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Another.2「薔薇の少女は戸惑う君に」




「里依紗!」
「…?なんだ、レン」
「あれから半年ッス…もう痛くないかなって」
「……遊斗のおかげで、なにもかも元通りだ」
「…でも…その遊斗は…」
「ここには、いない」

少女は痛みを知っている。
棘の痛みを知っていて尚、絡め捕られた庭園から出ることはしない。
戸惑い、道に迷い、その果てに得たのは、かけがえのない絆。
そして、友との別離。


~~~


「…………」
「…………」

北条里依紗。赤みを帯びたその橙の長い髪は二つの束に分けられている。無愛想だが、微笑めば道行く男が振り返ることは間違いない。
まぁ、無愛想の理由は隣にいるのだが。

「…いい加減、名前くらいは名乗ってほしいものだ」
「…………」

里依紗よりも背は高く、歳も上であろう青年はうずくまってなにも語ろうとしない。否、顔を上げもしない。

「………城乃宮夕紀夜…」
「城乃宮…あぁそれも重要だがいや、やっと喋ったか」

青年は今にも消えそうな声で名を名乗ると更に体を丸めた。

「……全く、どうしてこんなことに…」

瞼を閉じれば浮かび上がってくる。
数時間前、光に導かれたあの場所での出来事が。


~~~


光輝く桃源郷で里依紗とレンは再会した。

「里依紗!」
「レン!晴輝も!」
「無事だったようだな、なによりだ」
「心配したッスよ…!」

涙声で話すレンの様子を見れば分かる。レンは里依紗を心配していた。
互いに切っても切れない仲であると自覚している二人だ、当然のことなのだが、晴輝にも心配されていたのは里依紗にとって意外だった。

聞けば、『あちら側』では里依紗は旧反逆軍アジトで倒れていたらしい。
何故そこに行ったか、倒れた理由も含めて里依紗には皆目見当が着かない。

そんな時、遊矢から話を聞いた。
にわかには信じがたいが、そういうことだと三人はすぐに理解できた。

そして、

「なぁ、アンタ」

「なんだ?……は?」

里依紗は我が目を疑った。
そこにいたのは二人の男―――なのだ。
一人は白髪の青年、毅然とした態度で佇んでいる。が、隣はどうだ。青年―――夕紀夜は白髪の青年から一向に離れようとしない。ぴたりとくっついているように。

「…なんの冗談だ?」

「アンタなら、コイツをなんとかできると思って」
「真広…俺やっぱり無理、無理」
「無理、ってお前が自分で決めたんだろ」
「いやいやいやいやだからと言って…」

青年の話によると、どうやら夕紀夜は女性恐怖症らしい。それを克服することも遊矢の言っていた話の一環だろうと、言わばショック療法とも言えるような手段を取るため、夕紀夜が一番付き合いやすそうな女性を探していたそうだ。

「それで、私が適任というワケか?」
「あぁ」
「…はぁ………」

この男が、と言いかけたが言葉は飲み込んだ。ややこしくなってはいけない。

里依紗は自分を変える方法など何一つ分からない。
だからこの話には協力しようと思っている。

誰とどうしようと、この闇を振り払える者はいないのだから。

「私は北条里依紗。君の話、協力しよう」


~~~


そして現在に至る。

「…で、顔は上げんのか」
「声だけで勘弁してください……」

会話は一向に成立の気配を見せない。
このままではなにも分からないままだ、苛立ちと時間だけがこの空間を支配しているような気がする。

「よし」

決意を固めた、嫌われても構わないと。

立ち上がり、夕紀夜の前に立つ。
気配に感づいたのかようやく夕紀夜も面を上げたのだが、怯えたようですぐ顔を引っ込めようとする。

――――のを、ガシリと前髪を掴み上げ阻止する。

「貴様、私とデュエルしろ」
「………はい?」

目を見開いて涙を溢す姿は哀れさすら覚えるが、里依紗がそれに同情する気は一切ない。あってはいけないのだ。

心を鬼にしなければ彼を振り向かせることなどできやしない。
今だけは、今だけは鬼と化すのだ。


~~~


町の風景は桜色。
桜並木の下。そこを歩くは金の髪の少年。

金髪の彼は空を見上げ、光輝くカードを天に突き上げる。

なにかが変わるわけではない、いや、変わってはいけない。それを彼は知っている。

友を捨て、家族を捨て、町を捨て、時空の遥か向こうへ旅に出たのにも関わらず、また彼は友と出会うのだ。

「…レン」


~~~


「本当に、やるんですか…」

立ち上がり、広場へ出た二人。
夕紀夜はいまだに下を見ているが、デュエルディスクを取り出している限りやる気はあるらしい。

「当たり前だ。語らぬならデュエルでその存在を示して見せろ。でなければ、この先私はお前を空気として捉えねばなるまい」

「く、空気!?」

「そうだ!敬語も不要!私は北条里依紗だ!名前で呼べ!この世界ではお前は私の相棒だ!相応の実力を私に見せてみろ!」

高らかに里依紗は叫んだ。
力を示し、この先の行く末を決めさせろと。

「言うてしまえばこれだけのこと。お前の『価値』を示せ、私はそれに応えよう」

その言葉に夕紀夜は呼応した。
力強く、デュエルディスクを握り、その目に輝きを強く宿らせた。

「それなら、俺だって負けるわけにはいかない…!」

「そう来ないとな。全力で行くぞ!!」

《ARfield set on》

「「デュエル!!」」

実力は互いに未知数。だが拮抗しているのは間違いない。
油断はできない、仲間だとしても負けるわけにはいかないのだから。

「先攻はもらう!私はフィールド魔法《夜薔薇の庭園(ナイトローズガーデン)》を発動!」

「薔薇、庭園……?」

平原だった広場は黒い薔薇が咲き乱れ茨が張りめぐされた庭園へと変わった。
それが決して醜いわけではない。
黒い薔薇は日に照らされることなく、月明かりの下輝いている。

「このフィールドの下では、私のドローこそ運命にして必然。私にだけ許された絶対領域だ。《夜薔薇の庭園》の効果により、私はカードを3枚ドローし、その内モンスターを選択、効果を無効にして特殊召喚する!」

「高速展開可能のフィールド魔法!?」

存在するだけでモンスターを呼び出すフィールド魔法。
静かな薔薇庭園はかすかに震え出す。

「ドローしたカードは魔法カード《ロゼッタアーツ》、モンスターカード《夜薔薇蝶(ナイトローズバタフライ)》、儀式魔法《夜天の残滓》。モンスターである《夜薔薇蝶》は特殊召喚され、残りのカードは私が選択する1枚を残し、墓地へ送られる。私は《ロゼッタアーツ》を手札へ」
《ATK:1000/Level:3》

「それでも召喚できたのは1体、運がなかったみたいだな」

「それはどうだろうな?魔法カード《ロゼッタアーツ》を発動!墓地の《夜天の残滓》をゲームから除外し、その効果を得る」

つまり里依紗は最初から分かって《夜天の残滓》を墓地に送り、無駄のない使用を行った。
更には《ロゼッタアーツ》の効果で儀式召喚に必要なモンスターのレベルは補われ、ほぼノーコストで儀式召喚を行える。

「《夜天の残滓》で召喚に必要なコストはレベル7、《ロゼッタアーツ》の効果でそれすら不要」

「ズル…すぎる」

「なんとでも言え!手札から儀式召喚!現れよ、月光に囀ずる美しき華!《月薔薇の姫 トワイライト》!」
《ATK:2500/Level:7》

フィールドの月の下、照らされた姿は優雅可憐。何者にも触れることの許されないような出で立ちはまさに姫というべきか。

そして、ここまででほぼなにも捨てることなく戦う里依紗もその姿は戦場を駆け抜ける女騎士とさして変わらない。

「先攻は最初のターン、攻撃できない。カードを1枚伏せ、ターンエンド」
《Hand:2》

あまりの素早さと無駄のない動きで夕紀夜は思わず後ろに下がってしまいたくなる気持ちになる。しかも女性モンスターを使うのだ。
致し方ない、それも現実だ。

「…俺のターン、ドロー!」

「(さぁ、何で来る…?)」

「俺は《FL 三日月のスパイダードラゴン》を召喚!スパイダードラゴンは、俺のライフを300削ることで、デッキか手札からもう一体スパイダードラゴンを呼び出すことができる!っ…来い!!」
《ATK:1700/Level:4》
《Yukiya LP:3700》

「…フレイムリリィ、か」

フレイムリリィ、プレイヤーが我が身を犠牲に効果を発動し強くなるモンスター達。
普通はデメリットがあるカードとは強力なものだが、フレイムリリィはそのあまりの微妙さで誰もが嫌厭して使いたがらないデッキだった。
それを最初に拾い上げたのは夕紀夜だった。痛さも辛さも一緒に乗り越えてきた、だからこそ夕紀夜は自信を持って彼らと戦える。

「同じ花のカード同士か、悪くない演出だ」

「それ言えるのアンタだけじゃ…」

想像できるのは燃えるような薔薇と可憐な百合。
現状まるで逆だ。

「俺はレベル4炎属性のスパイダードラゴン2体でリンクバースト!」

「トルネードか…」

「灼熱の聖竜よ、風を纏い海を越えろ!トルネード召喚!!来い!《FL ライトニング・ドラゴン》!」
《ATK:2200/+Level:8》

トルネード召喚。同じレベルに加え、同じ属性を用いる召喚法。
レベルは足し算、プラスレベルとして上限なしで表される。
夕紀夜のいた世界では定着し、そのカードの文化は後の世界にも健在。つまり知っている里依紗は夕紀夜のいた世界より未来に生きていることになる。

「まさか、トルネード使いだったとはな」

「まだまだ、これだけじゃない」

「なにっ」

「ライトニング・ドラゴンの効果発動!トルネード召喚成功時、ライフを500ポイント削り…、このモンスターをゲームから除外することで素材となったモンスターを墓地から特殊召喚できる!」
《Yukiya LP:3200》

だがこのままでは同じものが呼び出されるだけ。全くの無意味だ。

「この効果で呼び出されるモンスターはレベルが倍になる!さぁ来い!」
《Level:4→8》

「なるほど、レベル8を揃えたというわけか」

そう、意味がないわけではない。
倍のレベルで召喚される二体のレベルは8
。レベル8を要する炎属性トルネード召喚を可能にすることができるのだ。

「レベル8炎属性となったスパイダードラゴン二体でリンクバースト!灼熱に融ける祈りよ、声に応え勇気を!!トルネード召喚!現れろ!《FL ブレイブドラゴン・オラシオン》!」
《ATK:3000/+Level:16》

「…切り札、か」

雄々しく、そして熱く燃える炎の翼。
これが夕紀夜の切り札、確かに強そうだなと里依紗は考えた。

「ブレイブドラゴン・オラシオンの効果、ライフを1000ポイント削って発動し…!相手モンスター1体のコントロールを奪う!トワイライトのコントロールをもらう!」
《Yukiya LP:2200》

「なんだと…!」

「この効果でコントロールを得たモンスターは攻撃できない、ただし!ライフを800ポイント削ることで、攻撃することができる!」
《Yukiya LP:1600》

己の命を削り、効果を得る。フレイムリリィの力は使いようによっては自らの傍らにある自爆スイッチを押すことになる。
だが夕紀夜はそれを分かっている。むしろ、「分かってやっている」。

「行け!トワイライト!ダイレクトアタック!」

「ッ!」
《Risa LP:1500》

次にブレイブドラゴン・オラシオンの攻撃を受けるようなことがあれば里依紗の負け。しかし里依紗はデュエルをしようと言い出した張本人なのだから、負けるわけにはいかない。

「行け!ブレイブドラゴン・オラシオン!ダイレクトアタック!エタニティフレイムバースト!!」

「………」

勝った…!
夕紀夜は心の底から思った。女性相手にはめっぽう弱いと自覚しているのだ、嬉しいに決まっている。

「罠発動!《黒城薔薇(ブラックローズキャッスル)》!」

「えっ!?」

「手札から一枚モンスターカードを墓地に送り、そのモンスターの攻撃力分相手モンスターの攻撃力を下げる。私が選択したのはレベル6の《夜薔薇の弓兵》!攻撃力は2000だ!」

《ATK:3000》

攻撃力3000に対し、攻撃力2000の《夜薔薇の弓兵》をぶつければダメージは1000になる。

「…これで攻撃はかわしきったぞ」
《Risa LP:500》

「強い…」

「当然だ!」

「でも負けるか!手札から速攻魔法《フレイムリリィ・バレット》を発動!このターン召喚、特殊召喚したフレイムリリィ1体につき、200ポイントのダメージを与える!」

フレイムリリィの合計は4体。ダメージは800、防がねばまたも敗北確定のピンチに追い込まれた。

「そうか。だが、私は発動しているフィールド魔法《夜薔薇の庭園》をリリースし、効果発動!相手の魔法・罠を無効にし、デッキから新たなフィールド魔法を手札に加える」

「防がれた…!」

「ふぅ…確かに危なかったな」

息を吐いて埃を落とすように手をパチパチと叩く。それからセットされたデッキから1枚だけ出てきたカードを手札に加えて再び里依紗は正面を向いた。

「さぁ、ターンは?」

「ッ…カードを2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズにコントロールを奪ったモンスターは破壊される」
《Hard:1》

「お前の実力はよくわかったよ。だから、負ける気がしない」


~~~


「しかし、どうなってるんだ。これ」
「さぁ……」

遊矢と遊紗は森を抜け、のどかな風景の元歩を進めていた。
しかしそれに違和感があるらしく、二人ともどこか訝しげにだが。

「世界がデタラメに繋がってる…とか?」
「多分…」
「さっきまでハートランドにいたんだけどなぁ…」

そう、ハートランドシティにいたはずが今はこんな牧場にいるのだ。

「早いとこ、調べようぜ!」
「は、はい!」


~~~


「私のターン!!フィールド魔法《夜薔薇の宮殿(ナイトローズキャッスル)》を発動!」

枯れ果てた薔薇庭園にうって代わり、今度は城。茨に包まれたおとぎの世界のような城がそこに現れた。

「このカードは、1ターンに1度デッキの上から5枚を確認し、その中から1枚を手札に加えることができる」

「さっきのフィールド魔法の上位互換…!?」

「その通り!私は手札に加えた魔法カード《お茶会召集》を発動!このカードは、墓地、またはデッキから儀式モンスターを2体以上特殊召喚する。ただし召喚したモンスターはエンドフェイズに除外され、私は攻撃力の合計のダメージを受ける!」

効果自体は強力だがデメリットはまだある。
召喚したモンスターは攻撃できず、効果を発動できない。このため召喚したところでほとんど意味はない。

「俺はデッキから《夜薔薇の女帝 ペルセポネ》と墓地から《月薔薇の姫 トワイライト》を特殊召喚!」
《ATK:2600/Level:8》
《ATK:2500/Level:7》

「属性とレベルが合わない、トルネードもエクシーズもできない。じゃあ、なにを…?」

手札は1枚、融合の類いではない。ならばシンクロか、チューナーがいない。
トルネードには属性とレベルが、エクシーズにはレベルが違う。
ならばなんのために召喚したのか、負けるためでは決してない。そう、里依紗にはあと1つ切り札が残っている。

「ふふっ…刮目しろ。これが、エレメント召喚だッ!」

夕紀夜の知らない未知の召喚法。
---エレメント召喚である。

「私は、闇属性のペルセポネと光属性のトワイライトでエボリューションチャージ!!光の奇跡が交わり、今こそ闇夜に月の欠片を繋げ!チャージライド!!」

「これは、一体…!!」

「エレメント召喚!!現れよ《夜薔薇の姫 ヴァルフレイヤ》!!」
《ATK:2600/Gauge:8/EC:2》

エレメント召喚。ある存在の源から流出した虹の力。本来なら「存在しない」召喚法。
異なる属性のモンスターが呼び合い、そして現れたエレメントモンスターには属性が二つ存在する。
ECと呼ばれるものにカードを収納し、それを墓地に捨て効果を発動する。

「エレメント…モンスター……」

夕紀夜の世界にはないカード。これが里依紗の切り札だ。

「私は召喚成功時、ヴァルフレイヤの効果発動!素材に「夜薔薇」と名のつくモンスターを使用した場合、相手のモンスターを2体までゲームから除外する!」

「なっ!ブレイブドラゴン…!!」

「そして、デッキから二体の夜薔薇と名のつくモンスターを特殊召喚する!現れろ《夜薔薇の魔女 ウィッチ》《夜薔薇の槍兵》!」
《ATK:0/Level:1》
《ATK:1700/Level:4》

フィールドのヴァルフレイヤはまるで二体のモンスターを従わせるような風貌。そしてその光景はフィールド魔法と一致する素晴らしい空気感。
すでに夕紀夜のフィールドはがら空き、チャンスは今しかない。

「ヴァルフレイヤ、ダイレクトアタックだ!クリムゾンファンタズム!」

「罠カード《フレイム・スター・バースト》!!ライフを半分にし、バトルフェイズを終了させる!そしてエンドフェイズに相手のモンスターを全て破壊し、相手に攻撃力の合計のダメージを与える!」
《Yukiya LP:800》

「バトルフェイズを終了…」

攻撃は強制終了した、このままメインフェイズ2に移行しても特にやることはないはず、ならばこれで自分の勝ちだ、夕紀夜はそう踏んでいた。

「私は、ヴァルフレイヤの効果発動!エレメントコアから1枚カードを墓地に送り、デッキから「夜薔薇」と名のつくモンスター1体を特殊召喚できる!」
《EC:1》

「夜薔薇を、召喚する!?でも、バトルは終わってる!俺の勝ちだ!」

「甘いな。私は《夜薔薇の竜 クリムゾンロゼッタ》を特殊召喚!」
《ATK:2400/Level:7》

姫の呼び声に呼応する竜はまさしく守護竜。しかし現状では確かに夕紀夜の言う通り、このままなら待つのはターンエンドのみだ。

「クリムゾンロゼッタの効果、フィールドのモンスターを2体破壊。更にこのターンの終わりにライフを半分支払う代わり、私はもう1度バトルを行える…!」

「そんな…!!」

「さぁ行け!ヴァルフレイヤでダイレクトアタック!!」

夕紀夜のフィールドはがら空き、ただし伏せカードが1枚。これは賭けだ、ここで伏せカードを使われれば敗けが決まる。

「……!!」

---またあの子よ

---姫桜緋の恥だわ

---男のクセに

「ッ!!」

ヴァルフレイヤの姿を見て、瞬間的に思い出した。
かつて自分を貶めた女達を。
その記憶が、一瞬の判断力を鈍らせた。

「クリムゾンファンタズム!!」

「!っうわぁぁああ!!」

《Yukiya LP:0》

《WIN:Risa》

勝敗は決した。里依紗の勝ちだ。
ARですっ飛んでいった夕紀夜のところに駆け寄れば、大の字で倒れている。

「大丈夫か?」
「………大丈夫、です」
「デュエル終わって唐突に敬語にするのやめてくれ、背中がぞわっとしたぞ」

大丈夫だと言った彼に手を差し伸べれば驚くほど素直に握り返した。
そんな反応に一瞬戸惑いながらも夕紀夜を引っ張り上げ、そのまま立ち上がった。

「…どうして、伏せカードを使わなかった?」
「…………」
「…頼む、質問には」
「母親の顔を、思い出して」

遮るように疑問に答えた。
まるでなにかに怖がるかのような、そんな素振りで。

「実は……」

事の全てを夕紀夜は話した。
何故女性が苦手なのか、怯えてしまうのか。

城乃宮---ではなく、かつて姫桜緋と呼ばれていた頃の話。
女尊男卑の一族で育ち、姫桜緋の遺伝子では女性以外にはありえなかった「赤い目」をしていたことから女性達から酷い仕打ちを受けていた。
最愛の姉は両親に奪われ、生きる気力を失った時、真広に出逢った。運命の出逢いだ。

「アイツのおかげで、今こうなんだ。昔はもっと酷かった」
「……そうだったのか…」
「………」

夕紀夜の姿に、里依紗はどこか親近感を覚えた。
かつて自身も家族に見捨てられ、闇に堕ちた身だ。それは誰よりも分かっている。

ならば、

「城乃宮夕紀夜、」
「…!」
「お前の力になってやろう、改めてな」
「…北条、さん…?」
「里依紗だ、そら」
「り、里依紗、さん…?」
「さんは必要ないと…」

出会ったばかりの二人だ、当然のような会話をしている。

…少し遅かった気もするが。

「り、いさ……」
「よしっ!」
「よ、よろしく…」
「…こちらこそ!」


~~~


「ふむ…」
「…………」
「うぅん……」
「…………」

銀髪の男は悩んでいた。
分かれ道だ、道は長く先が見えない。

「意見を聞こう」
「右だ」
「それは、何故だ」
「一々ここまでくだらん事に体力を使わせるな…」

腕を組み、最早苦労が目に見えるような彼は銀髪の--霧隠舞耶に引きずられていた。

「固いことを言うな、自らの足で地を踏む旅だ、悩もうではないか。そら行くぞ」

「…お前のそれは、限度を超えている…」

受難の旅は、始まったばかりだ。








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【あとがき】

今回の一言「KOUTEI語」。
里依紗が初っぱなからフルスロットル、俺の語彙力もマックスボルテージ、夕紀夜の受難もフルスロットル。

今回は「夜薔薇」「FL」の紹介回でした。
里依紗さんちょっと本気出しすぎとちゃいますか。
すでに全力だけどこの後本編で登場したら更に凄まじいワンキル祭りを繰り広げてくれるからまだまだ序の口、ここからが本番ですよこれー!!なに回してるか俺もわかんねえ!!
夕紀夜が最初からヘタレムード全開なのにデュエルは楽しそうで何よりです。デュエルは楽しそうだよね、コイツ。
ライフを自分から削るドMデッキである。最初は死ぬために使っていたのがいつしか相棒になるんだから奇跡に等しい気がする(ただし奇跡は積極的に殺される)。
レンと晴輝が登場する中、謎の金髪の青年が登場!!一体何遊斗なんだ……。ある意味最強すぎて主人公の枠組みから外されてしまったメアリースーが堂々の登場だよ!どの面提げてry
遊矢と遊紗も摩訶不思議な世界へ旅に出ました!突然世界が変わるこの現象、まぁキーワードにもう書いてあるんですけども、次回はこれについてやっていくよ!!
もう次回の連中は分かるよね!!コイツらだよ!!例によってめんどくさい二人じゃry

次回!!霧の騎士団VS機械堕天使!あれ!?ラスボス級対決もうやるの!?
Twitterだと謎の人気を誇る彼が扱うシュヴァリエ・ブリュイヤールを紹介します!!

【予告】
Another.3「霧隠れの騎士、異界の天使」



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さて、我々もこれにて始動と言うわけだ。いかがか夕紀夜。

や、やっぱり怖いものは怖いぃ……。

怯えてどうする…私は味方だ!女だからとて甘く見るな。

甘く、というより見た目辛そうな…。

見た目で判断するな!!