金木犀 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

金木犀の薫りで秋を感じるとたかしは言っていた。

昨日買い物に出たら、霞がかった重い空気が甘い芳香を漂わせている。

薫りが届くメールがあれば良いのにと、

金木犀を探して、せめてもと、下から花を撮って送った。


「秋だね、良い薫りをありがとう

こっちも咲いているよ

ちょっと切ない気持ちを誘う匂い、doorを抱きしめたい」

そんなことを言われたら、こっちだって切なくなる


今日の夕方アパートへ帰る道すがら、姿を隠し、薫るペールオレンジに胸が詰まる

「ねぇ、ちょっとだけ声が聞きたいの。電話して良い時間を教えて」

「6時半頃、電話する」


雨上がりの大気は昨日と同じ薫り。その空気の中に佇んで電話を待っていた。

「ただちょっと声を聞きたかっただけで」

「僕もそうだからメール貰って嬉しかった」


私が逢いたいと言ったら、無理をして来てくれるだろう。だから言えない。

言いたいけど、言えないんだよ。

次にいつ逢えるか判らない今は。


「運転、気をつけて帰ってね」

「うん、分かった~」


話すことなんて何にも無い。

この薫りの中で私を抱きしめて。