視線 8 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

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私は次第に頭に血が上ってきた。
「じゃぁ言い換えるわ。私はもう男の人に振り回されるのは嫌なの。旅行のことだってそう。行きたくもない旅行を断ったからって、なんであんなに責められなきゃいけないのか全然理解できない。あなたが私と一緒に行きたかったら始めっからまず私に話して、二人で決めたらいいでしょう」
「じゃぁ子供のことはどうなんだよ。これから二人でどうするか、話し合いもしないうちに勝手に子供を作りたいって、いったいなんなんだよ。俺の考えは?俺の子供なんだろう。どうやって育てていくか話もしないで勝手に一人で全部決めて。旅行どころじゃないよ。俺達や子供の人生までかかっているっていうのにdoorが勝手に一人で決めてイイのかよ。俺はdoorとずっと一緒にいたいよ。結婚して欲しいよ。子供と3人で仲良く暮らせばいいじゃないか。そんなの普通に当たり前のことだろ」
 とうとう結婚という言葉がでてきた。予想しながら口に出なかった言葉の重みをたかしはどれほど深く知っているというのだろう。それにしてもこんなに大事なことを全裸で話し合っているというのが妙な話だと思い私は服を身につけ始める。
「結婚はしたくないの。もう嫌なの。あなたを縛りたくないし、私も縛られたくないの。結婚ってあなたが考えているほど簡単なモノじゃない。一つの家庭としてキチンとしていくために親戚づきあいしたり、色んな責任が出てくるの。喧嘩したから出ていってなんてこともできなくなるの」
「そんなこと分かっているよ、だけど子供が出来てちゃんと責任を持って育てるとなったらやっぱり結婚しなきゃダメじゃないか。育てるとなったらdoorだって今までみたいには仕事もできなくなるし、普通に家庭を持つのが子供のためじゃないか」
そんなことは分かっていた。
「だからもし子供が出来たら結婚すると思うわよ。それはある程度仕方がないと思っている」
たかしの端正な顔がぐにゃりと歪んで斜交いに私を見下ろす。その顔はぞっとするほど冷たく見えた。
「そうか、仕方なく結婚してもらえるのか俺は、子供が出来たら」
最後の「子供が出来たら」はまるで吐き捨てるようだった。
いけない、言い過ぎてしまったことに気が付いた。どうして私はいつもこんな風な言い方しかできないのだろう。
「いや、そうじゃなくてあなたとはずっと一緒にいたいの。でも結婚してしまうとお互いに緊張関係が無くなって変に束縛し合ったりするのは嫌だなって。今だって十分楽しいし、このままの関係って良いと思わない」
「一度くらい失敗したからって俺ともダメって決めつけんなよ。分かった振りして。自分が身軽でいたからそんなことを言っているだけじゃないか」
「そんな…」

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