ジェレスタ89「 鏡 の 親 友 」
あれから二時間くらい。袢太くんが急いで呼んでくれたおかげでなんとか今はなってる。なんとか……。
「っえ~わりぃ、こっぴどく怒られた…」
「夜中のあんな時間に出ていったんだから当然と言えば当然よね」
狩也くんと雪那ちゃんは今ご両親が来たみたいで、どうやら怒られたみたい。私もさっき着信があったけど、怒られると言うか物凄く心配された。
慶太くんの両親はお医者さんから話を聞いてるところ。
「慶太はどうだ?」
「どうもこうもないぜ、目が覚めないらしいし」
「今は面会謝絶だよ……」
「そっか……」
こんなことになってるのに、リンさんも遊馬さんも来てくれないなんて……。
遊矢も……いや、あれは鏡っていう悪い人の仕業なんだから!遊矢は全然悪くない!!でもどうして遊矢は簡単に騙されちゃったのかな。
「畜生!!もう少し俺が早く着いていれば…!」
「狩也くんのせいじゃないよ!これは…」
「鏡の仕業、か?」
「!アンタ……」
「托都さん、托美先輩」
「やっほ~状況はヤバそうだね」
托都さんたちがなんでここにいるのを知ってたのかな。……もしかしてリンさんが呼んだ……?
「アミ、」
「えっ?…ホープ・オブ・ソード!?」
「リンが言っていた場所に行ったら落ちていた。あの鏡という奴がお前らとデュエルした場所にな」
なんでホープ・オブ・ソードがあんなところに落ちていたんだろう……。なんにしても、これで鏡を追う手はなくなっちゃった…。
托都さんは「持つ価値がない、ヒカルにでも渡しておけ」って言うけど……。
「私達は手分けして遊矢を探すから、みんなは一回家に帰りなよ」
「宛はないが手は尽くす」
「待てよ」
「?」
「アンタは遊矢の義兄さんなんだろ!?こんなことになる前に!なんとかできなかったのかよ!!」
「…じゃあお前は遊矢の親友だろう、遊矢が悩んでいることには気づかなかったのか」
「それは……」
「間違いなく俺より身近にいるのは、お前らだろうが…」
「じゃ……じゃあね~」
狩也くんの言うことは正しい……でも、托都さんの言うことも正しい。どっちもそうだよ、私達も遊矢を未だに分かってあげられてないんだもん。
「私達も探しましょ!」
「そうだな、こんなとこにいても始まらない」
「敏也くんと袢太くんは残って慶太くんを」
「わかりました!」
「じゃあ私たちは四人で!」
「うん!」
~~~
「なんでこんな迂回しなきゃならないんだ…というかどこに行くんだ!」
「仕方ないだろう、君を探すハートランドの連中から逃げながらなのだから、それに、もうすぐだ」
まさかアーチャーが壁ぶち破って入ってくるなんて思わなかった……。しかも片手で持ってかれて空の旅なんて想像を越えすぎてる。
二時間くらい経ったのに目的地に着かない理由は多々あったがとりあえず到着しそうだ。
「こ…こんなホテルの最上階に…!?」
「一人でいるぞ、今はリンの隠れ家だからな」
「こんなんじゃ頭隠して尻隠さずって奴だぞ…」
最上階の外から中に通ずる扉から入ると明らかに一人……ではないんだろうけど一人でいるには広すぎる部屋。
アーチャー曰く「最上階のフロアを貸しきってる」らしい。尚更一人には勿体ない気がするんだが、おそらく一人じゃないんだろうからスルーする。
「アーチャー、遅い。いくら追っ手がいても問題ないだろうが」
「すまない、スリルを味あわせたくてね」
「お前な………」
リンさんが広間の扉を開いて廊下に出る、追いかけていくと明らかに他とは違う大きな扉の前で止まった。
「お前、気づいてるだろ、ペンダントがないの」
「え…もしかしてリンさんが…?」
「ああ…ちょっと気になることがあってな」
~~~
「うーん……参ったなぁ~」
彼、今どこにいるのかなぁ…。全然分かんないし、しかも空にはヘリだらけときた。こりゃなにかやらかしたんだろうねえ。
……ん?
「今の力は…精霊の力…」
面白いねえ、楽しくなってきたじゃない。
~~~
まさか、あのペンダントにあんな意味があったなんて……。
___十数分前
「心層の貝殻…?」
「そうだ、過去の記述にはそう書いてある」
「だが、それがどうしたと…」
「心層の貝殻には持ち主に無限の力を与え、希望を持つ者には奇跡に、絶望を持つ者には闇に導く」
「奇跡と闇……」
「そして、今この青い状態ではただの力の塊だ。だから本物にする必要があった」
「本物?」
「ああ。その前に確認したいことがあってな」
___
「命を引き換えに力を…か」
リンさん曰く、本物の力を手に入れるには心層の貝殻と命を繋げなければいけないらしい。心層の貝殻が壊れたら最期、俺も死ぬ。
そんな危険と隣り合わせだから勝手にできなかったとか。
正直俺は構わないし、その程度の危険で更に強くなれるならって思ってる。だから良いって言ったし……なにより、あの鏡から遊矢を助け出す力になるなら…。
「君は正義の味方にでもなるつもりか」
「!?な、なな…お前!!なにしてる!?」
「天城カイトに言われただろう、君は今死んでいても…少なくとも瀕死の状態でもおかしくはない体だ、溺死していないか見張っているだけだ。しかも扉越しに」
「ビビらせんな!風呂で死ぬか!」
全く……、人が真剣に悩んでるってのになんなんだあの白髪、禿げるぞ野郎は。
べ…別に風呂に入ってたのに意味はない!リンさんにリラックスしろと言われたからだ!深い意味はない!…ただ久々に温まってる。
「正義の味方っつったよな」
「そうだ」
「俺はそんな柄じゃない、それは遊矢だろ」
「また君はそうやって風雅遊矢が正義だと自分を貶している」
「……なにが言いてえんだよ」
「私はあくまで、君が道を間違えないようにと考え、質問しただけだ」
質問か、別に正義の味方とかなんとかは関係ない。俺に今必要なのは正義のための力なんかじゃなくて強くなるための力だ。
「強くなりたいだけだ…」
「誰のために?」
「……さぁな」
風呂から上がったらアーチャーが付いてきた、そろそろ終わってるだろうし、入ってもだいじょう……、
「何故私がぁぁぁ!?」
「貴様!!ノックしろと教えろと言っただろうが!このバカ!!」
「……大丈夫か、アーチャー」
「…心配してくれたことには感謝しよう……」
リンさんが遂に人間に見えなくなってきた……あの人エネルギー弾なんて出せるのか…絶対相手にしたくないタイプだ。
「とりあえず終わったよ、これな」
受け取った貝殻は青いものとは全然違い、紅くて透き通っていて、光に当てたら眩しく輝いていた。
思っていたものとあまりにも違いすぎて驚いた、これが本当の姿なのか。
「微量のバリアライトを感じたが…気のせいか…」
「…なにか?」
「なんでもない。これで少しくらいは呪いが軽減されるはず、後はお前次第だ」
俺次第……か。
「ありがとうございます」
「行くのか、探しに」
「はい。感謝はしてるけど、勘違いしないでください。俺は、リンさんをそこまで信用してないです」
「……構わないぜ、別に」
リンさんは前から信用できてない、いや、できない。今までのことが用意周到すぎて逆に信用できなかった。
「あーららぁー?空気悪そうだねえ」
「誰だ!」
「くっ…!」
「リン!」
「あぁ、扉が封印されてる…つまり、この部屋に誰がいる」
「初めまして、お嬢様」
扉の目の前に突然、一人男が一人立っていた。赤が目に痛いが……どこかで見たことあるような気が……。
「お嬢様、というのは俺のことか」
「そうだよリンちゃん!」
「り……リンちゃん…!?」
「貴様は何者だ!」
「申し遅れたね。俺の名前は誠、鏡ちゃんの親友だよ」
鏡の親友……!?あんなヤツの仲間!?…信じられねえ。
「久しぶり、ヒカルちゃん」
「……呼び方は構わんが…久しぶりというのはおかしくないか?」
「いいや、久しぶりだよ。"この姿じゃない"けどね」
この姿…か、ということは、あまり俺に意識がない時か?最近記憶がぼやけて覚えてないことが多いから。
「ここから先は行かせないよ、俺も…欲しくなっちゃったから」
「…欲しい?」
「鏡ちゃんは力を手に入れたのに、あの祠を見つけ出して破壊した俺にはなにも無いなんて、…鏡ちゃんだけズルいと思わない?」
奴、一体なに考えてやがる……全くと言って良いほど読めない…。
「だから俺は気になる人物を見つけた。弟を守るために強い力だけを求め、更に風雅遊矢と近い人物だったから、都合もよかった」
「なるほどな、よく分かったよ。二人いるが、大方予想はつく。まず、托都は遊矢を守ろうなどとは考えない、そして強い力ではなく托都が求めるのは誰もに勝てる最強の力だ。ならば残る一人は、ヒカルだな」
「なにっ!?」
「ヒュー!リンちゃんスゴいねえ、大正解!!そうだよ、俺が欲しいのはヒカルちゃんそのもの!力とか体は俺自身がもう持ってるからね!」
わ、訳がわからない……。確かに托都が遊矢を守ろうとか言う考えがないのは知ってるが…。だからと言って俺のわけもないだろ!?
だが正解と言ってることは仕方ない……認めるしかないか…。
「分からんな、何故ヒカルが君に必要なんだ」
「必要?……違うよ、俺は欲しいだけ。風雅遊矢は心の闇と絶望の中で鏡ちゃんに取り込まれた。でもね、俺はそれ以上の絶望を与えたいんだよねえ!希望を絶望に変え踏みにじる!そして心を叩き潰して服従させる!これほどの悦楽……最高じゃないかなぁ?!」
「要するに、俺はお前のオモチャかよ…ざけんじゃねえ」
「うん!オモチャだよ!壊れても俺が直すから。…じゃあデュエルしようか!俺が勝ったら…後は分かるよね!」
「ふん、想像もしたくないな」
だがここを通るなら奴とデュエルするしかない、……負けるわけにはいかない…このデュエルは。
リンさんはデュエルできそうにないし、する気もなさそうだしな。
「行くぞ!デュエルディスク、セット!」
「デュエルディスクセット!」
「Dゲイザー、セット!」
《ARヴィジョン、リンク完了》
「「デュエル!」」
~~~
「托美さーん!」
「おっ、アミちゃんたちご一行じゃん」
「托都は?」
「反対方向に行ったよ、さっきは悪かったね」
「いえ、お気になさらずに」
「そうだよ!気に…あれ?」
「雨……だね…」
「今日は晴れの予報だったのになぁ」
傘持ってきてないのに……嫌な予感がする。
~~~
「俺の先攻、ドロー!…っ…!」
やはりデュエルは呪いの進行が早まるのか……、かなり痛い話だが…今は気にする暇がない。
眠っていた時、何故か曖昧に見えたが……エースモンスターは見たことの無いモンスターだったことから、コイツのデッキもおそらく見たことがないカードのはず。
「俺は《混沌光輝竜(カオスシャイニングドラゴン)》を特殊召喚!このモンスターは手札に同じモンスターがいる時、特殊召喚できる。もう一枚も特殊召喚」
《攻撃力:2000/レベル:8》
「レベル8の《混沌光輝竜》2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!《ギャラクティック・カオス・ドラゴン》!」
《攻撃力:3000/ランク:8/ORU:2》
「《ギャラクティック・カオス・ドラゴン》……」
奴が鏡と同じエースモンスターなら対策のしようがある、ならば今は守りにはいるしかない。
「俺は、カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
《手札:3》
「俺のターン、ドロー!俺は永続魔法を三枚発動。一枚目、《ディストーション・ミラー》は1ターンに一度、手札のモンスター一体を攻撃力を0にして特殊召喚する。二枚目、《ディスティニー・ギルティ》は魔法カードの効果で特殊召喚されたモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを与える!」
なるほどな、《ディストーション・ミラー》の効果でモンスターを特殊召喚し、更に《ディスティニー・ギルティ》の効果でダメージか。
しかも《ディスティニー・ギルティ》は《死者蘇生》などのカードも対応してるみたいだな。最悪ったら無い。
「三枚目、《トラジェディー・キュア》。相手が効果ダメージを受けた時、その半分を回復させることでカードを一枚ドローできる」
「嫌がらせみたいな効果だな」
「あぁ、まさになぶり殺しというやつだな」
《トラジェディー・キュア》の効果で、効果ダメージは半分になるが、アイツはカードをドローできる。……正直ウザいだけだな。
「さぁて、俺は《ディストーション・ミラー》の効果により、《ミラーソードナイト》を特殊召喚!」
《攻撃力:2000/レベル:5》
「くっ!!」
《ヒカルのライフ:3500》
「ドロー。更に《ミラークリアガール》を通常召喚!このモンスターは通常召喚に成功した時、レベルを一つ上げる」
《攻撃力:1000/レベル:4→5》
レベル5のモンスターが二体、なにが来る…!
「レベル5の《ミラーソードナイト》と《ミラークリアガール》でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろ《幻鏡竜 ファントム・ボイドドラゴン》!」
《攻撃力:2800/ランク:5/ORU:2》
「ファントム・ボイドドラゴン!?」
「あれは鏡のカードのはずだぞ!」
「今や鏡ちゃんは闇の風使い、俺の真のデッキ……激流の力を使うまでもないしね」
随分ナメられてるみたいだが……真のデッキとは一体なんなんだ……?
「真のデッキ……激流……、そうか、どうしてお前が、俺と会ったことがあるか分かった」
「フッ……やっとなんて遅いね」
「お前の正体、神の五王……ポセイラだ!」
「なっ…アイツが、神の五王?!」
アイツの髪が短くなって、全体的に青くなったのがポセイラだった。双子かとは考えたが。
ポセイラ……おそらくポセイドンだろう。海の神だから激流……だな。
「大正解。私こそ、神の五王が一人、ポセイラにして七罪鏡(ナツミキョウ)の友である誠です。……正確には、ポセイラは仮の姿…本当の姿は真実誠(マミマコト)だよ!」
90話へ続く
=====================
【あとがき】
今回の一言、「誠は変人」
誠の言葉遣いが完全にレン様です、本当にありがとうございませんでした。
ヒカルくん、お風呂はヒロインのサービスシーンです。ただし髪が長すぎて上半身だけ見たら完全にひんぬー協会のメンバーだよ。まさに公式が病気。
誠も誠で言ってることが全体的にヤバいよ本当に。相手が男だから更にヤバイ。ただのドS。
誠はまぁポセイラでした、詳しい話は次回話されますが、キャラが違いすぎる。本当に誰だお前。
幼馴染み組が動き出す!なんと言っても敏也と袢太が放置されまくってる。大河くんも戦力外な気がするけど…そこは察してください、真月的ポジだから。
全く触れられなかった鏡と誠の名前なんですが、七罪鏡と真実誠です。あれ…?真実ってどっかで聞いたような……気のせいか。
次回!!銀河の怒りが遂に目覚める!《銀河激昂》発動!
誠の余計な言葉のせいでヒカルの怒りは頂点に!そして誠とポセイラ、二つの姿を持つ神の真実とは?
このデュエルが鏡編最大のキーになる?
お楽しみに!!
そして!Muse-SONGの小説ではエンドカードが登場することが決定!
人気投票も決定して、ますます盛り上がりますので、皆さんどうかよろしくお願いします!
【予告】
誠の三枚の永続魔法と卑劣な策で窮地に立たされるヒカル。更に誠の放った言葉によって状況は悪化していく……。
遊矢を取り戻すために満身創痍になりながらデュエルするヒカルは一か八かギャラクシーになることを試みる。
そして誠の追い討ちに放った言葉でヒカルの怒りは頂点に達する!
次回!第90話「銀河激昂!!竜皇の力」
あれから二時間くらい。袢太くんが急いで呼んでくれたおかげでなんとか今はなってる。なんとか……。
「っえ~わりぃ、こっぴどく怒られた…」
「夜中のあんな時間に出ていったんだから当然と言えば当然よね」
狩也くんと雪那ちゃんは今ご両親が来たみたいで、どうやら怒られたみたい。私もさっき着信があったけど、怒られると言うか物凄く心配された。
慶太くんの両親はお医者さんから話を聞いてるところ。
「慶太はどうだ?」
「どうもこうもないぜ、目が覚めないらしいし」
「今は面会謝絶だよ……」
「そっか……」
こんなことになってるのに、リンさんも遊馬さんも来てくれないなんて……。
遊矢も……いや、あれは鏡っていう悪い人の仕業なんだから!遊矢は全然悪くない!!でもどうして遊矢は簡単に騙されちゃったのかな。
「畜生!!もう少し俺が早く着いていれば…!」
「狩也くんのせいじゃないよ!これは…」
「鏡の仕業、か?」
「!アンタ……」
「托都さん、托美先輩」
「やっほ~状況はヤバそうだね」
托都さんたちがなんでここにいるのを知ってたのかな。……もしかしてリンさんが呼んだ……?
「アミ、」
「えっ?…ホープ・オブ・ソード!?」
「リンが言っていた場所に行ったら落ちていた。あの鏡という奴がお前らとデュエルした場所にな」
なんでホープ・オブ・ソードがあんなところに落ちていたんだろう……。なんにしても、これで鏡を追う手はなくなっちゃった…。
托都さんは「持つ価値がない、ヒカルにでも渡しておけ」って言うけど……。
「私達は手分けして遊矢を探すから、みんなは一回家に帰りなよ」
「宛はないが手は尽くす」
「待てよ」
「?」
「アンタは遊矢の義兄さんなんだろ!?こんなことになる前に!なんとかできなかったのかよ!!」
「…じゃあお前は遊矢の親友だろう、遊矢が悩んでいることには気づかなかったのか」
「それは……」
「間違いなく俺より身近にいるのは、お前らだろうが…」
「じゃ……じゃあね~」
狩也くんの言うことは正しい……でも、托都さんの言うことも正しい。どっちもそうだよ、私達も遊矢を未だに分かってあげられてないんだもん。
「私達も探しましょ!」
「そうだな、こんなとこにいても始まらない」
「敏也くんと袢太くんは残って慶太くんを」
「わかりました!」
「じゃあ私たちは四人で!」
「うん!」
~~~
「なんでこんな迂回しなきゃならないんだ…というかどこに行くんだ!」
「仕方ないだろう、君を探すハートランドの連中から逃げながらなのだから、それに、もうすぐだ」
まさかアーチャーが壁ぶち破って入ってくるなんて思わなかった……。しかも片手で持ってかれて空の旅なんて想像を越えすぎてる。
二時間くらい経ったのに目的地に着かない理由は多々あったがとりあえず到着しそうだ。
「こ…こんなホテルの最上階に…!?」
「一人でいるぞ、今はリンの隠れ家だからな」
「こんなんじゃ頭隠して尻隠さずって奴だぞ…」
最上階の外から中に通ずる扉から入ると明らかに一人……ではないんだろうけど一人でいるには広すぎる部屋。
アーチャー曰く「最上階のフロアを貸しきってる」らしい。尚更一人には勿体ない気がするんだが、おそらく一人じゃないんだろうからスルーする。
「アーチャー、遅い。いくら追っ手がいても問題ないだろうが」
「すまない、スリルを味あわせたくてね」
「お前な………」
リンさんが広間の扉を開いて廊下に出る、追いかけていくと明らかに他とは違う大きな扉の前で止まった。
「お前、気づいてるだろ、ペンダントがないの」
「え…もしかしてリンさんが…?」
「ああ…ちょっと気になることがあってな」
~~~
「うーん……参ったなぁ~」
彼、今どこにいるのかなぁ…。全然分かんないし、しかも空にはヘリだらけときた。こりゃなにかやらかしたんだろうねえ。
……ん?
「今の力は…精霊の力…」
面白いねえ、楽しくなってきたじゃない。
~~~
まさか、あのペンダントにあんな意味があったなんて……。
___十数分前
「心層の貝殻…?」
「そうだ、過去の記述にはそう書いてある」
「だが、それがどうしたと…」
「心層の貝殻には持ち主に無限の力を与え、希望を持つ者には奇跡に、絶望を持つ者には闇に導く」
「奇跡と闇……」
「そして、今この青い状態ではただの力の塊だ。だから本物にする必要があった」
「本物?」
「ああ。その前に確認したいことがあってな」
___
「命を引き換えに力を…か」
リンさん曰く、本物の力を手に入れるには心層の貝殻と命を繋げなければいけないらしい。心層の貝殻が壊れたら最期、俺も死ぬ。
そんな危険と隣り合わせだから勝手にできなかったとか。
正直俺は構わないし、その程度の危険で更に強くなれるならって思ってる。だから良いって言ったし……なにより、あの鏡から遊矢を助け出す力になるなら…。
「君は正義の味方にでもなるつもりか」
「!?な、なな…お前!!なにしてる!?」
「天城カイトに言われただろう、君は今死んでいても…少なくとも瀕死の状態でもおかしくはない体だ、溺死していないか見張っているだけだ。しかも扉越しに」
「ビビらせんな!風呂で死ぬか!」
全く……、人が真剣に悩んでるってのになんなんだあの白髪、禿げるぞ野郎は。
べ…別に風呂に入ってたのに意味はない!リンさんにリラックスしろと言われたからだ!深い意味はない!…ただ久々に温まってる。
「正義の味方っつったよな」
「そうだ」
「俺はそんな柄じゃない、それは遊矢だろ」
「また君はそうやって風雅遊矢が正義だと自分を貶している」
「……なにが言いてえんだよ」
「私はあくまで、君が道を間違えないようにと考え、質問しただけだ」
質問か、別に正義の味方とかなんとかは関係ない。俺に今必要なのは正義のための力なんかじゃなくて強くなるための力だ。
「強くなりたいだけだ…」
「誰のために?」
「……さぁな」
風呂から上がったらアーチャーが付いてきた、そろそろ終わってるだろうし、入ってもだいじょう……、
「何故私がぁぁぁ!?」
「貴様!!ノックしろと教えろと言っただろうが!このバカ!!」
「……大丈夫か、アーチャー」
「…心配してくれたことには感謝しよう……」
リンさんが遂に人間に見えなくなってきた……あの人エネルギー弾なんて出せるのか…絶対相手にしたくないタイプだ。
「とりあえず終わったよ、これな」
受け取った貝殻は青いものとは全然違い、紅くて透き通っていて、光に当てたら眩しく輝いていた。
思っていたものとあまりにも違いすぎて驚いた、これが本当の姿なのか。
「微量のバリアライトを感じたが…気のせいか…」
「…なにか?」
「なんでもない。これで少しくらいは呪いが軽減されるはず、後はお前次第だ」
俺次第……か。
「ありがとうございます」
「行くのか、探しに」
「はい。感謝はしてるけど、勘違いしないでください。俺は、リンさんをそこまで信用してないです」
「……構わないぜ、別に」
リンさんは前から信用できてない、いや、できない。今までのことが用意周到すぎて逆に信用できなかった。
「あーららぁー?空気悪そうだねえ」
「誰だ!」
「くっ…!」
「リン!」
「あぁ、扉が封印されてる…つまり、この部屋に誰がいる」
「初めまして、お嬢様」
扉の目の前に突然、一人男が一人立っていた。赤が目に痛いが……どこかで見たことあるような気が……。
「お嬢様、というのは俺のことか」
「そうだよリンちゃん!」
「り……リンちゃん…!?」
「貴様は何者だ!」
「申し遅れたね。俺の名前は誠、鏡ちゃんの親友だよ」
鏡の親友……!?あんなヤツの仲間!?…信じられねえ。
「久しぶり、ヒカルちゃん」
「……呼び方は構わんが…久しぶりというのはおかしくないか?」
「いいや、久しぶりだよ。"この姿じゃない"けどね」
この姿…か、ということは、あまり俺に意識がない時か?最近記憶がぼやけて覚えてないことが多いから。
「ここから先は行かせないよ、俺も…欲しくなっちゃったから」
「…欲しい?」
「鏡ちゃんは力を手に入れたのに、あの祠を見つけ出して破壊した俺にはなにも無いなんて、…鏡ちゃんだけズルいと思わない?」
奴、一体なに考えてやがる……全くと言って良いほど読めない…。
「だから俺は気になる人物を見つけた。弟を守るために強い力だけを求め、更に風雅遊矢と近い人物だったから、都合もよかった」
「なるほどな、よく分かったよ。二人いるが、大方予想はつく。まず、托都は遊矢を守ろうなどとは考えない、そして強い力ではなく托都が求めるのは誰もに勝てる最強の力だ。ならば残る一人は、ヒカルだな」
「なにっ!?」
「ヒュー!リンちゃんスゴいねえ、大正解!!そうだよ、俺が欲しいのはヒカルちゃんそのもの!力とか体は俺自身がもう持ってるからね!」
わ、訳がわからない……。確かに托都が遊矢を守ろうとか言う考えがないのは知ってるが…。だからと言って俺のわけもないだろ!?
だが正解と言ってることは仕方ない……認めるしかないか…。
「分からんな、何故ヒカルが君に必要なんだ」
「必要?……違うよ、俺は欲しいだけ。風雅遊矢は心の闇と絶望の中で鏡ちゃんに取り込まれた。でもね、俺はそれ以上の絶望を与えたいんだよねえ!希望を絶望に変え踏みにじる!そして心を叩き潰して服従させる!これほどの悦楽……最高じゃないかなぁ?!」
「要するに、俺はお前のオモチャかよ…ざけんじゃねえ」
「うん!オモチャだよ!壊れても俺が直すから。…じゃあデュエルしようか!俺が勝ったら…後は分かるよね!」
「ふん、想像もしたくないな」
だがここを通るなら奴とデュエルするしかない、……負けるわけにはいかない…このデュエルは。
リンさんはデュエルできそうにないし、する気もなさそうだしな。
「行くぞ!デュエルディスク、セット!」
「デュエルディスクセット!」
「Dゲイザー、セット!」
《ARヴィジョン、リンク完了》
「「デュエル!」」
~~~
「托美さーん!」
「おっ、アミちゃんたちご一行じゃん」
「托都は?」
「反対方向に行ったよ、さっきは悪かったね」
「いえ、お気になさらずに」
「そうだよ!気に…あれ?」
「雨……だね…」
「今日は晴れの予報だったのになぁ」
傘持ってきてないのに……嫌な予感がする。
~~~
「俺の先攻、ドロー!…っ…!」
やはりデュエルは呪いの進行が早まるのか……、かなり痛い話だが…今は気にする暇がない。
眠っていた時、何故か曖昧に見えたが……エースモンスターは見たことの無いモンスターだったことから、コイツのデッキもおそらく見たことがないカードのはず。
「俺は《混沌光輝竜(カオスシャイニングドラゴン)》を特殊召喚!このモンスターは手札に同じモンスターがいる時、特殊召喚できる。もう一枚も特殊召喚」
《攻撃力:2000/レベル:8》
「レベル8の《混沌光輝竜》2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!《ギャラクティック・カオス・ドラゴン》!」
《攻撃力:3000/ランク:8/ORU:2》
「《ギャラクティック・カオス・ドラゴン》……」
奴が鏡と同じエースモンスターなら対策のしようがある、ならば今は守りにはいるしかない。
「俺は、カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
《手札:3》
「俺のターン、ドロー!俺は永続魔法を三枚発動。一枚目、《ディストーション・ミラー》は1ターンに一度、手札のモンスター一体を攻撃力を0にして特殊召喚する。二枚目、《ディスティニー・ギルティ》は魔法カードの効果で特殊召喚されたモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを与える!」
なるほどな、《ディストーション・ミラー》の効果でモンスターを特殊召喚し、更に《ディスティニー・ギルティ》の効果でダメージか。
しかも《ディスティニー・ギルティ》は《死者蘇生》などのカードも対応してるみたいだな。最悪ったら無い。
「三枚目、《トラジェディー・キュア》。相手が効果ダメージを受けた時、その半分を回復させることでカードを一枚ドローできる」
「嫌がらせみたいな効果だな」
「あぁ、まさになぶり殺しというやつだな」
《トラジェディー・キュア》の効果で、効果ダメージは半分になるが、アイツはカードをドローできる。……正直ウザいだけだな。
「さぁて、俺は《ディストーション・ミラー》の効果により、《ミラーソードナイト》を特殊召喚!」
《攻撃力:2000/レベル:5》
「くっ!!」
《ヒカルのライフ:3500》
「ドロー。更に《ミラークリアガール》を通常召喚!このモンスターは通常召喚に成功した時、レベルを一つ上げる」
《攻撃力:1000/レベル:4→5》
レベル5のモンスターが二体、なにが来る…!
「レベル5の《ミラーソードナイト》と《ミラークリアガール》でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろ《幻鏡竜 ファントム・ボイドドラゴン》!」
《攻撃力:2800/ランク:5/ORU:2》
「ファントム・ボイドドラゴン!?」
「あれは鏡のカードのはずだぞ!」
「今や鏡ちゃんは闇の風使い、俺の真のデッキ……激流の力を使うまでもないしね」
随分ナメられてるみたいだが……真のデッキとは一体なんなんだ……?
「真のデッキ……激流……、そうか、どうしてお前が、俺と会ったことがあるか分かった」
「フッ……やっとなんて遅いね」
「お前の正体、神の五王……ポセイラだ!」
「なっ…アイツが、神の五王?!」
アイツの髪が短くなって、全体的に青くなったのがポセイラだった。双子かとは考えたが。
ポセイラ……おそらくポセイドンだろう。海の神だから激流……だな。
「大正解。私こそ、神の五王が一人、ポセイラにして七罪鏡(ナツミキョウ)の友である誠です。……正確には、ポセイラは仮の姿…本当の姿は真実誠(マミマコト)だよ!」
90話へ続く
=====================
【あとがき】
今回の一言、「誠は変人」
誠の言葉遣いが完全にレン様です、本当にありがとうございませんでした。
ヒカルくん、お風呂はヒロインのサービスシーンです。ただし髪が長すぎて上半身だけ見たら完全にひんぬー協会のメンバーだよ。まさに公式が病気。
誠も誠で言ってることが全体的にヤバいよ本当に。相手が男だから更にヤバイ。ただのドS。
誠はまぁポセイラでした、詳しい話は次回話されますが、キャラが違いすぎる。本当に誰だお前。
幼馴染み組が動き出す!なんと言っても敏也と袢太が放置されまくってる。大河くんも戦力外な気がするけど…そこは察してください、真月的ポジだから。
全く触れられなかった鏡と誠の名前なんですが、七罪鏡と真実誠です。あれ…?真実ってどっかで聞いたような……気のせいか。
次回!!銀河の怒りが遂に目覚める!《銀河激昂》発動!
誠の余計な言葉のせいでヒカルの怒りは頂点に!そして誠とポセイラ、二つの姿を持つ神の真実とは?
このデュエルが鏡編最大のキーになる?
お楽しみに!!
そして!Muse-SONGの小説ではエンドカードが登場することが決定!
人気投票も決定して、ますます盛り上がりますので、皆さんどうかよろしくお願いします!
【予告】
誠の三枚の永続魔法と卑劣な策で窮地に立たされるヒカル。更に誠の放った言葉によって状況は悪化していく……。
遊矢を取り戻すために満身創痍になりながらデュエルするヒカルは一か八かギャラクシーになることを試みる。
そして誠の追い討ちに放った言葉でヒカルの怒りは頂点に達する!
次回!第90話「銀河激昂!!竜皇の力」