その後、二人はホテルを探して、歩いていた。
「それにしても、人が全く歩いてないんだね」
レベッカが、あたりを見回す。
電灯が、ところどころに設置されているが、その距離は遠い。
再びキリも出てきて、ただでさえ、暗いのに、さらに視界が悪くなっていく。
キリがなかったのは、せいぜい、20分くらいだった。
それに、輪を賭けて、不思議なのは、立ち並ぶ病棟の窓から、明かりが一つも見えないことだ。誰もいないのか、無人の星とさえ思ってしまう。
それでも、しばらく歩くと 、明りが洩れる、建物がみえてきた。
どうやら、ホテルらしい。二人ともほっとしながら、
中に入ると、コンピューターの電子の声が迎えた。
「イラッシャイマセ。当ホテルハ、スベテ、コンピューターガ管理シテイマス。デスノデ、ドナタサマモ安心シテ、ゴ利用イタダケマス」
殺風景で、何もない応接室。花瓶の一つも置いてなかった。そこに、あの駅前広場にあった、ばかにでかいブロンズ像がたっているから、余計に目立つ。あとは、薬品の、あの独特の鼻につく消毒薬のにおいが充満していた。ホテルというより、まるで病院のようだった。
「ねえ、この像のおじいさんっていったい、誰なの?」
レベッカが何気なくたずねた。
「偉大ナル大院長、ドクターアカヒゲヲ知ラナイノデスカ!」
「うん、知らないけど、すごい人なの?」
「アア、ナント、嘆カワシイコトダ! 未ダニ、ドクターアカヒゲヲシラナイ人ガイルナンテ」
「そんなことないよ、宇宙はひろいもん、ねえ、鉄郎」
「・・・うん」
「イイデスカ。ドクターアカヒゲハコノ星ノ、創始者ニシテ、多クノ患者ヲ救ッテキタ、大院長ナノデス。ドンナ貧シイ者デモ、差別セズ、助ケマシタ。神様ト呼ブ人マデアルグライデス」
「大院長ねえ・・・じゃあ、私も見てもらえるの?」
「レベッカ・・・どこか悪いとこでもあるのかい?」
鉄郎がたずねる。
「ないけどさ、どんな人なのか、ちょっと興味あるでしょ」
「ソレハ無理デス」
「何でよ! 誰でも差別なく、みてくれるんでしょ!」
「貧乏ナ人ハ、ミナイノデス」
「あんた、言っていることと違うじゃない!」
「私ニイワレテモ困リマス。アトハ、中ノ人間ニ聞イテクダサイ」
「結局、金儲けじゃない・・・」
レベッカがあきれて言った。
「トコロデ、オ客様、部屋ハ別々デヨロシイデスカ?」
「うん、別々で・・・」
鉄郎の言葉を、レベッカがさえぎった。
「駄目、駄目、一緒、一緒。部屋は一緒でいいから」
不思議がる鉄郎と顔を合わせると、
「いいでしょ。だって、この星、薄気味悪いんだもん」
「はあ」
「ワカリマシタ。オ客様ノオ部屋ハ、18階ノ、18018号室二ナリマス」
「18階! すごい大きいホテルだな」
「ハイ・・・ココハ、他ノ病棟ト同ジツクリヲシテイマス。三十階建テ、部屋ハ各階ニ100室アリマス。迷ワレナイヨウニ、オ気ヲツケ下サイ…ソレト、部屋ニ、当館用ノ服ガアリマスノデ、ソチラニオ着替エクダサイ」
「そう、着替えればいいんだね。
ああ、そうだ、飯はどうすればいいの?」
鉄郎が聞いた。
「3階ガ食堂室ニナッテイマス」
「3階ね。ありがとう」
二人は、部屋に向かった。
薬品のにおいと、同じ部屋が続く薄暗い廊下。部屋の番号を忘れれば、二度と同じ部屋を見つけられそうにはない。
『10018号室』
部屋に入っても、薬品の臭いは消えない。それどころか、より強烈になった気さえした。
部屋に入って、まず目につくのは、肖像画だった。ブロンズ像と同じ、人物だった。
「本当に、このセンセイは、崇拝されているのね」
レベッカがまじまじと、肖像画を眺めた。
「うん・・・それより、ここ、本当に病院みたいだね」
鉄郎が、部屋を見回しながら、言った。
壁の両端にそれぞれ、簡易的なベットが置いてあった。白いシーツの敷いてある、病院でよくみかけるベットだ。棚を開けると、淡い青色の浴衣型の患者衣が、かかっていた。
「なんか入院したみたいで嫌になっちゃうなあ」
鉄郎が口をとがらせる。その後ろで、レベッカがベットの下から何か取り出し、わなわなと震えていた。
「どうした?」
目にわずかに涙をたえ、レベッカは振り返ると、透明のしびんを持っていた。
「嫌になっちゃう」
「本当に何なんだ、ここは。薬品くさいし・・・くそっ」
鉄郎は空気でも入れ替えようと、窓を開けようとした。しかし、バタバタいうばかりで、あかない。鍵がかかったうえ、外から窓が鉄板でとめられていた。これでは、中から光が洩れようがない。
「だから、電気が付いていない様にみえたんだな」
何とも、嫌な気分がして、鉄郎はベットに飛び込み、あおむけに寝転んだ。
レベッカも、ベットに座ると、ギイギイと腰をベットに沈めながら、少し考え込んで、
「あーあ。ここに泊らなきゃいけないなんて嫌になっちゃうね」
といった。
「うん・・・まるで、入院したみたいだよ。それにしても、部屋もかしこも、白いんだね」
天井の壁ももちろん、白く塗られていた。天井をみると、なぜか、風邪で、家で寝込んだ時を思い出す。
その時は、寒々とした風が吹き込むような部屋だった。その部屋の天井に裸電球があって、不思議とその光が温かく思え、毛布のぬくもりとともに思いだされた・・・きっと、母さんがいたからだろう、鉄郎の頭をなんともなしに、記憶がせわしなく廻った。
そのそばから、鉄郎の腹の虫がぐーという。
「あっ」
思わず、おなかをさすった。
「僕の腹に住む虫は強烈だからなあ」
「ふふ・・・鉄郎、景気づけに、なんか食べ行こうよ」
「うん、そうしよっか・・・そうだ、着替えないといけないんだよな」
「えー、嫌よ。私たちは入院患者じゃないんだから」
「しょうがないよ、決まりなんだから、僕は着替えるよ」
「私はいいや。注意されたら、着替えるから」
このレベッカの判断が、大きな間違いだったが、今は知る由もない。
もぞもぞと芋虫みたいに体を動かし、鉄郎が患者衣に着替えると、二人は部屋を後にした。
「それにしても、人が全く歩いてないんだね」
レベッカが、あたりを見回す。
電灯が、ところどころに設置されているが、その距離は遠い。
再びキリも出てきて、ただでさえ、暗いのに、さらに視界が悪くなっていく。
キリがなかったのは、せいぜい、20分くらいだった。
それに、輪を賭けて、不思議なのは、立ち並ぶ病棟の窓から、明かりが一つも見えないことだ。誰もいないのか、無人の星とさえ思ってしまう。
それでも、しばらく歩くと 、明りが洩れる、建物がみえてきた。
どうやら、ホテルらしい。二人ともほっとしながら、
中に入ると、コンピューターの電子の声が迎えた。
「イラッシャイマセ。当ホテルハ、スベテ、コンピューターガ管理シテイマス。デスノデ、ドナタサマモ安心シテ、ゴ利用イタダケマス」
殺風景で、何もない応接室。花瓶の一つも置いてなかった。そこに、あの駅前広場にあった、ばかにでかいブロンズ像がたっているから、余計に目立つ。あとは、薬品の、あの独特の鼻につく消毒薬のにおいが充満していた。ホテルというより、まるで病院のようだった。
「ねえ、この像のおじいさんっていったい、誰なの?」
レベッカが何気なくたずねた。
「偉大ナル大院長、ドクターアカヒゲヲ知ラナイノデスカ!」
「うん、知らないけど、すごい人なの?」
「アア、ナント、嘆カワシイコトダ! 未ダニ、ドクターアカヒゲヲシラナイ人ガイルナンテ」
「そんなことないよ、宇宙はひろいもん、ねえ、鉄郎」
「・・・うん」
「イイデスカ。ドクターアカヒゲハコノ星ノ、創始者ニシテ、多クノ患者ヲ救ッテキタ、大院長ナノデス。ドンナ貧シイ者デモ、差別セズ、助ケマシタ。神様ト呼ブ人マデアルグライデス」
「大院長ねえ・・・じゃあ、私も見てもらえるの?」
「レベッカ・・・どこか悪いとこでもあるのかい?」
鉄郎がたずねる。
「ないけどさ、どんな人なのか、ちょっと興味あるでしょ」
「ソレハ無理デス」
「何でよ! 誰でも差別なく、みてくれるんでしょ!」
「貧乏ナ人ハ、ミナイノデス」
「あんた、言っていることと違うじゃない!」
「私ニイワレテモ困リマス。アトハ、中ノ人間ニ聞イテクダサイ」
「結局、金儲けじゃない・・・」
レベッカがあきれて言った。
「トコロデ、オ客様、部屋ハ別々デヨロシイデスカ?」
「うん、別々で・・・」
鉄郎の言葉を、レベッカがさえぎった。
「駄目、駄目、一緒、一緒。部屋は一緒でいいから」
不思議がる鉄郎と顔を合わせると、
「いいでしょ。だって、この星、薄気味悪いんだもん」
「はあ」
「ワカリマシタ。オ客様ノオ部屋ハ、18階ノ、18018号室二ナリマス」
「18階! すごい大きいホテルだな」
「ハイ・・・ココハ、他ノ病棟ト同ジツクリヲシテイマス。三十階建テ、部屋ハ各階ニ100室アリマス。迷ワレナイヨウニ、オ気ヲツケ下サイ…ソレト、部屋ニ、当館用ノ服ガアリマスノデ、ソチラニオ着替エクダサイ」
「そう、着替えればいいんだね。
ああ、そうだ、飯はどうすればいいの?」
鉄郎が聞いた。
「3階ガ食堂室ニナッテイマス」
「3階ね。ありがとう」
二人は、部屋に向かった。
薬品のにおいと、同じ部屋が続く薄暗い廊下。部屋の番号を忘れれば、二度と同じ部屋を見つけられそうにはない。
『10018号室』
部屋に入っても、薬品の臭いは消えない。それどころか、より強烈になった気さえした。
部屋に入って、まず目につくのは、肖像画だった。ブロンズ像と同じ、人物だった。
「本当に、このセンセイは、崇拝されているのね」
レベッカがまじまじと、肖像画を眺めた。
「うん・・・それより、ここ、本当に病院みたいだね」
鉄郎が、部屋を見回しながら、言った。
壁の両端にそれぞれ、簡易的なベットが置いてあった。白いシーツの敷いてある、病院でよくみかけるベットだ。棚を開けると、淡い青色の浴衣型の患者衣が、かかっていた。
「なんか入院したみたいで嫌になっちゃうなあ」
鉄郎が口をとがらせる。その後ろで、レベッカがベットの下から何か取り出し、わなわなと震えていた。
「どうした?」
目にわずかに涙をたえ、レベッカは振り返ると、透明のしびんを持っていた。
「嫌になっちゃう」
「本当に何なんだ、ここは。薬品くさいし・・・くそっ」
鉄郎は空気でも入れ替えようと、窓を開けようとした。しかし、バタバタいうばかりで、あかない。鍵がかかったうえ、外から窓が鉄板でとめられていた。これでは、中から光が洩れようがない。
「だから、電気が付いていない様にみえたんだな」
何とも、嫌な気分がして、鉄郎はベットに飛び込み、あおむけに寝転んだ。
レベッカも、ベットに座ると、ギイギイと腰をベットに沈めながら、少し考え込んで、
「あーあ。ここに泊らなきゃいけないなんて嫌になっちゃうね」
といった。
「うん・・・まるで、入院したみたいだよ。それにしても、部屋もかしこも、白いんだね」
天井の壁ももちろん、白く塗られていた。天井をみると、なぜか、風邪で、家で寝込んだ時を思い出す。
その時は、寒々とした風が吹き込むような部屋だった。その部屋の天井に裸電球があって、不思議とその光が温かく思え、毛布のぬくもりとともに思いだされた・・・きっと、母さんがいたからだろう、鉄郎の頭をなんともなしに、記憶がせわしなく廻った。
そのそばから、鉄郎の腹の虫がぐーという。
「あっ」
思わず、おなかをさすった。
「僕の腹に住む虫は強烈だからなあ」
「ふふ・・・鉄郎、景気づけに、なんか食べ行こうよ」
「うん、そうしよっか・・・そうだ、着替えないといけないんだよな」
「えー、嫌よ。私たちは入院患者じゃないんだから」
「しょうがないよ、決まりなんだから、僕は着替えるよ」
「私はいいや。注意されたら、着替えるから」
このレベッカの判断が、大きな間違いだったが、今は知る由もない。
もぞもぞと芋虫みたいに体を動かし、鉄郎が患者衣に着替えると、二人は部屋を後にした。