パーキングエリアにかかる月 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

月

足柄パーキングエリアでひと休み。

ちょうど夕刻、朱に染まる富士が美しかった。

逢っている時、私たちはあまり喋らない。ただ感じていたい。

空を、風を、光を、色を、温度を、お互いの体温、はにかみながら、照れながら握り合う手の感触、互いの笑顔、ただそこにいる相手を。

東京方面に戻っていたから、バックミラーでしか夕日が見られないたかしと、一緒に夕日を、夕日に輝く富士を見たかった。言葉などいらない。


手を繋いでパーキングエリアの裏手に回ると、信じられないほど美しく輝く富士があって、ひと気のないそこでこの日初めて長く長くキスをして抱き合った。

おそらく傍目から見ると仲の良い夫婦にしか見えないだろう。でも私たちは未だに見つめあうと照れてしまう。


この晩の睦言。メガネを外したたかしの顔を見つめ、鼻を突付いていると彼は照れて顔を隠した。

「ねぇ、もしかして私たちって顔似てない?」

「うん、似てると思う」

「やっぱり、似てるよね」

「うん」

小さい頭、笑うと球に近づく顔のつくり、長い首、長めの鼻の下、しっかりと結ばれた口元。

「初めてあったとき、まずいなぁ、困ったなぁって思った」

「何で困るのぉ」

「似ているなぁって思って」

「似てたらなんで困る?」

「だって好きになってしまうってわかったから」

「えぇ?そんなに前から?」


初めてあった時、絶対好きになってしまうってわかった。

同じ志向、似た顔、同じ境遇。これだけ揃っていたら自分をコントロールできそうに無い予感があって、深みに落ちてしまいそうで当惑した。


恋をすることと、傷つくことは表裏一体。何とか自分の気持ちをコントロールをしなければならない。自分ひとりの身の上ではないのだから。そしてもう、私たちは嫌というほど傷ついているのだから。

私は傷つくのがまだ怖かった。


あの頃、私がそういうとたかしは

「僕はもう傷つく覚悟が出来ているかもしれない」と言ってのけたっけ。


夕刻、光り輝く富士を見た後、車に戻る途中ハーフムーンが見えていた。