私の父は平成4年に、母は平成27年にそれぞれ亡くなったが、私は母が亡くなった時に不思議な体験をした。それはまるで父が母を迎えにきたようだった。

父は最終的には心筋梗塞で亡くなったのだが、それは、晩年にかけて次第に父の体を蝕んでいた動脈硬化が根本的な原因だった。最初の動脈硬化による症状は亡くなる10年ほど前に眼に現れた。 

それは仙台市内の実家で父が私など家族何人かと話していた時のことだった。突然、父は右目が全く見えなくなったと訴えたのである。急いで近くの眼科クリニックに駆け込んだところ、右目の網膜に血液が通っていないために大きな病院での緊急治療が必要だと医師から告げられた。時間を争う事態だった。しかし当日は総合病院の外来部門が休診の土曜日の午後で、対応できる病院での治療開始が遅れた。国立仙台病院での診察の結果、当時、この疾病に有効とされる高圧酸素療法を行っていた東北大学病院を紹介されて転院となった。しかし大学病院に行った時にはすでに手遅れで、治療はしてみるが回復はほとんど期待できないと医師に告げられた。結局、父の右目は失明した。動脈硬化が原因で網膜の血管が閉塞して血液が通わなくなって細胞が壊死したのだ。それから父は片目だけの不自由な生活となったが、やがてそのような生活にも慣れ、その後の数年間は片道20分ほどの職場まで自転車で元気に通勤できるまでになっていた。

しかし、それから数年すると動脈硬化による病魔は足に現れた。父は足の冷えと痛みを訴えるようになり、大学病院で診察を受けたところ足の脈拍が極めて微弱で、血管はかなり細く硬化していて、末端まで血液が十分に行き渡っていないとのことだった。このままでは壊死を起こして足の切断に至る恐れがあると告げられた。結局、腕などから血管を切り取って、その血管で患部にバイパスを作る血管移植手術を受けることになった。しかし入院ベットの空きがないために20日間の自宅待機となった。ところが、その期間に試した素人療法が血管移植手術の回避に繋がったと思われる出来事が起きたのである。(つづく)