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Another.3「霧隠れの騎士、異界の天使」




「ヒカルさんの話すっげえ~!やっぱ伝説って言われるデュエリストなんだなぁ」
「そんなことない、遊依も絶対に凄いプロデュエリストになれる」
「いやぁ~それほどでもありますなぁ!」
「あるのか…」

遊依は草原に寝転がり、大きな声で空に向かって声を発する。黒ベースに赤と白のメッシュの入った髪が風に揺れ、どこか心地が良さそうだ。
その隣にちょこん、といった風に座るヒカルは揺れる風で靡く髪に手を置いて遊依を苦笑いしている。

ここは命夜市の草原、町外れにある公園といったところか。
ヒカルは遊依にせがまれ、プロリーグでの話をしていた。当たり障りのない程度に。まだ身を置いて1年も経たないのだ、あまり大きなことは言えない。たとえそれが後の伝説だとしてもだ。

「あ、晴輝さーん!」
「戻ってきたか」

「待たせたな」

白髪に特徴的なアホ毛を生やした彼、晴輝。どうやら周辺を見に出ていたようだ。

あの後確かに舞耶の言った通り、彼らに迎え入れられ、そのまま流れのままこうなっている。
恐らく精神年齢は一番年上なのだろう、周辺探索等は彼が任されている様子だ。

「それで、どうだ…?」
「アンタの言う通り、空間が歪んでいる。例えば、AとBという場所があるとするだろう?本来ならくっついているその場所が今くっついていない、今現在はAと、そこには存在しないはずのCがくっついている。といった感じだ」
「…?どゆこと?」

つまり、例えるならハートランドシティにとって、セインメモリシティは、クヴェルヴォントシティとの中間地点として繋がっている。
だが現在、セインメモリシティはそこに存在せず、直接ハートランドシティとクヴェルヴォントシティが繋がっている状態ということになる。

「むっずかしいなぁ…」
「それもやはり空間の歪み…?」
「恐らくは、な」
「……遊矢…托都……」
「…?」

どこか不安な空の下、友の無事を祈らずにはいられなかった。


~~~


一方、命夜市の北部。
いわゆる富裕層がここで生活している。

その中でも一際絢爛豪華、城かと疑うような住居がここに構えられていた。

「よもやこれほど難航するとはな」
「誰のせいだ…」
「まさか、俺の仕業とでも言いたげな顔だな」
「あぁその通りだよ…」

今此処にいる二人。
城の門前に立ち堂々と佇む銀の長髪の男---霧隠舞耶と、その舞耶から少し後ろの位置で肩で息をする黒服の青年---堰櫂托都だ。

あの分かれ道から早3時間。
突然変わる町並み、突然変わる世界に戸惑い迷いながらもここを目指して歩き続けたのだ。
ただ、疲れているのはどういうわけか。
まして托都は体力は底無しにあるバリアンの神の子だ、歩くだけならそんな簡単にへばるわけがない。

真実と理由はいつも一つ。目の前の男だ。
なんの冗談なのか、それとも狂言のつもりなのか、嫌がらせなのか、一々托都になんでも振る、話をとにかく振りたがる。なんでも聞いてくるのだ。
歳は間違いなく舞耶が上なのだが、なにせめんどくさい。托都はここまでで話術だけで疲れ果ててしまった、まだなにも始まっていないのだが。

「で、ここはなんだ。意味もなくここに行きたがったわけでは…」
「無論、無意味なわけではないぞ」
「…もったいぶるな」
「俺の、家だ」
「……は?」

この巨大な屋敷、豪邸、城は舞耶の自宅。そう言ったのだった。

屋敷に入ると中はTHEお屋敷、といった雰囲気だ。
強いて言うなら金持ちの財産見せびらかしのような図々しさは感じられない、「ただそこにあるだけ」のようなおとなしめなイメージを托都は感じ取った。

部屋数もそれなり、廊下も長く、片付いている。
花瓶の花は瑞々しくこの屋敷の清潔感を際立たせる。ステンドグラスから射し込む陽の光も高級感に包まれていた。

「……居心地が悪いな…」
「?意外だ」
「はぁ…?」
「貴様からは同じような空気を吸っているように感じた」
「…………」

思い出せば、確かにそうかもしれない。
托都の実家自体はそこまでではないが孤児院を経営している。バリアン世界は広大だ。
更に言えば、遊矢…風雅家は国内有数の金持ちと言って過言はない。違いがあるとすればあちらは武家屋敷、要するに和が中心である。このような西洋の空気とはまた少し違って当然だろう。

「なるほど…そういうことか」
「まぁ…」
「否定せんぞ、俺も此処にいることに居心地良く感じることはない」
「人にここまで探させておいてそれはどういうことだ?」
「いずれ分かる」
「………はぁ」

どこまでもマイペース。そんな言葉がよく似合う男だ。
人のことは話せと言うのに自分のことは話さない、托都がどこか舞耶に感じる違和感はそれなのか、それとも。

「そうだ、拠点は此処だ。此処を起点に行動を起こす」
「…それで?」
「貴様も好きに部屋を使え、従者はいない。まぁ、現実と同じならば隣人が訪ねは来るが……気にするな」
「…?」

要は広いのに舞耶しか住んでいないから好きに住めと言っているということだ。
従者がいない、隣人が訪ねる、という言葉は特に引っ掛からないが、会ったばかりの見知らぬ人間に同居しろと言える脳内が不思議で仕方がない。

「危機感はないのか、お前」
「む……おい、」
「なんだ」

少し舞耶が顔をしかめて指を指した。無礼だが今は関係ないのだろうか、それとも…。

「お前、ではないだろう」
「……じゃあなんと呼べばいい?」
「うむ…舞耶……は、違うな」
「皇帝」
「それだ」

托都はただ遊依が皇帝皇帝と呼ぶので声に出しただけなのだが、どうやらアタリのようだ。
お前、がダメで名前も違う、つまり皇帝、とはどういうことなのか。頭の中で首をかしげる、おかしな話だが。

「名前で呼ぼうともかまわ」
「皇帝」
「………」

急な心変わりも托都の前では無意味だったか、否、言い出しっぺは自分なのだ、文句は言えない。


~~~


微風が吹く、ハートランドシティの高台。
紫の髪を撫で、ロングコートの裾が舞う。優雅、という言葉がここまで合う人物がいただろうか。

「…良い風だな、こんな日には紅茶とサンドでお茶会と洒落こみたいけれど」

急に吹いた強い風に驚きながらも被った帽子を押さえ、立ち上がる。

「さて、じゃあ行こうか。狩也くん」

二つに結った髪が交互に揺れた。
振り向いたその先には茶髪の青年とツートンカラーのポニーテールの青年。

「前振りなげえよ!!」

「あ、ほんとー?ごめんごめん!」

「一瞬本当にポエマーかと…」
「全く…!」

てへっと舌を出して謝罪する彼は悪びれた雰囲気は一切なかった。


~~~


「貴様に聞きたいことがまだある」
「……できれば手短に頼む」
「そうさな…仲間に、朽祈ヒカルがいただろう?」
「…!あぁ、そうだ」
「何故、いつ、知り合った」

よく分からない問い掛けだった。
ヒカルといつ知り合ったのか、なんてそんなことを何故聞くのか、到底分からない。

「アイツは…」

いつから話せばいいものなのか。
早ければ産まれてすぐ、本人に面識はないが托都は覚えている。ヒカルに関係するある女性がきっかけで、ヒカルに会いに行った。
その後、互いに面識があるとするならジェレスタエクシーズを巡る戦いの中、一度だけ二人きりで会ったことがあった。
それが始まりかと言われれば嘘かもしれない。
托都は正直に、少し時系列を遅らせて、「自分が17の時に遊矢がきっかけで」とだけ言った。

「……そうか」
「…なんだその物言いたげな顔は」
「俺の事情だ、考えるな」
「またそれか。少しは俺にもなにかを教えてくれてもいいんじゃないか?」

ため息混じりに呟いたそれを聞き取ったのか、舞耶は振り向きこう言った。

「…ならば、デュエルをしよう」
「……」
「反応が良くない…」
「どういうつもりだ?互いに手の内を知ろうとでも言うつもりか」
「そうだ」

断言した。
俺を知りたくばデュエルを通じ、感じ取れ。そう舞耶は言っているのだ。

「…良いだろう!」
「乗ったな、ならば場所を変えよう。屋敷の中は狭すぎる」

そう言って案内されたのは中庭だ。
噴水の水が美しく、庭園の花咲き乱れている。
互いの位置に分かれ、舞耶はディスクを構えた。…が、

「貴様、デュエルディスクはそれか?」

「それがどうした」

「うーむ…なんでもない」

納得したわけではない。托都が取り出したのは紅い水晶のようなもの、美しいが先程のデュエルディスクとは到底思えない。

「ま、まぁ他人のモノにケチをつけるのはよくないな。ならば始めようか!生憎だが、俺は強いぞ」

「上等だ、捻り潰してくれる」

《DUELmode fieldON》

「デュエルディスク、セット--!!」

托都が構えた水晶の塊から靄が現れ、それは次第に形として形成され、デュエルディスクと化した。
混沌の刻印、カオスとして生きる証。これがデュエルディスクを造り出したのだ。

「なんと…!っ、行くぞ!」

「「デュエル!」」

一陣の風が吹く。この瞬間に二人は感づいた、互いに、コイツはやれると。

「先攻はもらうぞ。俺は手札の《ネクロスフィア モルフィーネ》を墓地に送り、《ネクロスフィア タイタン》を特殊召喚!このモンスターは手札の「ネクロスフィア」と名のつくモンスターを墓地に送ることで特殊召喚され、1体で2体分のエクシーズ素材にできる」
《ATK:2000/Level:8》

「エクシーズか…なるほど」

「レベル8のタイタン2体分でオーバーレイ!」

球体に包まれた巨人が分身し、2体となった。それは紫色の表現しがたい光となって空へ飛び立つ。

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!紅き世界の神霊よ、幻影の闇纏う翼で大空を舞え!降臨せよ《機械堕天使 シャドウ・ハルシオン》!」
《ATK:3000/Rank:8/ORU:1》

紫色の光が飛び込んだ異空間の大穴から現れたのは、漆黒の翼をその背に宿した機械の天使。
影、幻影を意味するその名とは対照的に存在感は申し分ない。

「…聞いたことのないカード…」

「永続魔法《スフィア・サンクチュアリ》を発動!更にカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
《Hand:2》

魔法カードから現れた光の球体にシャドウ・ハルシオンが包まれた。
球体は風を纏い、まるで中にある者の身を護るような輝きをしている。

「シャドウ・ハルシオン、か。モンスターエクシーズは数知れず見てきたが…なんだそれは…」

「人類には分からない領域がある、といえば分かるか」

「………なるほど」

人外。そんな言葉がふさわしい。
人の姿をした怪物か、あるいは神霊か。残念ながら答えは片方じゃない、両方だ。
人ではないと自負できるほどなのだから本人はそこまで気にしていないのだろうが。

「事情は大体分かった、が…………」

出自がここまで愉快な奴は久方ぶりだ、と言いたかったが托都の目つきが笑ってない。最初から笑っていないがさすがに舞耶の冗談が過ぎていたのか、間違いなく地雷を踏んで死地を進んでいる。

「いいさ、自ずと分かる。俺のターン!」

「……」

なにが来る?
自身にとやかく言うのだから彼もまたなにか特別なものがあるのではないかと右手を握り締める。

「俺は手札から、魔法カード《霧騎士召集》を発動。手札の「シュヴァリエ・ブリュイヤール」と名の付くモンスター1体を選択し墓地に送り、デッキからそのモンスターと同名のモンスターを二体まで特殊召喚する!」

「シュヴァリエ・ブリュイヤール…」

「俺は《シュヴァリエ・ブリュイヤール ランツァ》を墓地に送り、デッキのランツァ二体を特殊召喚!現れろ《シュヴァリエ・ブリュイヤール ランツァ》!」
《ATK:2000/Level:6》

シュヴァリエ・ブリュイヤール、霧の騎士。
高貴な輝きを帯ながらもどこか消えてしまいそうな雰囲気を漂わせる二体の騎士は、シャドウ・ハルシオンに及ぶようには見えない。

「ランツァの効果発動!このモンスターは攻撃力を半分にすることで、ダイレクトアタックを可能にする!」
《ATK:1000》

「二体のダイレクトアタック…!」

「行け!ランツァ二体でダイレクトアタック!」

「ッ!」
《Takuto LP:2000》

先陣を切ったのは霧の騎士達。体を霧のように変化させ、シャドウ・ハルシオンを通り抜け直接攻撃を当ててきた。

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。ランツァは効果を発動したターンのエンドフェイズ時に守備表示となる」
《DEF:2000》
《Hand:3》

「まずは小手調べか…」

「フッ…そう思うのならそうだろうな」

舞耶の思惑が読めない、なにを考えているのか全くわからないのだ。
コンセプトもよく分からないシュヴァリエ・ブリュイヤールというデッキ、托都は正直言ってこのカード達は初見、早々に決着をつけるべきかと右手を見れば紅い水晶が輝きを見せている。

「俺のターン!」

「永続罠《霧散の荒野》発動!手札1枚を墓地に送ることで、このターン相手はシュヴァリエ・ブリュイヤールと名の付くモンスターに攻撃することはできない」

「永続罠…手札が尽きない限り、そいつらは不滅か」

しかし奴はタイミングを見誤った。そう感じたのはシャドウ・ハルシオンがフィールドにまだ存命していたからだ。
シャドウ・ハルシオンの効果は1ターンに1度、相手の魔法・罠の効果を無効にできる。
たとえ守備表示だとしても次のターン攻守変更し、ダイレクトアタックを可能とするのなら生かしておく道理はない。

「シャドウ・ハルシオン、行け!ランツァに攻撃!トワイライトレイン!!」

「シャドウ・ハルシオンの効果か」

「あぁそうだ。守備表示だろうが、破壊してしまえば関係はない!」

「見事だ!いや、それを見越してこれを捨てたと言っても過言ではない!墓地の《シュヴァリエ・ブリュイヤール オリビア》の効果発動!」

「なっ…!」

オリビアの効果は墓地から除外することで戦闘対象となったシュヴァリエ・ブリュイヤール1体へのバトルを終了させる強力な効果。
シャドウ・ハルシオンの効果を先読みし、《霧散の荒野》のコストとしてオリビアを墓地に送っていた。周到かつ無駄のない読みだ。

「このまま鞘に収まるものか…!速攻魔法《フォーチュン・ブレイク》を発動!このターン、バトルでモンスターを破壊できなかった時、シャドウ・ハルシオンのオーバーレイユニットを全て墓地へ送り、相手モンスター1体を破壊。更にその同名カードを手札またはデッキ、フィールドから除外する」
《ORU:0》

「なんだと…!」

ランツァの1体は破壊され、残っているフィールドのランツァ1体は除外される。
これでフィールドは再びがらんどうとなった。

「俺はこれでターンエンドだ」
《Hand:2》

「俺のターン、ドロー!魔法カード《死者蘇生》発動、蘇れランツァ!」
《ATK:2000/Level:6》

ランツァ1体が出てこようと所詮ダメージは1000程度、ランツァはすでにデッキには存在していない。
ならば狙うは他の手か。

「フィールドに、シュヴァリエ・ブリュイヤールが存在する時、手札から《シュヴァリエ・ブリュイヤール トワレ》を特殊召喚!」
《ATK:2200/Level:7》

「レベルが違う、エクシーズではないな」

だからと言ってトワレもランツァもチューナーモンスターではない、ならばなにか。托都の知りうる限りある知識で結論は一つ。

「融合か…!!」

「手札から《融合》を発動!フィールドのランツァとトワレを融合!優美なる芳香よ、霧隠れの騎士となり星に蘇れ!融合召喚!《シュヴァリエ・ブリュイヤール アスタリスク》!」
《ATK:2800/Level:10》

レベル10の最高クラスモンスター。
霧の中から現れた小さな星の騎士はまだ幼さを残しながらも力強い。

「手札がなくなったことで《霧散の荒野》は破壊される」

障害の1つは取り払われた、それでもなおこれだ、洒落にならない。

「アスタリスクの効果発動。墓地のトワレを除外し、このモンスターの攻撃力以上の攻撃力を持つモンスターを破壊する」

「シャドウ・ハルシオンの攻撃力は3000…!」

「そうだ、行けアスタリスク!!」

「ッ《スフィア・サンクチュアリ》の効果発動!自分フィールドに存在する天使族モンスターの破壊を無効にする!」

降り注ぐ流星は光輝く球体によって防御され、シャドウ・ハルシオンはまだフィールドに生き残っている。

「そうか、ならばアスタリスクの更なる効果発動!相手モンスターへバトルを行う時、相手モンスターの攻撃力をアスタリスクへ加える!」

「なに!?」

《ATK:5800》

攻撃が通れば舞耶の勝ち。ライフを減らすことなく完全勝利だ。

「受けてみろ、アスタリスク!サテライトブレード!!」

「やらせるものか!手札の《邪眼の堕天使》をリリースし、バトルダメージを半分にする!」
《Takuto LP:600》

「うまく往なしたか。だがこれで終わったと思うなよ、アスタリスクの効果によりカードを1枚ドロー!ターンエンドだ」
《Hand:1》

残りライフは600、次のターンに守りを固めるか攻めるかによって勝敗は大きく傾くだろう。

「俺のターン、ドロー!」

最早このまま圧し切られることは考えられない、一撃、もしくは連撃で反撃の暇を与えないことこそが勝利への最短の道。
ドローカードで托都はそれを見出だした。

「《RUM-ブリリアント・ブライト》発動!機械堕天使を、ランクが2つ上の機械熾天使へランクアップさせる!」

「ランクアップ…だと…!?」

「シャドウ・ハルシオンでオーバーレイ!1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!ランクアップエクシーズチェンジ!!死者の魂切り裂く堕天使よ、光輝く天に従い、今蘇れ!!降臨せよ!《機械熾天使 ブリリアント・ハルシオン》!!」
《ATK:3500/Rank:10/ORU:1》

ランクアップエクシーズチェンジ、特定モンスターエクシーズのランクをなんらかの方法で上昇させるエクシーズ召喚の亜種。
これによって、黒き影は月より出でし天使となった。ブリリアント・ハルシオンの効果ならば勝利を狙える。

「ブリリアント・ハルシオンの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、互いのフィールドのモンスター1体を選択、そのモンスターの攻撃力を0にし、効果を無効にする!サイレントブレイド!」
《ORU:0》

《ATK:0》
「なんという蒟蒻問答だそれは!一撃も加えられんな」

「それはどうかな」

「それは…《死者蘇生》か…!」

「そうだ!今再び現れろ!シャドウ・ハルシオン!」
《ATK:3000/Rank:8/ORU:0》

ブリリアント・ハルシオンの更なる効果は自己犠牲。己を破壊し、自分フィールドの別のモンスターに力を託す。
そのためには自分フィールドにブリリアント・ハルシオンの他、あと1体が必要になる。つまり、オーバーレイユニットだったシャドウ・ハルシオンを《死者蘇生》で復活させることによってモンスターを揃えたのだ。

「オーバーレイユニットのないブリリアント・ハルシオンを破壊し、効果発動!自分フィールドに存在するモンスター1体に、このモンスターの攻撃力を加える!」
《ATK:6500》

「攻撃力6500、上等だ」

「トドメだ!シャドウ・ハルシオンでアスタリスクを攻撃!トワイライトレイン!」

「だがな、その程度では俺を仕留めるには値せんよ。手札から《シュヴァリエ・ブリュイヤール ラムダ》を墓地に送り、アスタリスクを除外!相手のバトルを無効にする」

シャドウ・ハルシオンの効果はオーバーレイユニットがなければ発動しない、つまり発動を無効にはできない。
これで必滅の一撃は不発に終わった。

「それを待っていた!罠発動《黒翼の双羽》!バトル中に相手が手札からモンスター効果を発動した場合、シャドウ・ハルシオンの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える」

「元々の攻撃力、1500か!」

「食らえ!」

「くっ!!」
《Maiya LP:2500》

一撃を与えられないのならせめてもの足しだとばかりに罠カードだ。
ここまで無傷だった舞耶に手傷を負わせることに成功し、少し安堵する。さすがに誰も見ていないとしても負けるわけにはいかないし、ましてや完封など許されるわけがない。

「ターンエンド」
《Hand:0》

「慢心故にしてやられたか…やるではないか」

「褒め言葉をどうも」

「そのデュエルに敬意を表し、俺の全力を見せてやろう。ドロー!このスタンバイフェイズ、ラムダの効果で除外されたアスタリスクはフィールドに特殊召喚される!」
《ATK:2800》

だが、ラムダの効果で復活したアスタリスクはバトルを行うことができない。
ここからどうやって勝利しようというのか。

「魔法カード《ブリュイヤール・フュージョン》。フィールドのアスタリスク、墓地のランツァ1体を除外し、決められた素材の融合モンスターを融合召喚する!」

「更なる融合召喚だと…!!」

「霧より現れし者目覚めし時、この光輝は王の威光となる!融合召喚!来い、我が闇滅の王《騎士光帝 カイザー・レディアント》!」
《ATK:4000/Level:10》

霧が消え、遂に光の扉は開き、タロットが開いた道は「皇帝」の力。これこそがタロットモンスターが一体。カイザー・レディアントだ。

「常人超えは疾うに果たしているじゃないか…」

常人超え。
托都を人外と言いながらもすでに人間をやめているではないか、と。

「カイザー・レディアントが召喚に成功した時、相手モンスター1体を破壊する。シャドウ・ハルシオンを破壊!」

「《スフィア・サンクチュアリ》の効果により、破壊を無効!」

「ならば、効果を更に発動!除外されたシュヴァリエ・ブリュイヤール1体につき、バトルの回数を1回増やす」

「除外されたシュヴァリエ・ブリュイヤールは4体…!」

除外された数は4、バトルの回数は5回となった。
これは回避することは難しいだろう。
背後の道は断たれ、目の前には巨大な壁だ。

「そして、バトルする時、このモンスターの攻撃力は倍となる」

《ATK:8000》

「マズいな…」

「終わりだ、カイザー・レディアント!三連撃、クロイツ・エルヘブン!」

「…………」

この一撃を受ければ確実な敗北。だが、

「《スフィア・サンクチュアリ》の効果発動!このカードを破壊し、ライフを半分払うことでバトルフェイズを終了させる」
《Takuto LP:300》

「…急死に一生…か。メインフェイズ2にカイザー・レディアントの効果発動、カードを2枚ドローし、魔法もしくは罠だった場合フィールドにセット、それ以外は墓地に送る。1枚伏せて、ターンを終了だ。攻撃力は元に戻る」
《Hand:0》
《ATK:4000》

首の皮一枚で繋がった状態、まさに危機一髪。

「ドローに運がかかっているな」

「そう思うのならそうだろうな」

「…!お前……」

「このターン、必然を引き寄せてみせる」

「…なるほど、そういうことか」

奇跡でも、幸運でもない。必然。
それを手繰り寄せるのは間違いのない自信か、運とも言える可能性か。

「俺のターン!!」

「………いやはや、参ったな」

「待たせたな。本気を出すというのなら、俺もそれに応えよう。魔法カード《紅月の翼》を発動!エクストラデッキからシャドウ・ハルシオンと同ランクのモンスターエクシーズを特殊召喚する!来い!《機械堕天使 ネクロ・ブラッディ》!」
《ATK:2500/Rank:8/ORU:0》

ランク8の強力モンスターが二体。だが、どちらにもオーバーレイユニットがなく、レベルではないためエクシーズ召喚などもっての他。バトルを下手に行うなら攻撃力を上昇させるカイザー・レディアントの迎撃に遭う。
勝敗は決しただろう。

「玉を隠しているな…」

「そうだ、ランク8のシャドウ・ハルシオンとネクロ・ブラッディで、レギオンオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!」

「モンスターエクシーズによる、エクシーズ召喚だと!?」

「銀河の星屑よ、紅き月の神霊に宿り今風となりて現れろ!《機械熾天使 ルージュムーン・ハルシオン》!!」
《ATK:4000/Rank:8/ORU:2》

紅き月の天使。これこそが全力、そして全霊だ。

「ルージュムーン・ハルシオンは召喚に成功した時、相手フィールドのカード効果を無効にする」

「これで攻撃力は同じ、さぁどこまでやれる…?」

「ルージュムーン・ハルシオンはオーバーレイユニットを全て墓地へ送り、俺のライフを500までの任意の数値減らすことで100ポイントにつき1度、攻撃回数を増やす」

「だが、相討ってしまえば意味はない!」

そう、互いに攻撃力は4000。攻撃回数の上昇は意味がないのだ。

「墓地の《スフィア・サンクチュアリ》はゲームから除外することで、このターン、モンスターの戦闘破壊を無効化できる」

「ルージュムーン・ハルシオンは生き残るということか…!」

「まずは初撃!!ルージュムーン・ハルシオン、カイザー・レディアントを攻撃!ルシフェルジャッジメント!!」

「罠発動《霧城よりの帰還》!自分フィールドのモンスター1体をゲームから除外する!」

「なにっ!?」

カイザー・レディアントは消え去った。つまり、舞耶を守る壁がない。フィールドががら空きになったのだ。

「っ…なんのつもりかは知らんが、これで終わりだ!ルシフェルジャッジメント!!」

「………」
《Maiya LP:0》

デュエルが終わった。
なんともあっさりとした終わり方だ。

「なんのつもりだ、貴様」
「さぁ?なんのことやら」
「わざわざモンスターを除外するとは、一体なんの…」
「なに、カイザー・レディアントの効果で伏せたカードを発動できなかった場合、カイザー・レディアントは破壊される」
「つまり…」
「あぁ、結果的にフィールドが空き、俺の負けだ」

どうせ負けるのなら潔く。そう舞耶は続け、笑っている。なんと豪胆な男か。

「貴様の全力を受け互いを知る、それが目的だった。果たせたのだからそれでいいではないか」
「…なんとも納得が行かんが……」
「しかし、その風貌で天使使いとは…死神が聞いたら逃げ出すだろうなぁ」
「なっ、どういうことだ!」
「いやこちらの事情だ。ははっ楽しかったぞ」

死神、冗談なのか、それとも自虐なのか。伺い知ることはできなかった。

「さて、話がある。茶でも飲むか」
「またか」
「貴様が淹れろ」
「断る」
「これは皇帝の絶対命令だ!」
「我儘のための名前じゃないんだぞ、皇帝…」


~~~


「右だ」
「いや、左だ」

「…………」

「お前、ここはやっぱり俺に任せるべきだろ?」
「いや、さっき外して迷子になった、なら次は俺が決める」

「………」

激しい口喧嘩を繰り広げる赤と青の少年。そしてそれに挟まる形の黒い少女。
口出しのできないそれは次第にヒートアップを重ねていってかれこれ4回目、もう誰にも止められる空気ではない。

「…遊奈さんと臨音さんよりすごいです……」

「絶対に右だ!」
「いや、左だ」

「……はぁ…」

波乱は始まったばかりだ。








Next story→


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【あとがき】

今回の一言「世界で一番皇帝様」。
もうやだこの皇帝。
見ざる言わざる聞かざるを極める必要があるとかちょっと難易度高すぎんのよー。
それに即時順応を始める托都も問題がある。

というわけで、「シュヴァリエ・ブリュイヤール」です!敵の攻撃をかわし続け、往なし、不意打ちからのフルボッコという凄まじい外道戦術が持ち味です!皇帝特権EX
融合デッキというのもなんだかレアな感じがする、遊依がシンクロで涙がエクシーズだからっていうのも理由の1つかもしれない。にしたって何故回る。
《スフィア・サンクチュアリ》が強すぎて托都が勝った。むしろなかったら負けていた…さすがは元公式公認噛ませ犬。今回は補正かかりまくりだったのでした。
序盤で遊依、ヒカル、晴輝の三人が多重世界観の謎を解き明かしていましたが、大半がまだ把握してません。多分この三人と今回の二人ともう一人くらい。むしろヒカルと晴輝の勘が良すぎる。
そして、緋式先輩のぶっ飛び具合と狩也の胃痛の日々が始まるのだ…狩也、胃痛だったり血涙だったり大変だなお前……。
遊依たちと舞耶たちが同じ命夜市にいますが、合流は至難の技だと思っていただいて問題ないです。むしろ別々の場所から同じ場所に狙っていけること自体がない。
さぁて終盤に登場したのはアイツらだ!なんかもうすでにデュエル脳が滲み出てるぞコイツら!!

次回!!バカVSバカ(語弊)!間に挟まれる女の子はついに登場のあの子!!
喧嘩するならデュエルでしなさいと明日香さんが轟き叫ぶ!!いざ受けやがれ、これが人間VS天使だ!

【予告】
Another.4「水面に映る炎」



===



なんやかんやと奴はちゃんと動くのだな、あれが噂に聞くツンデレというやつか。

いやしかし待て、こんな黒々したツンデレに需要があるのか?

難しい話だ、なんなら本人に直接聞くか。というわけでどうだ、ツンデレ。

一回地獄に落ちろ駄皇帝。