以下はどらこの妄想です。
さらりとスルーしてくだちゃい。
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塾の帰り、遅くなるからっていつもはママが車で迎えに来てくれるのに、
今日はお仕事で遅くなっちゃうって、さっき電話が来て。
『近くのファストフード店で待っててね』
って。
塾の近くのお店に来た。
あーあ。今日は早く帰りたかったのに。
見たいテレビもあったのに。
ちょっと拗ねながら入ったお店の、カウンターに、その人は、居た。
「いらっしゃいませー!」
って、よく通る声。
アルバイトしてるんだから、わたしより年上だろうけれど…。
まるで、同級生にもいそうなくらい、な。
ううん。うちのクラスには絶対居ない、そのくらい、すごく、すごくかっこよくて。
わたしをみて、ニコッと微笑んだ彼の琥珀色の瞳の中に、キラって星が輝いたように、見えたんだ。
それから。
ママにはわざと、塾の終わる時間が遅くなったって言って、お迎えに来てもらう時間をずらして、
そのお店に通うようになった。
あのひとは、いつもカウンターにいる訳じゃないみたい。
覗き込むと、奥の厨房でハンバーガーを作っていたり。
ポテトを揚げていたり。
そんな時も、いつものよく通る、ちょっと高めの声で、
「いらっしゃいませー!」
って、声が響いてる。
その声を聞いたらね、なんだか、嬉しくて。
胸の奥が、きゅーんてなって。
わたし、受験頑張る!って。
そういう気分になれたんだ。
そして、念願の高校生になれたわたしは、
あのファストフード店でアルバイトを始めた。
おうちから遠いお店を選んだことを、ママは不思議がっていたけど。
どうしても、ここが良かったの。
初めは、緊張しっぱなしで……
ありえないミスを連発して。
お客様の注文が聞き取れなくて、何回も聞き返してイライラさせてしまったり。
アイスコーヒーなのにスティックシュガーを渡してしまったり。
なかなか仕事が覚えられなくて、
もう、ダメ、って…。泣きたくなった。
もう、行きたくないな…。
また、失敗しそう…。って毎日思って。
それでも、頑張れば、あのひとに…。
二宮先輩に、会える。
不純かもしれないけど、
その思いだけでわたしは、がんばって通った。
同級生みたいに見えた二宮先輩は、大学生だった。
いつも、同じ大学生のアルバイトの男の子たちと、笑ってる。
キラキラ笑顔で王子様だ!って思ったあの顔は、お客様の前だけで、
控え室ではいつも、
ダルいなー、早く帰りたいなー、なんて愚痴ってる。
ダラダラして、男の子たちと下ネタで笑って、
いつも、ウザいなーって思ってる、うちのお兄ちゃんと変わんない。
それなのに、お店に入ったら…。
一瞬でキラキラの王子様に変わっちゃうんだ。
二宮先輩の笑顔にクラクラしちゃって、毎日通うオバサマたちも居るって、ほかの先輩からも聞いたし。
先輩がカウンターに入ると、なんだか列が長くなるような気がするもん。
ちょっと、ジェラシー。
なんて、わたしなんて、仕事の時くらいしか話したことない。
緊張しちゃって。
それでも、だんだん仕事も覚えてきた、ある日。
仕事の前に復習しとこうと思ってちょっと早めに控え室にいったら、
二宮先輩が、机に突っ伏して居眠りしていた。
休憩中かな。
制服の襟元、ボタンひとつ緩めて、
片手を伸ばすようにして机にうつ伏せてる。
今どき珍しいくらいのナチュラルな黒髪が、目と頬の一部にかかっていて、
琥珀色の、色素の薄い瞳は閉じられて。
伸ばした腕に押し付けられた頬がムニッとなってる。
そういえばこの前、ほっぺが柔らかくてこんなに伸びる!なんてふざけてたっけ。
わたしは、机を挟んでそっと先輩の斜め向かいに座った。
狭い控え室。
すうすうと先輩の寝息まで聞こえてきそう。
目の前に、先輩のつむじ。
エアコンの風に、髪が揺れる。
勉強しようと思って、マニュアルを開いたけど、内容が入ってくるわけなくて、
ただ、自分の心臓の音だけが聞こえてる。
こんなにドキドキしたら、先輩に聞こえて起きちゃうよ!
どうしよう、どうしよう、先輩と、ふたりっきりだよー!!
突然、控え室にスマホの音が鳴り響いた。
ビックリして落としそうになったマニュアルを、指先に力を入れて抱える。
先輩は、アラームをピッと止めて大きく伸びをして、顔中をくっしゃくしゃにして大あくびをした。
そして、それをぼーっと眺めていたわたしと、ぱっと目が合った。
「お、おはよう、ございます……」
「おはよ」
ニコッと笑う先輩。か、か、かっこいい…!
寝起き!寝起き!寝起きの先輩!
「勉強、してんの?偉いね」
手に握りしめていたマニュアルをみて、言われた。
「わたし…失敗ばっかりで。なかなか慣れないし、迷惑、かけてばっかりで」
「アナタはさ、まあ確かにまだ慣れてないし、ウッカリしちゃうことあるけどさ。
みんな最初はそんなもんよ?
それにさ、お客様の前でちゃんと笑顔ができてるでしょ?
おっきな声で挨拶もできる。
お願いごとしたら、すぐ動いてくれるし、丁寧で仕事が綺麗で。
出来ることたくさんあるんだからさ。
大丈夫。すぐ慣れるよ。」
先輩の、優しい声と表情と、
なによりも、見ててくれたんだ…ってことに、なんだかジーンとして、鼻の奥がツンとする。
「ほら、そんな顔しないの。せっかくの自慢のスマイルが台無しよ?」
くふふ、って笑って、わたしの頭をポンポンと撫でてくれた。
「一緒にがんばろ。仲間なんだからさ。」
先輩……。
もう、行きたくないな、辞めた方がいいのかな、なんて思ってた気持ちはすっかり消えて。
いつか、先輩と肩を並べられるように。
胸をはって、好きですって言えるように、
がんばろうって、心に誓ったんだ。