行き違い 7 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

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とても惨めな気持ちになって家に帰りついた。部屋の中どこもかしこも彼との思い出が一杯だ。いつか彼が去る日が来るのだろう。きっと涙もでないに違いない。見えない涙が胃の辺りまで降りて来ていつまでも流れ続けるのだ。彼が自分の着替えを持ち去ってCDを持ち去って、後には一人で寝るには広すぎるベッドと洗面所の歯ブラシと剃刀が残るのだ。
好きになり過ぎてしまった。愛し過ぎてしまった。驚いた時に丸く見開かれる目、たばこに火を着ける時の仕種、柔らかな低い声、大きく美しい手の感触。私を気づかう優しさや、いつも楽し気な態度。一つ一つが余りにも美しく愛おしかった。怒って文句を言う時の口調さえ可愛かった。もうどうしようもなく気持ちが溢れて来てしまう。私がこんな気持ちでいるなんて彼は思いもよらないだろう。ただ彼といる、その瞬間を永遠に残しておきたかった。他には誰もいらない、二人だけでずっと居たかった。
けれど、彼がいざこの部屋で過ごすと文句ばかり言ってしまう。今日だって一人で考えたくて彼を返してしまった。全く素直じゃない自分に本当に嫌気がさした。とにかく行くか行かないかを決めなくては。どうしたものだろうか。

 シャワーを浴びようとバスルームに入りピアスを外す。明日は今日買って来たピアスをつけよう。そういえば結局指輪はなんだったんだろうか。クリスマスプレゼントはまだ2ヶ月近くも先だけれど、彼の事だからついでに聞いておきたかっただけかも知れない。指輪はあまり好きではなくて以前も結婚指輪さえしていなかった。たかしからプレゼントされたらやっぱり付けなくてはならないのかしら。付けたり外したりが面倒だから、無くさないように貰ったらチェーンを通してネックレスのペンダントトップのようにしてしまおう。身体を洗って、鏡の前に立つと疲れた顔の女が立っていた。やっぱりこんなんじゃ旅行は諦めた方が良いな。ひじとひざにクリームを摺り込みながらウジウジと考えるのはやめにしてベッドで本でも読むことにした。なにか楽しい本を…ドロシー・ギルマンの「おばちゃまは香港スパイ」を取り出して、雑然とした香港の風景を思い浮かべながら彼と二人きりで行きたいなと考えていた。

文化の日、たかしと出かける約束をしていたが生理になってしまったので、家で過ごすことにした。たかしは一人できっと掃除や、洗濯をしているのだろう。
それにしても子供を産んだのに、なんでこんなに生理の時にきついのか。最近生理の周期がおかしくて避妊にヒヤヒヤする。7月に子宮癌検診をしてもらった時には異常なしとの事だった。結婚はする気はなかったがなんだか彼の子供が欲しくなってきた。一人だったら女一人でもなんとか育てられるかも知れない。もともと妊娠しにくい体質だし、もう避妊も面倒なのでしないことにしようか。もし子供が出来たら産んでしまおう、彼に似た子供だったらどんなに可愛いだろう。彼が去った後でも彼のかけらが、彼よりも愛おしい存在が残る。もう出産もギリギリの年令だ。作るなら今しかない、決めるなら今しかない。でもそうなったら彼はなんと言うのだろう。一度きちんと話し合った方が良いのは分っていた。けれど面と向かってあなたと結婚する気はないけれど、子供が出来たら産むなんて…やっぱり言えないよね。
 付き合い初めの頃にたかしは
「俺ももう30過ぎだからいい加減な付き合いはしたくないんだよね」
と言っていた。それは結婚を前提としての発言なのだろうか。私はいつでもこんな風にぐだぐだ考えてしまう。悪いくせだ。
電話がなった。
「はい、doorです」
「佐々木ですが、今日なんか予定ありますか」
「ちょっと、今日は家でゆっくりしようかと思っていたんですが」
「もしよかったら一緒に映画でもみませんか」



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