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===



「…君に出逢えてよかった」

少年は心からそう思っていた。

悠久の時の狭間に幽閉され尚、その心を捨てず、いつの日か、再会を願っていた。

時の流れに包まれ、それは緩やかにすぎていく。人の生は儚く脆く。


涙を流し、桜が咲くその日まで、依る辺を、星の夜を、待ち続けていた。





遊戯王-Glorious Future


~~~


「――――、」

『貴方は、天使なのでしょうか。悪魔なのでしょうか』

眠りの中、微睡む頭はその思考を歪ませる。

声は疑問を投げ掛けた。
天使か、悪魔か。
人間には到底理解のできない問いだと分かっている。

だが、たゆたう少年はその問いの意味を知っていた。

「俺は――――天使」

白き翼を宿す、天の使者。確かに少年の背には翼があった。

それは、誰かの願いによって託されたもの。誰かが、誕生を願ったからのこと。

悪意から天使が生まれることはない、純粋な心が産み出したのなら、彼はきっと間違えてなどいない。

『ならば、貴方の白銀で、世界を取り戻すのです』

「せ、かい…を……?」

虚ろなまま宙を見る少年は、その言葉を重く捉えることはできなかった。
世界を取り戻す、なにを言っているか、世界はいつも自分が歩いているじゃないかと途端に思う。

『その白銀の左腕で…世界を、解放し―――』

ただその声は身勝手に話を続けた。
しかしノイズのように声はかき消される。

朝は、唐突にやって来た。


~~~


瞼を開く。
朝7時30分、中学生男児の起床時間と考えれば妥当な時間か、しかし栞遊紗は起き上がることができなかった。

普段ならば起きる時間のはずなのに、体が重く息苦しい。霞んだ空間がそれを表しているようだ。

「兄さん朝だよ、ほら」

コンコンというノック音と妹・依緒奈の声がする。
「分かってる、急かすな」。そう声に出したはずが聞こえなかったのか、依緒奈は部屋に直接入ってきた。

「大丈夫?なんか顔色悪いけど…」
「…気にすんな、別になんともねえから」
「……そっか、あんまり無茶しないでよね。最近無茶ばかりだったんだから」
「できればそうするさ」

頭をかきながら着替えと言って依緒奈を部屋から出るよう促す。
心配そうに部屋を出た後、学校に一緒に行くと約束を取り付けられた。

遊紗がゆかりを救い出して数日。
「ヴァリー」と呼ばれる未知の存在へと変えられたゆかりを狙ったアリスコンツェルンの残党に左腕を持っていかれ、今や左腕はバッサリなくなった状態―――でもない。
奇跡によって銀の腕を手にした遊紗は、ゆかりを救い、そして今、いつもの生活を送れている。

新しくなったとて、別に普段は銀でもなんでもないただの腕。
なにも変わらない日常、なにも変わらない生活には支障すらないのだから気にするまでもない。


~~~


「それでね、舞子が…」
「ふーん…?…?」

前方に人。
頭どころか上から見れば体全体を覆い隠すマシュマロのように柔らかそうな帽子、二つに束ねられた髪。

「おや…遊紗と依緒奈か、おはよう」

「…おはよう」
「ごきげんようでーす!」

にこりと微笑んだのにどこか裏がありそうなのはこの人の特徴なのだろうか、遊紗にとっては最早慣れだと感じている。

「今朝は顔色がよくないな、体調悪い?」
「別に。特に変わったことはねーよ」
「そうか、それならいいんだけど」

微笑むその顔は道行く人が振り返るほど幻想的かつ美しい。
自分を心配しているのは遊紗もわかっているのだが、どうしても怪しさが先行してしまう。
園舞緋式が関わるところ前途多難、まさにこれだ。

「じゃあ、昼にまた」
「おう、分かった分かった」

「行こう。1限目体育でしょ」

「うん…」
「ねえ、やっぱり具合悪い?大丈夫?」
「大丈夫だよ…ちょっと頭痛いだけだ」
「心配なんだけど…」

紅い髪に反比例するかのように顔が青白くなっていくのが依緒奈は心配だった。
明らかに遊紗の様子がどんどん悪くなっている、口数が減ったどころか少しふらついている。
学園で恐れられていた不良生徒の威厳はいずこか、人を気づかれない程度に踏ん張ることしかできなくなっていた。

「遊紗くん、ちょっと大丈夫?」
「なんか顔色悪いぜゆーさくん」
「遊紗だっつの…」
「保健室連れてってやろうか?ほら」
「うるせえ、大丈夫だっつってんだろ」
「無茶しないでよ、遊紗くん」
「…できれば」
「ゆかりんには優しいねゆーさくん!!」

ゆかりとミチル、クラスメートという関係を大幅に越えてしまっている二人だ。特にゆかりは先の件もある、切っても切れぬ関係なのは事実だ。
依緒奈だけでなく二人までもが心配している、そろそろ考えなければならないか、と遊紗すら考えてきた。

「…………」

――その白銀の左腕で、世界を、解放し…

「世界の、解放……」

「ゆーさくーん、ボール行ったぜー」

「取り戻すって…なにを……」

「遊紗くん!!」

「えっ」

―――ゴッ

鈍い音がする。なにかが当たった、遊紗はそうとしか認識できなかった。
視界がぼやけて考えはまとまらない。ゆかりたちがザワザワとしながら集まってくるのだけが少しだけ分かる。

――あれ、なんで、どうしてこうなった?

いつの間にか、遊紗は眠りに堕ちていた。


~~~


声がする。

「……!」

聞き慣れた声がする。

「おい、お前…!」
「……」
「大丈夫か、しっかりしろ」
「…ヒカル…?」
「…!なんで、俺の名前を…?」
「……え…?」

今朝とは違い、パチリと目は一瞬で開いた。むしろ驚く出来事に目が覚めた。
体を見ると、制服ではない、着なれた私服を身に付けている。

誰かの膝で寝ていた、その誰かを遊紗は知っている、だがその誰かは遊紗を忘れている。
上半身を上げ後ろを向く。
紫の長い髪を束ねた二色の目をした女性―――ではなく青年が不思議そうに遊紗を見つめる。

「俺だ。遊紗…栞遊紗、忘れたのか?」
「栞……悪いな、知らない」
「えっ……じゃあ、どういう…」
「俺たちもよく分からない…ただ、ここを通ったら、たまたまお前が倒れてたんだ」
「そう、なのか……ん?俺"たち"?」

忘れた、ではなく、知らない。遊紗の頭がごちゃごちゃになりつつある中、もうひとつ飛び込んできた情報。
俺"たち"、つまり彼以外にも仲間がいることになる。

「もしかして、」

「あ!ヒカル!」

「!」
「遊矢」
「あれが……」

青い髪を跳ねさせピョンピョンとヒカルの方へ向かっていく少年。
ここで遊紗は確信した、この人は自分が知っている時間にいる人ではないと。
何故なら遊紗の世界にいるヒカルは、彼を探すために過去から来たのだから。

「風雅遊矢…」
「よかった、目さめたんだな」
「あ、はい…」
「で、遊矢、なにか分かったか?」
「なんにも手掛かりなしだぜ!」
「………」

あははははと笑い飛ばす姿はヒカルが語っていた遊矢の姿と大幅に異なっていた、むしろ色々違いすぎている、主にヒカルが。

「手掛かり、とは…」
「…ここ、どうにも俺たちの知ってる世界じゃないらしい」
「え、てっきり過去だと…」
「いやーちょっと分かんない世界だなぁ」

時系列どころか世界が違っていた。
なるほど、と遊紗も少しだけ納得してしまうようになったのは目の前のヒカルのせいか。

「つか、托都と狩也どこまで行ったのかなぁ…」
「まだ戻ってこないのか」
「うーん…狩也はともかく、托都がいないなんて…」

―――ドォオオオン

「!?」
「なんだ!?」
「近くから……?」

爆発音。それもすぐ近くの林から。
得体の知れない世界に得体の知れない敵とくれば状況は最悪。
遊矢とヒカルが構える中、遊紗も立ち上がる。

―――――が、

「――――ッ!!」

黒いコートが翻る、獅子の如く広がった二色の髪が舞い、一瞬見せた表情には焦りと緊張。

「た、托都!?」
「おい!一体何が」

「襲撃だ!それ以外考えられん!」

「襲撃……?」

托都が後方へ跳んだ後、つまりその先を見やる。
白いコートに銀髪のデュエリスト。襲撃、ということは敵か、あるいは、と三人も覚悟を決める。

「…全く、このような場所に飛ばされ、よもや貴様のような得体の知れない人外と対することになるとはな」

「貴様……」

「王の前に出たことを運の尽きだと弁え消えろ、異界のデュエリストよ」

「なんだ…あいつ……」

日に照らされ現した姿は幻想のそれか、まるでファンタジーの住民のような出で立ち。
自身を「王」と言うほどの威光は確かにそこにあった。

「ストォーップ!!皇帝ストップ!!」

「「な…?!」」 

「えっ……!?」

シリアスな雰囲気の中、ガサガサと音を立てながら林から飛び出す推定10代後半ほどの青年。

「待った!この人達は敵じゃない!」
「…遊依、説明をしろ」
「あれ!見ろよあの人!!」
「人……?…あれは…」

遊依と呼ばれた青年は身を乗り出してヒカルの方に視点を寄せる。

「伝説のプロデュエリスト!朽祈ヒカル!!敵なわけないだろ!」
「…しかし……」

「もしかして、アンタら…いや、貴方たちもここに飛ばされたんですか…?」

「敬語なんてそんな~」
「そうだ、貴様もか」
「皇帝!伝説のデュエリストにその態度は…」
「善処はしよう」
「はぁ…」

ヒカルを伝説のプロデュエリストだと言って慕う遊依とそれを聞いてなお態度を崩さない皇帝と呼ばれている青年。

互いに敵ではないと認識したのか、二人は自然とデュエルディスクを収納する。

「托都、怪我とかないか…?」
「ない。だが、…第一印象は最悪だ」

「申し訳ないことをした。だが俺達も、この世界については何も分からん。味方がいるのか、敵しかいないのか。超常のものだとしたら、理解と想像を越えている」

「な、なるほど…」

面倒くさそう、4人は一斉にそう考えた。
自身を「王」と自称するのだから、当たり前なのだろうが。

「あ!狩也!!」 
「そうだぞ遊矢、狩也はどうした。それに、コイツを放っておくわけにはいかないだろ」
「だよな…」

驚くばかりの遊紗を見ながら今後を話し合う二人、途端ボーッとしていた遊紗に声をかけ、振り向いた。

「えっと…遊紗、だっけ」
「はい、そうです」
「敬語とかむず痒いからやめてくれよ。あのさ、俺たちの友達を探しに行くんだけど、遊紗もついてこないか?」
「えっ…だって、ここのこと俺よく分かんないですし…」
「分からないのは俺たちも同じだぜ。だから一緒に行動して、この世界について考えよう」

敬語に対し苦笑いで返す遊矢が同行を提案し、手を差し伸べる。
困った顔をしていても仕方がない、と言いたいのか、そういった表情をしているヒカルを見て、遊紗は無言でその手を握り返した。

「お前達はどうする。まぁ、初対面でいきなり攻撃してくる王様にはなに言おうが聞く耳持たないだろうが」
「托都、そうやって煽るなよ…」

「いや!ホント皇帝が申し訳ないことしたというか!あっ是非同行させてください!いいだろ皇帝?」
「構わん。初対面で敵対されたと勘違いしてディスクを構えるような男とは、相容れんだろうが」
「似た者同士かよ…」

要するに、この不思議な世界に飛ばされ、互いに状況を探るべく探索していたところ遭遇し、ディスクを構えられたのでやり返したという至極簡単な理由。
デュエリストならば当たり前だろうと誰もが答えるまともな返答が二人から返ってくれば誰だろうと二人が似た者同士の同族嫌悪をしているというのが目に見えていた。

公園と思わしき草原を抜け、街中へ入る。
町には和の趣を感じさせる雰囲気があった。行動している全員がこの町を知らないと言い切る。
やはり未踏の地か、と誰しもが考えた…瞬間だった。

「……!」
「どうした」
「今の、もしかして……!!」
「おい…」

遊依が駆け出した。
その先にはふらふらと歩く金と白の髪の少年。
眠たげに歩いては首を横に振り、目を覚まそうとしているが、いまいち効果はない模様だった。
そして、その肩に手が触れた。

「涙!!」
「………遊依?」
「涙…!本当に、涙なのか…!?」
「……うん」

少年は眠たげながらにも確かな返答を返した。
涙、と呼ばれた少年は肩を触れた手に触れ、握り締めた。

「随分、デカくなったな」
「はは…21だもんな、5年…か」
「すごいよ、本当に」
「ありがと」

二人はさながら戦場で生き別れた恋人のような再会をした。事実、戦場とも言えるような世界で生き別れたのだが。

「なんだ、あれ…」
「希城涙」
「…?」
「二つの世界線で出会った奴の愛する存在」
「え!?マジでか!?」
「なにしろ史実世界では女だ」
「あ、良かった……」

遊矢はそっと肩を撫で下ろした。理由は察する他ない。
二つの世界線を跨いだ愛、それは愛する人と結ばれても変わらぬものだった。

「というか、あれで…」
「俺より年上か…」

子供のように笑顔で涙と話す遊依からは達観した托都より年が上だという印象は全く感じられない。

「涙、この世界、どこか分かるか?」
「分からない…庭で寝てたら、なんかここにいた」
「そっか。じゃあなんにも分からないままだ」

庭で寝ていた、文言だけを見れば外で寝ていたと思われてもおかしくはない。だが涙の事情はとにかく複雑怪奇なものだ、ツッコミを入れるのにも時間が必要になる。

「……遊依、あのね」
「えっ?」
「俺も一緒に、遊依と一緒にいたい。ダメかな…」

遊依は少しだけ表情を曇らせる、それをヒカルは見逃さなかった。
すぐ笑顔になった遊依は握られた手をギュッと握り、笑顔で答えた。

「もちろん、一緒にいよう。涙」
「…ありがとう、遊依」

―――瞬間、世界が眩しく光輝いた。

「うわっ!!」
「なんだ!?」

町を包み込むように輝いた白い光はその輝きを失うように消えていく。

気付けばそこは町ではなく、一言では表現できない、いうならば理想郷といったところか、美しい花と湖、木や草原の世界に降り立っていた。

「……こ、こは…」
「まるで桃源郷か…」

小鳥のさえずりと青空、秘境…彼の言う通り、桃源郷というのが相応しいのかもしれない。

「遊矢!!」

「!狩也!!心配したんだぜ!?」
「俺の台詞だ、気付いたらここにいて、遊矢たちが心配だったんだ」
「…そうだったのか」

遊矢と托都はてっきり迷子になっているのだろうと思っていた、だがそれは間違い、何故ならそこには―――――、

「…人が、いっぱい……」

「…どういうこと、だよ」

遊紗の眼前に広がっていた世界には自身と同世代か少し上か、少年少女たちの姿があった。
いくつか見覚えのある人物を見つけたが、それ以外は知らない、ほぼ初対面。

「おや、やっと見つけたぞ、遊紗」

「…緋式、センパイ……」
「仲間か?」
「あぁ、とりあえず」

「とりあえずってひどいなぁ」

マシュマロのような帽子とローブのような白い服に身を包んだ緋式はまるでどこかの魔法使いのようだ。
頭を掻く仕草をしていた緋式の頭を誰かが叩く。

「あいてっ、なんだいシュウ」
「バカ野郎。どんだけコイツのこと心配したと思ってんだ」
「というか俺言ったでしょ?遊紗なら大丈夫だって」
「大丈夫なわけあるか!!」
「二人とも、頼む、騒ぐのは状況がいい方向に進むまで我慢してくれ」
「…そうだな」
「大人げないぞ~シュウ」
「うるせえ」

軽口を叩く緋式と深刻そうに話すシュウ、二人は遊紗の1つ上の先輩に当たる。
ぶっきらぼうだがお人好しのシュウは遊紗を心配していた、その話を聞く限り、二人は遊紗より早くこの空間にいたんだな、と遊紗は察知していた。

「しかし、この世界はなんなんだ」
「分からない。気付いたらここにいた」
「そうそう、俺も本読んでたらうたた寝しちゃって、気付いたらね」
「そうか」

遊紗はここで一つ疑問が浮かんだ。
目を覚ます前に遊紗に起きたこと、体育の授業を休んでいたらボールがぶつかったことだ。
ゆかりやミチルが保健室に連れていったと仮定して考えても、自分が誰かに誘拐されたとは考えられない、学校にいたのに何故わざわざ私服に着替えさせたのかが分からない。
なら夢の中なのか、それも考えにくい。緋式が共通している。状況が違うとはいえ、うたた寝していたらこの場所にいたのだから遊紗と状況はほぼ変わりない。

じゃあ今自分はなにをしているのか。
その後のことが全く思い出せず、今更ながら混乱する。

「俺、なにが…」


『ようやく、ですね』


「…!!」

聞き覚えのある女性の声。

一気に場が静まり返った。

推奨のように透き通る声と感じ取れる神聖な輝き。
振り向けばそれは空から降り注いでいた。


『待ち焦がれていた。貴方を、そして、願っていた』


『闇迫る世界に、光を満たした貴方を』


『世界の歪みを――――解き放って…』


乞われている、願われている。
その光は救いを求めていた。

「…!」

いつしか握られていた光輝くそれはまるで道を示す地図のように感じられた。


~~~


「これ、どう思う?」
「うーん…光輝くカード、か。俺も分からないなぁ…別にシール貼ってるわけでもないし」
「ふざけてんのか、それは」
「いや!全く!!」

輝く光をシールを剥がすような仕草で捲ろうとする緋式はこの状況でのジョークに対して全く悪びれていない。

「歪みを、解放か」
「…やっぱりそれが重要だね?」
「うん」

「遊紗!」

遠くから駆け寄ってくる誰かの声がする。
遊矢だ。なにか分かったのかと思い、遊紗も遊矢に向かって数歩前進した。

「遊矢さん、」
「だから、さんとかやめろってば。あのさ、今声かけて回ってるんだ!みんなで手分けして歪みを解放しようって!」
「えっ?」

両手を大きく広げて遊矢は話している。

「涙、だっけ。アイツが言ってたんだ。歪みを解放するためには、このカードが必要で、そのためには…えっと…」
「俺たち自身が成長しなきゃダメなんだ」
「…!そう!って、涙!?」

幽霊かと思われるほど気付かない内に隣にいた。それはもう正面の遊紗も気付かないほど。

「このカードは自分の中のなにかに反応して目を覚ます。そしてその余波は歪んだ世界を修正する力がある」
「なんで、そんなこと知ってるんだ…?」
「分からない。ただ一つ分かるのは…歪みを解放しなければ俺たちの世界が危ないってこと」
「なっ…!」

涙は俯いてそう呟いた。
歪みを解放しなければ世界が危ない、根拠はどこにあるのかそれこそ分からない。

だが遊紗はそれを信じてしまうほどに危機を乗り越えてきた。
悪魔の力で世界を滅ぼそうと考えたアリスコンツェルンを壊滅させた経験上、世界が滅びるという話をまやかしだと思えない。
思ってしまえば、全てが終わってしまう気がしたから。

「…分かった」
「そうか遊紗!!」

「どうする?シュウ」
「信じないわけにはいかないだろ、俺はやるけど」
「ふふっじゃあ俺も」

「二人とも…」
「決まりだな!」

後ろで緋式とシュウの方も決着がついたらしい。
決意は固まり、三人は立ち向かうことを決めた。

「じゃあ、みんなバラバラに分かれて誰かと行動しよう」
「えっ?」
「カードを見てたらさ、自分の中の何かを見つけるためには今まで通りじゃダメだと思うんだ。だから、仲間たちと分かれて、新しい仲間と一緒に行く。これが俺からの提案!」

遊矢の意見は分からなくもない。
今までと変わらぬ仲間たちと共に歩くこともいいかもしれないが、これだけの人がいるのだから新たな仲間と共に行き、心に改革を起こすこともまた然り。
涙の話した世界の話に付け加え、遊矢はこれを提案しに回っていた。

「じゃあ、遊矢さん…いいですか」
「ヘヘッ!もちろん!」

緊張する遊紗の顔を見て少し笑いながら遊矢は遊紗の手をとった。

「俺、どうしよ。シュウ、組まない?」
「嫌だ、俺は好き勝手するからな」
「ええー?いけずぅ」
「うっぜえ…」

踊るように腰を振りながらシュウを勧誘するもいい具合に失敗している。さすがだ。

「ヒカルさん!俺、俺と一緒に!!」
「い、いいけど…」
「やったー!!あのヒカルさんと一緒に!!」
「あ、はは…」

迫ってくる勢いの遊依に対して少し後退しながら了承した。その喜びようは成人した大人とは思えない、いや、思いたくない。

「なんか、色々決まってきたみたいだな!」
「あぁ」

「………」
「あ、あ、あの…!」

「…!」

おどおどした少女の声で遊紗は振り向いた。
似ているが小さい、全体的に小さい。

「遊乃さん…?」
「え?知り合い?」
「あ、はい」

少女は遊乃、心結遊乃という。
少年に引き連れられ、涙の元へとやってきていた。

「い、一緒に…どうですか…!」
「涙さんとならなんか色々安心できそうでッス!」
「そう」

涙が思いの外単調で二人は即座凍りついた。実はヤバイ人なのではと脳裏に浮かんだからだ。
しかし、そう思った瞬間、

「いいけど」

返事も単調だった。

「!やったッス!よかったッスね!遊乃!」
「う、うん!」
「あ、俺太刀風レンッス!よろしくッス!」
「よろしく」
「………」

ポニーテールと特徴的な三本アホ毛の少年、太刀風レン。涙の返事の短さにまたもや凍りついていた。

「なんか、ちっちゃいですね」
「分かる、俺も三年前ならあっち側だぜ」

全体的に小さい、こじんまりしている。
そして全体的に可愛らしさがある、一人なにかおかしい気がするが。

「あれっ?」
「どうしたの?レンくん」
「晴輝、どこ行ったんだろ」
「えっ?」

レンはきょろきょろと辺りを見渡す。視界に入ったのは銀髪の彼と白髪の青年だ。

「いた!晴輝!」

「…!托都、」
「托都……?」

「皇帝」と呼ばれた彼の先には托都がいた。こうして見ると奇妙に感じる。

しかもあからさまに悪い雰囲気だ。

「なんだ、さっきから」

「貴様の連れだろう。そう提案したのは」

「断る。俺は一人でいい。誘いを受けたならそこの奴と行動すればいい」

振り向く必要はない、そういった姿勢を崩さずにいるわりにはその場から離れようともしない。

「あぁ、そうする。だが、貴様は俺と来い、必要とすべきは貴様だ」

「…どういうことだ、それは」

「多くを語る必要はない。これは俺にのみ許された皇帝特権だ。構わんな」

「…………勝手にしろ」

満足したように振り向き、白い髪の―――晴輝と対面する。

「さて、待たせたな。俺は一向に構わないが―――?」
「お生憎様、そこの黒い奴とはどうも相性が悪いようだ」
「ほう?」
「俺から言っておいて悪いが、他を当たらせてもらう」
「…そうか」

残念そうにしていたが、それをすぐに切り替えて視線を別の場所へ向けた。

「あそこに黒髪の男がいる、付き合いの長い知り合いだ。どうだ、そこは」
「……」

晴輝は説明につられてそちらを向けば、遊依が大きく手を振っていた。隣でヒカルが少しまた後退していたことは秘密だ。

「これは、まさか……はぁ…また姫様か?」

「あれは男だぞ」

「なにっ!?」
「まぁ、愉快な仲間たちといったところだ。遊依を頼みたい、いいな?」
「…あ、あぁ……」

晴輝をうまく丸め込み、その場は一気に静かになっていく。

「強引なくらいがちょうどいいと聞いていたが、こうもうまくいくとは…」

「お前……」

「気に留める必要はない。自己紹介がまだだったな、霧隠舞耶という、皇帝だ」

名の優雅さもさることながら、皇帝を自称する風格は確かにそこにある。
銀の髪が風に揺れ、表情からは自信が溢れている。

「貴様も名乗ったらどうだ。俺から名乗ったのだ、最大限の譲渡だぞ?」

「…堰櫂托都だ」

「托都……?」

「なんだ、名乗らせておいてその態度は」

「いいや、恐らく貴様ではあるまい」

「はぁ…?」

舞耶は急に先程までの勢いを失ったかのように思考を張り巡らせていた。
その意味を彼以外に知るものは、いないだろうが。

「なんか、仲良くなれそうだな」
「それ本気ですか?」
「あったりまえ!俺、勘は良い方なんだぜ!」
「はぁ…」

疑問符を浮かべた遊紗に親指立てて語る遊矢の姿はどこか信じられないようなものを感じられた。
遊紗からすればそうだった。知らない人間だけど知っている。ヒカルからずっと聞いていたのだから。
今ここに遊矢がいると伝えたら、彼はどうするのだろうか、と考えずにはいられない。

「さぁて行くか遊紗!」
「えっ!宛があるんですか!?」
「ねえよ!」
「ないんですか!?」
「でもさ、俺って」

驚愕する遊紗に対し、なお自信満々に遊矢は空に声を上げた。

「宛のない旅は、得意分野だからな!」








Another.1「目覚めた意思」


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【あとがき】

今回の一言、「出落ち皇帝」。
記念すべき5周年作品の第一話で今回の一言をかっさらうなんて皇帝恐ろしい子。
いや、素晴らしい出落ちを披露してくれたと思うよ。さすがはHwで桐生院に次ぐネタキャラの舞耶さんだ!!

ついに始まりました!!5周年記念作品です!!第1弾です!本当のデュエルはこれからだオラァ!!
次回からは本格的に色んなキャラが登場します!デュエルするかどうかは保証しない、まぁ相手少ないからね、調整は大事。味方間ではやるかもだけど。
遊紗のとんでもないネタバレが次々出てきてますが、まぁ概要だけで内容は今後のRRを見てください。よくもこんなキチガイシナリオをッ!?
うまく丸め込まれる晴輝、まだ本編に登場してないししてても尖ってるのにすでにキャラが怪しい方向に突き進んでるから相変わらずヤバイ、ネタを挟まないと死んじゃうの私。
緋式先輩とシュウがどうなったかも今後の内容なのでちょっと楽しみにしててください、まぁ設定に誰と行動するか自体は書いてあるからね、緋式先輩のところはむしろ狩也を楽しみにしてて、マジで。
最大の注目はすでに出落ちとか面白いことやらかして登場するだけでネタになりそうな托都と舞耶のコンビですよ、舞耶さんツイッター人気は割高で少しビックリする。まぁ性格が…うん、知れないと。
まーさんはこんな人なんだ!!まーさんって?皇帝のあだ名だよ!!

次回!!さぁてあまりにも働かないからキャラが立ってない人たちが多いですね!?OK分かった!!キャラ立たせてやるよォ!!
なんかもうチーム不協和音ぶりが半端じゃない二人が登場しますがまぁ色々訳があるんだ!!


【予告】
Another.2「薔薇の少女は戸惑う君に」


















~~~










『歪みを、解放』


解放するのです。


『待っています。私は、いつまでも』









===



ついに、始まったか…!

なんだかよくわからないけどやるしかない!

そうだ、やるしかないと言えば遊矢さん…遊矢さん、なにか一言お願いします!

俺、アーマード、ファイトだ!

はい!?