嘘つきdoor~あるいは表層だけの言葉 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

先日は約束どおりマジック用のトランプを裏返したまま、紅黒に分けたり何のカードか当てたりした。
それぐらいは何とかなる。しかし引いたカードを戻してもらって他のカードの中からつまみ出すようなカードマジックは話術が80%の比率で重要だ。その話術が私は全然ダメ。
これは目の前に誰かいて場数を踏まないとどうしようもない。


何のカードか当てるための仕掛けは、カードの裏側の左上のマークに隠されている。
「どこに仕掛けがあるのかなぁ」とたかしはカードの裏を見ていた。
私はカードの真ん中を差して
「この辺よーく見てみな」と言った。
「全然変わらないじゃん」
「あ、ごめん、この札2枚ともジョーカー」
裏返してみるとやはりジョーカーだった。


「他のカードをよーく見てみな」
そう言い残してキッチンに行ってお茶を入れて帰ってくると
「こら~、doorはウソツキだなぁ」
と、たかしに羽交い絞めにされた。
「えへ、分かった?」
「すっかり騙されたよ。真ん中じゃないじゃないか。しかも当たり前の涼しい顔して言うんだもんなぁ」
「あははは、ウソツキだよ。私はウソツキだよ」
私はどこか馬鹿みたいに一本気なのだろう。そして多分天才的に嘘つきだ。


口から出た言葉はどこまで真実を物語っているんだろう。
私が言った言葉はそのままの意味で相手に理解してもらえているのだろうか。
その時はどんなに真実でも、時間が経つと概ね物事は薄っぺらな嘘になってしまう。


そんなことを考え始めたら言葉は出てこなくなる。いっそ自分を嘘つきと定義してしまえば、その心の負担を軽くすることが出来る。万感の想いをどんなに誠実に言葉に乗せても、私は嘘つきを自称することでしか言葉を発することが出来ない。
どこまでも相手にも自分にも誠実でありたいと願うから。


付き合い始めの頃
「僕はdoorに隠し事も嘘をつくつもりもない」と言ったのは
たかしなりの誠実の表れだった。それは言葉どおり理解できる。


でも私は彼と同じくらいの誠実さを持って
「私は女だから隠し事も嘘もつくよ」と言った。

それなのに何故私は社交辞令も言えないしカードマジックも下手なのだろう。