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遥か太古の昔。

この世界は、「統一言語」によって一つとなり、人類は相互理解の元、平和を謳歌していた。


しかし―――――、

その平和はたったの1000年で終わりを告げた。

人類は争い、争乱の時代は訪れ、神は嘆き哀しんだという。

そして神は、数千年後――、

この人類に再び相互理解を取り戻すため、

言葉の欠片を撒いたのでした。





~~~


―――1年前


「あ、もしもしひなた!」
《もー遅いよせいなーライブ始まっちゃうよ?》
「ごめん!お父さんがぎっくり腰やっちゃったみたいで!」


―――――、

――――――――、


「えぇぇ!?どうするの?」
《私行けないけど、ひなただけでも楽しんできて!》
「マジで…?」

少女―――燈歌ひなたは、スマートフォン越しに幼馴染・紫音せいながライブに行くという約束が、父親のぎっくり腰のせいで果たせないといった内容の話を聞いていた。
確かに以前、ひなたはせいなの父の腰が弱いとせいなの話で聞いていた、しかも一昨日の話だ。

ため息混じりに人混みの中の交差点を歩くひなた、とにかくせいなは行けない、と理解し、仕方なく一人でライブに赴くことになった。

《ごめんね、一緒に行こうって言ったのに》
「いいのいいの!気にしないでよ!じゃ、また電話するね!」
《うん…!》

人が増えてきて電話が困難だと判断したひなたは通話を切り、スマートフォンを上着のポケットに仕舞う。

――――歌手・蒼月奏
弱冠14歳にして爆発的人気女性歌手。2年前に発売されたデビュー曲「MoonLight」は週間オリコンチャート1位を獲得し、1stアルバム「月煌」は年間アルバムチャート1位を獲得し、昨年は新人賞を獲得した。
たったの二年で国民だけではない、世界中の人々のハートを掴み取った人物なのだ。

今回のライブは彼女の初となる単独ライブであり、チケットはソールドアウト。
新曲の発表もある等、記念すべきライブとなる。

「せいなが一番楽しみにしてたのになぁ…」

ポスターやモニターには微笑んだ蒼月奏が大々的に映されている。

その道を通り抜け、ひなたはライブ会場である「Queen`s Dome」へと入っていった。


ライブ前のドームは熱気や緊張で埋め尽くされていた。
5月の午後5時、夕刻になり外が赤くなり、そして会場は暗転した。


――きゃああぁー!!

――奏ー!

――ライブおめでとー!!

――待ってたぞー!!


会場は暗くなっただけなのに拍手喝采、満員の会場はサイリウムの青く淡い光に照らされ、

そして――――!!

光輝くレーザーと照明、それがまるでリズムを刻むかのように歌のイントロが響き渡る―――。

「みんな行くわよーッ!!」


――おぉぉおおお!!

マイクのエコーがかかった声が会場に鳴り響く。

その姿はまるで天から降りてきた天使のように、天女のような衣装に身を包んだ蒼月奏が中央ステージに舞い降りた。


〈この声が、聴こえていますか?〉

〈届いていますか?〉

〈答え求め走り出す〉

――走・り・出・す!!

〈歌に乗せたこの思いは〉

〈貴方のためのvoice〉

〈美しき、月を眺めて言うわ〉

〈その笑顔も、辛い涙も〉

〈私が守ってあげるから〉

間奏、たった5秒のサビの前のその間でドームはその姿を変え、空の夕日が差し込み、そして……、

〈君を〉

〈愛している、月の煌めきのように〉

〈見守るように〉

〈だから〉

〈笑っていてよ、その笑顔に私還るわ〉

〈光輝く、未来の先そこには〉

〈楽園のような奇跡が待っている〉


――きゃあぁぁああーッ!!


曲が終わった瞬間、地鳴りがするほどに歓声がドームを包んだ。

それは蒼月奏の人気を象徴するように、そしてひなたの心に強く残った。

「……すごい…」

たった三文字に込められた思い。
ただの子供の感想かもしれない、だがその三文字には、それだけの意味ではないものが間違いなく刻まれている。

この日、燈歌ひなたは決意した。