第2章 vol 9 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

2005-06-07
トラックバックステーションにもの申す
テーマ  恋愛についてあれこれ

 男と女、どっちが得?

今回、正直言ってトラックバックステーションの出題記事を読んで少しショックでした。

一般的な恋愛図式は、女が男に尽くし、男が女をいたわるというもの。いまや逆の場合もあり、一概には言い切れませんが、カップルで男と女がそれぞれの役回りを演じ分けることによって恋愛はスムーズにいくのではないでしょうか? 

これって恋愛ですか?夫婦じゃなくて?尽くすとか尽くされるとか恋愛でそんなこと考えたこともなかったです。
 だいたい尽くされて良いなと思うんだったら尽くさなければ良いし、尽くすという行為は結局のところ自分がしたいからしているわけです。行動は感情の発露なので好きであれば相手に何かしてあげたいと思うのは当然なのでしょう。それに対して見返りを求めるというのは少し違うのではないかと。相手が負担に思うこともあるだろうし、だんだんそれが当たり前になって来て尽くしている方は次第に文句がでてくるwいたわりが足りないとか、感情が無くなっても行動は当たり前のこととして受け取られるとか。
あ~自分で書いていて耳が痛いw
いやいや、今現在はそう思っているのです。

それならばなるべく尽くさないで、たくさんいたわり合う関係が理想なのかなと最近は思ったりしています。

恋愛で男と女の役割分担なんて関係無いんじゃないかしら。むしろ力関係、惚れたもの負け、愛したもの負け、こちらの方が大きいでしょう。

ことを恋愛に限らないと男女での役割分担は厳然とあるし、個人的には正直男に生まれたかったというのはあります。やっぱりまだまだ男性社会ですから男性に有利に出来ていると断言しちゃいます。
ただライフスタイルとして女性の方が選択肢が広いような気がするのでその辺で得と感じる人が居ても不思議ではないでしょう。

もう21世紀も随分すぎているのですから、男性だからこう、女性だからこうという役割分担を示唆するのは止めましょうよ、恋愛に限らず。



2005-06-08
ずっとしってた
テーマ  あいしてる

yuuhi


そのクールな物腰の向こうに

うっすらと浮かべたほほえみの裏に

その涼やかな瞳の奥に

隠した魂の熱さを知ってる

ずっと知っていた

ずっと



2005-06-09
転音 8
テーマ たかし第2章

「なんだ、それで怒っているのか」
「そういう訳じゃないけど、何だか彼女と…ずいぶん親しそうだから」
「えっdoorそれって焼き餅?」
二人して顔を見合わせてしばらくの沈黙があった。
「そうかも」
たかしはニヤニヤと笑い始めた。
「へぇそう、珍しいこともあるもんだね」
「…しらないっ!ほら運転交代するわよ」
私は何だか照れくさく恥ずかしくなって運転席を変わった。
kousoku
 その後のドライブは多少渋滞に巻き込まれたけれどスムーズに行った。みさきちゃんとも普通に楽しく話せたし、ブログの話になると妙にたかしがそわそわするのが可笑しかった。旅先の土産話も楽しく聞くことが出来た。よく話してみると彼女だって普通の良い子で、彼女の自宅の前で車を止めたときには仲良くなれていた。けれど心の底の方にしっかりと澱のようなものは溜まり、それが私の不安を誘った。またこんな想いをすることがあるのかしら。あんな風に、我を忘れそうになるくらい嫉妬することがあるのかしら…

 たかしのアパートには寄らずに真っ直ぐに私のマンションへ向かい、玄関を入った途端にたかしにしがみつく。もう気持ちを抑えられなかった。たかしは優しく抱きしめてくれた。
「寂しかった、寂しかった、やっぱり行けば良かった」
「ほら~だから言ったじゃないか」
「うん、ごめんね。だけど、また電話するって言って全然電話してくれないんだもん」
「俺も悪かったから、ごめんな」
「もういい、帰ってきてくれたからもういい」
このまま永遠に時が止まればいいと思う時がある。この時がまさにそうだった。たかしの広い胸に抱かれて心の底からホッとする。ずっと耐えていた何かが開放されて気持ちが溶けてゆく、穏やかに寂しさが溶けていく、ゆっくりと心が解けていく。何もかもがほどけていって彼の心と結ばれてゆく。
「もう離れたくない」
たかしも頷いていた。
二人で玄関に立ったままいつまでも抱き合っていた。もう離れていたくない。ずっと一緒にいたい。

 翌日からたかしは出勤し2、3日時間の許す限り二人でなるべくゆっくりと過ごした。何をするにもたかしのすぐ隣で身体を寄せて過ごした。何も言わずに5分も10分も見つめ合って過ごすこともあった。
その日たかしは遅くなってから帰ってきた。私の顔を見てソファにどっと腰を下ろすなり
「door、転勤だ。静岡」
と半ば怒鳴るように私に伝えた。
「えっ」
「前から言われていたんだけど今日正式に決まった。年明けから」
「そんな…」
「一緒に行こう、結婚してくれるよね」
「ちょっと待ってよ、そんな…」
たかしは立って、その場に凍り付いている私をぎゅっと抱きしめた。
「一緒に行こう、俺ももう離れて暮らしたくない」




2005-06-10
転音 9
テーマ たかし第2章

私は慌ててたかしから身体を離した。
「ちょっと待って、たかし、その話は前にもしたはずよ」
「door、転勤なんだ、旅行じゃないんだ」
彼の真剣な眼差しに思わず私は首を縦に振りたくなる。
「ちょっと…、コーヒーでも淹れてくるわ」

 指輪の件以来の一連の流れが分かってきた。地方に行くとなってたかしは焦り始めたのだ。旅行の件であれほどしつこく食い下がったのも仕事と自分のどちらを優先させるか、自分を取って欲しいと言うことだったのかもしれない。
ただ、だからといって即結婚というのはいささか短絡的なような気がする。地方に行ったら、もう今の仕事は出来ないだろう。今まで何度も崩しながらもこつこつと積み上げてきたものを全部お終いにすると言うことだ。子どもの預け先に苦労しながらしがみついてきたものが全て無かったものになってしまう。
「はい、どうぞ」コーヒーの入ったマグカップをたかしの前に置く。
「ありがと」
「さっきの話なんだけど、静岡に行くって言うことはもう私仕事できないってことなんだけれど、それ、分かっている?」happa
わたしはたかしの隣にどすんと腰をおろした。
「やっぱりダメかな」
「うん」
「そんなに贅沢は出来ないけど俺の収入でやっていけると思うよ」
「そんなの分かっているって。そうじゃなくて、じゃぁ私は静岡に行きたくないから転職しろって言ったらたかし転職できる?」
「そういう問題じゃ…」
「そういう問題よ。少し考えさせて、時間を頂戴」
「だけど年明けから向こうだから、すぐにでも引っ越し先とか考えなくちゃならない」
「わかった」

 同業の男性達は妻子を抱えて既に転職しているものもだいぶいた。そろそろ自分も潮時かもしれないとも思っていた。そんな中で何とかやってきたのは私が比較的デジタルに明るかったからだ。しかしそれも出産や子育ての中、私が踏みとどまっているうちにどんどん追いつかれてしまっていた。誰にでも出来るとなると単価はどんどん下がってくる。デジタル化と言うことはそういうことだ。特別な技術はもう必要ない。個人でやっていける限界の時期だろう。私が仕事を辞めたところで誰も困らない。何だか虚しさがこみ上げてくる。

 だからといって仕事とたかしとの結婚は、全く別の問題だ。仕事を辞めて、静岡に行って毎日たかしの帰りを待って暮らすのだろうか。運良く子どもが出来ればそれでも良いかもしれない。何だか私には余り想像が付かなかった。
 それと同時に不安が頭をもたげる。
 もう一度結婚する。もう一度、同じ失敗はしないだろうか。和也の時だって結婚するときにはまさかあんな事になるなんて予想もしなかった。自分たちは幸せになれると、心から信じて結婚したのだった。それとも私の考える幸せなんて幻想に過ぎなくて、あんなもので満足すべきだったのかもしれない。だとしたらたかしと結婚することに何か意味があるのだろうか。



2005-06-10
甘やかな微笑み
テーマ  あいしてる

32-2
ふと曇らせた眉根は
何を想っているのだろう
ずっとそばにいて欲しいと
喉元までこみ上げる言葉を
どうしても口に出せない
あなたを縛ることだけは
したくないから
せめて見せてよ
あの甘やかな微笑みを

えいえんにあいしてる


お久しぶりなモモさん のリクエストwにお答えしてトラックバ~ック




2005-06-11
転音 10
テーマ たかし第2章

 たぶんハリネズミのカップルのように近づきすぎると互いに傷つき、離れすぎると寂しくなってしまうのだろう。時々そんな風に考えることがある。どちらにしても今この勢いで結婚を決めてしまうのはあまりにも早計だ。けれどたかしが静岡に行ってしまったらそうそう逢うこともできない。私が静岡に行くとしたらそれは即結婚を意味する。たかしの短所が今はまだ可愛いものとして目に映っているが、一年後にどう思うかは分からない。10年後にどう思うか分からない。今はまだ結婚を考える時期ではない。
 かといって、なかなか逢えないまま遠距離で恋愛することも我慢が出来そうにない。
籍を入れないで静岡で同棲することも考えた。けれど例えば一年後、もし別れることになったら私は仕事も恋も両方失うことになる。
 確かに彼を愛している、だけどそれだけで幸せになれると思うほど子どもじゃない。結婚はそんなに甘いものじゃない。たぶん経験や年齢を重ねて色々なことが見えすぎるのだ。どんなに愛していたとしても人の気持ちは移ろう。今のこの燃えるような想いが次第に沈静化していって、お互いの何もかもが当たり前になっていって、次第に相手に失望し不満を抱き始める。それはそれで自然な流れだ。問題はその時にどう対処するかなのだろう。

 恋は甘美なものだ。どんなに苦しくともどこか甘く、その甘さが人を酔わせる。永遠にこの気持ちが続くならどんな対価を払っても構わないとすら思う。いつまでもたかしに酔っていたい。いつまでも甘やかな夢を見ていたい。そう私は恋に恋をしているのかもしれない。
 最近以前と同様に美しいものを見て美しいとは感じるものの感動までにはなかなか至らなくなってきた。感性の鈍化とは少し違うように思う。様々な経験を重ねて、もはや初めての経験が少なくなってきたのだろう。驚く事が少なくなってきた。
 たかしとの恋愛は驚きの連続だ。自分の心の奥深くに眠っていた感情や感覚がどんどん引き出されてくる。遊園地で次から次へと乗り物に乗るように、私はその一つ一つの驚きを楽しんでいた。新しい自分を次から次へと発見していく。自分がこんなに情熱的になれるとは思っていなかった。乙女のように心を震わせているのに気が付いてあきれながらもそんな自分を可愛らしくも思った。嫉妬という感情などはそれまでの私にとって未知のものだった。
 自分の人生を半ば諦め捨てていた私はもうどこにも存在していなかった。彼との恋愛が私を変えたのだ。もう少しだけこの甘やかで新鮮な感覚に身を委ねていたかった。あと1年か2年、出来ればもっと、少しでも長く恋に酔っていたい。
 結局、冷静な判断と言うのは言い訳で、もしかしたら恋に酔っていたいだけの私の我が儘なのかもしれなかった。結婚して普通の幸せを夢見ている彼の方がよっぽど現実的で、堅実なのかもしれない。思考の迷路の中に迷い込み、時間だけが過ぎていく。もう傷つきたくない、傷つく事への恐れがいつまでも私が判断を下せない理由だった。



2005-06-11
甘やかな微笑み
テーマ  あいしてる
06
降り続く雨を見ながら
指折り数える
あと何日であなたに逢えるか

こんな風に降らないといいと思い
降ったら降ったでいいかとも思う
傘は持っていかない
晴れでも雨でも

晴れたら星を見上げ
雨なら雨を見上げ
どちらも楽し
あなたと一緒なら

* * *

昨日から入梅だそうです。雨が降っていてもブルーにはならないw
うふっ♪



2005-06-12
甘やかな微笑み
テーマ  ブログ

「いつか訪れたい世界遺産」
世界遺産 はホントにどれも訪れたくてフェズのメディナ、ペトラ遺跡、ベネティア、イスタンブール歴史地区、グレートバリアリーフ、タージマハル、イエローストーン、バルセロナのグエル公園、ハバナ旧市街、マチュピチュ遺跡…うわ~~!書ききれない!
とにかく、
インディジョーンズファンの私としてはペトラ遺跡 は外せない!
どこも心惹かれるのですがやっぱりペトラでしょう。

行ったところはエジプト、ギリシャでしょうか。
フイルムの山から引っぱり出すもエジプトが見つからなかったので
エジプトはわださん に任せてw

ギリシャのアクロポリスの丘をご鑑賞下さい

athens



麓から撮ると結構雰囲気あるでしょう、古代もこうだったんでしょうね。

訪れたのは夏。丘ですから結構登って行くんです。
麓にバックパックをおいてえっちらおっちら上っていきます。
日射しは強かったですね。
ミネラルウォーターがとにかく馬鹿高かった!!!
汗もかくから仕方が無く購入。
観光地価格というのはギリシャにもあるんだなと妙に納得。
ドラクマ貨幣がやたらでかくて重くて(今はもう無いの?)
お釣りをもらうのが嫌になっちゃってましたw
だって、大きすぎて財布が閉まらなくなるんだモンw

神殿自体は補強、補修工事で建築現場然としているのですが、
アクロポリスの丘からアテネの街並みが一望出来ます。
私たちが学校で習う西洋の歴史の原点ですもの。
とにかく歴史の上に立っているという感動で一杯になりました。

遺跡というのは昔の人とある意味交流できる場所。どんな気持ちで造ったのか、どんな人たちが集ったのか。
色々想像を脹らませながらその場にいると当時の人たちの話が聞こえてくるような気がするのです。
いつの時代でも、どんな場所でも人の気持ちは同じ。
その人達もきっと、恋に悩み、仕事に情熱を傾け、私たちと同じように人生を謳歌していたのだと思いませんか。

わださんのトラックバック企画「いつか訪れたい世界遺産」 に参加しています。




2005-06-12
通い婚の婚姻制度
テーマ  恋愛についてあれこれ

普通恋愛には終わりがあって別れたり結婚したりということになる。
それが無い恋愛というのはあるのだろうか。
片思いを延々と続けるというのも恋愛の一つの形だし
結婚しないで延々と続くというのも数は少なくても存在すると思う。
結婚相手とずっと恋愛できれば最高だ。
恋愛を成立させるには少なからず幻想の部分が必要で
生活を共にしながら幻想を続けていくのは
普通の人ではなかなか難しいと思う。
物理的、時間的、心理的に距離が無いと幻想自体が生まれないし維持できない。
人を好きになると
いつも一緒にその人といたい、もっと知りたいと思うのが通常だ。
その結果幻想が破れる。
結婚しても別れても結果として恋愛は終わってしまうのだ。
つまらないなと思う。
夫婦として家族という別の関係に移行していく、
もはやときめきもハラハラも存在はしない。
きっと多少のテクニックはあるのだろう。
始めから意識してそういう関係を築いていける人は凄いなと思う。
途中からやり直して成功した人も知っている。
けれど、何か制度自体に問題を抱えているような気がするのだ。

一年半ほど前に放送された『世界でひとつだけの旅』(テレビ東京)がとても面白かった。
旅に恋したたかのてるこ さんの出演。要するに通い婚の婚姻制度である。これを日本に広めたいとおっしゃっていたのだけれど私も同感である。
恋愛関係に陥ちてその結果子供が産まれる。子供は女の家で育てられる。子供の祖母やおじ、おばで一緒に生活をする。男の子が生きていくために必要な知識や技術はおじが教えてくれる。おじがいなければ母親のいとこに相当するような人、子供のいとこに相当する人が教えてくれる。家庭は血縁という鉄壁の関係だ。これ以上の安定はない。
もし恋愛の相手は変わっても暮らし自体は変わらない。
その結果恋愛と生活を切り離すことができるのだ。けれど面白いことに相手がころころ変わるわけではなく安定した恋愛関係が続くのである。

真剣にこの制度を日本に広めたいとひそかに思っている。




2005-06-13
転音 11
テーマ たかし第2章

 いくら考えても答えが出ない。次第に考えることから逃げていた。それでも答えを出さなければならない。もの凄いストレスだった。
 その週末もたかしはうちに来て一緒に過ごした。二人のあいだの無言の時が私にプレッシャーを与える。たかしはもう結論を出して欲しいらしかった。けれど彼がそばにいては落ち着いて考えることもできない。夕食後
「ねぇdoorこの間の話だけど」
いよいよ来た。
「静岡の件ね」
「うん」
無言の時間が過ぎていく。一人になりたい。このプレッシャーの中では何も考えられない。
「たかし、ちょっと気分転換にドライブ行ってくるわ」
「これから?一人で?」
「うん」
たかしは大きくため息を付いた。
「一人で考えたいんなら俺家に帰るけど」
「いや、ここのところ、閉じこもっていたから出かけたいの。遅くても明け方には戻るから心配だったら帰っても良いし、どっちでもいい」
「どうしてそんなに迷うんだよ」
ちらっと私を見た目にすがりつくような色があった。
「だって人生の大ごとよ、これは」
「じゃ、ここで待っている」
「先に休んでいてね」
 外にでると空気は凍り付いていて暖房で火照った頬に心地よかった。駐車場までゆっくり歩きながら見上げると美しい星空だった。暖機をしながら音楽を選ぶ。色々迷った末、ここのところずっと聞いていたノラ・ジョーンズに決めた。クリスマスの装いをした246から環八に出て第3京浜に入って、いつものドライブコースを今夜はどちら方面に抜けようか…
 当てのない一人のドライブは本当に久しぶりでなんだか開放感を感じる。開放感?なにから?たかしから?プレッシャーから?自分の人生から?

 結局行き先を決めないまま第三京浜の手前で、東名を入ってしまった。心のどこかで静岡のことを考えていたせいだろうか。頭の中を空っぽにしてどんどん走っていく。車の運転にだけ集中する。追い越し車線をかなりのスピードを出してひた走る。それが心地よかった。ずっと何かから逃れたいような気がしていた。気が付くといつの間にか秦野中井まで来てしまっていて、これはさすがにまずいだろうとインターを降りた。とは言っても夜更けの秦野中井で何が出来るわけでもなく、せっかく来たのだからと仕方が無く海岸の方へ車を走らせる。
 多分この真っ暗な空間が海なのだろう。波の音がしていた。適当なスペースに車を止めてただ、波の音を聞いていた。夜更けの海風はそれほど強くはなくて、けれどもとても寒くて耳がちぎれそうになってくる。30分ほどいただろうか。余り考えないようにしながら心を遊ばせる。
 突然切なくなってしゃがみ込んでしばらく泣いた。何が、どう切ないのか自分でも判らなかった。その涙は風に飛ばされて、けれどもまた新たにこぼれ出てくる。切ないから涙が出てくるのか、風が冷たくて涙が出てくるのか。それはたかしを愛しているから一緒にいたいのか、がっかりしたくないから結婚したくないのかの答えと似ていた。



2005-06-14
雲となり雨となる
テーマ  あいしてる
01-2 愛しい人よ
いつも私が想っていることを
どうか忘れないで
日射しの強い夏は雲となり
あなたが渇く日には
雨となろう
どんな形になるのだろうか
雲となり雨となる

Photo by: NOION



2005-06-15
干潟 2
テーマ たかし第2章

 シャワーを浴びてパジャマに着替えワインを温めた。ベッドサイドのラグの上にぺったりと座り、電気は付けずに街灯の反射の薄明かりでたかしの顔をじっと眺める。今までの思い出が蘇ってくる。公園でボートに乗ったこと、花火大会の時のこと、彼に内緒でブログに書き始めたこと、温泉に行ったときのこと、クラブに行ったときのこと二人して色んな所へ行った。これでお別れになるのだったら海外へも一緒に行けば良かった。
 一つ一つの思い出が私の胸を締め付けるようだった。滑らかな額から頬にかけて指先で軽くなぞってみる。目の辺りをしかめて寝ながら反応している。続けて三角形の鼻の頭をつついた。これ以上いたずらしたらきっと起こしてしまうだろうと思ったらとうとう涙が出てきた。声を殺してひとしきり泣いたあとベッドのたかしの隣りにそうっと身体を滑り込ませる。たかしは丸めた身体を伸ばし、夢うつつで私を抱きしめた。こんな風に一緒に寝ることがあと幾晩あるのだろうか。

たかし、たぶんあなたの子供を産んであげられない
それでも良いってきっと言ってくれるだろうけれど
それであなたは幸せになれるの?
私と別れたら当座は辛いかもしれないけれど
静岡に行って、新しい出会いがあるかもしれない
長い目で見てみればきっとその方があなたの幸せじゃないかしら
あなたが幸せでいると思えば私も幸せでいられるから
私たち別れた方が幸せになれるんじゃないのかしら

 薄明かりの中、目の前にあるたかしの寝顔を眺めていると帰り道にしてきた決心がどんどん揺らいでくる。少し髭の伸びた頬に自分の額を付けたかしに抱きつく。嫌だ、嫌だ、離れたくない、ずっと一緒にいたい。だけど…だけど…

 翌朝目が覚めるとコーヒーの薫りがしていた。
「おはよう」
「あ、doorおはよう」
「今日はいったいどうしたの」
テーブルの上にトーストとゆで卵が載っていた。ガス台の上にはコーンスープの紙パックと牛乳が置いてあり、たかしはレタスを千切っていた。06-2
「たまにはさぁ、点数稼いでおかないと」たかしは照れたように笑った。
「ゆで卵まで作るなんて頑張ったね~」
「だって、こんなの茹でるだけでしょう」
「そうだけど」
「俺だって結構出来るんだぜ」
「今日は表に出ない方が良いかもしれない」
「何で」
「雪が降りそう」
「へ?」
「吹雪になるよ」
「なんでそういうこと言うかなぁ」
「顔洗ってくるね」
言いづらくなってしまった。たかしはなんだか楽しそうだった。なんと説明したらよいのだろうか。
Photo by: NOION



2005-06-16
干潟 3
テーマ たかし第2章

こんな風に浮かれている彼に子どもは出来ないと思うだの、結婚はまだ早いだの言えるわけがなかった。洗面台の前で頭を抱えてしまう。かといって、行くつもりもないのに行くとも言えない。ぐずぐずしていると声がかかった。
「door~」
「ハイハイお待たせ、うわっ凄いね~」
「だろ」
「うん、なかなか、じゃいただきます」
トーストもコーヒーも冷えていたけれど人の作ってくれたものは美味しく感じる。ゆで卵の殻がむきづらかった。
「これ、茹でたあと、ちゃんと冷やしていないでしょう」
「え、冷やすの?」
「うん、冷やさないと殻が剥けないの」
「あぁ、ほんとだ、あはははは」
ずっとこのままでいられたらいい。この時間が永遠に止まればいいのに。
「ねぇ、昨日どこまでドライブしたの」06-2
「海まで行っちゃった」
「お台場辺り?」
「ううん、秦野中井」
「はぁ?」
「何となく、気が付いたら」
その後は二人で黙って食事を終えた。沈黙が背筋をざわつかせる。言わなきゃ。
「じゃぁこないんだね」
たかしがぽつりと言った。思わずたかしの顔を見上げる。
「あのね、半年とか一年とか待ってもらえないかしら、こんな風に急かされるようにして結婚を決めたくないの」
たかしは首を振って窓の外を見た。ふぅと大きくため息を付く。
「静岡なんて車で2、3時間の距離よ。週末私がそっちへ行くから」
「毎週なんか無理だろ」
「それは…約束できないけど…」
「離れたらダメになるとか思わないわけ?」
「ダメって?二人の関係が?」たかしが頷く。
「半年や一年でダメになるんだったらそれまででしょう」
「じゃぁ俺がそれを一年かけて証明すれば仕事辞めて静岡に来るのかよ」
「それは…そのときに考えたい」
「なぁ、それじゃぁ今だって一緒じゃないのか?」
「ねぇ、あと一年だけ考えさせてよ」
「問題を先送りしているだけだよ、doorは」
「子ども…もう無理みたい」
「無理って…」
私は答えられずにうつむいたまま両手で顔を覆った。
「…だから静岡に来いって言っているんじゃないか」
「私と別れて新しい人を見つけた方が…あなたは幸せになれるかもしれない」
何だか自分がしゃべっているような感じがしなかった。自分で言っているのに妙に細い声に聞こえる。たかしはテーブルの上に両肘を突いて頭を抱えた。
「何で分かってもらえないかなぁ」
「……」
「じゃぁ俺と別れて、ここでどうやってdoorは幸せになるんだよ。新しい男でも見つけるのかよ」



2005-06-16
I need youと言って欲しい…
テーマ 恋愛についてあれこれ

しばしば人は「なんのために生きるのか」と問う。
生命体として、例えば一匹のカエルのように生きていくことは出来ない。
それは人間が自意識を持っているからであり、
自意識は他者との関係性の中でしか生まれない。
だから人は一人では生きていけないのだ。
自分が存在するために自分を自分として認めてくれる存在が必要なのだ。
何かしらの集団の中で、
一人一人との違いを自分で認識するために
代替不可能な自分を他者に認めて欲しいと願う。

仕事における単なる会社員A、恋愛における単なる男Aではなくて
Aさんでなければならない理由が必要なのだ。
あなたでなければならない、あなたこそが必要と認めてくれる他者が必要なのだ。

実際には難しいことだと思う。ある程度の枠内に入る人間は大勢いるからだ。
それでも自意識を持った「人」は「この『自分』でなければならない位置」を模索する。
そうでなければ、自分を認識していくことができないためだ。
「自分」を認めてもらうことで、人は満足し幸せを感じるのだろう。

模索行為=努力は自分のためであるのだけれど、それは他者に認めてもらうためのものなのだ。
そのために人は生きてゆくのではないだろうか。
幸せを感じるために、生きているという実感を得るために。
あなたが必要、あなただからと言ってくれる存在との出会いが人をを幸せにするのだろう。
そうか、やっぱり私にもあなたが必要なんだ。

参考記事:なぜ人は「なんのために生きているのか」と問うのか   
       「欲望とは無垢(むく)への欲望である。」



2005-06-18
夏が来る
テーマ  あいしてる

24



いつの間にか強い日射しのなか

日々緑は深くなり

水飛沫の煌めきが

目に涼しく映る


夏が来る

もうすぐ二度目の夏が来る

いつの間にか

夏になる



2005-06-18
干潟 4
テーマ たかし第2章

「別にそんなつもりもないけど…」
たかしも私の幸せを考えてくれている。私の幸せって何だろう?
「俺と一緒にいるだけじゃ幸せになれないの?もうこんなつまんない仕事嫌だっていつも言ってるじゃないか」
「………」
「子どものことはdoorが欲しいんだったらちゃんと医者に行って相談してきなさい」
「………」
「俺はどっちでも良いから…」
「……医者には行きたくない、ダメって言われるのが怖い」
「ダメだって決まったわけでもないのに別れるなんて言われる方がよっぽど怖いよ」
「……ごめんなさい」
 ねぇたかし、なんでそんなに私に良くしてくれるの?なんでそんなに私のことを好きでいてくれるの?いつもやっぱりそこに突き当たる。どうして彼が私のことをそんなに好きでいてくれるのかどうしてもわからない。理解できない。だから怖い。静岡に行って、環境が変わって素敵な人が現れたら、ある日ごめんって言われたら、どうしたらいいかわからない。ここにいたら少なくても食べていくことは出来る。いつも逢えないのは寂しいけれど、失敗して傷つくのが怖い。医者に行って、もうダメですと言われるのが怖い。
怖い、怖い、もう傷つきたくない。何もかも曖昧にして時間に解決させようよ。
 逢う時間を少しずつ減らしてお互いの心を冷まして、そうすればあんまり傷つかずに別れられる。年の差はもう気にならないけれど、子どもを産めないんじゃいくらなんでも申し訳ないもの。
「準備もあるだろうし、仕事もあるだろうからすぐじゃなくても良い。だけど来いよ」
「ねぇ、静岡って何年ぐらいいるの?」
「知らないよ、そんなこと」
「だって、私東京から出たこと無いんだもの」
「それで?」
「静岡で朝から晩まで一人きりであなたの帰りを待って暮らせって言うの?」
「別に今の仕事じゃなくたって、向こうで何か見つければいいじゃないか」
「じゃぁ、あなただって、転勤なんて断ってこっちで何か他の仕事見つけたら?」
「それ違うじゃん」
「何で?違わないわよ」
「そんな簡単に転職しろなんてお前全然分かっていない」
「それはこっちの台詞よ」
「違うよ、俺は自分の仕事がつまらないなんて言ったことはない」
たかしは首を横に振って立ち上がった。窓辺に立って外を見る。気まずい沈黙の中、時間だけが過ぎていく。10分ほどだろうか。何だか永遠に続くかのようだった。
「door、とにかく向こうに行って住むところ見て来なきゃならないから車貸して」



第2章 vol 10へ