混沌 1を読む
病院から母と妹達を車に乗せ実家に向かう。妹が入れてくれたお茶が美味しかった。郊外の実家は特別浄水器も使っていないのに水の味がいい。
さてまず母の反応を見てみなくては。母がOKなら7割大丈夫だ。
「やっぱりこっちの方が落ち着くね。私もこっちに戻ってこようかな」
「え~doorまで戻ってくるの?」
母はうんざりしたような顔をした。
「だめ?」
「益美が戻って来ただけでこっちは引っ掻き回されているのに…仕事上手くいっていないの?」
「仕事は食べていくだけはなんとか…」
「じゃ、自分でやってくれない?もう静かに生活したいのよ」
「仕事をしながら子供を一人で育てていくのは無理なのよ」
鬱状態の時でさえ手伝いに来てくれなかった母だ。パートながら未だに仕事を続けているから仕方がないのかも知れない。どういう訳か親戚一同のトラブルの後始末は結局全部母がやっている。誰もやりたがらない雑務や、事務手続き、各種手配を黙々とこなす。そういう意味では非常に頼りになる人物だ。
けれど私達姉妹には甘えを許さないようなところがあって、その辺がとてもドライだ。私達は私達で自分でやるからあなた方も自分でやりなさい、といった姿勢なのだ。娘が3人だから、私達に余計な負担をかけさせたくない、そこが母という人間の優しさなのだろう。既に60を越えた母の身体では無理が効かない。私達姉妹の誰かに余計にしたら他の姉妹にもしなくてはならない。そうでないと不公平になるから、そんなつもりなのだろう。けれど、事情はそれぞれ違う。
あの時たった一日か2日手伝いに来てくれていたらどんなに救われた気持ちになっただろうか。片道1時間少しの距離を理由にされて恨めしかった。夫に無視され、母に突き放され所詮人間はひとりなのだと思い知った。たった一人で生きてゆかねばならない。あの時の孤独感は例える言葉がない。10年以上ともに過ごした夫と実の母は彼らなりのやり方で確かに私を愛していたのだろう。けれどそれは私が求めていたものとは全く異なる種類だったのだ。そう、今さら実家の世話になろうと考えた自分が浅はかだった。
「え、ひろを引き取るの?」
母の顔がパッと輝く。可愛い盛りに別れたひろに会いたいのだろう。
「そうじゃないけど、もう今さら引き取ってもあのコが混乱するだけよ」
「じゃいったいどういうこと」
さっきまで輝いていた顔が歪んでいた。私の目をジッと見ている。
「まさか」
「妊娠なんてしていないわよ、でも……もう一人子どもが欲しいと思ったら今しかないのよ」
「だってあなた…」
「好きな人くらいいるわ。でももう結婚はしたくないの。紙切れ一枚に縛られたくないの」
「何を言っているのかわからない」
「分からなくても構わないわ、もう私は私でやるから」
「もう…これ以上心配かけないでよ…」
母は頬杖をついてうなだれた。
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