虚像こそは、最も卑下すべき害悪である!」
その目に憎しみと怒りを込め、
「―――時は来た…!!」
集う彼らの頂点で叫ぶ。
「我らの聖戦はこれより始まる!―――怨讐の四衆(ヴェンジェンスカルテット)よ、よいか、聴け!」
跪き、瞳に憂いを宿した青年を見ず、
「奇跡を滅し、今こそ、父の悲願を…!!」
ただ、未来を追い求める。
~~~
猛るような吹雪と極寒の世界。
青年はエメラルドグリーンのその瞳で世界を見る。
白銀に染まった、白い世界。
「こ、こは―――?」
瞼を開き、立ち上がる。
青年は驚愕した。
「――――雪…?」
話は、数時間前に遡る。
~~~
空は青く、陽は輝く。
8月の太陽はただただその灼熱を雨のごとく、降らせるのみ。
町行く人々は皆、その下を歩き、享受する。
いつの間にかに全てが受け入れている夏の煌めきを。
そんなことは露知らず、目覚まし時計はただ朝を告げるベルを鳴らし続ける。その横、薄手の毛布にくるまった青年のことなど気にも留めずにだ。
「――――う、る、―――せえーッ!!」
青年の声に呼応するかのように吹き荒れる風。
室内に似つかわしくない暴風は目覚まし時計を簡単に吹き飛ばし、それはディスプレイを割り、電気が流れ、ビリビリと危なっかしい音を鳴らしながら黒焦げになってしまった。
「…ちゃー、やっちまった」
布団の隙間から顔を出した青年はその惨状を一目見て、ズズズと布団の中へ消えてゆく。
――ポーン
室内に鳴る機械音。客人を告げるチャイムの音だ。
青年は目を大きく開き、冴えない頭を無理矢理に覚醒させ布団から飛び出した。
「飯!!」
彼の名は「風雅遊矢」。
常に真っ直ぐ、明るく快活な青年だ。まぁ、不真面目なのがタマに瑕ではあるが。
青い髪をバサバサさせ、寝癖を整えるが、どうやっても二本だけ髪が跳ねてしまう。
「チャームペイントは大事だからな」と誰に言うわけでもなく呟き、ガラス製の洒落たテーブルの上に投げ捨てられた書類を払い除けるように飛ばし、玄関先に走る。
「お待た―――あぅッ!?」
「わっ…!!」
ニコリと笑いながら扉を開け、運悪く爪先をビリビリスパークする目覚まし時計に引っかけ、そのまま目の前の客人と正面衝突を果たす。
「あいてて…ご、ごめん、前見てなかったっつーか…」
頭を掻き、ようやく客人の顔を見た途端、遊矢は笑顔がひきつった。
なにか液体を手にしていたのか、服はびしょびしょ、その上顔にも被害被っている。
それを目にしている隣の人物は手で目を覆い、逸らすほどだ。
「…遊矢ぁ……!」
「あ、あちゃー…ごめん、ヒカル」
手を合わせ、前屈みになりながら謝罪の姿勢をとる。
「良いこと教えてやる…」
「えっ?」
もしや!と顔を上げ、ぱぁっと明るくなった未来………が、
「ごめんで済んだら、セキュリティはいらねえってことを―――!!」
「いってえ!!ギブ!ギブ!!」
遊矢の右腕を掴み上げ、ついでに頭を押さえ地面に縫い付け完全に腕を取る。
あらぬ方向へ曲げられ、ぎちぎちと危ない音をたてる右腕。
半泣きになりながら片方の手をパタパタさせる遊矢は最早滑稽だ。
余談だが、遊矢は警察機関に当たるセキュリティの特別協力者で、セキュリティからの協力申請1つでデュエルを用いた犯罪を行う犯罪者たちを追い掛けましている。
そんな遊矢がこのザマなのだからヒカルが言うのも理解できなくはない。
「…じゃれるなら中でやれ」
青空を眺めながら、ポツリと呟いた。
~~~
ハートランドシティの一等地、各地に点在する集合住宅の中でも最も規模が大きいと思われる一つ。
そこの最上階にある遊矢の部屋の隣の部屋。
「全く…なんてことしてくれてるんだお前は」
「だから、謝ったじゃん…許してくれよー」
あからさまに遊矢から近すぎず遠すぎない距離感かつ二人から見えない場所で紅と黒の服に着替える青年の名前は「朽祈ヒカル」。
遊矢の親友であり、ライバル。喜怒哀楽で言えば怒哀が強めの性格だが、誰より遊矢を大切にしている。
そのヒカルが遊矢に対してここまで当たりの強い態度を取るのは珍しい。つまり、先程の事件はかなり問題のある事態だったのだ。
「あの服お気に入りなんだけど」
「……」
「臭いそうだからしばらく着れそうにないな」
「……」
「はぁ…出来る限りのクールビズ…」
「だからごめんってばー!許してくれよー!!」
先程の液体。
実はアイスクリームであり、外で待たされ溶けた上に遊矢の衝突で運悪くヒカルにぶちまけてしまった、ということだ。
アイスクリームが付いた服を着たくないという本人のご意向から着替えているのだが、この服自体はヒカルのものではない。
「はぁ…替えが見つかったし、いいんだけどな」
「いいのかよ!?チクショー!謝り損だーッ!!」
「悪いな。――でも…お前が…お前がなぁ……」
「……何が言いたい」
先程から半分空気に溶け込んでいた黒い服の青年、この部屋の家主。
「堰櫂托都」。二人より少し大人で、性格も落ち着きがあり、行動も冷静。なにより、遊矢の義兄なのだ。
一つ言うなら彼は遊矢に負けず劣らず、否、圧倒的に学問に興味がない、つまりバカだ。
先述の話になるが、ここは托都の自宅。
では何故身内ではないヒカルがここまで無遠慮なのか。
少し前にあったとある理由からたまたま家に泊まらせていて、たまたま気に入られて完全に移住されてしまった、といえば伝わるだろうか。伝わらないだろう。
ヒカルがお腹を抱えて笑うほどの要素が普通なら今の会話で分かるわけはない。
だが、彼をよく知る二人ならなんとなく、なんとなくというより大いに笑いの種にできそうなネタだ。
「まさか、お前がこんな服持ってたなんて、信じられねえ」
「なんだ、悪いのか」
「悪くないけどな…ただ…」
ようやく立ち直った遊矢が二人を比較するように何度も交互に見る。
ヒカルは最大の特徴とも言える腰より長く伸びた髪のせいなのか、黙っていれば女性的だ。性格はお察しではあるのだが。
一方、遊矢の印象、托都と言えば「黒」。とにかく黒い、さすがに腹の中は黒くないが托都がイコール闇のように黒いイメージなのは恐らくヒカルもだろう。
そんな托都が、まさか、まさかだ。
「うわぁ…」
「お前、昔は可愛かったんだな」
「ちょっと見てみたいな、ホントちょっとだけ」
「か、勘違いするな!あくまで連れが勝手にだな、俺はむしろ―――!」
「連れ?」
「!」
二人の口撃に耐えられず発した言葉。失言、と言ったところか。黙り込んでしまった。
「…昔の家主だ、此処の」
「…なるほど」
「さすがの托都も一人でいたわけじゃないもんな!で、その人は?」
「遊矢バカお前…」
「夭折」
「あっ…」
今度は遊矢が失言だった。
本当に小声で、聞こえるけど聞こえない程度の小さな声で短く言った言葉はあまりに重たい。
「ご、ごめん…」
「気にするな。もう、吹っ切れている」
「……そっか」
いつの間にかに空気がどんよりしてしまった。
というより、托都が会話に参加すると大体話が突然重たくなるのはお約束に近い。
よく知っている二人ですら托都の過去については詳しく知らない。謎がまだまだ多い人物だ。
「しかし、こういう趣味の連れがいたってことは、案外影響受けてんのかお前」
「……」
「部屋が汚いところとか」
数週前、ここへ来た時のことを思い出す。
衣服類こそなかったが、ゴミの散らばり具合が異常だった。
托都はいわゆる汚部屋の住民に該当する。
「…あぁ、だがな、メルヘン頭だという部分はお前にそっくりな奴だった」
「…メルヘン?」
「……二人とも、ちょっと」
互いの最大の難点を挙げ合う姿に遊矢は戸惑いを隠しきれなくなってきた。
汚部屋の主VSメルヘン脳だ、ロクな人間じゃない。
「そうか、やっぱり少しだけ分かり合えないと思ってたが…」
「その点に関しては同意しよう」
「覚悟はいいな、ライオン頭!」
「あぁ無論だ」
「……はぁ…」
さすがに見かねた遊矢は懐から通信端末を取り出し、電話帳を開き、通話を押す。
「あ、カイトさんですか?あの、ヒカルが…」
「っ!?遊矢ぁ!!ストップ!ストップ!」
「次、托都もな。あっち」
「なっ!貴様、一体どこで…!?」
カイト、と名を出しただけでこのあわてふためく姿を見せるのだからヒカルの弱点はもうすぐに分かるだろう、托都も同義だ。
別に互いに仲が悪いわけではない。今のも仲が良いから言い過ぎるわけであって、険悪ではない、むしろじゃれあいに近い。
こうして平和な一日の内、朝が終わるのだ。
世界を崩壊させ、数多の命が潰えた、未完の聖杯を巡る錬金術師「ヴェリタス」との戦いから数週。
後の世に「世界樹病」として災厄の名を遺す一連の事件は、いまだ世界に爪痕を残し、世界の再構築だけでは戻らなかったそれを復興することが急がれている。
そして、その戦いにおいて、ヴェリタスを救い、世界を救った「世界から忘れられた英雄」。
それがここにいる三人。
この未来都市、ハートランドシティの郊外には、哀しき時間の旅の果てに父が遺した巨木「偽界樹」が、今日も白く輝きを放つ。
~~~
黒いヘアバンドの青年。右に流した金髪と揺れる。
Xの柄の入った服はどこか特徴的で、紅い色も相まって前衛的な気がする。
公園の時計の下、端末を覗きながら暇そうにする彼を見つけ、長い髪がサラサラと流れる。
「狩也くん!」
「…!雪那、」
「ごめんね!待った?」
「いや、別に」
「また嘘吐いてるでしょ」
「あはは…男らしくさせろよ、な」
待ち合わせお決まりの定型文を口にし合う二人。
青年は「岸岬狩也」。そして隣の少女は「刹那川雪那」。見るからに分かるが、二人はいわゆる恋仲である。
二人は、遊矢の幼馴染であり、小さい頃から一緒にいた友達…だったのだが、半年前からそういった関係になり、現在ではすっかり出来上がっている。
「んじゃ、行くか」
「今日どこ行くつもり?」
「…散歩?」
「悪くないね!」
「じゃあ決まりだな」
二人のペースで、二人は今日も歩いている。
~~~
「―――見つけたぞ。行けッ!怨讐の四衆が一人、クロス!!」
「…我が教祖に、栄光を」
~~~
「はーぁ!」
遊矢は大きな溜め息を吐いた。
いや、それもこれも遊矢のせいなのだが。
事の発端はあの後すぐのことだ。
すっかり忘れていたアイスクリームのことをヒカルが思い出し、遊矢におつかいを命じた、だけだ。
遊矢がぶちまけたのが悪いため、遊矢も反省の意を示すためにこうしておつかいクエストを達成しようと帰り道を歩いている。
「はぁ…ま、俺が悪いんだけどさ」
「ホント、おバカだよね遊矢ったら」
「しゃーねえじゃん、朝飯だと思ったんだし」
「11時過ぎに…?」
遊矢の隣を歩く少女は「孤鈴アミ」。遊矢の幼馴染で、よく遊矢の家に来て料理を作っていく。面倒見がよく、真面目な女の子だ。
一人で行くのがめんどうで、アミを誘ったところすごく動揺されたのだが、結局ついてきたという形だ。
「どう?ヒカルさんたち」
「どうもこうも、さっきおっ始めようとしてたぜ」
「元気ね…」
半分飽きれ顔で苦い言葉を口にする。
「でもさ、良かった」
「えっ?」
「ヒカルさ、元気になってくれたんだよ」
「…そっか」
世界を崩壊させた世界樹病、その発端の一つでもあるヒカルの話。
ヴェリタスは世界の神となるために、「未完の聖杯」と呼ばれる願望器を必要としていた。
それを持つ特異な存在であるヒカルを狙い、そして手に入れた。
まずは人間の世界に進攻するための扉を開けさせ、その後仲間同士で戦わせた。
が、托都の説得でヒカルは正気に戻り、無事に戻ってきた。
だがヒカルは戻ってから色んなことに苦しんでいた。その内最近まで引きずっていたのがこの災厄のことだ。
自身が災厄を起こし、人間を死なせたと苦しむ姿を遊矢たちが変えていった。
こうした長い話があって、今の三人がいる。
最初は敵同士、バラバラで、辛いことをいっぱい経験して、ようやくこうして絆を深めたのだ。
「楽しいんだ、今がさ」
「そっか」
「…俺!もっと頑張らないとな!」
「…そっか」
「まずは編入試験から――!」
「私、遊矢のこと応援してるから!」
「…アミ」
遊矢の正面に立ち、アミは微笑みながら続ける。
「たとえ、遊矢がどんなに苦しい時でも、私だけは絶対に遊矢の味方だから」
「…ありがとな!アミ!」
二人だけの話、二人だけで誓った言葉。
それは仲間との絆を大切にする遊矢にとって、支えになる言葉だ。
「さて、ヒカルさんたち待ってるし行きましょ!」
「あぁ!!」
日照る太陽の下、誰もいない河川敷を歩く。
どこか、違和感を感じた。
「……なんだこれ」
「…遊矢、どうしたの?」
瞬間、鼓動は激しく高鳴り、なにかを告げようとしているのか、首から提げたペンダントが強い輝きを放つ。
「な、なにこれ!!」
「フリューゲルアーツが…!?」
フリューゲルアーツ、翼の力。
ヴェリタスとの戦いの最中、ヴェリタスを止めんとする娘・ルクシアの魂を持ったホムンクルスによって錬成された決戦用技法を内包したペンダント。
エメラルドグリーンのそれは凄まじい輝きを放ち、ある一点を正確に真っ直ぐと指し示す。
そこはかつて災厄の始まりとして、この世界の罪と罰を全て体現した場所。
「偽界樹……」
「どうして突然偽界樹が…?」
「……!」
通信端末が大きな着信音を鳴らす、相手はヒカルだ。
「ヒカル!これって!」
《もしかしなくてもなにか起きてる!フリューゲルアーツが…!》
「分かってる!」
《偽界樹の下、そこで集合だ》
「よっし!!」
通信を切り、アミにアイスクリームの入った袋を渡す。
「アミ、カードキー持ってるよな」
「うん!」
「俺の家にいてくれ、ちょっと行ってくる」
「わ、わかった!」
遊矢は頷いてそのまま走り出す、その背中を見ながら、アミは言う。
「…待ってるから…」
いつしか空は曇り、次第に空は黒ずんでいく。
~~~
ハートランドシティを疾走する一機の黒いバイク。
それには通信を切ったばかりのヒカルと托都の姿があった。
「一体なにが起きてるんだ…」
「分からん。だが…」
―――なんだ、この違和感は。
バイクを駆り、偽界樹の元へ疾走り抜ける。
道に人の気配はない、不気味そのものだ。
「…!あれは…」
「人か…!」
夏だというのに黒いローブを被った集団。
それに二人の進行方向を邪魔するように佇んでいる。
一般市民でないとしても轢いてしまうことはできない。
仕方なく下りて、その集団の前に立つ。
「我が神の復活を…」
「復活を…」「復活を…」
「差し出せ!その力!!」
「差し出せ!」
「差し出せ!!」
集団はまるでなにかにとり憑かれたかのように同じ言葉を話し、そして次々とデュエルディスクを構える。
二人はその姿に多少のショックを受けたのか、若干落ち込んだか、肩をおとす。
「まだ事後処理が終わっていないんだがな…」
「本当に。しかも、遊矢が一人だっての」
ヒカルの声が震えている。恐怖ではない、これは怒りだ。
集団の期待に応えるように宝珠のように煌めくそれを手にする。
「慣らし運転がてら蹴散らすぞ」
「あぁ、速攻で片付けてやる!」
「………」「………」
「「全員纏めてかかってこいッ!」」
~~~
「……?」
「…狩也くん…?」
「雪那、」
「えっ?」
気配を察知したのか、足を止め、雪那を後ろに下げる。
その瞬間、突如として黒ローブの集団が現れ、進路と退路を塞いだ。
「狩也くん…なに、これ…」
「さぁな…なんだお前ら!」
「教祖様を倒した男…」
「教祖…?まさか、」
狩也には心当たりがあったのか、なにかに気付いてデュエルディスクを構えた。
「反逆の徒を…」「倒せ…」
「雪那、傍から離れんなよ」
「うん…!」
「やれェッ!!」
「やられるのはお前らだクズ共!全員相手してやるよ!」
~~~
白き巨木の下、町を駆け抜け遊矢がやってきた。
「はぁ…はぁ…二人とも…まだみたいだ」
息を切らしながら二人の姿を探すが見当たらない、むしろ人の気配など微塵も感じられない。
偽界樹がおかしくなったのかと幹に触れてもただ冷たいだけのモノにしか過ぎない。今さら兵器になることはないのだから。
「……風雅遊矢」
「…!誰だ!」
「………」
立っているのは黒ローブの男だ。フードから覗かせている僅かばかりの藤色の前髪以外に特定材料はなく、遊矢の仲間ではないことは明白だった。
「ついてこい」
「あっ!待て!」
男は空を飛び、遥か空の上、偽界樹の頂上へ向かっていく。
遊矢もそれを追うように周囲の風を巻き込み、ジャンプの要領でふわりと空に舞い、偽界樹の頂上へ降り立つ。
真っ白なそこは天井を失い、傾き元の面積の半分ほどにこそなってはいるが、芸術的な美しさを持っている。
「来たな」
「もしかして、お前が原因なのか?」
「…そう思うのなら、僕とデュエルだ」
「デュエル…!」
「やらなければ君の仲間から倒していく」
「仲間…!」
なんとなく、なんとなくだが遊矢には察しがついた。
二人が来ないのはきっと足止めを食らっているからだ、と。
なら今この男と戦えるのは自分だけ。
「良いぜ、受けて立つ!!」
「なら構えろ!アーマードコアディスクを!」
「おう!!アーマードコアディスク、展開!!」
宝珠のように輝くそのエメラルドの光はデュエルディスクとなり、遊矢の左腕に収まった。
アーマードコアディスク、それはヴェリタスとの戦いで破壊されたデュエルディスクに代わり、ルクシアが造り上げた新たなデュエルディスク。
「デュエルディスク、セット!」
謎の男も黒いデュエルディスクを構え、互いに臨戦態勢に入る。
「「デュエル!!」」
《LP:4000》《LP:4000》
「先攻はもらうぜ!俺は《Ss-疾風のカーツ》を召喚!カーツの効果により、デッキからSsと名のつくモンスターを手札に加える!俺は《Ss-シュート・ブレイブ》を手札に加えて特殊召喚!」
《攻撃力:1400/レベル:4》
《攻撃力:1600/レベル:4》
竜巻の中から現れた鳥の翼を持つ少年、それに呼応するように現れる騎士。
彼らは風を纏い、穿ち、放つ風の騎士「スカイソニッカー」。遊矢を支え続ける最愛のデッキだ。
「レベル4のカーツとシュート・ブレイブでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!新たな未来へ駆ける、今、聖なる希望を胸に宿して現れろ!《Ss-エア・ストリームソード》!」
《ATK:2100/Rank:4/ORU:2》
「これが、エア・ストリームソード…」
2体のモンスターは緑の光となり、亜空間へ吸い込まれ、そこから放たれた光は流星のごとく、機械の翼を持った剣士となった。
「まだ終わりじゃない!エア・ストリームソード、エアストリームエクシーズチェンジ!!」
「まさか…!!」
エア・ストリームソードは、遊矢の声に応えるように機械の翼を羽ばたかせ、蒼き光となって亜空間へ飛び立つ。
そして、輝きを増した亜空間からは金色のモニュメントが現れた。
「希望の剣、再び!我が元へ来たれ!現れろ!!《希望騎士 ホープ・オブ・ソード》!」
《ATK:2500/Rank:4/ORU:3》
モニュメントは一瞬だけ、機械の戦士を映し出し、それは次第に形を変え、卵のように破られる。
そこから現れたのは機械の戦士の意匠を持ったエア・ストリームソード。
生まれ変わった剣士は、金色に輝き、大剣を持つ。
これが遊矢の切り札、ホープ・オブ・ソードだ。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
《Hand:3》
「僕のターン、ドロー!」
「……」
「僕は《マグノリア・コア》を召喚!」
《ATK:0/Level:1》
「攻撃力0…?」
攻撃力2500のホープ・オブ・ソードを前にして、攻撃力0のモンスターだ。ある意味ホープ・オブ・ソードの効果を考えれば有効な気がしないでもないが、やはりプラマイはゼロだろう。
花のような形状のそれは心臓のように鼓動を打っている。
「《マグノリア・コア》がフィールドに存在する時、永続魔法《愚者の地図》を発動!このカードが発動している限り、互いのモンスターは必ず戦闘を行わなければならない!」
「でも!そんな攻撃力じゃ、ホープ・オブ・ソードは倒せないぜ!」
「バトル!《マグノリア・コア》、ホープ・オブ・ソードを攻撃!」
心臓から放たれるレーザーはホープ・オブ・ソードの左胸を貫通する―――が、なにも起きる気配はない。
遊矢も対策のなさに少し驚き、ホープ・オブ・ソードのいる後方へ振り返った―――瞬間。
「っ!!なんだ…!?」
《Yuya LP:1500》
「《愚者の地図》の効果、バトルするモンスターの攻撃力は入れ替わり、バトルでモンスターは破壊されない」
つまり、永続魔法の効果によって《マグノリア・コア》はホープ・オブ・ソードの攻撃力を得た、逆にホープ・オブ・ソードは《マグノリア・コア》の攻撃力を。
唐突な逆転現象によって、遊矢のライフは大幅に削られた。
「更に、《マグノリア・コア》の効果発動。バトルを行ったターンのエンドフェイズに、デッキから罠カードを1枚選択し、フィールドにセットする。……カードをセット、ターンエンドだ」
《Hand:4》
「一気に2500も削るなんて…!すげえや!」
「っ…どうして」
「…は?」
謎の男は唐突に疑問を口にする。
遊矢の、さっきの失敗を笑い飛ばしながら口許を拭う姿を見て。
「今、君にとってこれは危機的状況だと思わないのか…?」
「……」
「僕なら笑ってなんていられない」
黒ローブの下の素顔は未だ明かされていない、だが遊矢にはなんとなく分かる気がしていた。
「…お前、根は良い奴だろ」
「…えっ?」
遊矢の切り返しに驚いたのか、男は目を見開いた。
「分かる気がする。強いもんな!お前!」
「なんだい、その理屈…」
「強くて、こうして戦う奴ってみんな、実は良い奴だったりしてさ。だから、きっとお前もそうなんだろうなって」
強く、立ちはだかるデュエリスト達の面影。
出会ったばかりの頃のヒカルや托都は、己の願望を強く持っていた。人々の信仰心を無くし絶望したグレン。世界を糺そうと、子を救おうとしたイグランジアやヒカルの父親。親友のために戦った鏡。ヒカルと一緒にいたかった思念を利用された遥羽シアラ。娘を大切に想い続けたヴェリタス。
強敵達は、皆が皆、なにかを抱えて戦っていた。
遊矢にとって強敵は、きっと良い人。誰かを大切に思える者達。そう信じている。
「……僕は……っ…!!」
「なんか、ワケありならさ、話してくれよ」
「――――!!」
男の目は、いつしか涙で濡れていた。
だが、変えることはできない。男に選択権はない。
―――お前は優しすぎるんだ、クロス。
彼の言葉が、耳から離れなくて。
「――、僕は、優しくなんて――ない!!」
「…お前」
「早く、デュエルを再開しろ…!!」
「…俺のターン!」
きっと訳がある、聞き出してみせる。
遊矢の思考は勝つことから切り替わった、意味深な彼の事情を聞き、救うこと。きっと自分にしかなせないと信じて、カードを切る。
「俺は魔法カード《シャイン・ラピスの魔方陣》を発動!このカードは3つの効果から1つを選択して発動できる!」
1つ目の効果は、フィールドの光属性モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる効果。
2つ目の効果は、デッキからランダムにレベル4以下の光属性モンスターを特殊召喚する効果。
そして、3つ目は、
「俺は3つ目の効果、自分フィールドに存在する光属性モンスターがバトルする時、相手の魔法・罠の効果を無効にする効果を選択!」
「《愚者の地図》だけでなく、罠の可能性を想定して…」
「行け!ホープ・オブ・ソード、《マグノリア・コア》を攻撃!シューティングスターブレード!!」
剣から流星を放ち、それは《マグノリア・コア》を粉砕する。
だが、破壊されたはずの《マグノリア・コア》は散り散りになった破片を合わせ、何事もなかったかのようにまたフィールドに顕現した。
「どうなってんだ…!?」
「《マグノリア・コア》がバトルで破壊された時、バトルダメージは無効化され、手札から新たな《マグノリア・コア》を特殊召喚できる」
「くっ…!」
デュエルモンスターズのルール上、同じカードはデッキに3枚入れることが可能。つまり、これと同じ戦術なら、彼はあと1枚《マグノリア・コア》を残していることになる。
厄介な戦術に思わず唇を噛む。
「バトルは終わった、なら罠を発動できる!罠発動!《ステルス・アクセス》!!このターン、バトルを行った相手モンスターを、全て破壊する!」
「なにっ!?」
爆裂音と共に剣士は弾け飛び、フィールドは最初と同じような更地へと変化した。
このまま手を打たなければ状況が悪くなる、しかし、遊矢の手札に召喚して状況が変わるようなモンスターはいない。
「カードを1枚伏せ、ターンエンド…!」
《Hand:2》
~~~
「ぐあああぁぁぁ!!!」
《Unknown LP:0》
「これで全員か…!」
「…どうやら、そのようだな」
ハートランドシティの公道のど真ん中。
二人が蹴散らした黒ローブの軍団は地に伏し、まさに死屍累々、地獄絵図の様相を呈している。
「大して強くはなかったが…なんだこれ」
「本当に単なる足止めのつもりだったんだろう」
「じゃあ、やっぱり遊矢が…」
「急ぐぞ」
「…もちろん」
考察する時間はない、今は遊矢の元へ急がねばならないとバイクを急発進させ、道を抜けていく。
――――瞬間、激しい爆発が進行方向から響いた。
「今の爆発!!」
「これは、厄介な事になってきたな」
「急げ!」
「分かっている…!!」
~~~
「なにもできないまま、結果的に手札を消費しただけか」
「まだまだ!勝負はここからだ!」
「このターンで終わらせる、僕のターン!」
男の眼光は遊矢を射抜くように鋭く光る。
与えられた秘策はまだこの手の中にあるのだから。
「僕は《マグノリア・コア》をリリースし、魔法カード《堕天の契約書》を発動!レベルを1つ指定し、そのレベルのモンスターをデッキから2体以上墓地に送ることで、エクシーズ召喚できる!」
「なっ!ンなのアリかよ!?」
「レベルは1を選択!デッキから《マグノリア・グレイル》2体を墓地に送り、オーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
花の意匠を象った聖杯が黒い光となり、亜空間から降り注ぐ闇はそれを飲み込んで形となってゆく。
「禁じられた運命の方舟よ、咎人の魂内包し現れろ!《續鳴の方舟 アーク》!!」
《ATK:0/Rank:1/ORU:0》
「また、攻撃力0のモンスター…!!」
アーク、方舟。
旧約聖書「創世記」に登場するノアの方舟を示す言葉。
その言葉に相応しく、船の姿をした巨大なモンスターがフィールドに現れた。
「アークはバトルを行う時、相手の墓地からモンスター1体を選択し、オーバーレイユニットとすることができる」
「俺の墓地のモンスターを…?」
「僕はホープ・オブ・ソードを選択!これによって、オーバーレイユニットとなったホープ・オブ・ソードの攻撃力をアークに加える!」
《ATK:2500/ORU:1》
遊矢のデュエルディスクの墓地から魂が飛び出してアークへと取り込まれる。
アークは金色に光輝き、先端の砲台にエネルギーを溜め込む。
「ヤバイか…」
「これで終わりだ!アークよ、仇なす全てを焼き払え!ダムナティオブレイズ!!」
最大までチャージされたエネルギーは大地を焼くかのごとき勢いで燃え盛り、遊矢へ迫り来る。
これを受ければ遊矢の負け、まさに大ピンチといった状況。
誰かが嗤ったような気がした。
~~~
「見えた…!」
「遊矢…!」
同刻、偽界樹の下へようやくやってきた二人は、遥か空を見上げるように偽界樹の頂上を見る。
その瞬間、頂上は炎に包まれた。
「燃えた!?」
「遊矢の攻撃、ではなさそうだな…」
「頂上に行こう!」
「どうやって行くつもりだ」
「それは…」
遊矢は自身が持つ特別な力を使って空を飛び、風を起こすことができる。
だが二人にそんな芸当はできない。
集合、と言ったのは遊矢の力で頂上まで飛ぶことが前提だった。
今遊矢は頂上でデュエルをしている、なら二人が頂上へ辿り着く方法は今ここにはない。
「遊矢を信じて待つしかない」
「……そうだな」
目前にある目的を果たせない歯痒さが場の空気を変えていく。
「…遊矢……」
手に持った紅い竜翼のフリューゲルアーツをぐっと握り締め、遊矢の無事を祈るしかなかった。
~~~
「…やったか…?」
アークの攻撃で黒煙に包まれたフィールドを見渡す。
「まだだ!!」
《Yuya LP:1500》
「…!」
煙の中から現れたのはバリアによって守られた遊矢と、そのバリアを張ったモンスターであろう存在。
「《ウィンド・クリボー》…!!」
《ウィンド・クリボー》の効果は、手札のこのモンスターを墓地に送ることで受けるダメージを0にする効果。
ダイレクトアタックによるダメージを全て受け止めたのだ。
「助かったぜ、ありがとな」
ふさふさとした頭を撫でてやると「くりくり」と鳴き声を発しながら喜び、そのまま光となって消えた。
「さぁて、まだまだ続きそうだな!」
「くっ…!なら、アークの更なる効果発動!オーバーレイユニットとなったモンスターを墓地に送ることで、その攻撃力の半分のダメージを与える!」
《ORU:0》
ホープ・オブ・ソードの攻撃力は2500、半分で1250のダメージだ。
「食らえ!!」
「ッ…!うわぁぁあああっ!!」
《Yuya LP:250》
残りライフ250、僅かに首の皮1枚で繋がってはいるものの相手のフィールドの永続魔法《愚者の地図》はいまだ健在。勝つための条件が多すぎる。
「罠、発動!《エクシーズ・ナイトバック》…!墓地のホープ・オブ・ソードを特殊召喚、このカードをオーバーレイユニットにする!!」
《ATK:2500/ORU:1》
「今更…!」
「まだまだ!こっからが本番だ!罠カード《剣の共鳴(ソードレゾナンス)》発動!自分フィールドにモンスターエクシーズが特殊召喚された時、同じランクのモンスターエクシーズ1体を選択、効果を無効にして特殊召喚する!」
遊矢のエクストラデッキにあるランク4のモンスターエクシーズは4体。その中から選び出したのは闇属性、対となる剣士。
「来い!《暗黒剣士 ディスペア・オブ・ブレード》!!」
《攻撃力:2500/ランク:4/ORU:0》
「この、布陣は…!!くっ、ターンエンド…!」
二体の剣士、かつて希望と絶望として互いに戦ったモンスターたちが遊矢のフィールドには集っている。
そして、エメラルドの輝きを絶やさないフリューゲルアーツを握り、一度だけ頷き、宣言する。
「フリューゲルアーツ―――解放ッ!!」
《Arts Release Mode Nigredo》
「これが、翼の力…」
黒く鈍い輝きに包まれた遊矢の姿を見た男は、自分のフィールドに伏せられたカードを一瞥した。
「ッ―――!!俺のターン!!」
一瞬、暗闇に飲まれ、黒い獣に姿を変えたかと思われた遊矢は、デュエルディスクと左の眼を黒く染め、ターンを宣言し、
「俺は、希望の輝きでオーバークロス!!」
かつて世界を救った奇跡の力、その発現を高らかに詠う。
―――やれ。
何者かの声が男の頭に響く。今が好機だ、と。
「罠発動ッ!!」
「―――ッ!?」
《神罰の槍》。
罠カードにはただそれだけ記され、効果はない。
しかし、
「なんっ…だ…!?」
罠カードから出現した巨大な槍は突如異空間を穿つように空を貫き、フィールド全てを呑み込まんとする。
「なにしたんだ……!?」
「…この時を、待っていた」
「えっ?」
「君がアーマードを使う、その時を」
暴風によって黒いフードが脱げた男のその顔は、
「泣いてる…?」
~~~
「なんだあれは…!!」
「…一体なにが起きている…!?」
暴風は地上にいる二人にも例外なく吹いている。
全てを消し去るような風は空に開いた大穴からのもの。
遊矢の安否を気にする中で、そんなことを気にできないほどの状況に唐突に置かれた。
そして、風吹く大穴は光を発し、その場の全てを包み込む。
「っ!!」
「うわっ!」
眩しさに目が眩む、光から目を閉じた。
~~~
「君達を消す、この世界から…!」
「この、世界…!?」
穴は光を更に強く、強く、強く増していく。
「く――!うわぁぁあああっ!!」
「―――…」
偽界樹を飲み込む光。
それは、異次元を貫く力となり、消え去った。
~~~
「奇跡とは等しく虚像…ソレが一体何するものぞ」
瞼を開き、大きく目を見開けば、どことも言えぬ世界へ落ちていく彼らの姿が見えてくる。
「次元を穿ち、神を呼ぶ。邪魔する者は全て排除する…!そして、奇跡を成す者―――貴様を殺す…ッ!」
強く拳を握り、立ち上がった男。
神々の声を聞いた男は息を吸い込み虚空へ叫んだ。
「神話の装甲――――ッ風雅遊矢ァアアーッ!!」
SecondAct.1「奇跡を成す者」
===================
【あとがき】
今回の一言、「新章突入」。
C.C第一話ッ!!すでに文字数が全解放気味!!A.Vision最終回もビックリ!!
というかまたデュエル中断かよ!!いい加減にしろよ聖桜!!
この度、pixivでは先行公開となりまして、11月にはこちらを見ることができているのですがいやまぁ…9月発表で2ヶ月必死で考えてもやっぱり最後はその場のフィーリングで書いてしまいますね…もちろん流れは最終回まで出来上がっていますが。
でも、LS本編とはまた離れているためなのか本当にC.Cはある意味一番自由に書ける気がする。もうすごいもん、ヒカルが楽しそう。
じゃあ語っていきますか…。
まずは遊矢から、…遊矢から…。あの、なんかもう経験が出来上がりすぎてて敵に対して達観してるところ本当にすごいんだけど、LSに絶対悪はない、全てが正義と前々から私は言ってるので遊矢は間違っちゃない。あと唐突なシアラは笑えるからやめろ遊矢。
あの最終回エピローグのおまけからちゃんと元気になってよかったよヒカル。むしろ元気になりすぎだよヒカル。予想以上に楽しそうでね、あとTwitterで散々新しい服はすごいぞと話してこれだからある意味やべえよ。んで終盤のヒロイン度だからアミちゃんに出番はやっぱりない。
そして托都はやっぱり面白かった、余談だけど二十歳托都にあの服着せたらなんかもうなんかヤバかったのでください。ネタキャラ度は上がったけどこの後またシリアスキャラ化するので今の内に楽しんでおく。
一応C.CはLS初心者に優しい内容を目指していたんですが、すでについていけない空気を感じていて困惑せざるを得ない、すまない…。
次回!!目覚めた世界は雪の中、吹雪舞うハートランド!!
一体なにが起きたのか!?ヒカルと托都はどこへ!?遊矢がさ迷う中、一方の狩也の状況は…。
pixiv先行公開は第1話のみとなります、続きは1月6日以降、聖桜個人ブログからご覧くださいませ。
【予告】
SecondAct.2「真夏の吹雪」
~~~
強くなりたかった。
あの人が固執する前からずっとだ。
無力なこの手が、いつか強くなれたなら、俺はアイツに勝てるかな?
大切な人を本当に、守れたのかな…?
誰か、俺を、強くしてほしい。
どんな力でもいい、どんな手段でもいい。
俺は、遊矢に勝ちたい。
===
1年ぶりの宣伝コーナーやったー!!
さぁて、開幕で落ちてる気がしなくもないけど大丈夫かな俺!!ま、大丈夫だろ!!大丈夫大丈夫!
えっ、前よりポジティブ?
ハハッ…あんま考えさせんなよ…ハハッ…
~~~
【C.C第1話の少し前1】
「ねえ遊矢、ちょっと気になってたことがあるんだけど…」
「ん?なんだよ、言ってみろ!」
「ほら、フリューゲルアーツは使う時に、自分の過去とかそういうものと向き合うんでしょ?」
「あー、まぁな!いやー!鏡が出てきた時には本当に驚いたぜ!」
「じゃあ、ヒカルさんたちも、同じことが…?」
「聞いてみるか?二人に」
「えっ!?良いの!?」
「え、なんで」
「いや、そんな向き合ったりするほどの黒歴史を根掘り葉掘りだなんて…」
「くろ…なに?」
「しかも托都さんなんてきっと、聞いてるだけで恥ずかしい話に決まってるわ!」
「アミ…お前、托都を一体どう認識してるんだ…?」
END
~~~
【C.C第1話の少し前2】
「フリューゲルアーツは使う時に、自分の過去とかそういうものと向き合うんでしょ?」
「あー、まぁな!いやー!鏡が出てきた時には本当に驚いたぜ!」
「…!遊矢とアミだ」
「なにをそこまで物珍しそうな目で見ているんだ、大して変わり種ではないだろう」
「フリューゲルアーツの話してるんだよ…」
「フリューゲルアーツの…?」
「いや、そんな向き合ったりするほどの黒歴史を根掘り葉掘りだなんて…」
「くろ…なに?」
「………黒…」
「……歴史……」
「しかも托都さんなんてきっと、聞いてるだけで恥ずかしい過去がいっぱいに決まってるわ!」
「…」
「た、托都…?」
「狩也に嫌われたのみならず、昨日までの過去を、恥ずかしい、と…」
「わーっ!!大丈夫だ!大丈夫だぞ!!一回対話失敗してたけど恥ずかしくない!」
「やめろヒカル!その一言は刺さる!!」
「それに、遊矢の父さんに抱き締められたとか、じゃれ合ってたらお母さんに勘違いされたとか、恥ずかしくない!!」
「今更それを蒸し返すか貴様ぁっ!!」
「酒に飲まれたのも恥ずかしくないからな!」
「わざとやっているのか……!!」
「…怒った?」
「……もう、なにも言うまい…」
「…なにやってるのかな、アレ」
「さぁ…?」
END
※深夜0時~5時までのコメントや読者登録はマナー違反です。おやめください。
===
ねえ、知ってる?
ハートランドの、東エリアの時計塔の話。
クリスマスの10時にそこで愛を誓い合うと、幸せになれるんだって。
…なぁ、お前聞いたか?女子の話!
俺、あの子狙ってんだよ!
……えっ、あの子、そうなのか……。
…!あのさ、クリスマスの10時、
東エリアの時計塔、
そこに、来てくれないか?
お前が好きなんだ、一緒にいてほしい。
…喜んで、
狩也くん。
The next story is C.C
Vanish Lightning sky
~~~
それは今から半年前こと。
一人の少年の物語。
町に蔓延る悪意、善意を利用し、闇の復活を望んだ悪の教団。
彼らを断罪せんと立ち向かい、そして辛勝。
教団は散々となり、この世界から無くなったものと彼らの記憶の中で、そう扱われていた。
そして、現在。
「我が声を聴け!同志達よ!」
声は高らかに、
「闇の復活は果たされず、我が父はあの男への怨讐の内に没した!」
力強く、
「奇跡という下らない虚像こそは、最も卑下すべき害悪である!」
その目に憎しみと怒りを込め、
「―――時は来た…!!」
集う彼らの頂点で叫ぶ。
「我らの聖戦はこれより始まる!―――怨讐の四衆(ヴェンジェンスカルテット)よ、よいか、聴け!」
跪き、瞳に憂いを宿した青年を見ず、
「奇跡を滅し、今こそ、父の悲願を…!!」
ただ、未来を追い求める。
~~~
猛るような吹雪と極寒の世界。
青年はエメラルドグリーンのその瞳で世界を見る。
白銀に染まった、白い世界。
「こ、こは―――?」
瞼を開き、立ち上がる。
青年は驚愕した。
「――――雪…?」
話は、数時間前に遡る。
~~~
空は青く、陽は輝く。
8月の太陽はただただその灼熱を雨のごとく、降らせるのみ。
町行く人々は皆、その下を歩き、享受する。
いつの間にかに全てが受け入れている夏の煌めきを。
そんなことは露知らず、目覚まし時計はただ朝を告げるベルを鳴らし続ける。その横、薄手の毛布にくるまった青年のことなど気にも留めずにだ。
「――――う、る、―――せえーッ!!」
青年の声に呼応するかのように吹き荒れる風。
室内に似つかわしくない暴風は目覚まし時計を簡単に吹き飛ばし、それはディスプレイを割り、電気が流れ、ビリビリと危なっかしい音を鳴らしながら黒焦げになってしまった。
「…ちゃー、やっちまった」
布団の隙間から顔を出した青年はその惨状を一目見て、ズズズと布団の中へ消えてゆく。
――ポーン
室内に鳴る機械音。客人を告げるチャイムの音だ。
青年は目を大きく開き、冴えない頭を無理矢理に覚醒させ布団から飛び出した。
「飯!!」
彼の名は「風雅遊矢」。
常に真っ直ぐ、明るく快活な青年だ。まぁ、不真面目なのがタマに瑕ではあるが。
青い髪をバサバサさせ、寝癖を整えるが、どうやっても二本だけ髪が跳ねてしまう。
「チャームペイントは大事だからな」と誰に言うわけでもなく呟き、ガラス製の洒落たテーブルの上に投げ捨てられた書類を払い除けるように飛ばし、玄関先に走る。
「お待た―――あぅッ!?」
「わっ…!!」
ニコリと笑いながら扉を開け、運悪く爪先をビリビリスパークする目覚まし時計に引っかけ、そのまま目の前の客人と正面衝突を果たす。
「あいてて…ご、ごめん、前見てなかったっつーか…」
頭を掻き、ようやく客人の顔を見た途端、遊矢は笑顔がひきつった。
なにか液体を手にしていたのか、服はびしょびしょ、その上顔にも被害被っている。
それを目にしている隣の人物は手で目を覆い、逸らすほどだ。
「…遊矢ぁ……!」
「あ、あちゃー…ごめん、ヒカル」
手を合わせ、前屈みになりながら謝罪の姿勢をとる。
「良いこと教えてやる…」
「えっ?」
もしや!と顔を上げ、ぱぁっと明るくなった未来………が、
「ごめんで済んだら、セキュリティはいらねえってことを―――!!」
「いってえ!!ギブ!ギブ!!」
遊矢の右腕を掴み上げ、ついでに頭を押さえ地面に縫い付け完全に腕を取る。
あらぬ方向へ曲げられ、ぎちぎちと危ない音をたてる右腕。
半泣きになりながら片方の手をパタパタさせる遊矢は最早滑稽だ。
余談だが、遊矢は警察機関に当たるセキュリティの特別協力者で、セキュリティからの協力申請1つでデュエルを用いた犯罪を行う犯罪者たちを追い掛けましている。
そんな遊矢がこのザマなのだからヒカルが言うのも理解できなくはない。
「…じゃれるなら中でやれ」
青空を眺めながら、ポツリと呟いた。
~~~
ハートランドシティの一等地、各地に点在する集合住宅の中でも最も規模が大きいと思われる一つ。
そこの最上階にある遊矢の部屋の隣の部屋。
「全く…なんてことしてくれてるんだお前は」
「だから、謝ったじゃん…許してくれよー」
あからさまに遊矢から近すぎず遠すぎない距離感かつ二人から見えない場所で紅と黒の服に着替える青年の名前は「朽祈ヒカル」。
遊矢の親友であり、ライバル。喜怒哀楽で言えば怒哀が強めの性格だが、誰より遊矢を大切にしている。
そのヒカルが遊矢に対してここまで当たりの強い態度を取るのは珍しい。つまり、先程の事件はかなり問題のある事態だったのだ。
「あの服お気に入りなんだけど」
「……」
「臭いそうだからしばらく着れそうにないな」
「……」
「はぁ…出来る限りのクールビズ…」
「だからごめんってばー!許してくれよー!!」
先程の液体。
実はアイスクリームであり、外で待たされ溶けた上に遊矢の衝突で運悪くヒカルにぶちまけてしまった、ということだ。
アイスクリームが付いた服を着たくないという本人のご意向から着替えているのだが、この服自体はヒカルのものではない。
「はぁ…替えが見つかったし、いいんだけどな」
「いいのかよ!?チクショー!謝り損だーッ!!」
「悪いな。――でも…お前が…お前がなぁ……」
「……何が言いたい」
先程から半分空気に溶け込んでいた黒い服の青年、この部屋の家主。
「堰櫂托都」。二人より少し大人で、性格も落ち着きがあり、行動も冷静。なにより、遊矢の義兄なのだ。
一つ言うなら彼は遊矢に負けず劣らず、否、圧倒的に学問に興味がない、つまりバカだ。
先述の話になるが、ここは托都の自宅。
では何故身内ではないヒカルがここまで無遠慮なのか。
少し前にあったとある理由からたまたま家に泊まらせていて、たまたま気に入られて完全に移住されてしまった、といえば伝わるだろうか。伝わらないだろう。
ヒカルがお腹を抱えて笑うほどの要素が普通なら今の会話で分かるわけはない。
だが、彼をよく知る二人ならなんとなく、なんとなくというより大いに笑いの種にできそうなネタだ。
「まさか、お前がこんな服持ってたなんて、信じられねえ」
「なんだ、悪いのか」
「悪くないけどな…ただ…」
ようやく立ち直った遊矢が二人を比較するように何度も交互に見る。
ヒカルは最大の特徴とも言える腰より長く伸びた髪のせいなのか、黙っていれば女性的だ。性格はお察しではあるのだが。
一方、遊矢の印象、托都と言えば「黒」。とにかく黒い、さすがに腹の中は黒くないが托都がイコール闇のように黒いイメージなのは恐らくヒカルもだろう。
そんな托都が、まさか、まさかだ。
「うわぁ…」
「お前、昔は可愛かったんだな」
「ちょっと見てみたいな、ホントちょっとだけ」
「か、勘違いするな!あくまで連れが勝手にだな、俺はむしろ―――!」
「連れ?」
「!」
二人の口撃に耐えられず発した言葉。失言、と言ったところか。黙り込んでしまった。
「…昔の家主だ、此処の」
「…なるほど」
「さすがの托都も一人でいたわけじゃないもんな!で、その人は?」
「遊矢バカお前…」
「夭折」
「あっ…」
今度は遊矢が失言だった。
本当に小声で、聞こえるけど聞こえない程度の小さな声で短く言った言葉はあまりに重たい。
「ご、ごめん…」
「気にするな。もう、吹っ切れている」
「……そっか」
いつの間にかに空気がどんよりしてしまった。
というより、托都が会話に参加すると大体話が突然重たくなるのはお約束に近い。
よく知っている二人ですら托都の過去については詳しく知らない。謎がまだまだ多い人物だ。
「しかし、こういう趣味の連れがいたってことは、案外影響受けてんのかお前」
「……」
「部屋が汚いところとか」
数週前、ここへ来た時のことを思い出す。
衣服類こそなかったが、ゴミの散らばり具合が異常だった。
托都はいわゆる汚部屋の住民に該当する。
「…あぁ、だがな、メルヘン頭だという部分はお前にそっくりな奴だった」
「…メルヘン?」
「……二人とも、ちょっと」
互いの最大の難点を挙げ合う姿に遊矢は戸惑いを隠しきれなくなってきた。
汚部屋の主VSメルヘン脳だ、ロクな人間じゃない。
「そうか、やっぱり少しだけ分かり合えないと思ってたが…」
「その点に関しては同意しよう」
「覚悟はいいな、ライオン頭!」
「あぁ無論だ」
「……はぁ…」
さすがに見かねた遊矢は懐から通信端末を取り出し、電話帳を開き、通話を押す。
「あ、カイトさんですか?あの、ヒカルが…」
「っ!?遊矢ぁ!!ストップ!ストップ!」
「次、托都もな。あっち」
「なっ!貴様、一体どこで…!?」
カイト、と名を出しただけでこのあわてふためく姿を見せるのだからヒカルの弱点はもうすぐに分かるだろう、托都も同義だ。
別に互いに仲が悪いわけではない。今のも仲が良いから言い過ぎるわけであって、険悪ではない、むしろじゃれあいに近い。
こうして平和な一日の内、朝が終わるのだ。
世界を崩壊させ、数多の命が潰えた、未完の聖杯を巡る錬金術師「ヴェリタス」との戦いから数週。
後の世に「世界樹病」として災厄の名を遺す一連の事件は、いまだ世界に爪痕を残し、世界の再構築だけでは戻らなかったそれを復興することが急がれている。
そして、その戦いにおいて、ヴェリタスを救い、世界を救った「世界から忘れられた英雄」。
それがここにいる三人。
この未来都市、ハートランドシティの郊外には、哀しき時間の旅の果てに父が遺した巨木「偽界樹」が、今日も白く輝きを放つ。
~~~
黒いヘアバンドの青年。右に流した金髪と揺れる。
Xの柄の入った服はどこか特徴的で、紅い色も相まって前衛的な気がする。
公園の時計の下、端末を覗きながら暇そうにする彼を見つけ、長い髪がサラサラと流れる。
「狩也くん!」
「…!雪那、」
「ごめんね!待った?」
「いや、別に」
「また嘘吐いてるでしょ」
「あはは…男らしくさせろよ、な」
待ち合わせお決まりの定型文を口にし合う二人。
青年は「岸岬狩也」。そして隣の少女は「刹那川雪那」。見るからに分かるが、二人はいわゆる恋仲である。
二人は、遊矢の幼馴染であり、小さい頃から一緒にいた友達…だったのだが、半年前からそういった関係になり、現在ではすっかり出来上がっている。
「んじゃ、行くか」
「今日どこ行くつもり?」
「…散歩?」
「悪くないね!」
「じゃあ決まりだな」
二人のペースで、二人は今日も歩いている。
~~~
「―――見つけたぞ。行けッ!怨讐の四衆が一人、クロス!!」
「…我が教祖に、栄光を」
~~~
「はーぁ!」
遊矢は大きな溜め息を吐いた。
いや、それもこれも遊矢のせいなのだが。
事の発端はあの後すぐのことだ。
すっかり忘れていたアイスクリームのことをヒカルが思い出し、遊矢におつかいを命じた、だけだ。
遊矢がぶちまけたのが悪いため、遊矢も反省の意を示すためにこうしておつかいクエストを達成しようと帰り道を歩いている。
「はぁ…ま、俺が悪いんだけどさ」
「ホント、おバカだよね遊矢ったら」
「しゃーねえじゃん、朝飯だと思ったんだし」
「11時過ぎに…?」
遊矢の隣を歩く少女は「孤鈴アミ」。遊矢の幼馴染で、よく遊矢の家に来て料理を作っていく。面倒見がよく、真面目な女の子だ。
一人で行くのがめんどうで、アミを誘ったところすごく動揺されたのだが、結局ついてきたという形だ。
「どう?ヒカルさんたち」
「どうもこうも、さっきおっ始めようとしてたぜ」
「元気ね…」
半分飽きれ顔で苦い言葉を口にする。
「でもさ、良かった」
「えっ?」
「ヒカルさ、元気になってくれたんだよ」
「…そっか」
世界を崩壊させた世界樹病、その発端の一つでもあるヒカルの話。
ヴェリタスは世界の神となるために、「未完の聖杯」と呼ばれる願望器を必要としていた。
それを持つ特異な存在であるヒカルを狙い、そして手に入れた。
まずは人間の世界に進攻するための扉を開けさせ、その後仲間同士で戦わせた。
が、托都の説得でヒカルは正気に戻り、無事に戻ってきた。
だがヒカルは戻ってから色んなことに苦しんでいた。その内最近まで引きずっていたのがこの災厄のことだ。
自身が災厄を起こし、人間を死なせたと苦しむ姿を遊矢たちが変えていった。
こうした長い話があって、今の三人がいる。
最初は敵同士、バラバラで、辛いことをいっぱい経験して、ようやくこうして絆を深めたのだ。
「楽しいんだ、今がさ」
「そっか」
「…俺!もっと頑張らないとな!」
「…そっか」
「まずは編入試験から――!」
「私、遊矢のこと応援してるから!」
「…アミ」
遊矢の正面に立ち、アミは微笑みながら続ける。
「たとえ、遊矢がどんなに苦しい時でも、私だけは絶対に遊矢の味方だから」
「…ありがとな!アミ!」
二人だけの話、二人だけで誓った言葉。
それは仲間との絆を大切にする遊矢にとって、支えになる言葉だ。
「さて、ヒカルさんたち待ってるし行きましょ!」
「あぁ!!」
日照る太陽の下、誰もいない河川敷を歩く。
どこか、違和感を感じた。
「……なんだこれ」
「…遊矢、どうしたの?」
瞬間、鼓動は激しく高鳴り、なにかを告げようとしているのか、首から提げたペンダントが強い輝きを放つ。
「な、なにこれ!!」
「フリューゲルアーツが…!?」
フリューゲルアーツ、翼の力。
ヴェリタスとの戦いの最中、ヴェリタスを止めんとする娘・ルクシアの魂を持ったホムンクルスによって錬成された決戦用技法を内包したペンダント。
エメラルドグリーンのそれは凄まじい輝きを放ち、ある一点を正確に真っ直ぐと指し示す。
そこはかつて災厄の始まりとして、この世界の罪と罰を全て体現した場所。
「偽界樹……」
「どうして突然偽界樹が…?」
「……!」
通信端末が大きな着信音を鳴らす、相手はヒカルだ。
「ヒカル!これって!」
《もしかしなくてもなにか起きてる!フリューゲルアーツが…!》
「分かってる!」
《偽界樹の下、そこで集合だ》
「よっし!!」
通信を切り、アミにアイスクリームの入った袋を渡す。
「アミ、カードキー持ってるよな」
「うん!」
「俺の家にいてくれ、ちょっと行ってくる」
「わ、わかった!」
遊矢は頷いてそのまま走り出す、その背中を見ながら、アミは言う。
「…待ってるから…」
いつしか空は曇り、次第に空は黒ずんでいく。
~~~
ハートランドシティを疾走する一機の黒いバイク。
それには通信を切ったばかりのヒカルと托都の姿があった。
「一体なにが起きてるんだ…」
「分からん。だが…」
―――なんだ、この違和感は。
バイクを駆り、偽界樹の元へ疾走り抜ける。
道に人の気配はない、不気味そのものだ。
「…!あれは…」
「人か…!」
夏だというのに黒いローブを被った集団。
それに二人の進行方向を邪魔するように佇んでいる。
一般市民でないとしても轢いてしまうことはできない。
仕方なく下りて、その集団の前に立つ。
「我が神の復活を…」
「復活を…」「復活を…」
「差し出せ!その力!!」
「差し出せ!」
「差し出せ!!」
集団はまるでなにかにとり憑かれたかのように同じ言葉を話し、そして次々とデュエルディスクを構える。
二人はその姿に多少のショックを受けたのか、若干落ち込んだか、肩をおとす。
「まだ事後処理が終わっていないんだがな…」
「本当に。しかも、遊矢が一人だっての」
ヒカルの声が震えている。恐怖ではない、これは怒りだ。
集団の期待に応えるように宝珠のように煌めくそれを手にする。
「慣らし運転がてら蹴散らすぞ」
「あぁ、速攻で片付けてやる!」
「………」「………」
「「全員纏めてかかってこいッ!」」
~~~
「……?」
「…狩也くん…?」
「雪那、」
「えっ?」
気配を察知したのか、足を止め、雪那を後ろに下げる。
その瞬間、突如として黒ローブの集団が現れ、進路と退路を塞いだ。
「狩也くん…なに、これ…」
「さぁな…なんだお前ら!」
「教祖様を倒した男…」
「教祖…?まさか、」
狩也には心当たりがあったのか、なにかに気付いてデュエルディスクを構えた。
「反逆の徒を…」「倒せ…」
「雪那、傍から離れんなよ」
「うん…!」
「やれェッ!!」
「やられるのはお前らだクズ共!全員相手してやるよ!」
~~~
白き巨木の下、町を駆け抜け遊矢がやってきた。
「はぁ…はぁ…二人とも…まだみたいだ」
息を切らしながら二人の姿を探すが見当たらない、むしろ人の気配など微塵も感じられない。
偽界樹がおかしくなったのかと幹に触れてもただ冷たいだけのモノにしか過ぎない。今さら兵器になることはないのだから。
「……風雅遊矢」
「…!誰だ!」
「………」
立っているのは黒ローブの男だ。フードから覗かせている僅かばかりの藤色の前髪以外に特定材料はなく、遊矢の仲間ではないことは明白だった。
「ついてこい」
「あっ!待て!」
男は空を飛び、遥か空の上、偽界樹の頂上へ向かっていく。
遊矢もそれを追うように周囲の風を巻き込み、ジャンプの要領でふわりと空に舞い、偽界樹の頂上へ降り立つ。
真っ白なそこは天井を失い、傾き元の面積の半分ほどにこそなってはいるが、芸術的な美しさを持っている。
「来たな」
「もしかして、お前が原因なのか?」
「…そう思うのなら、僕とデュエルだ」
「デュエル…!」
「やらなければ君の仲間から倒していく」
「仲間…!」
なんとなく、なんとなくだが遊矢には察しがついた。
二人が来ないのはきっと足止めを食らっているからだ、と。
なら今この男と戦えるのは自分だけ。
「良いぜ、受けて立つ!!」
「なら構えろ!アーマードコアディスクを!」
「おう!!アーマードコアディスク、展開!!」
宝珠のように輝くそのエメラルドの光はデュエルディスクとなり、遊矢の左腕に収まった。
アーマードコアディスク、それはヴェリタスとの戦いで破壊されたデュエルディスクに代わり、ルクシアが造り上げた新たなデュエルディスク。
「デュエルディスク、セット!」
謎の男も黒いデュエルディスクを構え、互いに臨戦態勢に入る。
「「デュエル!!」」
《LP:4000》《LP:4000》
「先攻はもらうぜ!俺は《Ss-疾風のカーツ》を召喚!カーツの効果により、デッキからSsと名のつくモンスターを手札に加える!俺は《Ss-シュート・ブレイブ》を手札に加えて特殊召喚!」
《攻撃力:1400/レベル:4》
《攻撃力:1600/レベル:4》
竜巻の中から現れた鳥の翼を持つ少年、それに呼応するように現れる騎士。
彼らは風を纏い、穿ち、放つ風の騎士「スカイソニッカー」。遊矢を支え続ける最愛のデッキだ。
「レベル4のカーツとシュート・ブレイブでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!新たな未来へ駆ける、今、聖なる希望を胸に宿して現れろ!《Ss-エア・ストリームソード》!」
《ATK:2100/Rank:4/ORU:2》
「これが、エア・ストリームソード…」
2体のモンスターは緑の光となり、亜空間へ吸い込まれ、そこから放たれた光は流星のごとく、機械の翼を持った剣士となった。
「まだ終わりじゃない!エア・ストリームソード、エアストリームエクシーズチェンジ!!」
「まさか…!!」
エア・ストリームソードは、遊矢の声に応えるように機械の翼を羽ばたかせ、蒼き光となって亜空間へ飛び立つ。
そして、輝きを増した亜空間からは金色のモニュメントが現れた。
「希望の剣、再び!我が元へ来たれ!現れろ!!《希望騎士 ホープ・オブ・ソード》!」
《ATK:2500/Rank:4/ORU:3》
モニュメントは一瞬だけ、機械の戦士を映し出し、それは次第に形を変え、卵のように破られる。
そこから現れたのは機械の戦士の意匠を持ったエア・ストリームソード。
生まれ変わった剣士は、金色に輝き、大剣を持つ。
これが遊矢の切り札、ホープ・オブ・ソードだ。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
《Hand:3》
「僕のターン、ドロー!」
「……」
「僕は《マグノリア・コア》を召喚!」
《ATK:0/Level:1》
「攻撃力0…?」
攻撃力2500のホープ・オブ・ソードを前にして、攻撃力0のモンスターだ。ある意味ホープ・オブ・ソードの効果を考えれば有効な気がしないでもないが、やはりプラマイはゼロだろう。
花のような形状のそれは心臓のように鼓動を打っている。
「《マグノリア・コア》がフィールドに存在する時、永続魔法《愚者の地図》を発動!このカードが発動している限り、互いのモンスターは必ず戦闘を行わなければならない!」
「でも!そんな攻撃力じゃ、ホープ・オブ・ソードは倒せないぜ!」
「バトル!《マグノリア・コア》、ホープ・オブ・ソードを攻撃!」
心臓から放たれるレーザーはホープ・オブ・ソードの左胸を貫通する―――が、なにも起きる気配はない。
遊矢も対策のなさに少し驚き、ホープ・オブ・ソードのいる後方へ振り返った―――瞬間。
「っ!!なんだ…!?」
《Yuya LP:1500》
「《愚者の地図》の効果、バトルするモンスターの攻撃力は入れ替わり、バトルでモンスターは破壊されない」
つまり、永続魔法の効果によって《マグノリア・コア》はホープ・オブ・ソードの攻撃力を得た、逆にホープ・オブ・ソードは《マグノリア・コア》の攻撃力を。
唐突な逆転現象によって、遊矢のライフは大幅に削られた。
「更に、《マグノリア・コア》の効果発動。バトルを行ったターンのエンドフェイズに、デッキから罠カードを1枚選択し、フィールドにセットする。……カードをセット、ターンエンドだ」
《Hand:4》
「一気に2500も削るなんて…!すげえや!」
「っ…どうして」
「…は?」
謎の男は唐突に疑問を口にする。
遊矢の、さっきの失敗を笑い飛ばしながら口許を拭う姿を見て。
「今、君にとってこれは危機的状況だと思わないのか…?」
「……」
「僕なら笑ってなんていられない」
黒ローブの下の素顔は未だ明かされていない、だが遊矢にはなんとなく分かる気がしていた。
「…お前、根は良い奴だろ」
「…えっ?」
遊矢の切り返しに驚いたのか、男は目を見開いた。
「分かる気がする。強いもんな!お前!」
「なんだい、その理屈…」
「強くて、こうして戦う奴ってみんな、実は良い奴だったりしてさ。だから、きっとお前もそうなんだろうなって」
強く、立ちはだかるデュエリスト達の面影。
出会ったばかりの頃のヒカルや托都は、己の願望を強く持っていた。人々の信仰心を無くし絶望したグレン。世界を糺そうと、子を救おうとしたイグランジアやヒカルの父親。親友のために戦った鏡。ヒカルと一緒にいたかった思念を利用された遥羽シアラ。娘を大切に想い続けたヴェリタス。
強敵達は、皆が皆、なにかを抱えて戦っていた。
遊矢にとって強敵は、きっと良い人。誰かを大切に思える者達。そう信じている。
「……僕は……っ…!!」
「なんか、ワケありならさ、話してくれよ」
「――――!!」
男の目は、いつしか涙で濡れていた。
だが、変えることはできない。男に選択権はない。
―――お前は優しすぎるんだ、クロス。
彼の言葉が、耳から離れなくて。
「――、僕は、優しくなんて――ない!!」
「…お前」
「早く、デュエルを再開しろ…!!」
「…俺のターン!」
きっと訳がある、聞き出してみせる。
遊矢の思考は勝つことから切り替わった、意味深な彼の事情を聞き、救うこと。きっと自分にしかなせないと信じて、カードを切る。
「俺は魔法カード《シャイン・ラピスの魔方陣》を発動!このカードは3つの効果から1つを選択して発動できる!」
1つ目の効果は、フィールドの光属性モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる効果。
2つ目の効果は、デッキからランダムにレベル4以下の光属性モンスターを特殊召喚する効果。
そして、3つ目は、
「俺は3つ目の効果、自分フィールドに存在する光属性モンスターがバトルする時、相手の魔法・罠の効果を無効にする効果を選択!」
「《愚者の地図》だけでなく、罠の可能性を想定して…」
「行け!ホープ・オブ・ソード、《マグノリア・コア》を攻撃!シューティングスターブレード!!」
剣から流星を放ち、それは《マグノリア・コア》を粉砕する。
だが、破壊されたはずの《マグノリア・コア》は散り散りになった破片を合わせ、何事もなかったかのようにまたフィールドに顕現した。
「どうなってんだ…!?」
「《マグノリア・コア》がバトルで破壊された時、バトルダメージは無効化され、手札から新たな《マグノリア・コア》を特殊召喚できる」
「くっ…!」
デュエルモンスターズのルール上、同じカードはデッキに3枚入れることが可能。つまり、これと同じ戦術なら、彼はあと1枚《マグノリア・コア》を残していることになる。
厄介な戦術に思わず唇を噛む。
「バトルは終わった、なら罠を発動できる!罠発動!《ステルス・アクセス》!!このターン、バトルを行った相手モンスターを、全て破壊する!」
「なにっ!?」
爆裂音と共に剣士は弾け飛び、フィールドは最初と同じような更地へと変化した。
このまま手を打たなければ状況が悪くなる、しかし、遊矢の手札に召喚して状況が変わるようなモンスターはいない。
「カードを1枚伏せ、ターンエンド…!」
《Hand:2》
~~~
「ぐあああぁぁぁ!!!」
《Unknown LP:0》
「これで全員か…!」
「…どうやら、そのようだな」
ハートランドシティの公道のど真ん中。
二人が蹴散らした黒ローブの軍団は地に伏し、まさに死屍累々、地獄絵図の様相を呈している。
「大して強くはなかったが…なんだこれ」
「本当に単なる足止めのつもりだったんだろう」
「じゃあ、やっぱり遊矢が…」
「急ぐぞ」
「…もちろん」
考察する時間はない、今は遊矢の元へ急がねばならないとバイクを急発進させ、道を抜けていく。
――――瞬間、激しい爆発が進行方向から響いた。
「今の爆発!!」
「これは、厄介な事になってきたな」
「急げ!」
「分かっている…!!」
~~~
「なにもできないまま、結果的に手札を消費しただけか」
「まだまだ!勝負はここからだ!」
「このターンで終わらせる、僕のターン!」
男の眼光は遊矢を射抜くように鋭く光る。
与えられた秘策はまだこの手の中にあるのだから。
「僕は《マグノリア・コア》をリリースし、魔法カード《堕天の契約書》を発動!レベルを1つ指定し、そのレベルのモンスターをデッキから2体以上墓地に送ることで、エクシーズ召喚できる!」
「なっ!ンなのアリかよ!?」
「レベルは1を選択!デッキから《マグノリア・グレイル》2体を墓地に送り、オーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
花の意匠を象った聖杯が黒い光となり、亜空間から降り注ぐ闇はそれを飲み込んで形となってゆく。
「禁じられた運命の方舟よ、咎人の魂内包し現れろ!《續鳴の方舟 アーク》!!」
《ATK:0/Rank:1/ORU:0》
「また、攻撃力0のモンスター…!!」
アーク、方舟。
旧約聖書「創世記」に登場するノアの方舟を示す言葉。
その言葉に相応しく、船の姿をした巨大なモンスターがフィールドに現れた。
「アークはバトルを行う時、相手の墓地からモンスター1体を選択し、オーバーレイユニットとすることができる」
「俺の墓地のモンスターを…?」
「僕はホープ・オブ・ソードを選択!これによって、オーバーレイユニットとなったホープ・オブ・ソードの攻撃力をアークに加える!」
《ATK:2500/ORU:1》
遊矢のデュエルディスクの墓地から魂が飛び出してアークへと取り込まれる。
アークは金色に光輝き、先端の砲台にエネルギーを溜め込む。
「ヤバイか…」
「これで終わりだ!アークよ、仇なす全てを焼き払え!ダムナティオブレイズ!!」
最大までチャージされたエネルギーは大地を焼くかのごとき勢いで燃え盛り、遊矢へ迫り来る。
これを受ければ遊矢の負け、まさに大ピンチといった状況。
誰かが嗤ったような気がした。
~~~
「見えた…!」
「遊矢…!」
同刻、偽界樹の下へようやくやってきた二人は、遥か空を見上げるように偽界樹の頂上を見る。
その瞬間、頂上は炎に包まれた。
「燃えた!?」
「遊矢の攻撃、ではなさそうだな…」
「頂上に行こう!」
「どうやって行くつもりだ」
「それは…」
遊矢は自身が持つ特別な力を使って空を飛び、風を起こすことができる。
だが二人にそんな芸当はできない。
集合、と言ったのは遊矢の力で頂上まで飛ぶことが前提だった。
今遊矢は頂上でデュエルをしている、なら二人が頂上へ辿り着く方法は今ここにはない。
「遊矢を信じて待つしかない」
「……そうだな」
目前にある目的を果たせない歯痒さが場の空気を変えていく。
「…遊矢……」
手に持った紅い竜翼のフリューゲルアーツをぐっと握り締め、遊矢の無事を祈るしかなかった。
~~~
「…やったか…?」
アークの攻撃で黒煙に包まれたフィールドを見渡す。
「まだだ!!」
《Yuya LP:1500》
「…!」
煙の中から現れたのはバリアによって守られた遊矢と、そのバリアを張ったモンスターであろう存在。
「《ウィンド・クリボー》…!!」
《ウィンド・クリボー》の効果は、手札のこのモンスターを墓地に送ることで受けるダメージを0にする効果。
ダイレクトアタックによるダメージを全て受け止めたのだ。
「助かったぜ、ありがとな」
ふさふさとした頭を撫でてやると「くりくり」と鳴き声を発しながら喜び、そのまま光となって消えた。
「さぁて、まだまだ続きそうだな!」
「くっ…!なら、アークの更なる効果発動!オーバーレイユニットとなったモンスターを墓地に送ることで、その攻撃力の半分のダメージを与える!」
《ORU:0》
ホープ・オブ・ソードの攻撃力は2500、半分で1250のダメージだ。
「食らえ!!」
「ッ…!うわぁぁあああっ!!」
《Yuya LP:250》
残りライフ250、僅かに首の皮1枚で繋がってはいるものの相手のフィールドの永続魔法《愚者の地図》はいまだ健在。勝つための条件が多すぎる。
「罠、発動!《エクシーズ・ナイトバック》…!墓地のホープ・オブ・ソードを特殊召喚、このカードをオーバーレイユニットにする!!」
《ATK:2500/ORU:1》
「今更…!」
「まだまだ!こっからが本番だ!罠カード《剣の共鳴(ソードレゾナンス)》発動!自分フィールドにモンスターエクシーズが特殊召喚された時、同じランクのモンスターエクシーズ1体を選択、効果を無効にして特殊召喚する!」
遊矢のエクストラデッキにあるランク4のモンスターエクシーズは4体。その中から選び出したのは闇属性、対となる剣士。
「来い!《暗黒剣士 ディスペア・オブ・ブレード》!!」
《攻撃力:2500/ランク:4/ORU:0》
「この、布陣は…!!くっ、ターンエンド…!」
二体の剣士、かつて希望と絶望として互いに戦ったモンスターたちが遊矢のフィールドには集っている。
そして、エメラルドの輝きを絶やさないフリューゲルアーツを握り、一度だけ頷き、宣言する。
「フリューゲルアーツ―――解放ッ!!」
《Arts Release Mode Nigredo》
「これが、翼の力…」
黒く鈍い輝きに包まれた遊矢の姿を見た男は、自分のフィールドに伏せられたカードを一瞥した。
「ッ―――!!俺のターン!!」
一瞬、暗闇に飲まれ、黒い獣に姿を変えたかと思われた遊矢は、デュエルディスクと左の眼を黒く染め、ターンを宣言し、
「俺は、希望の輝きでオーバークロス!!」
かつて世界を救った奇跡の力、その発現を高らかに詠う。
―――やれ。
何者かの声が男の頭に響く。今が好機だ、と。
「罠発動ッ!!」
「―――ッ!?」
《神罰の槍》。
罠カードにはただそれだけ記され、効果はない。
しかし、
「なんっ…だ…!?」
罠カードから出現した巨大な槍は突如異空間を穿つように空を貫き、フィールド全てを呑み込まんとする。
「なにしたんだ……!?」
「…この時を、待っていた」
「えっ?」
「君がアーマードを使う、その時を」
暴風によって黒いフードが脱げた男のその顔は、
「泣いてる…?」
~~~
「なんだあれは…!!」
「…一体なにが起きている…!?」
暴風は地上にいる二人にも例外なく吹いている。
全てを消し去るような風は空に開いた大穴からのもの。
遊矢の安否を気にする中で、そんなことを気にできないほどの状況に唐突に置かれた。
そして、風吹く大穴は光を発し、その場の全てを包み込む。
「っ!!」
「うわっ!」
眩しさに目が眩む、光から目を閉じた。
~~~
「君達を消す、この世界から…!」
「この、世界…!?」
穴は光を更に強く、強く、強く増していく。
「く――!うわぁぁあああっ!!」
「―――…」
偽界樹を飲み込む光。
それは、異次元を貫く力となり、消え去った。
~~~
「奇跡とは等しく虚像…ソレが一体何するものぞ」
瞼を開き、大きく目を見開けば、どことも言えぬ世界へ落ちていく彼らの姿が見えてくる。
「次元を穿ち、神を呼ぶ。邪魔する者は全て排除する…!そして、奇跡を成す者―――貴様を殺す…ッ!」
強く拳を握り、立ち上がった男。
神々の声を聞いた男は息を吸い込み虚空へ叫んだ。
「神話の装甲――――ッ風雅遊矢ァアアーッ!!」
SecondAct.1「奇跡を成す者」
===================
【あとがき】
今回の一言、「新章突入」。
C.C第一話ッ!!すでに文字数が全解放気味!!A.Vision最終回もビックリ!!
というかまたデュエル中断かよ!!いい加減にしろよ聖桜!!
この度、pixivでは先行公開となりまして、11月にはこちらを見ることができているのですがいやまぁ…9月発表で2ヶ月必死で考えてもやっぱり最後はその場のフィーリングで書いてしまいますね…もちろん流れは最終回まで出来上がっていますが。
でも、LS本編とはまた離れているためなのか本当にC.Cはある意味一番自由に書ける気がする。もうすごいもん、ヒカルが楽しそう。
じゃあ語っていきますか…。
まずは遊矢から、…遊矢から…。あの、なんかもう経験が出来上がりすぎてて敵に対して達観してるところ本当にすごいんだけど、LSに絶対悪はない、全てが正義と前々から私は言ってるので遊矢は間違っちゃない。あと唐突なシアラは笑えるからやめろ遊矢。
あの最終回エピローグのおまけからちゃんと元気になってよかったよヒカル。むしろ元気になりすぎだよヒカル。予想以上に楽しそうでね、あとTwitterで散々新しい服はすごいぞと話してこれだからある意味やべえよ。んで終盤のヒロイン度だからアミちゃんに出番はやっぱりない。
そして托都はやっぱり面白かった、余談だけど二十歳托都にあの服着せたらなんかもうなんかヤバかったのでください。ネタキャラ度は上がったけどこの後またシリアスキャラ化するので今の内に楽しんでおく。
一応C.CはLS初心者に優しい内容を目指していたんですが、すでについていけない空気を感じていて困惑せざるを得ない、すまない…。
次回!!目覚めた世界は雪の中、吹雪舞うハートランド!!
一体なにが起きたのか!?ヒカルと托都はどこへ!?遊矢がさ迷う中、一方の狩也の状況は…。
pixiv先行公開は第1話のみとなります、続きは1月6日以降、聖桜個人ブログからご覧くださいませ。
【予告】
SecondAct.2「真夏の吹雪」
~~~
強くなりたかった。
あの人が固執する前からずっとだ。
無力なこの手が、いつか強くなれたなら、俺はアイツに勝てるかな?
大切な人を本当に、守れたのかな…?
誰か、俺を、強くしてほしい。
どんな力でもいい、どんな手段でもいい。
俺は、遊矢に勝ちたい。
===
1年ぶりの宣伝コーナーやったー!!
さぁて、開幕で落ちてる気がしなくもないけど大丈夫かな俺!!ま、大丈夫だろ!!大丈夫大丈夫!
えっ、前よりポジティブ?
ハハッ…あんま考えさせんなよ…ハハッ…
~~~
【C.C第1話の少し前1】
「ねえ遊矢、ちょっと気になってたことがあるんだけど…」
「ん?なんだよ、言ってみろ!」
「ほら、フリューゲルアーツは使う時に、自分の過去とかそういうものと向き合うんでしょ?」
「あー、まぁな!いやー!鏡が出てきた時には本当に驚いたぜ!」
「じゃあ、ヒカルさんたちも、同じことが…?」
「聞いてみるか?二人に」
「えっ!?良いの!?」
「え、なんで」
「いや、そんな向き合ったりするほどの黒歴史を根掘り葉掘りだなんて…」
「くろ…なに?」
「しかも托都さんなんてきっと、聞いてるだけで恥ずかしい話に決まってるわ!」
「アミ…お前、托都を一体どう認識してるんだ…?」
END
~~~
【C.C第1話の少し前2】
「フリューゲルアーツは使う時に、自分の過去とかそういうものと向き合うんでしょ?」
「あー、まぁな!いやー!鏡が出てきた時には本当に驚いたぜ!」
「…!遊矢とアミだ」
「なにをそこまで物珍しそうな目で見ているんだ、大して変わり種ではないだろう」
「フリューゲルアーツの話してるんだよ…」
「フリューゲルアーツの…?」
「いや、そんな向き合ったりするほどの黒歴史を根掘り葉掘りだなんて…」
「くろ…なに?」
「………黒…」
「……歴史……」
「しかも托都さんなんてきっと、聞いてるだけで恥ずかしい過去がいっぱいに決まってるわ!」
「…」
「た、托都…?」
「狩也に嫌われたのみならず、昨日までの過去を、恥ずかしい、と…」
「わーっ!!大丈夫だ!大丈夫だぞ!!一回対話失敗してたけど恥ずかしくない!」
「やめろヒカル!その一言は刺さる!!」
「それに、遊矢の父さんに抱き締められたとか、じゃれ合ってたらお母さんに勘違いされたとか、恥ずかしくない!!」
「今更それを蒸し返すか貴様ぁっ!!」
「酒に飲まれたのも恥ずかしくないからな!」
「わざとやっているのか……!!」
「…怒った?」
「……もう、なにも言うまい…」
「…なにやってるのかな、アレ」
「さぁ…?」
END